フルームが勝ち抜きバトル参戦…1回戦はバルギルと対決

自転車ロード界の最強16選手が5月23、24日にバーチャルレース「チャレンジ・オブ・スターズ」に挑戦する。ジロ・デ・イタリア主催者のRCSスポルトがインドアサイクリングのBKOOLとコラボして、時計のティソとイタリア電力公社のエネルを公式パートナーとしてレースをバーチャル開催。その模様はSNSで配信される。

自宅でトレーニングするクリストファー・フルーム

バーチャルレースはトスカーナ地方の仮想コースを走るスプリンター部門と、ステルビオ峠を上るスプリンター部門に分かれ、それぞれ8人のトップ選手が勝ち抜き形式で優勝を目指す。

「新型コロナウイルス感染拡大によって私たちがレースに参加できない時に、テクノロジーを使ったチャレンジ・オブ・スターズイベントに参加し、サイクリングファンにエンターテイメントをもたらすことは素晴らしい」とイネオスのクリストファー・フルーム(英国)。

「この新しいタイプのチャレンジを、このスポーツのトップライダーを相手にチャレンジすることを楽しみにしている」

チャレンジ・オブ・スターズのクライマー部門組み合わせ

出場選手
●クライマー

ヤコブ・フルサン(アスタナ)
ジュリアノ・チッコーネ(トレック・セガフレード)
ビンチェンツォ・ニーバリ(トレック・セガフレード)
シモン・ゲシュケ(CCC)
ラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ)
トーマス・デヘント(ロット・スーダル)
クリストファー・フルーム(イネオス)
ワレン・バルギル(アルケア・サムシック)

4月18日から5月10日まで7ステージで争われたジロ・デ・イタリアバーチャルで総合優勝したアスタナの一員、ヤコブ・フルサン(デンマーク)は、「確かに現在の状況を考えると、多くのレースがキャンセルされたり延期された状況で、屋内サイクリングは実際の道路の上でレースができるのを待っている間、トレーニングとして優れた代替手段だ」と語り、今回もエントリー。

「私たちは、新しい国際カレンダーに設定されたレースに出場することができるのを楽しみにしている。チャレンジ・オブ・スターズのように、ライバル選手と真剣バトルを味わうことができるのは素晴らしいことだ」

チャレンジ・オブ・スターズのスプリンター部門組み合わせ

出場選手
●スプリンター/ルーラー

パスカル・アッカーマン(ボーラ・ハンスグローエ)
ナセル・ブアニ(アルケア・サムシック)
ファビオ・ヤコブセン(ドゥークニンク・クイックステップ)
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
カレブ・ユアン(ロット・スーダル)
ティム・メルリエ(アルペシン・フェニックス)
マッテオ・トレンティン(CCC)
フィリッポ・ガンナ(イネオス)

レースの模様はベルギーのテレビ局「スポルザ」で独占中継されるが、日本では視聴できない。世界中のファンはTwitter、facebook、Instagramでチェックできる。

●チャレンジ・オブ・スターズのTwitter
●チャレンジ・オブ・スターズのfacebook
●チャレンジ・オブ・スターズのInstagram
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【ツール・ド・フランスリバイバル】2017年はフルームが接戦を制す

104回目の開催となった世界最大の自転車レースは、スカイのクリストファー・フルーム(英国)が3年連続4度目の総合優勝を達成した。歴代最多優勝は4選手が5勝しているが、フルームは単独5位となった。バーレーン・メリダの新城幸也は目標としていた区間勝利こそならなかったが、出場7回にして7度目の完走。

ラプランシュデベルフィーユでマイヨジョーヌを獲得したフルーム
2017ツール・ド・フランス

フルームのアシスト役トーマスが最初のマイヨジョーヌ

ドイツのデュッセルドルフで開幕。初日は距離14kmの個人タイムトライアルが行われ、フルームのアシスト役であるスカイのゲラント・トーマス(英国)がでトップタイムをたたき出し、初優勝を飾るとともに総合1位のマイヨジョーヌを手中にした。フルームは12秒遅れの区間6位。スカイチームはトップ10に4選手を送り込む力を見せつけた。

