スロベニア勢台頭、そしてUCIがロシアに制裁、ウクライナ救済

中央ヨーロッパのスロベニア選手が、春開催の中規模ステージレース2大会で総合優勝をともに果たした。3月6日から13日までフランスで行われたパリ〜ニースでユンボ・ビスマのプリモシュ・ログリッチが、同7日から13日までイタリアで行われたティレーノ~アドリアティコでUAEエミレーツのタデイ・ポガチャルが勝った。かつては西欧が強かったが、現在は東へ。勢力図はいつから変わったのか。

第57回ティレーノ~アドリアティコで総合優勝したポガチャル ©LaPresse

勢力図はヨーロッパ西側から次第に東へ

北京冬季五輪開催中にスロベニアがスキージャンプ競技の強豪国であることが日本のスポーツファンの間で話題になった。アルプス山脈をいだく国土だけにかねてからウインタースポーツが盛んで、持久力のある選手も多い。実際にログリッチはジュニア時代にジャンプ競技のスロベニア代表で、転向組の1人だ。そのためJ SPORTSを視聴するような自転車ファンなら同国がジャンプ強豪国であることは承知だ。

パリ近郊から地中海岸のニースを目指すパリ〜ニース。別名は「太陽へのルート」 © A.S.O. Alex Broadway

ログリッチは、「今回のボクは最強ではなく、チームメートのワウト・ファンアールトに援護された」と優勝後にコメント。ベルギーのファンアールトは世界ランキング3位のトップ選手で、ツール・ド・フランスでどちらがエースに起用されるかという質問には明言を避けた。

一方のポガチャルは、「ツール・ド・フランスで連覇した昨年と同じような体調でシーズンインできた」とすでに7月のツール・ド・フランス3連覇を見据える。

パリ〜ニース初日はユンボ・ビスマ勢が3位まで独占。優勝したクリストフ・ラポルトを中央に、左がファンアールト、右がログリッチ © A.S.O. Alex Broadway

そのきっかけは1990年、ベルリンの壁崩壊から

20世紀はじめから行われている自転車レース。当初は自転車文化があり、メーカーが多かったフランスやイタリアが強豪国。すぐにベルギーやオランダなど移動手段としても自転車を愛用する国が追った。第二次大戦以降は暑さと、小柄な体格を生かして上りに強いスペインも参戦。同様の強さを持つコロンビア勢が欧州以外から乗り込むと、1980年代には国際放送でその存在を知った米国やオーストラリア選手がやってきた。

パリ〜ニース第4ステージのタイムトライアルでファンアールトがトップタイム、首位に躍り出た © A.S.O. Alex Broadway

東欧勢がやってきたのは1990年のベルリンの壁崩壊がきっかけだった。1991年末のソ連崩壊がそれに拍車をかけた。1997年にヤン・ウルリッヒが初めてドイツ勢としてツール・ド・フランスで総合優勝するが、旧東独出身だ。さらにポーランド、スロバキア選手が世界選手権を制覇する。

現在、中央欧州のスロベニアや東欧諸国出身選手が台頭しているが、レースの舞台は100年以上前から西欧であることに変わりはない。伝統レースとしてのテイストを残しつつ、出場選手が国際的になった。

パリ〜ニース第5ステージでファンアールトに代わって首位となったログリッチがそのまま総合優勝した © A.S.O. Alex Broadway

UCI世界ランキング(3月22日時点)
●個人
1 タデイ・ポガチャル(スロベニア)
2 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)
3 ワウト・ファンアールト(ベルギー)
●国別
1 ベルギー
2 スロベニア
3 イタリア
20 資格停止=ロシア
27 ウクライナ
35 資格停止=ベラルーシ
38 日本

イタリア半島の西に広がるティレニア海沿岸から東のアドリア海を目指すティレーノ~アドリアティコ ©Fabio Ferrari – LaPresse

自転車連合はウクライナ全面支援、ロシアに制裁

世界の自転車レースを統括するUCI(国際自転車競技連合)がウクライナに侵攻したロシアと、それを支持するベラルーシを厳しく非難。国際オリンピック委員会の裁定を自転車レースにも適用した。これにより両国のナショナルチームは海外活動禁止。両国に国籍を置くチーム、開催される大会は登録取り消しとなった。他国チームと契約する両国選手はそのまま活動できるが、ナショナルチャンピオンジャージーははく奪された。

一方でレース参加する両国選手へのリスペクトを主催者や観客に求めた。UCIの拠点となるスイスにウクライナ出身選手を招き、トレーニングセンターでの強化育成を開始。全面的に支援していく。

