安床ブラザーズ。インラインスケートの王者がクラッシュドアイスに挑む

Xゲームをはじめとするインラインスケートの第一人者で、兄弟合わせて世界大会100勝以上をマークしている安床エイト(34)と安床武士(31)の安床ブラザーズがレッドブル・クラッシュドアイスに初参戦した。同じスケート競技とはいえ、2人が初めて氷の上を滑ったのは2週間前。その手応えは? そしてどんな目標を見すえるのか? 最終戦の現地、カナダのエドモントンでインタビューした。

レッドブル・クラッシュドアイス最終戦に初参加の安床武士(左)と安床エイト

「すごく楽しい経験をしている」 兄・安床エイト
「競技としてはもちろん、すべてが初めてのことなんですよ。クラッシュドアイスのアスリートとして、スタートに向かう際の気持ちの作り方も。今は経験をひとつずつ積んでいく段階」

25年もアスリート生活を送っているので大会に臨む緊張というのはないという。それでも技術面において「あのカーブはどう曲がりたい」とか、「姿勢はこうする」とか頭の中を整理するのが忙しくて、それが想像以上に大変だという。「ジャンプやったらすぐにカーブだとか頭の中で必死に整理しながら滑っている。まだ直感的にやれていないなあ」

人工セクションを使用するインラインスケートの場合は滑走面の変化はない。ところがクラッシュドアイスは路面変化が常にある。気温の変化によってコンディションが刻々と変わっていくし、前走者が走った溝がいきなり出現するなど状況が常に変化していくから難しい。ジャンプ台をうまくこなしてスピードに乗るという感覚はインラインスケートでつちかった武器で、それを生かしながらも戸惑いばかりだ。

安床エイト ©Mark Roe / Red Bull Content Pool

初出場のクラッシュドアイスの雰囲気はとても気に入っている。この世界のトップアスリートが「なんでも聞いてくれ」と声をかけてくれる。安床兄弟がインラインスケート界でこれまでやって来たことを彼らも知っているので、お互いをリスペクトする環境でいられるからこの世界にすぐに入り込めたという。

「これを日本でやったら盛り上がるでしょう。インラインスケートのハーフパイプはルール解説が難しいんですが、クラッシュドアイスは見たまんま。ジャンプもあって激しいクラッシュもあるけど、レースは速かった人が勝つというシンプルなもの。見て分かりやすい競技は絶対に人気が出ると思う」

氷の上に立ったのが2週間前で、これまでのインラインスケートのテクニックと照らし合わせて練習してきた。これからはスケートリンクに通いながら氷上ステーティングの基本的なこと、曲がり方や止まり方をどんどん練習していきたいという。

「これまでやってきたこととは使う筋肉も体力面も全然違う。インラインスケートは足を止めてパンピングという屈伸運動をしながらスピードをつけたりジャンプをするんですけど、クラッシュドアイスの場合は走り込みが重要。走るために駆動する筋肉をつけていくトレーニングが必要です。上半身で誘導する動きが多いと感じたので、上半身の筋肉をつけていく必要も」

自由に滑れるようになりたい。頭では分かっているけど動けない歯がゆさがある。もっとイメージしたように自分が動けるようになりたい。今は悔しさと歯がゆさが入り交じっているけれど、その面白さはたった2週間の練習ですでにヒシヒシと感じている。

「どうすれば強くなるかはもう頭の中にある」 弟・安床武士
兄弟の両親はプロスケーターだ。とりわけ父は1970年代に一世を風靡したローラーゲーム、あの「東京ボンバーズ」の練習生だった。だから2人は物心ついたころからローラーのついたスケート靴を履いていた。

「クラッシュドアイスは、競技そのものはかなり前から知っていて、面白そうだなあという話をよくしていました」

インラインスケート界からクラッシュドアイスに参加している選手が何人かいたり、逆にオフのトレーニングでインラインスケートをやっているという映像を見つけると、これは「もしかして自分たちが普段やっていることと近いスポーツなのかなあと感じて、クラッシュドアイスに参加する決断をしました。

アールと呼んでいるバンク、路面の凹凸が連続するウェーブはまったくインラインスケートと同じ。
「だからその部分は楽しく笑顔で滑れるんだけど、氷の上は全体的にスピードがかなり出る。そのスピードのままターンをしなくちゃいけないとか。アイススケートの技術がまだ自分たちにはないので、これは簡単ではないとすぐに分かりました」
スピードが乗った状態で出現するセクションの前になると、怖くなって減速してしまったりする。エッジングなど足の操作はインラインスケートとはまったく違うものだった。

安床武士 ©Andreas Langreiter / Red Bull Content Pool

クラッシュドアイスに出場するためには、「ライダーズカップ」と呼ばれる格下の大会に出場することは必要。初めての大会はさすがに百戦錬磨の2人でもかなり緊張はした。こうしてエドモントンに乗り込み、最終戦に間に合ったのだが、ショーアップされたクラッシュドアイスの規模はライダーズカップとは比べものにならないくらいに大きい。Xゲームで数々の修羅場を経験している2人にとっては本大会のほうが地に足がついていた。

「怖いというよりかテンション上がりました。普段やっていることとサイズ感が同じだったんです。これやったらいいタイムがねらえるかもと思いました。ライダーズカップは走りがメインなのでアイススケートの技術が求められているけど、クラッシュドアイスのほうがチャンスあるかな」

こういったパフォーマンスショーの運営も手がけるだけに、日本での開催を熱望する。日本の人たちが一目見れば確実に盛り上がるスピードやジャンプのアクション。見ていても純粋に楽しめるはずだ。
「20年も競技をやってきたけど新鮮な気持ちです。一からチャレンジするという楽しさがあるんです。今は下だけど上をねらっていくという気持ちが楽しい」

クラッシュドアイスはアイスホッケー経験者が8割。他のスポーツから転向してきたアスリートは少ない。2人が初練習をしたときは、クラッシュドアイスの出場選手はエッジの使い方を教えてくれたり、アイススケートリンクを貸し切りにしてくれた。
「フレンドリーに接してくれたのがよかった。アイススケートリンクでしかできない練習もあるけど、クラッシュドアイスに生かせるような練習をインラインスケートでどうしたらいいか、というのはもうすでに頭のなかにあります」

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