「夢のようだ」とマイヨジョーヌを着用したトーマス。
「10歳のときにツール・ド・フランスを見て自転車を始めた。テレビに映っていたこのジャージが着られるなんて。エースのフルームも好タイムで、チームとして大成功の1日だった」

2017年の開幕地は日本企業も多いデュッセルドルフ
第1ステージは距離14kmの個人タイムトライアル。フルームは僚友ゲラント・トーマスから12秒遅れの区間6位

大会5日目はラプランシュデベルフィーユ。最大斜度20%の激坂に駆け上がるコースはツール・ド・フランスで3度目の登場となった。2012年はブラッドリー・ウィギンスのアシストだったフルームが大会初勝利したところだ。2014年にはイタリアのビンチェンツォ・ニーバリが優勝。このステージを終えてウィギンスとニーバリは首位のマイヨジョーヌを獲得し、それをパリまで守り切っている。つまり過去2回はここでマイヨジョーヌを着た選手が総合優勝しているのだ。

デュッセルドルフでの第1ステージ

この日はイタリアチャンピオンのファビオ・アルー(アスタナ)が残り2.4kmから単独で抜け出して初優勝。アルーはもともと5月のジロ・デ・イタリア制覇を目指していたが、大会直前に負傷して欠場。ターゲットを変えてこの大会に乗り込んできた。この日のアルーのアタックは異次元で、フルームを擁するスカイチームも追撃を見送った。しかしその裏には23日間を見すえての思わくがあった。

「マイヨジョーヌを獲得したけど、本当の戦いはこれから先だ。パリまですべてをコントロールできるとは思わない」と冷静なフルーム。

フルームは20秒遅れの区間3位でゴールし、チームメートのトーマスに代わって首位に立った。

ツール・ド・フランスらしいワンシーン

ところがフルームは第12ステージのゴール前で失速し、18秒差の総合2位につけていたアルーに首位を明け渡した。

最後の数100mまでフルームをエースとするスカイチームの完ぺきなレース展開だった。元世界チャンピオンのミハウ・クビアトコウスキー(ポーランド)が先行していた選手を追撃してすべて吸収。最後の山岳に入ると上りが得意な2人のスペイン選手がフルームをゴール手前の激坂まで導いた。

ラプランシュデベルフィールにゴールした第5ステージ。ファビオ・アルーが優勝。総合成績ではフルームが首位に

最後はAG2Rラモンディアールのロマン・バルデ(フランス)、アルーらの意地の張り合いだった。区間勝利もほしかっただろうが、3着までには10、6、4秒のボーナスタイムが与えられ、総合成績から差し引かれる。前日まで1分以内に4選手がひしめく接戦では数秒でも総合順位に大きく影響する。区間優勝は果たせなかったが、渾身の力で3位に入ったアルーがこの日の真の勝者だった。

フルームは肝心のゴール前で疲れを露呈して大きく遅れた。ただしマイヨジョーヌを手放したことでチームが集団をコントロールする任務から解放される。チーム力からすれば2位陥落はまだ落胆する段階ではなかった。

第3ステージ
ツール・ド・フランス第9ステージ。先頭はミハウ・クビアトコウスキー
第9ステージのゴール勝負はリゴベルト・ウランが制した

中央山塊でフルームがアルーを再逆転

第14ステージ。サンウェブのマイケル・マシューズ(オーストラリア)が丘の上にゴールする戦いを制して2016年に続いて区間勝利を挙げた。首位のアルーは最後の上り坂で力尽き、6秒遅れの総合2位フルームに25秒遅れたことから、わずか2日で首位を陥落。フルームが再びマイヨジョーヌを獲得した。

2日前に「世界中の自転車選手が憧れるマイヨジョーヌを獲得できた。ボクはすでにジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャのリーダージャージを持っているが、それにも増してうれしいものだ」と語っていたアルーがそのジャージを奪い取られた。

新城幸也

アスタナチームはすでに2選手が落車による負傷で大会を去っている。さらに総合優勝をねらって万全のアシスト態勢を固めているわけではない。アルーは首位に立ちながらも2日間の区間終盤は孤軍奮闘で、いつ陥落してもおかしくはなかった。