タデイ・ポガチャルが区間2勝でUAEツアーを2連覇

UCIワールドツアー第1戦、UAEツアーは最終日となる2月26日に山岳コースで第7ステージが行われ、前年の覇者タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEエミレーツ)が独走で優勝。2年連続で総合優勝した。

2022UAEツアー第7ステージ、ポガチャルとそれを援護するアシスト陣 ©LaPresse – Fabio Ferrari

7日間の日程で開催された大会で、ポガチャルは2つある山岳ステージで優勝。第4ステージで混戦を抜け出して優勝し、首位に立つと最終ステージでもライバルを置き去りにして逃げ切った。最大の勝負どころとして最終日に設定された山岳、ジェベルハフィートでは3年連続のステージ優勝。

アタックしたアダム・イェーツに反応するポガチャル ©LaPresse – Fabio Ferrari

総合優勝を争うイネオスグレナディアーズのアダム・イェーツ(英国)が逆転を狙ってアタックしたが、ポガチャルはこれに反応。残り1kmでイェーツを振り切り、1秒差をつけてゴールに飛び込んだ。

総合2位は22秒遅れでイェーツ。総合3位は最終ステージで5秒遅れの区間3位でゴールしたペリョ・ビルバオ(バーレーンビクトリアス)。

ポガチャルがイェーツの出方をうかがう ©LaPresse – Fabio Ferrari

「チームメートがハードワークをしてくれたあと、ジェベルハフィートで勝ててほんとうにうれしい」とポガチャル。

「チームメートのラファウ・マイカがアタックした。ラファウがステージ優勝できればよかったが、ゴールまで距離があったので抜け出すことはできず、作戦を変更した。チームメイト全員が一生懸命引っ張った」

ポガチャルがUAEツアーを連覇 ©LaPresse – Fabio Ferrari

「アダム・イェーツが攻撃に出たが、それはボクが今まで経験した中で最もハードな攻撃の一つで、本当に大変だった。ハオ・アルメイダとラファウがボクのところに戻ってくるのを待った。ハオはステージ勝利のチャンスをつかむためにカウンターアタックしたが、ライバルたちが追従したので僕たちは勝利のためにスプリント争いに集中した。それはうまくいった」

「UAEツアーは今シーズン初の目標だった。ボクたちのホームレースだ。スポンサーにとって重要なので、冬の時間を無駄にしないで、このレースに向けて準備を進めてきた。これから次の目標に向けて、できるだけ長くコンディション調整していきたい」

2022UAEツアーを制したポガチャル ©LaPresse – Fabio Ferrari

ポガチャルがUAEツアー第4ステージV…総合でも首位に

UCIワールドツアー第1戦、UAEツアーは2月23日に山岳コースで第4ステージが行われ、前年の覇者タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEエミレーツ)が有力選手のゴール争いから抜け出して優勝。総合成績でも首位に立った。

ポガチャルが2022UAEツアー第4ステージで優勝 ©LaPresse – Fabio Ferrari

直前のコロナ罹患でその調整ぶりが注目されたポガチャルだが、さすがのパフォーマンスを発揮した。22日に第3ステージとして行われた個人タイムトライアルでもスペシャリストからわずかに遅れる程度で好走。この日はステージ優勝するとともに、4日間の総合成績でトップに立った。

2022UAEツアー第4ステージ ©LaPresse – Fabio Ferrari

「自転車レースのスタートラインに並んだ選手はみんな勝ちたいと思っている。今日はボクにとってもチームにとってもいいレースだった」とポガチャル。

2022UAEツアー第4ステージで混戦から抜け出したポガチャル ©LaPresse – Fabio Ferrari

「チームメートのラファ(ラファウ・マイカ)とハオ(・アルメイダ)が集団を分断させようと何度も試みた。もし今日の登りがもっと難しかったら、ステージ勝利はラファに託しただろう。彼は最強のライダーの一人だった。ステージ勝利争いがスプリントになると確信したとき、ラファとハオはボクのために素晴らしいリードをした。勝利をつかめてとてもうれしい。オフシーズンにやったハードワークの報いだ。チームのハードワークを思うと感情的になった」

リーダージャージを獲得したポガチャル ©LaPresse – Fabio Ferrari
2022年のUAEツアー日程とコース

コロナ復帰のポガチャルが連覇をねらうUAEツアーが2月20日開幕

2022シーズンのUCIワールドツアー開幕戦となるUAEツアーが2月20日から26日まで中東のUAEで開催される。全7ステージ。第3ステージが個人タイムトライアル、第4ステージと第7ステージが山岳区間。日本ではJ SPORTSが全日程を生中継する。

