マラソンで使用する機材は他競技に比べるとそれほど多くない。上下ウエア、ランニングシューズ、アイウエア、キャップ…。そして走行タイムを確認する腕時計。見た目は腕時計なのだが、最近はスポーツウォッチとかランニングデバイスなどと言い方が変わり、ランニング時の欠かせぬアイテムとなっている。ウエアやシューズは従前通りベーシックアイテムだが、目標タイムを設定して日々の練習を継続する際に最も有効な最先端機材はこちらのほうだと思う。
東京マラソンに初挑戦する人におすすめしたいのは、手首に装着するだけで1分間の心拍数が計れる光学式心拍計と、GPSナビゲーションが一体化したスポーツウォッチだ。さまざまなスポーツを楽しむための多彩な機能を搭載しているが、全部を使いこなそうと意気込んで惑わされる必要はなく、ランに求められる機能だけを起動させればいい。
なにが素晴らしいのかというと、トレーニング量の把握や実力レベルの向上が数字や折れ線グラフなどで明らかになることだ。やればやるだけ記録が伸びるのだから(一般例)、モチベーションの維持に役立つことが最も意義深い。それだけでも導入する価値はあり、地道なトレーニングのパートナーとして愛着が持てるようになれば、東京マラソン本番では確実に所有者の好記録に貢献してくれるはずだ。
ガーミンを例にとって概要を紹介しましょうね。ガーミン社にはGPSランニングウォッチのForeAthlete(フォアアスリート)シリーズやマルチスポーツ対応のfenix(フェニックス)シリーズがある。Fenixには気圧計などの機能がついているので、登山やトレイルランをする人はこちらのほうがいい。そしてそれぞれにグレード別の商品がラインナップされているが、最も安価なものでも基本機能はフル搭載されているので、予算や好みに応じて選んでもいい。
ハイグレードモデルになれば、もちろんバーチャルペーサー、VO2 Max測定、リカバリーアドバイザーなどのランニングサポート機能が搭載されているのだが、基本となる光学式心拍計とGPSナビゲーションの機能があれば、東京マラソン参戦のためのトレーニングとしてはまったくもってこと足りると思う。
有酸素運動の代表であるサイクリングにも使えるのは言うまでもない。サイクリングは別売パワーセンサーのVectorを追加投入すれば、ツール・ド・フランスを走るトップ選手でもトレーニングに有効活用できるレベルに仕上げられている。周辺機器なしでも実走コースの記録と高低差や心拍数、気温などがデータ集積できるのでさらに楽しいサイクリングライフが送れるのは間違いない。
ボク自身はfenixシリーズのセカンドグレードにあたるfenix 5を熟考のうえに購入。その理由は下記の通りだが、
【コラム】ガーミンのGPSデバイスはあえてセカンドグレードを選んだ、これだけの理由
ハーフマラソンに実戦投入して、自己新記録を大幅に更新したことがあるので具体的な内容をご紹介したい。6年連続出場だった気仙沼つばきマラソンに向けて、ガーミンデバイスを駆使してトレーニングを重ねた。そして本番のレースではこのfenix 5を駆使して、これまでのハーフマラソン自己ベスト「1時間59分」の更新を目指した。果たして過去の、しかも若いころの自分を超えることができたのは本当にうれしかった。
マルチスポーツ対応プレミアムGPSウォッチのfenix 5 Sapphire(フェニックス・ファイブ・サファイア)を着用して、とある年の4月16日に宮城県の気仙沼大島で開催されたハーフマラソン「気仙沼つばきマラソン」に出場。距離21.1kmを気持ちよく駆け抜けた。
サイクリングが本業のボクはランニングがそれほど得意ではなかった。これまではランの練習でキツくなったらすぐに歩いてしまった。ところがGPSウォッチを導入して走り出してみると、実走コースの設定や状況確認、心拍数の推移、記録向上によるトレーニング効果が手に取るように把握できて、有意義なトレーニングを積んでのハーフマラソン参加となった。それでも当時54歳という年齢を考慮して、数年前に記録した1時間59分の自己ベストを無理に目指すことをせず、2時間切りを目標に掲げた。
ハーフマラソンを2時間で完走するためには1kmを5分40秒で走る必要がある。そこでfenix 5の「バーチャルパートナー」機能を使ってペース設定をした。ランの設定から「トレーニングページ」→「+追加」と進むと「バーチャルパートナー」の項目が現れる。ここに「5分40秒」を入力。
