MTBの新世代女王は川口うらら…U23ロード含め全日本4冠

川口うらら(日本体育大)が11月21日に愛媛県の八幡浜市民スポーツパークで開催された第34回全日本自転車競技選手権大会マウンテンバイク(XCO)女子U23で2位に大差をつけ優勝した。20歳の川口は2021年、全日本自転車競技選手権大会でU23ロードレース、マウンテンバイク(XCE、XCC、XCO)の2競技・4種目で優勝して4冠を達成した。

川口うらら

自転車競技のひとつ、MTB(マウンテンバイク)には複数の種目がある。XCO(クロスカントリーオリンピック)は丘陵地に設定された周回コースを走って順位を競うもので五輪採用種目。XCE(クロスカントリーエリミネーター)は少人数で一斉スタートして勝ち上がっていく形式で、世界選手権とワールドカップで行われる。XCC(クロスカントリーショートサーキット)はクリテリウムと呼ばれる短い周回路でのレース。

第34回全日本自転車競技選手権大会マウンテンバイク(XCO)女子U23を走る川口うらら

川口は10月23日に開催された全日本選手大会ロードレースのU23で優勝。11月6〜7日に開催された全日本選手権大会マウンテンバイクXCE、XCCでも優勝していて、2競技4種目での全日本自転車競技大会で優勝を果たした。 

第34回全日本自転車競技選手権大会マウンテンバイク(XCO)女子U23を走る川口うらら

2021年8月にイタリアで行われたマウンテンバイク世界選手権にU23日本代表として選出され、34位という結果を残した。翌週のスイスでのワールドカップでは23位と健闘。10月から11月にかけて開催された全日本選手権では、女子U23ロードレース・XCE女子・XCC女子・XCO女子U23の4つへ出場し、それぞれで優勝を目標に挑んだ。

第34回全日本自転車競技選手権大会マウンテンバイク(XCO)女子U23で優勝した川口うらら(中央)

優勝候補と呼ばれプレッシャーがある中でも、海外でのレース経験を生かし、積極的にレースを展開し危なげない走りで優勝した。 

日本体育大の川口うらら

川口は2000年12月5日生まれの20歳。兵庫県たつの市出身。龍野高卒業、日本体育大在学。ホームコースのたつの市菖蒲谷森林公園のMTBトレイルで培ったテクニックを生かした走りが特徴。ジュニア(17~18歳)ではロードレース・マウンテンバイクの日本代表としてアジア選手権制覇・世界選手権にも出場。
現在はダイセル、ナガセケムテックス、帝国電機製作所の支援を受け、マウンテンバイク選手として活動中。

川口うらら、MTBで世界を目指す…科学的トレ導入も

MTBのアジア選手権ジュニア女子で2017年から2連覇した川口うらら。MTBとロードの2競技で世界選手権の日本代表に起用されている。現在19歳の注目選手は東京五輪のテスト大会にも日本勢3選手のひとりとして出場した。目指すのは世界のトップテン。あるいはその先にある2024パリ五輪だ。

フカヤレーシングの川口うらら

ロードとMTBで世界選手権代表メンバーに

兵庫県たつの市に菖蒲谷という森林公園がある。大自然に囲まれた林道があって、MTBで走ると最高に楽しい。近くに住む川口が小学4年生のときから友だちと一緒に走っていたフィールドだ。

「環境に恵まれていましたね。だれかと走るのが楽しいんです。ああだこうだ言いながら」

もともとスキーやキャンプが大好きなアウトドア派。トレイルランも苦にしない。中学生でバスケットボール部に入ったので自転車は一時中断。しかし高校では放課後にバスケ練習、週末になると部活動とは別に自転車を楽しむ生活に戻った。

ロードバイクも練習の一環として乗り始める。2年前、高校3年生になる年に日本自転車競技連盟がジュニア女子ロードの合宿に呼んでくれた。MTBでの実績があって素質を見込まれたからだ。

「女子の場合はMTBとロードの両方をやりやすいんです。海外でも同じで、MTB世界選手権にいる選手はロード世界選手権にもいますから」

MTBはロード競技と同様にハイレベルな心肺機能が必要だが、それに加えてテクニックもいる。小学生時代からオフロードに親しんできた川口はそれがアドバンテージだ。それでも、「日本では下りも得意なほうだと思うんですが、世界レベルで見るとまだまだ」と自分の課題を掲げる。

2018世界選手権ジュニア女子ロードを走る川口うらら(左から2番目)  ©2018 JCF

現在は日本体育大1年生。ロード競技では同大の所属として走り、MTBでは今季からフカヤレーシングに所属して男子2選手とともに世界を目指す。横浜市にあるキャンパス周辺には山がないので、大学のアスリート支援システムを活用。大学ジムでパーソナルトレーナーの指導を受けるなどでこれまでに体験したことがなかった科学的練習を積む。