タデイ・ポガチャル ©LaPresse

注目はUAEエミレーツに所属するタデイ・ポガチャル(スロベニア)。2020、2021年とツール・ド・フランスを連覇しているが、UAEツアーでも総合2位、総合1位と成績を残している。とりわけ最終ステージの山岳、ジェベルハフィートですでに2度優勝している。2月8日にコロナ感染を明らかにし、大幅な目標修正を余儀なくされた。大会ではその回復具合がポイントとなる。

2022UAEツアーの有力選手 ©LaPresse

19日に記者会見に出席したポガチャルは、「UAEエミレーツの所属選手として、昨年のレースで優勝できたことは大きな意味を持っています。毎年、ボクはここでたくさんの人たちがサイクリングを楽しんでいるシーンを確認している。もう一度タイトルを取ってみたい」と意欲を見せた。

「冬のオフシーズンは本当によかった。残念ながらスペインのシエラネバダでの合宿中にコロナ感染してしまったが、軽症で済んだ。自転車の練習を休んだのは4日間で、すぐに最初のレースの準備に取りかかった」

2022年のUAEツアー日程とコース

チームは平坦ステージでは、スプリントのあるパスカル・アッカーマンが区間勝利を狙う。個人タイムトライアルではミッケル・ビョーグ、総合成績ではラファウ・マイカとジョージ・ベネットがオプションとして設定されている。

トム・デュムラン ©LaPresse

「UAEツアーにはい思い出がある。アブダビツアーを含めれば3回ここに来ている。このレースは、スプリント、風、タイムトライアル、上り坂と総合成績の上位を目指すのに必要な要素を全て持っている。クリス・ハーパーとともに総合優勝を目指したい」(ユンボ・ビスマのトム・デュムラン)

フィリッポ・ガンナ ©LaPresse

「昨年のタイムトライアル優勝から1年後に戻ってきた。すべてのタイムトライアルは異なっているので、今回のタイムトライアルを勝つために大きな努力をする必要がある。その準備ができていることを願っている。今シーズンすでにタイムトライアルで2回優勝したから、いい状態にあることは確かだ」(イネオスグレナディアーズのフィリッポ・ガンナ)

マーク・カベンディッシュ ©LaPresse

「10月と11月に家族と過ごしたアブダビに戻って来るのはうれしい。アラブ首長国連邦をよく知っている。UAEツアー以前のドバイツアーとアブダビツアーでは、いつも成功を収めた。昨年は欠場した。ミケル・モルコフが頼もしいチームメートとなって、ディラン・フルーネウェーヘンやヤスパー・フィリプセンのような速い男たちと争いたい」(クイックステップ・アルファビニルのマーク・カベンディッシュ)

ディラン・フルーネウェーヘン ©LaPresse

「今シーズンのスタートはサウジツアーで2勝を挙げたのでいい調子だ。さらに進んで、再び勝ちたいと思う。ここには非常にいいスプリンターがいる。新しいモチベーションを求めていたので、チームを変えた。ルカ・メズゲッツという非常にいいリードアウトを持っている」(バイクエクスチェンジ・ジェイコのディラン・フルーネウェーヘン)

新城幸也はコロナ罹患でUAEツアー欠場

日本の新城幸也(バーレーンビクトリアス)もUAEツアーに参戦予定だったが、2月2日から6日まで開催されたポルタ・アラコムニタ・バレンシアナ後に、のどの痛みや倦怠感など体に異変を感じて検査。コロナ陽性の反応が確認されて欠場となった。

●UAEツアーの公式ホームページ

コロナ陽性のポガチャルは隔離練習でUAEツアー参戦へ

ツール・ド・フランス2連覇中のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEエミレーツ)が新型コロナウイルスに感染。症状は軽いものの、隔離状態でのトレーニングを余儀なくされ、2月20日から26日まで開催されるUAEツアー出場を目指すことになった。

2021年のUAEツアー第3ステージで優勝したポガチャル ©LaPresse – Gian Mattia D’Alberto

UAEエミレーツのチームドクターが「ポガチャルが先週にコロナ罹患した」と明らかにしたのは2月8日。

「症状は軽いが、罹患者に対する措置に則って室内で隔離され、静かに回復できるように軽度な練習から再開した」

当初はチームスポンサーの本拠地で開催されるUAEツアーのため、本格亭なトレーニングをこなしての出場を計画していたが、「ポガチャルはまだ医療検査を受けなければならず、レースの準備を慎重に進めていきたい」とドクターがコメントした。

