ツール・ド・フランス区間34勝のメルクスはまさに人食い鬼だった

自転車競技史上最強の選手と言われるのがベルギーのエディ・メルクスだ。ツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアで各5勝、世界選手権プロロード3勝、アマロード1勝。あまりの強さにカンニバル(人食い鬼)と呼ばれた。2019ツール・ド・フランスがベルギー開幕となったのはメルクス初制覇から50年の節目だったからだ。

ブリュッセルの表彰式で大観衆に手を振るメルクス ©ASO Olivier CHABE

今でもベルギーの国民的存在

ツール・ド・フランス開幕の2日前。ブリュッセルのグランプラス広場で出場チームプレゼンテーションが行われ、大観衆に埋まった。その最後に登場したのが74歳になったメルクスだった。

「ああ、私の神、私たちのエディ!」と涙を流すファンもいた。取材陣の多くも「鳥肌が立つほどすごかった」と証言している。

現役時代のメルクスは常に勝利にこだわり、どんなレースでも2位以下になることを好まなかった。平たんステージでも大集団のゴール勝負を力ずくでもぎ取った。ツール・ド・フランスの総合優勝5回は最多タイ。ステージ通算34勝は歴代トップ。マイヨジョーヌ着用回数111はダントツ(午前と午後にそれぞれ行われる半ステージ)を含む)。

メルクスは1969年のツール・ド・フランスに初参加した。初日のプロローグでマイヨジョーヌを取り逃がしてしまうが、同日夜にはチームタイムトライアルで優勝。翌日の大会2日目には首位に躍り出て、初めてマイヨジョーヌを着用する。この年、メルクスはマイヨジョーヌ、ポイント賞のマイヨベール、山岳賞の赤玉ジャージの3賞を独占したほか、チーム優勝、ステージ6勝と手がつけられないほどの強さを見せつけた。その強さゆえに「カンニバル」というニックネームが定着したのである。

ブリュッセルで行われた第1ステージでマイヨジョーヌのテウニッセンを祝福するメルクス ©ASO Pauline BALLET

1969年のメルクルの初優勝をたたえるために第106回大会はベルギーで開幕する。「母国の英雄に与える名誉は700万ユーロ(約9億円)の投資の価値がある」とブリュッセル市が、さらに関連する公的機関が400万ユーロ(約5億円)を主催者に支払って開幕誘致を実現した。ブリュッセルでレースが行われた3日間は市の負担によってすべての公共機関が無料になった。

ベルギーはフラマン地方とワロン地方に分かれ、主要都市間は独自の歴史に誇りを持つあまり敵対的になりがちだ。そんな国民性の中で、メルクスは常に「私はどこの出身とかじゃなくて、ベルギー人だ」とコメントしてきた。一時はプロ選手として活躍した息子に「アクセル」という地域を特定できない名前を付けたのもそんな考えがあったからだという。

ベルギーのフィリップ国王も「国の輝きに貢献し、私たちに無数の喜びと時間を与えてくれた」と最大の賛辞を送っている。

現在メルクスはブリュッセルに住み、日課としている散歩を欠かさないなど静かな生活をしているという。往年のファンは今でも、観光局が命名したエディ・メルクス広場やお気に入りのレストランに行けばメルクスに会えるのではという期待を込めてブリュッセルを訪問する。

最終日のシャンゼリゼでは2019開幕地ブリュッセルから2020年のニースにバトンリレー ©ASO Pauline BALLET

●国籍別の総合優勝回数(2019年まで)
フランス:36勝
ベルギー:18勝
スペイン:12勝
イタリア:10勝
英国:6勝
ルクセンブルク:5勝
米国:3勝
オランダ:2勝
スイス:2勝
ドイツ:1勝
オーストラリア:1勝
デンマーク:1勝
アイルランド:1勝
コロンビア:1勝

1986年に米国が優勝する以前は欧州大陸勢が優勝の常連だったが、2011年に南半球初のオーストラリア選手優勝、近年は英国勢が圧倒。優勝回数1位のフランスは1985年が最後、同2位のベルギー勢は1976年を最後に総合優勝から遠ざかっている。

