山岳サイクリストの聖地、西上州・上野村を走ってみよう

西上州の群馬県上野村は山岳サイクリストの聖地と言われる。すりばちの底に集落があり、この村から下流に向かう神流川沿いの街道もいったん河岸を離れて激しい上り坂を走る羽目になる。かつては十石、ぶどう、塩之沢、志賀坂といった峠を越えないと絶対に脱出できなかった。そんな秘境をこよなく愛するサイクリストがいて、彼らの中ではだれにも教えたくない自転車パラダイスだった。

新緑の時期にぶどう峠を上る © T. INOUE

現在はトンネルが貫通するバイパス道路が建設され、たいていの車両は速くて便利なバイパスを通行する。そんなものだから、神流川沿いの狭い旧道は交通量がほとんどなくなった。たまに小型の村営バスや宅配便が走っていく程度だ。集落はかつてのままで、昔ながらののどかな風情を残している。

秋深まる時期に神流川沿いの旧道を行く

神流川沿いの旧道
時代がストップしたかのようなたたずまいをみせる上野村の集落は神流川沿いに点在し、それが旧道でつながれている。

そんな昔ながらの旧道をゆっくりと走ってみる。時速25kmでかなりのスピードを感じるほどの絶妙な道幅。真夏でも太陽をさえぎってくれる木々。そんなのどかな道でロードバイクを走らせるだけでも、わざわざここまで訪れるだけの価値はある。見ず知らずの旅人にもにこやかなほほえみを返してくれる村人に心温まる。

新緑の旧道を行く

秋深まる時期に閑静な集落を行く
乙父(おっち)の紅葉スポット
乙父(おっち)の紅葉スポット

塩之沢峠
車両がめったに通らない峠道なら、周囲の景色を楽しみながらマイペースで走れる。サイクリストの天国のような、そんなルートが関東にもあるのは驚きだ。2003年、全長3323mの湯の沢トンネルが開通したことによって、忘れ去られた塩之沢峠だ。群馬県下仁田町から上野村まで40kmのかつての峠道は便利なトンネルが完成したことでクルマの往来が途絶え、たまに営林署や山菜採りのクルマがゆっくりと走るだけになった。もともとこの道はクルマにとっては道幅が狭すぎるのだが、それは反対に自転車にとっては絶妙な道幅なのだ。

やまびこ荘近くの渓流にて

起点は下仁田。上信越自動車道からのアクセスもよく、電車移動なら上信電鉄の終着である下仁田駅から走る。西上州やまびこ街道と呼ばれる道を走って徐々に高度を上げていく。クルマの往来があるこの道から檜沢の集落を通過したあとに出現する枝道に突入。ここからが自転車パラダイスの始まりだ。

耳には小鳥のさえずりか、渓流を流れる水の音しか聞こえない。クルマのエンジンもタイヤの接地音もない。これなら併走しなくても仲間の声が聞き取れる。路面は予想していたよりもスムーズだった。生活のためとしてはほとんど使われていない道路だが、営林管理のためにきれいに舗装されているからだ。折れた枝や落葉は随所にあるのだが、それだけを注意して走ればアクシデントは起こりづらい。

川の駅で休憩。塩焼きやソフトクリームで疲れをいやす

清流桟敷の温泉
上野村の西、三岐(みつまた)にある「浜平温泉・しおじの湯」はしっかりした食事や飲み物もとれる。清流を一望できる桟敷は開放感あふれて最高。名物はイノシシと豚をかけ合わせたイノブタ、川魚はヤマメやイワナなど。

かつての浜平温泉には「奥多野館」という旅館があり、山岳サイクリストがコースの感想などを書き記した「浜平ノート」があった。現在は廃業。

浜平の橋本民宿を過ぎるといよいよぶどう峠への上りに突入

走り屋なら峠を2つ
上野村の魅力はいろいろな峠にアプローチできることだ。ひとつの峠を往復してもいいが、中級者以上ならとある峠を越えて山脈の反対側に出て、別の峠を使って戻ってみるのもいい。

例えば上野村の浜平温泉「しおじの湯」を発着として、標高1510mのぶどう峠を越えて長野県側へ。小海線に沿って北上し、標高1351mの十石峠を上って上野村に戻るというコース。距離は75kmだが、県境の険しい峠が2つある。発着地点を「しおじの湯」にしたのは、無事にゴールしたら温泉で疲れを癒やせるという魂胆だ。

真夏の日差しを避けて神流川の清流で涼を取る

中間地点となる長野側には休憩と補給ができる店舗がある。小海線の駅周辺なら飲食店やコンビニもある。心拍計付きGPSウォッチを駆使し、パソコンでコースを作成してこの機器にデータを送り込んでおけば、ゴールまでの距離や到着予測時間、峠の頂上までの達成度が数字やグラフで表示されるので初挑戦という人も安心。

スタートしてすぐに渓流沿いの上りが始まり、高低差900mの峠道をひたすら上る。途中に自販機はないのでボトルの水は満タン。最初のぶどう峠をクリアすれば、長野県側の下りは道もよく、景色も最高で快適に飛ばす。小海駅まで下ったら、線路沿いの旧街道を北上する。ここは日本海に向けて河川が流れるのでわずかな下り坂。海瀬駅に到着したら、東に曲がって再び上野村を目指すことになる。

長野県境のぶどう峠。途中に「だまし峠」があるので注意しよう © T. INOUE

このルートは国道299号だが、たまにバイクライダーがVサインをしながら通過する程度。本格的な上りになってからは我慢の走りだが、十石峠へ。群馬側は道が細く落石も多いので、下りは矢弓沢林道を走ってゴールするという手段もある。この最後の下りは注意を要したが、それ以外は交通量もなく、ほぼ安全で絶好のサイクリングルートだ。

上野村には塩之沢峠のふもとにある「やまびこ荘」と東側にある「ヴィラせせらぎ」という公共宿舎がある。まほーばの森にはキャンプ場とコテージがあって、手軽なバーベキューも楽しめる。イノシシと豚のあいのこ、イノブタ料理など郷土色豊かな料理もある。

清潔なコテージを借りてのサイクリング合宿。夜のバーベキューも楽しい
まほーばの森の8人用コテージにて

上野村ホームページ

上野スカイブリッジから神流川沿いのルートを見下ろす

【Columnのインデックスページに戻る】