1997年前後にPSA(前立腺特異抗原)という血液検査が確立され、数値の高い人から前立腺がんが見つかることもある。4.0 ng/ml以上がグレーゾーンとなるが、さまざまな要因でPSA数値が高くなることは専門家の間でも言われている。今回は異常値を叩き出した記者がその後の不安な日々や入院検査の実際を報告。
PSAの数値はがんでも上がるが、硬いサドルで圧迫しても上がる
健康保険協会や自治体から通知される案内に従って民間の健診機関などで年に一度の健康診断を受けるのだが、今回は受診して2、3日後に電話がかかってきてしまった。
「PSA数値が高いのでできるだけ早く専門的な検査をするのがよろしいかと。できれば大きな病院で」と電話でのご案内。その数値がかなり高い10.40を記録していたようだ。いわゆるこの時点で偽陽性と言われるもの。頭の中は「がんかもしれない」と不安でいっぱいになった。
PSA検査とは、いわゆる採血によって悪い病気を早期発見することができる腫瘍マーカーのひとつで、前立腺特異抗原(PSA)は前立腺がんの早期発見に役立つ。一般的にPSAが4.0 ng/ml以上の場合、前立腺がんの可能性があると言われている。
PSA値はがんでなくても前立腺の炎症や肥大化などいくつかの要因で高く出ることがある。スポーツバイクに装備される硬いサドルにまたがる機会が多い人は、局所を長時間圧迫したり振動という負荷をかけたりするので、PSA数値が高くなることは専門家の間でも言われている。私自身は自転車の専門家で、ロードバイクでサイクリングすることも多い。周囲の自転車愛好家もPSA値に引っかかるケースが意外と多い。がんなのか、その他の要因か、精密検査してみないと判断できない。
健診の1週間後、自宅近くの総合病院へ。健診機関から発行された紹介状を携えて泌尿器科を訪れると、「PSA値は高く出ることもあるので、まずは採血と検尿をしてください」と案内された。そしてその結果はさらに悪くなって12.64に。担当医によれば数値のブレは「誤差」とのことで、「前立腺がんを特定するための生検は、出血などが伴うので1泊2日の入院検査になります。まずはその前段階としてMRI(造影磁気共鳴画像検査)しましょう」
がんであるかは生検しないと判断できない
MRIの予約が2週間後に取れたので撮影を受け、その4日後にその結果を聞きに行く。診察室前で名前が呼ばれるのを待つ間は、心臓がドキドキして落ち着かない。そして診察室に行くと、「なにかあるのは確実ですが、それががんであるかはMRIでは特定できませんので、ここは生検をすることをおすすめします」と担当医。
でも、その大きさは0.5mmで、急ぐ必要はないとのこと。この時点で、いきなり前立腺がんのステージいくつとか、もう手遅れというような状態でないことがわかったので多少は安心した。生検のスケジュールがかなり埋まっていて、2カ月先まで予約できないという。数日後に家業であるツール・ド・フランス取材の1カ月出張に旅立つことを打ち明けると、空路の移動中に高熱が出ると大変だからと、帰国してから検査することに。
その日は担当医の夏の勤務体制が決まっていないようで、1カ月後の5月26日に再訪。フランスから戻った3日後の7月28日に生検することになった。初めて受診したときは1泊2日と説明されたが、生検に伴う出血や発熱などに備えてのガイドラインが変更されたようで入院は2泊3日になっていた。
前立腺生検は肛門から器具を挿入し、直腸粘膜ごしに組織採取針を10カ所ほど刺して前立腺組織を採取する。検査時間は10〜20分程度で、点滴に麻酔薬投入されるので眠っているうちに終了する。一方で、便の通り道から針を刺すので炎症を起こす可能性があり、合併症に注意する必要があるという
そして生検へ。担当医の勤務体制の都合で結果は4週間後の8月25日。検査はあっという間に終わったが、感染症の予防のために抗生物質の点滴を受けながら2日間を過ごした。血尿は入院中にはわずかなものだったが、退院して数日後にワイン色の尿が出たときは衝撃を受けた。それもすぐに収まり安心したが、検査結果を聞くときはある程度の覚悟が必要だった。
健康診断のメリットは大きいが不安喚起や経済負担も
「がんではないですね」と聞いたときはホントにうれしさがこみあげた。およそ5カ月間、前立腺がん疑いの不安な日々を過ごしたが、ようやく開放された気分だった。4カ月後の12月22日にPSA再検査を受けてその数値は4.34。
じつはこの担当医がロードバイク乗りで、PSA値は硬いサドルに乗ることで数値が高くなることがあると語ってくれた。事前に「1週間前から自転車には乗らないで」と聞かされていた。数値が基準値4を上回っていることから半年ごとの経過観察の要はあるが、がんではないことは判明。このサイトで個人の体験談を書くことも快諾してくれた。
検査入院の費用は保険適用で5万5360円。MRIや数回の診察にもある程度のお金がかかった。今回はPSA数値の高さからスタートし、実績のある総合病院の専門医のアドバイスを聞いたうえで検査を受けた。どこが痛いとか不調ということはなく、相変わらず61歳としては元気なほうで、継続的な健康維持・増進に努めている。
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