この日のゴールであるロデズは山岳ポイントでないながらも、ゴール前が急坂。ここでアルーが頑張りきれなかった。

「まったく期待していなかった」というフルームはチームからの無線で、「プッシュ! プッシュ!」という指示を聞いた。アルーが脱落しているのでダッシュしろという意味だ。王者フルームが再び首位に。

マクロン大統領がツール・ド・フランスを表敬訪問。ロマン・バルデをねぎらう

こうして第14ステージでその座を奪還したフルームは、手厚いチーム力に援護されて山岳ステージを走り抜き、最終日前日の個人タイムトライアルでライバルを突き放した。

「4回の優勝の中で最も僅差の勝負だったので、とてもプレッシャーだったが、それをいい走りに結びつけることができた」とフルーム。23日間の流れを見れば順当な優勝だが、簡単なツール・ド・フランスはないとしみじみと語る。

「勝つためにはダウンヒルを速く走る研究をしたり、集団の中の位置取りだったり、自分をチューンナップする努力を怠っていない。だから最初の勝利よりも確実に強くなっているはずだけど、これからも自分自身をさらに変えていきたい」

山岳賞のワレン・バルギル
最終日はパリ。セーヌ川沿いから入城する

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【ツール・ド・フランスリバイバル】
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【ツール・ド・フランスリバイバル】2016…フルーム傷だらけの勝利

世界遺産モンサンミッシェルで開幕した第103回ツール・ド・フランスは、英国のクリストファー・フルーム(スカイ)が2年連続3度目の優勝を果たした。2年ぶり6度目の参戦を果たした新城幸也(ランプレ・メリダ)は悲願の区間勝利こそつかめなかったが、第6ステージで敢闘賞を獲得した。2012年の第4ステージに続いて2度目の受賞。

第19 ステージでフルームは苦戦。マイヨジョーヌは落車で破け、手足から出血も
2016ツール・ド・フランス
新城幸也にとって2度目の敢闘賞

初日に区間勝利とボーナスタイム10秒を獲得して首位に立ったディメンションデータのマーク・カベンディッシュ(英国)は、翌日の第2ステージ終盤の上り坂で脱落。このゴールまでの上り坂で少人数の力勝負となり、ティンコフのぺテル・サガン(スロバキア)がわずかに先着。3年ぶり5回目の区間勝利を果たした。

第1次大戦の激戦地でチームプレゼンテーションに登場した世界チャンピオンのサガンとコンタドール

総合成績では前日までの成績で6秒遅れの総合3位につけていたサガンが首位に立ち、マイヨジョーヌを獲得した。同選手はポイント賞争いでも1位になり、5年連続の同賞獲得にも手応えをつかんだ。

第5ステージは中央フランスに舞台を移し、BMCのグレッグ・バンアーベルマート(ベルギー)が終盤に独走して優勝。前日までの総合成績で18秒遅れの20位につけていた同選手が、2位以下に2分以上の大差をつけたことで一気に首位に立った。

この日は起伏の激しい中央山塊に突入したことで有力チームの走りが本格化。首位のマイヨジョーヌを着るサガンは長い上りを得意としていないため、23分45秒遅れの区間110位でゴール。総合1位から76位に陥落した。

第1ステージは世界遺産モンサンミッシェルをスタートした

そして戦いは第8ステージで前半の勝負どころ、ピレネーへ

ピレネーの本格的山岳ステージでティンコフのラファウ・マイカ(ポーランド)ら3人の伏兵が逃げを打った。3選手とも区間勝利の実績があり、総合成績の逆転をねらった走りというよりはこの日の勝利を目指したものだ。さらにこの3選手の中からマイカが抜け出すのだが、後続集団は総合成績で大きく遅れているマイカを無理には追わなかった。とりわけフルームを擁するスカイチームは翌日も重要な山岳区間が控えていることからアシスト陣の消耗を考え、ある程度は逃げを容認する方針をとった。

マイカが先行した意図は自らの区間勝利とともにチームエースであるアルベルト・コンタドール(スペイン)を後続集団内で体力温存させるためだからだ。マイカはゴールまで残り2つの峠を残して吸収され、区間勝利はならなかったが、この日から本格化した山岳賞のトップに立った。

