スポーツ団体ローレウスのアンバサダーに有森裕子、為末大

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスは、女子マラソンオリンピックメダリストの有森裕子さんと、日本人初の世界大会でのスプリント種目メダリストで、男子400mハードルの日本記録保持者でもある為末大さんを新アンバサダーとして迎えることを決定。

2018年からローレウス・アンバサダーとして、ローレウスの活動をサポートしている元プロテニスプレイヤー杉山愛さんも参加し、就任発表会を2020年8月3日(月)にオンラインで実施した。

現アンバサダーの杉山愛さんも大歓迎

最初に杉山さんが登場し、「昨年、ショーン・フィッツパトリックとローレウスが支援するスペシャルオリンピックス日本のプログラムに参加しました。すごく楽しくて、プログラムに参加している子どもたちの笑顔を見て、スポーツの可能性は本当に大きいなと感じました。これからも日本でさまざまなプログラムを行っていきたいです」とこれまでの活動を振り返った。

続いて、新アンバサダーに就任した有森さん、為末さんが登場。有森さんは「世界で広く活動を行っているこのような国際団体に参加させてもらえて本当に光栄です。今後はさまざまなアスリートとともにスポーツの力を広げていきたいです」、為末さんは「私が現役時代に憧れていた選手たちと同じところにいると考えるとドキドキします。私自身もアジアの子どもたちにスポーツの力を広める活動をしています。ローレウスのような世界規模で活動している団体のアンバサダーになることができて本当に光栄です。いろいろなことを学びながら、貢献できたらいいと思っています」と意気込みを発表した。

次にローレウ スのグローバル・パートナーを代表し三菱UFJフィナンシャルグループ取締役 代表執行役社長グループ CEO 亀澤宏規(かめざわひろのり)氏、ローレウスを代表しローレウス・スポーツ・アカデミー チェアマンのショーン・フィッツパトリック氏からの祝福コメントを紹介。

有森裕子

フィッツパトリック氏は「(ローレウ スの)目標に向けて為末さんと有森さんにご協力いただけることを期待しています。日本のご健康を祈りつつ、ビフォーコロナに戻りましたらまたお会いできたらと思っています」と歓迎した。このメッセージを受けた為末さんは「“為末さん”なんて呼んでいただいてとてもうれしかったです (笑)」とコメン トし、会場の笑いを誘った。

トークセッションでは、選手として世界トップレベルで活躍の経験があり、現在はさまざまな立場からスポー ツに携わっている3名が、スポーツの力やスポーツ界の未来、現在新型コロナウイルスがスポーツ界に及ぼす影響などについて語った。

ローレウスが理念として掲げている“スポーツには世界を変える力がある”に関連し、『スポーツが世界中の子どもたちの助けになる力強い役割を担える理由』について、有森さんは 「応援する、応援される現場が存在するのがスポーツです。そのため自分が生きている存在意義を感じることができると思います。子どもたちにその現場を感じてもらい、生きているということを感じてほしい」。

為末大

為末さんは「私自身の経験を踏まえると、違う国でスポーツを通して仲間ができて本当によかったと感じています。スポーツを通じて、世界につながることを感じることができるし、子どもたちにはそれを感じてほしいです」。

杉山さんは「我々アスリートも目標を達成する喜びや勝った時のうれしさ、負けた時の悔しさなど、スポーツを通して多くを学んできました。協調する力やルールの下でスポーツを行うという、 本当に大切なことをたくさん学べるのがスポーツであると思います」と語った。

日本選手は自分のとこで精一杯で、あたりまえの社会還元ができない

また、日本ではローレウスのように世界規模で社会貢献活動を展開する団体が少ない・生まれにくい理由に関して、杉山さんは「有森さんも仰っていましたが、自分のことで精一杯という一面が日本のスポーツ界にはあるかもしれません。しかし、私自身ワールドツアーを回りながら、各国の選手が当たり前のように社会に還元している姿を目にしてきています。世界と日本を比べてみると、日本ではスポーツ文化の確立ができていないことが大きい理由だと思います」と見解を述べた。

さらに、新型コロナウイルスの影響がスポーツ界やトップアスリートらにも及んでいることについて、3名がそれぞれコメントした。

為末さんは「選手たちにとっては目標がなくなって本当に難しいと思う。どういう風にしたらいいのかという答えはなかなかない。一方で、少しずつ再開されている陸上競技大会で好記録も出ていて、専門的な練習から一歩下がって、室内でしかできないような基礎的な練習をしたことによって結果が出たのではないかとも言われています。現状を前向きにとらえることで、選手の次の飛躍も変えると思うので、そういう意味では工夫していくタイミングなんだろうなと思っています」。