「タイで開催されるアジア選手権対策として、大学実験室の温度を上げて暑さに順応する練習をしたり、研究室で出力数値解析できる自転車をこいだりしています。これまでは感覚だけが頼りなので練習もあいまいでしたが、今は数字を見ながらの練習。測定で算出された数字を見れば強くなったことが分かります」

MTB選手活動の基盤となるフカヤレーシングで、選手兼チームマネジメント担当の松本佑太は、「世界と戦える選手だと川口選手に声をかけました」とチーム加入のいきさつを証言している。

「目標を聞いたときに、『世界チャンピオンになる』という力強い言葉が返ってきた。素質もあるのでこれはいけるなという予感があった。常に上を向いている姿勢も評価できた」と松本。

深谷産業のオリジナルブランド、ギザロ

オーバートレーニングで一時は低迷

順風満帆の川口に大きな壁が立ちはだかったことがある。2019年1月から慢性疲労となり、半年ほど睡眠障害などで体調を壊した。「気持ちの問題だ」とも言われたが、練習したら治るという状態でもなかった。じつはハードトレーニングによる疲労の蓄積が原因となったものだ。真面目な性格が災いした。練習をやり過ぎてしまう。レースでダメだったら自分で反省ばかりして考えすぎた。練習を重ねる体力もあったからやり過ぎたのも原因だったという。

「かなり悩んで、いろんな人と相談をして。その期間も苦しかったけど、復帰してからももとの感覚に戻すまで時間がかかったのがツラかった。それでも精神的な面で一番成長できたと思います。自分としてはこういう1年もレベルアップのためには必要だったかな」

現在はU23カテゴリーで走るが、その実力は多くのエリート選手を超えている。東京五輪のMTBクロスカントリー女子の日本選手は開催国枠の1つだけ。複数あれば川口にもチャンスがあったはずだ。

「もともと東京五輪を狙うつもりはなくて、まずは世界選手権で10番以内になること。五輪はその中でチャンスがつかめたらと思っていました」

将来の可能性を高めるために積極的に走っていきたい。川口の国内開幕戦は4月5日、子どものころから遊んでいた菖蒲谷を舞台としたMTBシリーズ戦だ。

フカヤレーシングの松本佑太、川口うらら、竹内遼

●フカヤレーシングのホームページ

松本佑太、竹内遼、川口うらら所属のフカヤレーシング始動

MTBチーム、フカヤレーシングの2020シーズンは新戦力として川口うららが加わり、松本佑太、竹内遼とともに東京五輪イヤーを戦っていく。チームのキックオフパーティーを兼ねた新体制発表会が1月24日に愛知県名古屋市で、同25日に東京都で開催された。

フカヤレーシングの松本佑太、川口うらら、竹内遼

チームは2019年に松本と竹内が結成。若手選手が世界を舞台に戦っていく環境づくりを目指し、五輪メダルの獲得を最終目標と掲げる。メインスポンサーは名古屋を拠点とする自転車関連商品卸業のフカヤ(旧深谷産業)。1年目の2019シーズンは全日本マウンテンバイク選手権のU23クロスカントリーで竹内が3位、またクロスカントリー・エリミネーター種目で松本が3位になった。

フカヤレーシングの松本佑太

2020シーズンは竹内がエリートクラスとなり、日本のトップカテゴリーで戦っていく。そして若手男子選手2人に加えて、ジュニア時代はマウンテンバイクとロードレースで全日本チームに抜てきされた川口を獲得。日本体育大1年生で、カテゴリーはU23クラス。マウンテンバイクでは同チームのジャージを着用して活動していく。

フカヤレーシングの竹内遼

チームマネジメントも担当する松本は、「世界と戦える選手だなと川口選手に声をかけました」とチーム加入のいきさつを紹介。
「目標を聞いたときに、『世界チャンピオンになる』という力強い言葉が返ってきた。素質もあるのでこれはいけるなという予感があり、常に上を向いている姿勢も評価できた」

フカヤレーシングの川口うらら

アジアマウンテンバイク選手権ではジュニアクラスで2017年と2018年を連覇。一時はオーバートレーニングによって慢性疲労から調子を落としていたが、2019年に復調の兆しを見せ、2020東京五輪マウンテンバイク会場で行われたテスト大会にも出場した。

「精神的な面で一番成長できた。自分としてはこういう(不振の)1年もレベルアップのためには必要だったかな。もともと東京五輪ではなくて、世界選手権で10番台になることを目標としてやってきました。その中でもし東京五輪のチャンスがつかめたら」

今後は海外での参戦を増やし、将来をしっかりと見すえて着実にステップアップしていきたいという。

フカヤのオリジナルブランド、ギザロをレーシングチームが使用する

●フカヤレーシングのホームページ