第6ステージで新城幸也はヤン・バルタとアタックし、後続に5分10秒差をつけた
第6ステージで新城幸也が敢闘賞

有力選手の戦いは最後の山岳でも膠着状態だった。ところが残り15.5km地点の峠の頂上を通過するとフルームが一気に加速して高速ダウンヒルを開始。これにはライバルも意表を突かれ、一気に差が開いてしまう。調子が上がらないコンタドールが脱落し、ゴールまでに大差をつけられる。母国スペインでの区間を目前にして総合優勝争いからの脱落である。

「下りでアタックすることはまったく計画にはなかった」

フルームは下り坂でその差を広げてゴールまで逃げ切った。フルームの区間勝利は2015年の第10ステージ以来で、大会通算6勝目。

「上りで何回かアタックしたが、他の選手が着いてきた。だったら下りで突き放してやろうと考えた。ちょっと体力を使ってしまい、翌日の過酷なレースが気になるが、ステージ勝利は気分がいいし、貴重なタイムをかせぐことができた」

ピレネーの第8ステージで、戦闘から2分遅れのメイン集団をスカイとモビスターが引っ張る
ピレネーの第8ステージでフルームが優勝。首位に躍り出た

総合優勝を争うモビスターのナイロ・キンタナ(コロンビア)とアスタナのファビオ・アルー(イタリア)らは13秒遅れ。フルームは区間1位のボーナスタイム10秒も獲得していて、総合成績で一気に首位に立った。前日までの首位バンアーベルマートは山岳を得意としていないため、25分54秒遅れで、その座を手放した。

しかしキンタナとアルーはわずか23秒差でフルームを追う位置にいる。フルームとしては上りでこの2選手の走りを警戒しているだけに、この日の下りを使った奇襲作戦に出たとも考えられる。マイヨジョーヌをめぐる戦いは始まったばかりだ。

第9ステージのアンドラ・アルカリスは雹混じりの豪雨だが、パンタノはファンから傘を借りたらしい

アルプスの個人タイムトライアルで突き放す

第18ステージは距離17kmの個人タイムトライアルが行われ、総合成績で首位のフルームが30分43秒のトップタイムで優勝。ピレネー山脈で行われた第8ステージに続く今大会2勝目で、大会通算7勝目。個人タイムトライアルで勝ったのは2013年以来2度目。総合成績では2位バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)との差を2分27秒から3分52秒に広げた。

距離は短いものの上り坂を駆け上がる個人タイムトライアル。チームメートに助けてもらうことができない種目なので、個人の実力差が量られる。そんな重要なステージでフルームが1位になり、だれが一番強いのかがはっきりとした。2年連続3度目の総合優勝に大きく前進したのである。

ニースで起きたテロ事件の犠牲者に黙とうを捧げる

フルームはスタートしてしばらくは慎重に走った。すでに総合2位以下とのタイム差は十分にあり、落車や観客との接触のみを注意して走ればよかった。しかし中間地点で暫定トップだったトム・デュムランのタイムに並ぶと後半は余裕ができて全力で走った。

「すべてのトラブルを回避するような走りをしたかった。午前中にコースをチェックしたときはいつも使っているロードバイクで走ろうと考えた。でもチームスタッフはタイムトライアルバイクを使うことをすすめてくれた。軽量なので上りでもロスはないという理由だったが、その選択が今日の結果につながったね」とフルーム。

第20ステージは最後の山岳区間だった。雨中戦となりアクシデントも想定されたが、強力なアシスト陣に援護されたフルームはライバルの反撃をまったく許すことなくゴールした。

第18ステージは距離17kmの個人タイムトライアル

最後の山岳ステージの最後の1kmまで慎重に走った

フルームが4人のチームメートとともにモルジンヌのフィニッシュラインを通過したとき、全身はずぶ濡れだったがようやく安堵の笑顔を浮かべた。2位に4分以上の大差をつけながら最後まで油断せず、ゴールまでの下り坂も細心の注意を払って走った。ずっと後ろを走っていたライバルたちが最後はスパートして追い抜いていったが、そんな数秒のタイムロスはもうどうでもよかった。