2022シーズンは新型コロナウイルスにより、南半球で開催予定だったツアーダウンアンダー、とカテルエバンス・グレートオーシャンが2年連続で中止。UCIワールドツアーの開幕戦となったUAEツアーに注目が集まっていた。

2021UAEツアー第4ステージ ©LaPresse – Fabio Ferrari

ポガチャル、ツール・ド・フランス、クラシック、世界制覇に挑む

世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランス2連覇中、東京五輪ロード銅メダルのタデイ・ポガチャル(23=スロベニア)がさらなる高みを目指して2022シーズンに挑む。自転車競技史上最強の選手と言われるエディ・メルクス(76=ベルギー)も初めて「自分を超える選手になるだろう」とお墨付きを与えた。

タデイ・ポガチャルが第20ステージで2019ブエルタ・ア・エスパーニャ3勝目 ©Photogómez Sport

グランツールだけでなくワンデーレースでも勝てる逸材

スロベニアはかつての社会主義国、ユーゴスラビアから1991年に独立した小国だ。しかし自転車界では一気に強豪国に。それをけん引するのがポガチャルだ。身長176cm、体重66kg。2019年に現在も所属するUAEエミレーツと契約。三大大会の1つ、ブエルタ・ア・エスパーニャに起用されて区間3勝、いきなり総合3位になった。まだ20歳だった。

近年の自転車レースは高速化と専門性が顕著になり、ワンデーレースで優勝をねらうタイプと2日以上の大会日程で総合優勝を争うタイプに分けられてきた。ツール・ド・フランスのように23日間の長丁場で頂点をねらうならワンデーレースは視野に入れず調整することが常套手段となった。ブエルタ・ア・エスパーニャ1回、ツール・ド・フランス2回の出場で、総合3位、1位、1位の成績を手中にしたポガチャルはまさに後者のタイプと思われていた。

2019ブエルタ・ア・エスパーニャで新人賞ジャージを着る ©Photogómez Sport

ところが2021年、ポガチャルはワンデーレースの伝統大会、春のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(ベルギー)、秋のイル・ロンバルディア(イタリア)で優勝。近年の傾向を完全に打ち破る成績を修めた。

ワンデーレースでも複数日レースでも暴れまくったのがかつてのメルクスだ。ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスで5勝、ワンデーレースの最高峰である世界選手権で4勝(アマチアロード含む)。春先に開催される伝統のレースも総ナメにして、その強さから「人食い鬼」とさえ呼ばれた。これまでメルクスは「自らと並び立つ現役選手は?」の問いに答えなかったが、イル・ロンバルディアの優勝後にポガチャルの名前を口にした。

そのコメントはポガチャル自身の耳にも入り、「彼がそう言うならボクは自転車競技の新たな歴史を作れるように頑張る」と意気揚々だ。

ポガチャルが2020ツール・ド・フランス第20ステージで首位に ©A.S.O. Pauline-Ballet

ツール・ド・フランスのみならずフランドルと世界選手権にも照準

チームは1月5日からスペインでキャンプイン。10日にはリモート取材に応じた。2022シーズンのポガチャル最大の目標は7月のツール・ド・フランスで3連覇を達成することだが、それ以外にも驚くべきターゲットを口にした。「ワンデーレースの女王」と言われる4月3日のツール・デ・フランドル(ベルギー)にプロ選手となってから初参戦することを表明。8月には得意とするブエルタ・ア・エスパーニャ、そして9月の世界選手権で世界王者のタイトル獲得を目指すという。

2021リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのゴール勝負を制して初優勝。左から2人目 ©A.S.O. Aurelien Vialatte

ツール・ド・フランス最多となる5勝を記録した選手は過去に4人いるが、5勝目はいずれも30歳前後。22歳で2勝を挙げた選手は皆無だ。ポガチャルにはまだ相当の時間がある。メルクスを超える最強選手となるのか? キーとなるのは2022シーズンだ。2月20日から26日までチームのおひざ元で開催されるUAEツアーが初戦。4月はツール・デ・フランドルを皮切りに、連覇をねらう24日までのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュまで伝統レースを毎週末こなす。

総ナメにするようなことがあればメルクスの再来を疑う余地はない。

2021ツール・ド・フランス、2年連続で黄色のマイヨジョーヌを着用してパリにがい旋 ©A.S.O. Aurelien Vialatte