これだけで準備は完了だ。本番のときにランモードにしてスタートボタンを押せば、スクロールされる数項目の画面の中に「バーチャルパートナーページ」も表示される。遅延あるいは先行時間、実際の平均ペースとともに、赤いランナーとグレーのランナーが走るイラストが出現する。赤いランナーは自分で、グレーは目標設定した5分40秒ペースだ。赤が先行していれば記録を上回るペース、グレーが先行していればそれに追いつかないと記録は達成できない。
午前10時にスタート。あらかじめランモードにしておけばGPSが位置情報を補足し始めて数十秒後には現在位置を特定する。最後尾から走り始めてスタートラインをまたいだところで右上のボタンを押して計測開始。途中のラップタイムは右下ボタン。ゴールしたら右上ボタンを押せば、コースマップ、高低差、ペース、心拍数、ピッチ(歩数)、気温が記録される。さらには走行中の1km、5km、10kmの距離において最も速く走ったタイムも自動的にピックアップされる。これらは「自己ベスト」としてGarmin Connectに記録されるのである。
この大会は6年連続の参加だった。気仙沼大島のコースはアップダウンの連続で、上り坂になるとペースダウンし、下り坂で挽回するというパターンが波状的に続く。過去5回の大会では雪、暴風雨もあって泣かされたが、この日は気温20度を超える猛暑となった。そんな過酷な状況でもfenix 5に表示される数値を頼った。できるだけ冷静になって1kmごとのラップを地道に重ねていく。
当時のボクの最大心拍数は166なので、それを入力しておくと心拍数の領域が自動計算される。リラックス(Z1)83〜100、イージー(Z2)100〜116、モデレート(Z3)116〜133、ハード(Z4)133〜149、エキスパート(Z5)149〜166なのだが、スタート直後からオレンジに色づけされたハードゾーンに突入していたので、前半の折り返しまではレッドのエキスパートゾーンに入らないように、はやる気持ちを落ち着かせた。
最も重要なのは設定ペースだ。「バーチャルパートナーページ」では上り坂になるとグレーのランナーが先行していき、遅れが最大35秒まで広がってしまった。しかしあせらずに下り坂で徐々に挽回していくうちに、赤いランナーがグレーを追い抜いていき、20秒ほどのアドバンテージを得る。アップダウンごとにその繰り返しだ。過去5回の大会はコースが長く感じたが、左手首にしたデバイスを何度もチェックしていたので、とても短く感じた。手首を折り返して数値を確認したあとは、両腕をだらりと下げてリラックスするようにした。
そしてゴール。記録はなんと1時間57分10秒。2時間切りどころか、自己ベストの大幅な更新である。なにがよかったかといえば、ペース設定が走行中常に確認できたこと。心拍数をときおりチェックして最後まで無理をしなかったこと。猛暑でオーバーヒートしてラストにペースダウンする参加者も多かった。そしてなによりも、トレーニング実績を記録するなどで楽しく継続的に練習できたことが記録更新につながったはずだ。
ちなみにハーフマラソンの前日にはロードバイクで汗を流して調整をしたが、このときもfenix 5で心拍数をチェックするなどで翌日に疲れが残らないように心がけた。リカバリーに要する時間もデバイスに表示されるのでそれも参考したのは言うまでもない。
ハーフマラソンのゴール後は、レース時に左手首に装着していたfenix 5からデータをGamin Connectに取り込んで、解析してみることにした。
ガーミン社のすべてのデバイスは、無償提供されるスマホのGamin Connect Mobileアプリ、パソコンのgaminconnect.comサイトでデータが確認できる。ただ単に画面上で心拍数や毎日の歩数を見たりするだけでは、高機能デバイスは宝の持ち腐れだ。スマホやパソコンと同期することで驚くほどの詳細なデータが一目瞭然となる。だからガーミン製品を購入したならGamin Connectを積極活用したほうがいい。
スマホの場合はペアリング、パソコンサイトの場合はサインインを済ませておき、Bluetoothなどの通勤機能をオンにしておけば、実走データは自動的に転送されている。Gamin Connectのアクティビティページを開くと、GPSによって走ったエリアが認識されているので、仮のタイトル名が付けられて記載されているのに気づく。「Kesennumaランニング」などと欧文混じりの地名になっていることが多いので、これを「気仙沼つばきマラソン」などと自分の分かるように書き換え編集しておくといい。