「この24時間、ボクはとてもナーバスになってしまった。そんなときにチームメートが声をかけてくれたり、レースで力を貸してくれた。マイヨジョーヌを守れたのはそのおかげだ。圧勝のように見えるけれど、ボクはギリギリの状態だった」

この大会のフルームの勝因は、上り坂に強いライバル選手にそこで勝負をさせなかったことだ。ピレネー山脈の第8ステージでフルームはまさかの下り坂で単独アタック。僅差ながらライバルに差をつけてここで総合1位に立った。そのあとも平たん区間で積極的に動いて毎日のようにわずかなタイム差を稼いでいく。2つの個人タイムトライアルを巧みに使い、十分なタイム差を稼ぎ出すと、圧倒的なチーム力で最後のアルプスをしのぎ、逃げ切った。

この日は前日の落車で体中が痛かったという。脚の疲労も感じていたが、この日は幸いなことに脚力が回復した。しかし冷たい雨にたたられて、苦い経験がよみがえったという。2年前、雨の第5ステージで二度にわたって落車し、手首を骨折して連覇を断たれたことである。

「危険を回避するために常に先頭にいた。最後の1kmになってようやく栄冠をつかめたという感慨と、これまでのさまざまな記憶がよみがえってきた。いまはマイヨジョーヌとともに生きている幸せを感じている」

「凱旋門をバックにピースサイン撮れました?」とフィニッシュ後に新城幸也が声をかけてくれた

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【ツール・ド・フランスリバイバル】2015年はフルームがキンタナを振り切る

オランダのユトレヒトで開幕した第102回大会はスカイのクリストファー・フルーム(英国)が2年ぶり2度目の総合優勝を果たした。フルームは第3ステージでマイヨジョーヌを獲得するが、1日でエティックス・クイックステップのトニー・マルティン(ドイツ)に首位を明け渡した。そのマルティンが第6ステージで鎖骨骨折して、再び首位に。最後は新人王のナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)に肉薄されたが、逃げ切った。

第12ステージ、プラトードベイユを上るフルーム、キンタナ、コンタドール
ツール・ド・フランス2015

2年ぶりの優勝をねらうフルームが大会3日目に首位へ

大会3日目の第3ステージ、壁のように立ちはだかるユイの激坂にゴールしたレースは、カチューシャのホアキン・ロドリゲス(スペイン)がフルームを同タイムで制して5年ぶり2度目の優勝を果たした。

前日に総合1位となったファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリー)はレース中盤に落車。その痛みのため大きく遅れてゴールしたため、フルームが大会3日目にして首位に立った。

広告キャラバン隊はいつも元気いっぱい

前年の覇者ビンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)やキンタナは11秒遅れでゴールしたが、ティンコフ・サクソのアルベルト・コンタドール(スペイン)はさらに7秒遅れた。コンタドールは総合成績でフルームに36秒差をつけられてその後を戦うことになった。

オランダで2日間を走ったレースは、この日ベルギーに移動して、レース終盤にはいよいよアップダウンが出現する。山岳賞争いも大会3日目にして始まるのだが、その勝負どころを目指す中盤に思わぬアクシデントが発生した。わずかな下り坂で大集団が高速走行をしていたときに落車が発生。この中にマイヨジョーヌを着るカンチェラーラがいた。

ユトレヒトはミッフィーちゃんの生まれ故郷だ

ツール・ド・フランスでは伝統としてマイヨジョーヌが不可避のアクシデントで遅れたときは、他選手がレースを中断して復帰するまで待つという慣習がある。もちろんルールとしてあるわけではない。1世紀以上も続くこの大会は、いわばサーカスのような庶民の娯楽であり、いたるところに人間的な感情が入り込む。国際ルールというのは後付けで規定されたものであり、集団を仕切る選手の親分が全員に「止まれ!」と言ったら止まるのである。

