東京マラソンはGPS測位の距離が長くなる…ラップタイムのワナに注意

東京マラソンなどの都市型ラン大会では、高いビル群に阻まれてGPS信号の捕捉が不安定となり、実際の競技距離よりも長く走ったように記録されてしまう。1km走っていないのに手首のデバイス上では1kmとカウントされるので、ラップタイムが実際よりも7%よくなり、「今日は好調だぞ!」などと勘違いしてしまうという落とし穴も。

都心部のビル街を走る東京レガシーハーフマラソン

Garmin(ガーミン社)などのGPS搭載機種に装備される「バーチャルパートナー」は先行/遅れ時間をリアルタイムに表示してくれるので、自己ベストなどの目標達成をする際の頼もしい味方。ところが都市型大会では後述する要因により実際のスピードよりもいいペースが表示されてしまうので、最終的に目標タイムに届かなかったなんていう悲劇も想定できる。

東京マラソンのラップタイムはGPS測位では7ポイント向上する

東京マラソンでGPSデバイスを起動しながら走った参加者なら、記録をアプリに取り込んだ後にこんな不満を覚えたこともあると思う。

実際の距離より多く記録された。
軌跡が正確ではない。
走行していないはずの道を通っている。

このようなケースに関して、民生用GPSの特性を交えながらGarmin社が実例のデータを元に釈明をしている。

2019年の東京マラソンで記録したデータ。走行距離は45.17kmと3kmほど長く計測されている

民生用GPSの特性として高層ビル群は苦手

Garminウェアラブルデバイスを使用する場合、デバイスに表示される位置、距離、および速度の測定値のGPS精度に影響するいくつかの要因があるという。

衛星信号が強い場所では、ウェアラブルデバイスによって感知されたGPS位置は約3mまたは10フィートほどの精度が期待される。これほどの精度ならランニング大会やサイクリングなどのデータ取得として十分なものだ。

2019東京マラソンの新宿あたり。走行ルートが道路から大きく振れている

しかし衛星信号が弱くなると、位置精度が低下し、距離の精度やデバイスに表示される速度の測定値に影響を与える可能性がある。GPS衛星の信号強度やデバイスの精度に影響を及ぼす可能性のある要因は以下のような感じだ。

GPS信号は、ほとんどの固体物質を通過できない。

ウェアラブルデバイスを樹林の中や高層ビルのある都市で使用すると、デバイスが衛星信号を取得するのに時間がかかる。

衛星信号を取得した後も、GPSトラックや走行、歩行ペースの感知性能が低下することがあるという。

高いビルも森林もない気仙沼大島でのハーフマラソン。記録された走行距離は20.61kmで、実際とそれほど変わっていない

高感度だけに前走者を抜くために蛇行した距離もカウント

東京マラソンでは、例えばビルが多い銀座付近では軌跡の乱れが目立ってくる。また、GPS衛星信号が大気を通り抜け、他の環境要因(樹木、丘、山、建物、車、海面や湖面などの光反射含む反射面など)と相互作用すると、信号がゆがめられる可能性がある。

以前なら、この現象が起きると位置の感知が全くできなくなったが、感度の高いレシーバーを搭載した最新GPSデバイスでは、信号が非常に弱い場合だけ位置を特定できなくなり、その結果GPSドリフトが発生し、静止していてもデバイスが動いているように見えるのだという。

マラソン大会での走行で要因になりやすいものとして以下のことも加わって、さらに実際とのズレが拡大していく。

インコース走行か・アウトコース走行か。
人を抜いて蛇行した分の距離加算。

都市型マラソン大会で距離が実際より多く記録された例として東京マラソン(42.195km)での実例がGarmin社から示されているが、トータル距離が45.70kmだったという。つまり実際は0.923kmしか走っていないのに1kmを走ったと表示されてしまったというのだ。

ボクが2019年に参加した東京マラソンでもGarminの走行距離は45.17kmと、同社が報告している例とほぼ同じ。同様に都内のビル群を走る2022年の東京レガシーハーフマラソン(21.1km)でも、Garmin測位の距離は22.12kmなので0.954と同じようなズレが出た。

推測として、新宿や銀座を走る東京マラソンはラップタイムが7ポイント向上する。東京レガシーハーフマラソンは4ポイント向上する。

東京レガシーハーフマラソンでは途中からGPSデバイス上の走行距離と実際との誤差に気づいた

実際よりも長く走ったと測位されるとラップタイムがいいと誤解する

東京マラソンで目標タイムを設定する場合、まずは1kmあたりのラップタイムをどう刻んでいくかが課題になる。そんなときの絶好の指針が、Garminデバイスの多彩な機能のひとつ「バーチャルパートナー」だ。東京マラソンで記録に挑戦したいのなら、この「バーチャルパートナー」を自分のレベルに合わせてセッティングするのが絶対に賢いやりかただ。

バーチャルパートナー機能とは簡単に言うと、目標タイムに対して現時点でどれだけ先行しているか、あるいは遅れているかが瞬時に分かる機能だ。目標タイムに対してのその時点での時間差も表示される。走行中に手首に装着したデバイスの画面をときおりチェックし、先行タイムをキープしていけば確実に目標をクリアしてゴールできるという機材なのである。

2022年の東京レガシーハーフマラソンで記録したデータ。走行距離は22.12kmと1kmほど長く計測されている

42.195kmの目標タイムを掲げたら、そのタイムでゴールするためには1kmあたりをどれだけのラップタイムで刻めばいいかを計算する。この「キロ単位のラップ」をバーチャルパートナーに設定すれば、ゴールまでのペースを導いてくれるのだ。

●実際にハーフマラソンで使用してベスト記録を達成したときのレポート

都市型大会でGPS測位の距離が長くなるのは2019年の東京マラソンの記録から承知していた。それでも2022年10月の東京レガシーハーフマラソンで自己ベストを出すために「1km=5分00秒」のラップを入力した。

国立競技場のスタンドした通路はGPS取得不能。位置情報が大きくブレていて、1kmラップ2分51秒の新記録が表示されたが、残念ながら実際はそんなに速く走っていない

実際にやってみた。スタート直後の混雑を抜けると手首のバーチャルパートナーで目標よりも先行していることを確認。10km地点では大きなアドバンテージを確認することになり、「カラダはそれほどキレていないのに、ペースはいいぞ!」と勘違いをする。

しかしである。中間地点を過ぎてから沿道の距離表示を確認すると、手首の走行距離とかなりのズレがあるのに気づいてしまった。15km地点でおよそ500mのズレがあった。その時手首の先行時間は2分半ほどと表示されていたので、新記録はほぼ確実と踏んでいたのだが、実際の距離表示まで500mで2分半はかかる。あわてたのは言うまでもない。

つまりkm単位のバーチャル目標タイム設定は、都市型マラソン大会に出場する場合に限り7ポイント速くしておかなければならないという結論に。

フルマラソンでサブ4を目指す人
1kmあたりの実際の目標ラップタイムは5分30秒
Garminのバーチャル目標タイム設定は7ポイント速くする必要がある
↓
1kmあたりの入力ラップタイムは5分07秒