有森さんは 「状況が大変なのは世界中同じ条件です。その中でなにを見出していくかが大事で、為末くんが言ったようにアスリートは今までないがしろにしていた部分や弱点を再発見するきっかけになると思う。『なんで?』と思うか、『せっかく』と思うか、とらえ方が大事。だから乗り越えて欲しいと思うし、これを負に変えるか負に変えないかは自分次第です。同じスタートラインから自分次第でその先がどうなるか決まること伝えたいです」。

杉山愛

杉山氏は「今までと同じようにスポーツやっていくにはさまざまな調整が必要になると思います。子どもたちに関して言うと、こういった時代なのでインターネットなど通してみんなとの会話など普段できないような時間を私も過ごさせてもらってる。いつもない時間が与えられたからこそ自分と向き合う時間にあてている子どもたちが多い。未来は明るいなと思わせてもらえたのは大きかった」と語った。

これからはスポーツが社会に対してなにができるか考えていく時代

最後に、2021年以降の日本スポーツ界はどうなっていくと考えるかについてトークを展開。有森さんは「これからは、スポーツが社会に対してなにができるのかが求められる時期になってくるだろう」、為末さんは「社会におけるスポーツの意義を考えるいい機会になったし、これからもその機会は増えていくと思う」、杉山さんは 「まずは、命ファースト。その中でやっぱりスポーツは大事だねという認識に繋がっていくと思う」とそれぞれコメントし、本発表会を締めくくった。

質疑応答

Q.東京五輪の1年延期を受けて、来夏の東京五輪開催に対する現在の思いをお聞かせ下さい。

A.有森氏:現状あってのオリンピック、スポーツかなと思っているので、現状がまず一番大切。 為末氏:やっちゃおう!という思い。日本には「頑張ってみよう」と宣言してほしい。 杉山氏:どのような形で開催されるか想像できない。イメージがついてからだと思う。

Q.このコロナ禍において、気持ちのコントロールが難しかったり、大会の中止や延期に動揺する知的障害の選手が多いと聞きますが、有森さんからみて選手たちにどんな影響が出ているか、また周囲のどんなケアが必要だと感じますか。

A.有森氏:距離が近くないとサポートできないので、選手は距離感の問題について一番困惑している。サポ ートなしでは難しいのが現状。周囲のケアがまず大事。ケアとして、現状や情報を常に発信していくことが大切だと思う。

Q. ちょうど1年後の2021年8月3日、東京オリンピックの男子400mハードル決勝が予定されています。 為末さんご自身、過去3度オリンピックに出場されて、その当時の決勝の舞台や表彰台に対しての特別な 思いなど、改めて今振り返って伺えますでしょうか。

A.為末氏:自分自身は決勝に残ったことがないので、ぜひ日本人には決勝の舞台、あわよくば表彰台を狙ってほしい。ただ、日本記録をまだ僕が持っているので、記録更新しない程度で頑張ってもらいたい。(笑)

■新アンバサダー プロフィール

有森裕子
1966 年岡山県生まれ。就実高校、日本体育大学を卒業して、(株)リクルート入社。 バルセロナオリンピック、アトランタオリンピックの女子マラソンでは銀メダル、銅メダルを獲得。 2007 年 2 月 18 日、日本初の大規模市民マラソン『東京マラソン 2007』でプロマラソンランナーを引退。 1998 年 NPO 法人「ハート・オブ・ゴールド」設立、代表理事就任。 2002 年 4 月アスリートのマネジメント会社を設立。 国際オリンピック委員会(IOC)スポーツと活動的社会委員会委員、日本陸上競技連盟理事、 スペシャルオリンピックス日本理事長、大学スポーツ協会(UNIVAS)副会長。他これまで、 国際陸連(IAAF)女性委員会委員、国連人口基金親善大使、笹川スポーツ財団評議員、 社会貢献支援財団評議員等の要職歴任。 2010 年 6 月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞。 同 12 月、カンボジア王国ノロドム・シハモニ国王陛下より、ロイヤル・モニサラポン勲章大十字を受章。

為末大
1978 年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。 男子 400 メートルハードルの日本記録保持者(2020 年 8 月現在)。 現在は人間理解のためのプラットフォーム為末大学(Tamesue Academy)の学長、 アジアのアスリートを育成・支援する一般社団法人アスリートソサエティの代表理事を務める。 新豊洲 Brillia ランニングスタジアム館長。主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。

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