第2ステージはオランダらしい景色の中を突っ走った

今回の場合はその親分であるカンチェラーラが落車したので、主催者の最高権威プリュドムが全選手を止めた。この日の重要な部分はコース終盤であり、「それまでは一緒に行こうな」という自転車レースならではの判断基準もカンチェラーラを待った理由だった。

第3ステージはユイの丘にゴールが設定された

仕切り直しとなったレースは最後のユイの激坂に向けて有力選手たちが激しい戦いを見せた。ロドリゲスはこういった激坂を無酸素運動に近い運動能力で走れるタイプ。最後まで争ったフルームを突き放して優勝するのだが、5年前の勝利も激坂にゴールするコースで、そのときはコンタドールを振り切っている。

フルームは他のライバルに差をつけたことで、大会3日目にしてマイヨジョーヌを獲得した。

表彰式のアテンド。左から3人目がツール・ド・フランス解説者として活躍しているマリアン・ルス

繰り上がりマイヨジョーヌをフルームは拒否

ノルマンディー地方の平たん路で争われた第7ステージはエティックス・クイックステップのマーク・カベンディッシュ(英国)が大集団のゴール勝負を制して優勝。母国で開幕した2014年は第1ステージのゴール勝負で落車骨折していて、2年ぶり26回目の区間勝利を飾った。

前日はマイヨジョーヌを着るチームメートのマルティンが、カベンディッシュのアシスト時に落車。左鎖骨骨折が判明し、この日は出走できなかった。繰り上がりで首位となったのはフルームだが、「不運に見舞われたマルティンに敬意を表したい」とマイヨジョーヌの着用を拒否。この日はマイヨジョーヌ不在のレースとなった。

第6ステージで鎖骨骨折したトニー・マルティンはマイヨジョーヌのままリタイア

有力選手はタイム差なしの同一集団でゴールし、フルームが首位になった。

フルームはその後、終盤の山岳ステージで上り坂を得意とするキンタナに何度もアタックされ、青息吐息ながらなんとか逃げ切り、2年ぶり3度目の総合優勝を達成した。最終的なタイム差は1分12秒だ。

フルームは前年、第5ステージで落車骨折して涙ながらにリタイアしている。この年はは圧倒的な総合力に加え、鉄壁のアシスト陣に援護され、リーダージャージーのマイヨジョーヌを16日間着用。記録だけを見れば圧勝だが、薄氷の勝利だった。

オランダで開幕した大会は2日目に総合優勝争いで大きなポイントがあった。この日はオランダ特有の風と強い雨に見舞われて集団が分断。フルームはトップと同タイムの集団でゴールしたが、第2集団に取り残されたキンタナは1分28秒も遅れてしまった。南米で生まれ、スペインを拠点として走る選手は過酷な条件下となりがちなオランダやベルギーのレースに参加することが少なく、経験不足が露呈した。

第11ステージのツールマレー峠

中盤のピレネーを終えてフルームはキンタナに3分10秒の差をつけていたが、その貯金は最後の2日間の山岳で大きく失った。大会中盤から「マークするのはキンタナしかない」と公言していたフルームだが、その粘り強さは驚異だったのだ。

「最後の山岳であるラルプデュエズを上っていてボクの頭の中にはいろんな感慨が浮かんでいた。いつもボクのそばにはチームメートがいてくれた。みんながボクのマイヨジョーヌを一生懸命守ってくれた。最後は力を合わせてナイロ・キンタナの攻撃をしのげばよかった」とフルーム。

「そして家族の存在があってこそ、ハードなトレーニングをこなし、ボクの背中を後押ししてくれた。最終日前日の最後の山岳ステージはわずか110kmだけど、ボクには平地の300kmに感じた。ツール・ド・フランスに再び勝てるなんて信じられない気分だ」

上空から見ると「クツヒモ」のように見えるラセドモンベルニエ

そしてキンタナ。マイヨジョーヌをつかむにはまだなにかが足らない

総合2位はキンタナ。前年は同大会を欠場し、ジロ・デ・イタリアに照準を合わせて優勝。総合2位と新人賞の獲得は2年前と同様。

「全力を尽くして届かなかったので後悔はしていないが、マイヨジョーヌをつかむにはまだなにかが足らないということだね。何年かかってもボクの夢を実現するために、努力を惜しまない」