まず大きく表示されているのはGPSで計測されたコースマップだ。その下に標高・ペース・心拍数・パフォーマンス条件・ピッチ(1分間の歩数)・気温がグラフ化されて示されている。実走したコースのどこかにカーソルを当てれば各データにその場所を示す罫線が表示されるので、コース状況によってどのように身体状況に変化が生じたのかを調べることができる。上り坂ではピッチが落ちて心拍数が高まる。下りならその逆。手に取るように分かるのが面白い。
画面の小さなスマホではスマホを横にして「オーバーレイ」機能を使うといい(パソコンサイトは90度回転しなくても大丈夫)。ペースや心拍数といったグラフに、高度・ピッチなどを重ね合わせて表示して身体的変化を確認する。「あの坂はキツかったけど、我慢のしどころで心拍数がはね上がっているな。ここで頑張ったからいい記録が達成できたんだな」などと感慨にふけることしばらく。もちろん自分自身の弱点を確認して、次のトレーニングにつなげることもできる。
パフォーマンス条件とは6~20分ランニングした後、リアルタイムで平均フィットネスレベルと比較するという数値。乳酸閾値(にゅうさんいきち)はペースと心拍数を分析することで、筋肉が急速に疲労し始める地点を推定。ペースから算出される1歩あたりのストライド幅も割り出される。
思い出深いコースは世界中のGarmin Connectユーザーに公開できるので試しにやってみた。公開ページに飛ぶ場合は白抜き文字の「気仙沼つばきマラソン」をクリックして下さい。
こうして自分のおすすめコースとしてアップできるのだ。さらにはGarmin Connectユーザーによって作成された世界中のコースを見ることもできる。色分けされたヒートマップのオーバーレイを使用し、その地域の混雑度や最も人気のあるアクティビティの種類などが確認できる。「セグメント」と呼ばれるタイムアタックコースを探して実走すれば、そこで記録した自分の順位が表示される。
今回のハーフマラソン1時間57分10秒という実走記録は自己ベストとして残されるのだが、システムにちょっとしたクセがあるので紹介したい。GPSによって記録された実走距離が、ハーフマラソンとみなされる距離21.1kmかその近似値でないと記録として認められないこともある。しかもそれは最初の同期で判断されるので、「せっかく走ったのに認識されていない」と編集機能を使って実走記録を修正しても自己ベストとして取り扱ってくれないのだ。
つまりズルはできないというわけなのだが、ランニング愛好家としては一生懸命走ったベストタイムは正確に記録しておきたい。アクティビティを新規で作成して手入力で距離やタイムを打ち込めば認識して記録公認となるのだが、こうすると21.1kmを走っていないのに実績としてカウントされてしまい、月間走行距離に実際とのずれが生じる。どうしたものかとGarmin Connectをいじっていると、鉛筆マークの「編集」機能ではなく歯車マークの「設定」機能に「自己ベストとして設定」という項目があって問題をクリア。
さすがに体重はガーミンデバイスで計測できないのでこれは手入力となるが、こまめに記録しておくとトレーニング効果がさらに把握できる。筆者の場合はガーミンデバイスを購入しはじめた2年半前は今より5kgほど重かったが、トレーニング実績や体重推移などをグラフでチェックするようになって、フィットネスとしても効果を発揮。その結果として健康的な快適生活が送れるようになったと感じている。
もちろん筋トレによる基礎代謝アップや食生活も重要ではあるけど、ランニングやサイクリングなどの有酸素運動に欠かせないfenix 5を入手して、所得したデータをトレーニングアプリで管理していけば、素晴らしい健康ライフが楽しめるはずだ。
最後に、じつはご紹介した大会は2017年のもの。2018年の大会では、さらに1年間のGPSデバイスを駆使したトレーニングが功を奏して自己ベストを1時間53分02秒まで延ばしている。2019年3月3日にはフルマラソン大会に出場することになったので、30年前に記録した3時間40分を切るために改めてGSPデバイスの使い方を研究していきたい。3月3日までの足跡は引き続きコラムでご紹介していくつもりです。
価格:69,984円 |
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