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カネに糸目をつけないツール・ド・フランスVIP観戦ツアー

想像を絶する規模で開催されるツール・ド・フランス。主催者はそれを商材としてさまざまなサービスを提供している。特別待遇で観戦できるVIPツアーは民間企業の接待にも使える内容。一方で競技の底辺拡大のため、開催地からの協力金を得て、子どもたちが無料で楽しめるイベント会場も用意する。

空の上からツール・ド・フランスを観戦しよう ©A.S.O. Thomas MAHEUX

ヘリコプターツアー

交通規制エリアを通行できる関係車両でも、ツール・ド・フランスを追うのはとても大変だ。一般車などの大渋滞があり、チームカーさえ動くことができないケースも多い。だからヘリコプターに乗って上空からレースを見ようというVIPツアーを主催者が用意している。

まずはスタート地点に設営された関係者用施設「ビラージュ」でひとときを過ごす。協賛各社がブース出展し、フランス経済の社交が演じられる特別のエリアだ。地元特産物がふるまわれ、「ご当地ワイン」コーナーではワインも味わえる。選手が顔を出すこともある。

ヘリコプターを使ってツール・ド・フランス観戦 ©A.S.O. Alex BROADWAY

スタート後はオフィシャルカーに同乗。お昼時にはレースからフルスピードで先行し、快適な木陰に陣取って後部トランクに積み込まれたランチトレーを味わう。ゲスト用のシャンパンやワインも用意されているはずだ。そしてコース途中に待機していたヘリコプターに乗り込み、約20分のフライトで上空からレースを追う。

最後はゴール地点に設営された特別エリアでゴールシーンを特等席から観戦。1ステージにつき3人限定。気になる料金はおみやげ付き、6500ユーロ(約85万円)。

ゴール地点には特別観覧席が用意されている

ルレ・エタップ

真夏のフランスは乾燥して暑い。そのためコース途中には「宿場町」という意味の「ルレ・エタップ」という憩いの場を主催者が用意している。こちらも大会協賛社やVIP用。

提供されるのは車両駐車証で、これには同乗者として3人までお客さんを連れてきていいという。

ルレ・エタップに到着したらまずアペリティフ(食前酒)が提供され、着席形式のランチが用意される。選手の1時間間にやってくる広告キャラバン隊から優先的なもてなしを受け、最優先席から選手らが走ってくるのを観戦することができる。

企業単位での申し込みが想定されているようで、料金は10人1セットで3000ユーロ(約40万円)、全日程をカバーする場合は10人1セットで6000ユーロ(約80万円)。どちらもおみやげ付き。

シャンゼリゼの特別観覧席

シャンゼリゼにはさまざまな観覧席が設けられている ©A.S.O. Pauline BALLET

最終日のパリはさらに豪華だ。7月14日のフランス革命記念式典の時にマクロン大統領が着席した特設スタンド「エリゼ」の座席も販売されている。最終日のフィニッシュラインの真横で、これほどの特等席はない。シャンゼリゼの反対側には大型映像スクリーンが設置され、レース展開も把握できる。入場時間は午後3時から9時までなので、表彰式も観覧可。10人1セットで2800ユーロ(約37万円)。

シャンゼリゼにはこれ以外に有名レストランで100人規模のランチパーティー付き観戦など多様なツアーがあり、どれも華やか。チームスポンサーなどがスペースを貸し切って来年の契約交渉などを行う場として利用されるようだ。

ファンパークは無料

ファンパークはウキウキしちゃう ©A.S.O. Pauline BALLET

一方で、地元の子どもたちが気軽に自転車に乗る楽しさを味わえるような仕掛けも用意されている。今年は開幕地のブリュッセル、休息地のアルビとニームで「ファンパーク」が限定オープン。開催時期は3日間。自転車に乗って凹凸のある走路に挑戦したり、テレビ連動の固定式ローラー台のペダルを回して出場選手の視野をVR体験したり。こちらは無料開放。

VR(フランス語ではRV) ©A.S.O. Alex BROADWAY
パンプトラックで自転車の推進力を体感する ©A.S.O. Thomas MAHEUX
大人がデモ体験していますがキッズ用です ©A.S.O. Thomas MAHEUX

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