2人の男の熱き走りが久しぶりに見応えのあるレースにしてくれた。

キング・オブ・スプリンターの称号であるポイント賞は4年連続でティンコフ・サクソのペテル・サガン(スロバキア)が獲得。山岳賞はフルームが初受賞した。

パリでマイヨジョーヌを着たフルーム

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【ツール・ド・フランスリバイバル】2013年の100回大会でフルーム初優勝

第100回ツール・ド・フランスはスカイのクリストファー・フルーム(英国)の圧勝だった。窮地があったとすればハンガーノックになったラルプデュエズで、そのゴール後に、「好感度を高めるためにわざと?」という質問さえ飛び出るほどで、フルームはキューピーのような屈託のない笑顔で「そんなことはないよ」と返すのだった。

最後の山岳でも上りのスペシャリストを逃がすことなくフルームがマイヨジョーヌを死守

日本でプロ初勝利を挙げたフルームが記念大会を制覇

ホテルでの立ち話やゴール直後のフランス語によるインタビューを聞く限りは好青年だ。そのフランス語はたどたどしくも一生懸命で、「うん、だからそうなんだよね」と司会者も助け船を出したくなる。

ツール・ド・フランスは100回大会で初めてコルシカ島を走った

日本のファンにしてみれば、プロ初勝利は2007年のツアー・オブ・ジャパン伊豆ステージで、親近感もあるだろう。もっと言及するとそのレースでスタート直後に飛び出したのがNIPPOに所属していた新城幸也。フルームは終盤に新城を逆転し、それでも新城は執拗に追撃をかけるがフルームに逃げ切られているのだ。

コルシカ島に日本チャンピオンジャージで姿を現した新城幸也

2012年の最終日前日、ボクはスカイチームと同宿で、エースのブラッドリー・ウィギンスがマイヨジョーヌを確実にした祝宴の席で、フルームとウィギンスの席がずいぶん離れていることを目撃した。最終日の朝には、ボクの部屋の前でカチューシャの監督がフルームを呼び止めるのだが、「ちょっと話があるので部屋に来ないか」という内緒話がつつ抜けだった。

わずか10分でフルームは部屋から出て行ったので、移籍には至らないなと推測できたが、朝食の会場ではボクの立ち話に付き合ってくれ、「来年もスカイでがんばるよ!」とさわやかな口調で話してくれたのだった。

ラルプデュエズのオランダ人コーナー

そういった人当たりのよさを見せながらも、ロードバイクにまたがると別の側面がかいま見られる。2012年は遅れがちなウィギンスを振り返りながら「ついてこられないの?」とばかりの手振り。2013年も下りコーナーで制御不能に陥ったコンタドールに接触しかかって、「無謀なことはするべきじゃない」と内面をチラリと露呈させた。

勝てるところは全部持っていくという強い執念も感じる。ケニアのナイロビで生まれ、南アフリカで育ったという特異な境遇をもつフルームが、どんな考えを秘めてこのスポーツに没頭しているのか。2連覇がかかる2014年の大会とともに興味深いところなのだ。

最終日前日の最後の山岳でキンタナが区間初勝利
最終日の午前中、パリへのフライトでくつろぐフルームとチームメートのリッチー・ポート

日本チャンピオンの新城幸也が再びアタックを敢行

全日本チャンピオンの新城も存在感を示した。日本で国際映像を見ているとたまにしか登場しない歯がゆさもあっただろうが、現地ではマイヨジョーヌなどの実力者に劣らない人気ぶりだった。純白を基調とした日本のチャンピオンジャージは大集団の中でも際立つもので、沿道の地元ファンから「シャンピオンデュジャポン!」「ユキヤ・アラシロ!」と至るところで歓声がわき起こった。

4賞ジャージ。右からポイント賞のペテル・サガン、総合優勝のフルーム、山岳賞のキンタナ(新人賞も受賞)

目の肥えた欧州ファンは、ひいき選手が勝つところを見に来るわけじゃない。その選手のファイトが目の当たりにしたいんだ。ボクがツール・ド・フランス取材を始めた25年前、まずはこう教えられた。その言葉は今も普遍の真理で、新城がこれほどまでの気概をもって走る雄姿をこれまで以上に頼もしく感じた。

目標としていた優勝ができなかったのは、だれよりも自身が一番悔しいはず。落車によって強打した肋骨2本にヒビが入っていても、笑顔でそれを押し隠してスタートしていく。「シャンゼリゼの石畳は肋骨によくない」と思わずもらすのだが、苦悩や努力を決して人には見せないのが新城なのかも。

ツール・ド・フランスの最終日はパリ!

