子ノ権現はなんと28%の激坂…都心からアクセスしやすい人気コース

埼玉県飯能市とその周辺は都心部からアクセスしやすい峠道がいくつもあり、ヒルクライムが大好きなサイクリストの活躍の場だ。その中でも有名な難所が子ノ権現(ねのごんげん)。標高640mのピークに子ノ権現天龍寺がある上り坂だが、頂上直下の勾配はなんと28%。その人気ぶりを確かめるために走ってみた…、いや歩いた。

子ノ権現南ルートの最後のコーナーが28%という激坂

壁のように立ちはだかる難所ほどサイクリストを魅了する

2022ツール・ド・フランスの第16ステージにミュール・ド・ペゲールという峠があり、部分的に18%という激坂が待ち構えている。ミュールというのは「壁」という意味で、フランスやベルギーの伝統レースではミュールという接頭辞を持つ地名が勝負どころとなることを、自転車ファンなら誰もが知っている。またスペインのブエルタ・ア・エスパーニャには24%というアングリル峠があり、プロ選手でもいったん停車したら二度と乗車発進できないほどの上りとして恐れられている。

本場欧州の「壁」のような激坂。4月には週末ごとに「壁」を使ったメジャーレースがベルギーや北フランスで行われる。写真はユイの丘 © A.S.O. Gautier Demouveaux

世界には名だたる激坂があるが、都心からすぐに行ける場所として知られるのが子ノ権現だ。拠点となる大きな駅は飯能駅で、ここから走り出せば片道20kmほど。南と北の2ルートがあって、どちらも上りの距離は4kmと短い。さらに序盤はかなり緩やかな斜面だ。ところが最後に牙をむく。とりわけ南ルートの残り400mが笑い話にもならないくらいに厳しい。

舗装路といえども勾配が18%を超えるとがむしゃらにペダルを踏んだだけでは上っていけない。自転車の角度が上向きになるので、サドルに腰を下ろしていたら前輪がウイリーする。逆に腰を浮かせて立ち漕ぎしたら後輪に荷重がかからず空転する。前後輪の荷重バランスを取りながら、タイヤを路面にしっかりグリップさせながら上る技術が必要だ。

子ノ権現天龍寺は登山者と二輪愛好家の聖地として知られている

3月の週末に訪れたときは、ひっきりなしにサイクリストが南側から子ノ権現をアタックしていた。記者はひと目で「無理」と判断したので、押し歩き。ペダルに固定するタイプのシューズで下手に挑戦しようものなら、失速して転倒するのは目に見えていた。やってくる人たちに「頑張って!」と声をかけてみたが、みな必死なのかレスなし。最大心拍数が振り切れてしまいそうで、あまり無理しないほうがいいはずだ。それでも距離は短いので、健脚派はアクセントとしてここを通過し、次の峠を目指すというからスゴい。

晴れた日には東京スカイツリーや東京湾、横浜のランドマークタワーも見ることができる。周囲にはサイクリスト歓迎のランチどころも多いので、ぜひ一度アタックしてみては? 押すことになるはずなのでスニーカー着用を強く推奨。

天龍寺の参道には売店やトイレもあり、自転車を押していくと本坊脇など2カ所に自転車ラックがある

水平に100m移動して10m上ったら勾配は10%

道路の勾配値は一般的にパーセントで表示される。水平に100m移動して10m上ったら勾配は10%だ。道路構造令では、例えば時速40km設計の一般道は最大で7%、地形によってやむを得ない場合に限って10%までの勾配で道路を作るように定めている。また制限時速100mの高速道路では3%を超える上り坂では登坂車線を設けるように指示されている。クルマの設計時速を20kmとする立体交差の側道などの最大勾配は12%。この12%が政令の上での道路勾配の上限だ。

足腰の神様が奉られている天龍寺には自転車用のお守りもある

ただし各都道府県や市町村では、生活者が不便とならないよう状況に応じて規定以上の勾配も可としている。こうした理由によって激坂は全国に点在することになり、自虐的サイクリストを喜ばせている。