ツール・ド・フランスはよく欧州文化そのものだと言われる。町から町へと23日間にわたって移動し続ける旅はまさに、聖地巡礼の果てしなき行脚と似ている。とりわけ世界屈指の観光大国であるフランスで開催される自転車レースだけに、美しい景観と歴史あふれる街並みをつなぎあわせて突き進む。そんな国際映像から自転車レースの魅力を知った層も多いはずだ。
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Vive Le Tour=ビブルツール、ツール・ド・フランスとともに生きている
レースの主役である選手はひたすら過酷な日々を耐えるのみだが、大会主催者や報道陣、世界中からやってきたファンの多くはフランス各地の歴史や文化、ガストロノミー(美食)やワインなどを楽しみながら帯同したり追いかけたりしている。
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勝った負けたも大切だが、フランスの風土を五感で感じ、その魅力にふれる。普通の観光旅行では味わえない、そんな旅ができるのもツール・ド・フランスという存在があるからだ。これが世に言う「Vive Le Tour=ビブルツール」、ツール・ド・フランスとともに生きているという決まり文句の真意だ。
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ボクがツール・ド・フランスを追いかけ始めたころ、主催社が審判車両にVIP待遇で乗せてくれたことがある。スタート前は関係者だけが入場できる「ビラージュ(村)」という柵に囲われた特別なエリアで歓談し、スタートを待たずに車両に乗り込むとレースに先行してコースを走った。お昼どきになるとドライバーが無線で、「これから任務を離れてランチにするから」と各所に連絡。一気にスピードを上げてはるかに先行すると、丘の上のゴキゲンな木陰を見つけて審判車両を駐めたのだった。
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そこではクルマのトランクに用意されていた立派なランチボックスを提供されるのだが、すかさずクーラーボックスから冷えたシャンパンが取り出され、シャンパングラスにそそがれた。上等な琥珀色の液体を飲み干すと、次は赤ワインのためのグラスが出てきた。こいつらは毎日こんなことをやっているのかと感心してしまった。
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そのとき気づいたことは、「ああ、このレースは世界最高峰の競技であるとともに、社交や娯楽が同時進行で展開していく一大イベントなんだな」ということだった。「仕事はきちんとするが、人生の楽しむべきところは外せない。だってフランス人だからね」とでも言っているかのようだった。
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そんなことを考えているうちに、「選手たちが近づいてきたぞ」とそそくさとグラスやランチボックスを回収し、任務に戻っていったのである。
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そんな憂愁の思い出は心に刻まれているが、現在のフランスは日本と同様に飲酒運転は厳罰に処せられる。つまりハンドルを握る者がアルコールを口にすることはない。日々のランチで隣に座ったフランス警察がワインを飲んだくれているとしたら、彼は運転を免除された者だ。もっと言えばツール・ド・フランスのコース途中にもアルコール検問があり、違反をすればその場で資格はく奪である。
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