ボクたちは新城が勝つところが見たいんじゃないんだ(見たいけど)…。そのガッツが見たいんだからこの年も大満足だ。

ボクのツール・ド・フランス取材も25年。劇的に変わったのはインターネットの普及による報道の高速化。科学的トレーニングを導入してコンディショニングして乗り込む選手。チームバスに代表される快適なインフラの整備。カーボンコンポジットはあの時代からあったが、スプロケットは7段から11段へ(当時)。おそらくこういった有形なアイテムは飛躍的に進化した。

第5ステージで新城幸也がアタック。一時はバーチャルマイヨジョーヌとなった

変わっていないこともある。沿道で待ち構える観客の笑顔。ラルプデュエズの坂道のキツさ。パリにたどり着くことなくリタイアしていく選手の無念。そして夏のバカンスというワクワク感とともにやってくる一大スペクタクル。

第100回大会とて、あまり肩肘を張ることなく普通にやってしまうのが伝統の重み。きっと100年後も、機材の進化はあれどみんなのワクワク感は変わらないんじゃないかな。

第5ステージでアタックした新城幸也。ゴール後にて

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フルームがUAEツアーでレース復帰…アッカーマン先勝

イネオスのクリストファー・フルーム(英国)が大ケガからカムバック。2月23日に開幕した第2回UAEツアーで8カ月ぶりに集団スタートのレースに復帰した。2019年6月12日に落車骨折して以来、集団スタートのロードレースは初めて。

UAEツアーで完全レース復帰を果たしたフルーム。左はタデイ・ポガチャル ©LaPresse – Massimo Paolone

第1ステージはゴール勝負となり、ボーラ・ハンスグローエのパスカル・アッカーマンが優勝。総合成績でも首位に立った。

フルームはタイム差なしのメイン集団の後方、115位でゴールしている。

UAEのドバイで開幕したUAEツアー ©LaPresse – Massimo Paolone

「このレースに出場することができてうれしい。前年よりもホップしたいけれど、どれだけできるのかは分からない。以前と同じレベルで走ることができればいうことはない。昨年6月に落車をして以来、この日が来ることを望んで厳しいリハビリを積んできたからね。もちろん総合優勝を争えるとは思っていないが、2度目の再スタートを切れることがとてもハッピーだ」とフルーム。

フルームとバルベルデ ©LaPresse – Massimo Paolone
左からカベンディッシュ、ユワン、ポガチャル、バルベルデ、ケデルマン、ベネット、アッカーマン ©LaPresse – Fabio Ferrari
UAEツアー第1ステージ
パスカル・アッカーマンがUAEツアー第1ステージ優勝 ©LaPresse – Fabio Ferrari
パスカル・アッカーマン ©LaPresse – Massimo Paolone
パスカル・アッカーマン ©LaPresse – Massimo Paolone

大会は全7ステージで、29日まで開催される。日本からは新城幸也がバーレーン・マクラーレンのメンバーとして参加している。

THE STAGES 
Stage 1: Marjan Island Stage (158km), Zabeel Park – Marjan Island
Stage 2: Dubai Municipality Stage (203km), The Pointe – Hatta Dam
Stage 3: Sharjah Stage (198km), Sharjah – Rafisah Dam 
Stage 4: Dubai Stage (171km), Dubai Design District – Dubai City Walk
Stage 5: Al Ain Stage (162km), Al Ain – Jebel Hafeet 
Stage 6: ADNOC Stage (158km), Al Ruwais – Al Mirfa
Stage 7: Abu Dhabi Stage (127km), Al Maryah Island – Abu Dhabi Breakwater

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