クルマが越えられる日本で一番高い峠…標高2365mの大弛を目指す

山梨と長野の県境にある大弛(おおだるみ)峠はクルマが越えられる日本で一番高い峠だ。標高は2365m。かつては未舗装路だったが山梨側の南面だけ全舗装され、ロードバイクで上りオンリーの30km、獲得標高1700mというハンパないヒルクライムが楽しめる。もちろんキツい! でも達成感は格別だ。

頂上が近くなると一気に視界が開ける

さまざまな自転車専門誌で紹介したオススメ峠
12月から5月まで冬季閉鎖される大弛峠。標高が高いので真夏でも気温が低めで、清涼感は格別。下界が気温30度でも長ソデジャージーを着込み、下りに備えてウインドブレーカーを携行する。世界最高峰のツール・ド・フランスでもアルプスやピレネーの峠は2000mちょっとなので、大弛峠に匹敵する峠は数えるほどしかない。

31年前、新入社員として配属された自転車専門誌「サイクルスポーツで」、いきなり最初の出張で連れてこられたのが大弛峠だ。10年後に独立したが、すべての自転車雑誌でこの峠を紹介した。それだけサイクリストだったら上ってほしい峠なのである。なんでもいいからこの足で、「日本一」を制してみたいじゃないですか。

中間地点にあるダム湖。駐車場とトイレがある

実は1年前にも大弛峠に挑戦したのだが、現地に乗り込んでから自転車の一部が破損していることに気づいて走行を断念。仕方なく車で頂上まで行ったが、あのときの敗北感といったらなかった。やっぱり「自転車で上らないとダメなんです!」。20代や30代のときにも限界ギリギリでクリアした峠に、55歳になったボクが上れるのか?という不安もあったが、もうあの敗北感は味わいたくなかった。

唯一の集落がある柳平からいよいよ後半の上りへ。この先に冬季閉鎖のためのゲートがある

大弛峠までの距離30kmのルートにコンビニや店舗は1軒もない。15km地点に唯一の集落、柳平があって、ここに自動販売機があるのはグーグルマップで確認した。それ以外の補給食はスタート地の牧丘町(標高500m)から担ぎ上げる必要がある。水は頂上まであとちょっとのところにわき水があって、それが「命の源」とさえ感じる。頂上には大弛山荘があって、100円の寄付でつめたい水をくむことができる。

途中にきれいな泉がわき出ている。夏でも手が凍えるように冷たくなる

このルート、ぶどう畑を直線的に上る序盤が一番キツい。そこを我慢して上れば、しばらくして杣口林道に入って森林の中をめぐるワインディングロードになり、話ができる程度に余裕が生じる。中間地点、標高1500mの柳平には、廃校となった分校跡にトイレがあり、通行を規制するゲートが出現する。振り返ると富士山が見えるのだが、前途が不安でたいていの人は気がつかないだろう。

ここから先はいったんキツくなるものの、しばらくすると平坦かと錯覚するほどの緩やかな上りが数km続く。ここまでの激坂に苦戦しただけに、まるでツール・ド・フランスの山岳スペシャリストになったかのように突っ走れる。

頂上までは道ばたに設置された残り距離表示が頼り。徐々に森林限界にも近くなり、光景がパッと広がっていく。空気が薄いのでランニングのように高い心拍数で走るのはよくなく、最大心拍数の7割ほどでペダルを回すのがいい。最後は山の尾根を回るようにして標高2365mの頂上に到着。その達成感は格別だ。用意周到の準備と焦らないペース配分に気をつければ、50代でも登頂できるんだと勇気づけられた。峠で腰を下ろしていた登山客が「ここまで自転車で来たの!」と驚いて声をかけてくれた。

前回、サイクリングを断念してクルマで上ったときは景色がまったく違って見えるから不思議。自転車に出会えて本当に幸せだなあとしみじみと思う。標高が高いのでコースは上級者向け。所要時間は3時間半、平均時速は8kmほど。体調不良時の対策を整え、いざというときにお互いに救護できるように複数の仲間と走るのが基本。

遠くに見えるのは木曽御嶽山あたりだ

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