2024ツール・ド・フランスは前代未聞…5日後開幕の五輪にパリ明け渡す

2024年6月29日に開幕する第111回ツール・ド・フランスのコースが10月25日にパリで発表された。史上初めて、最終到着地がパリでなくなる。イタリアのフィレンツェで開幕し、地中海沿岸のニースに終着。35年ぶりに最終ステージがタイムトライアルとなり、最終日の逆転劇もありえる。だれも見たことのないツール・ド・フランスが演じられる舞台設定となった。

2024ツール・ド・フランスのコース

史上初のパリでない最終ゴール、史上初のイタリア開幕

すべてはパリ五輪の影響だ。通常よりも1週間早い6月29日、初めてイタリアで開幕する。最終日は7月21日で、その5日後にパリ五輪が開幕するからである。すでにパリのコンコルド広場は新種目ブレイキンやBMXの会場が設置され、ツール・ド・フランスがここを走る余地はない。五輪にパリを譲渡して、ニース凱旋を英断するのも話題性醸成の決定打と考えたのである。

ニース ©A.S.O. Fabien Boukla

オッタビオ・ボテッキアが1924年にイタリア人初の総合優勝者となって100年の節目、大会はイタリアを開幕地に選んだ。第1ステージのゴール、リミニは1998年の覇者、イタリアのマルコ・パンターニが短い生涯を終えた地だ。レースは第4ステージで国境を越えてフランスアルプスへ。第4ステージで勝負どころガリビエ峠を越えるなど本格的な戦いがいつになく早く始まる。

コースプレゼンテーションをするクリスティアン・プリュドム ©A.S.O. Etienne Coudret

左回りのコースは通常、ピレネーが前半、アルプスが後半の勝負どころとなるが、今回はアルプス〜ピレネー〜アルプスと変則。前半はブルゴーニュ地方、シャンパーニュ地方を訪れ、中盤に中央山塊が待ち構える。第3週目のニームは猛暑の予感。そしてアルプスを経て、最終日前日にニース近郊の山岳ステージ。最終日は隣国モナコからフランスで最も美しいエズ村を通ってニースの海岸線にゴールする個人タイムトライアルだ。

コースプレゼンテーションに参加したヨナス・ビンゲゴー(左端)とデミ・フォレリング ©A.S.O. Maxime Delobel

最終日の個人タイムトライアルはフランス人にとって禁忌

最終日はモナコをスタートして、ニースの目抜き通り、パリならシャンゼリゼに相当する「プロムナード・デザングレ」までの個人タイムトライアルが行われる。

ツール・ド・フランスが個人タイムトライアルを最終日に行うのは1989年以来35年ぶり。フランス革命200周年を祝う1989年大会は、最終日に50秒遅れの総合2位につけていた米国のグレッグ・レモンが、首位に立っていたフランスのローラン・フィニョンをまさかの大逆転。史上最僅差となる8秒で総合優勝を遂げた。

ビンゲゴーが3連覇に意欲 ©A.S.O. Etienne Coudret

その時のフランス人のショックははかり知れず、以来ツール・ド・フランスが最終日に個人タイムトライアルを設定することはなく、パリ・シャンゼリゼは総合優勝者の凱旋パレードという位置づけでフィナーレを迎え続けてきた。

2024ツール・ド・フランスで3連覇を目指すヨナス・ビンゲゴーは、「ワクワクしてきた。とてもハードなコースだ。とりわけ第3週は山岳の要素が多くて雌雄を分けるだろう」と感想を述べた。

マーク・カベンディッシュがコースプレゼンテーションに参加 ©A.S.O. Etienne Coudret

2024ツール・ド・フランスがどんな戦いになるかを分析

6月29日から7月21日まで開催される2024ツール・ド・フランスの詳細は、パリのパレデコングレ(国際会議場)に約4000人の観客を集め、クリスティアン・プリュドムによって明らかにされた。

2024ツール・ド・フランス第1ステージ

1903年に始まり、合計10年の世界大戦による中断を差し引いて111回目となる。初めてのイタリア開幕で、フィレンツェ(仏名フローランス)のグランデパールから始まり、エミリアロマーニャ州のリミニで第1ステージを終える。

マイヨジョーヌを争う総合優勝への戦いは大会4日目の途中でフランスに入ると開始。第4ステージでガリビエ峠を上り、第7ステージでブルゴーニュの山塊を越えるタイムトライアルが、第9ステージではトロワ周辺の未舗装路を走る。

第11ステージは中央山塊のルリオランへ。革命記念日の7月14日はピレネーでの第15ステージ。ベイユ高原。そして再び南アルプス足を運び、第19ステージで空気が希薄なチメドラボネット(標高2802m)を通過する。

2024ツール・ド・フランス第2ステージ

最終日タイムトライアルはすべての疑問を解決するリトマス試験紙

総合優勝争いは頂上決戦で決着がつかない可能性があり、最終ステージで決着することも想定される。最終ステージは初めてパリではなく、モナコとニースの間の34kmでフィナーレ。しかも個人タイムトライアルだ。

ニースの目抜き通り、プロムナードデザングレのすぐ近くにあるマセナ広場では、総合優勝者にマイヨジョーヌをあしらった新しい形式のトロフィーが授与され、それをチームメートと共有する。

2024ツール・ド・フランス第21ステージ

イタリア開幕はこれまでのツール・ド・フランスでは見られなかった。フィレンツェに集まった有力選手は、いきなりリミニまでの第1ステージで獲得標高3600mというアップダウンに遭遇し、イタリアの英雄ジーノ・バルタリのスゴさを再認識するはずだ。

第4ステージの途中でフランス入りするが、イタリアとフランスの国境にはアルプス山脈があり、大会4日目にして標高2642mのガリビエ峠を通過。レースがこれほど早くこれほど高い峠に上ったことはなかった。

緑ジャージのポイント賞候補者たちは第5ステージ5のサンブルバと第6ステージのディジョンでそのスプリント力を示す絶好の機会を迎えることになるが、すでにマイヨジョーヌの本格的な戦いは佳境を迎えている。

第9ステージではツール・ド・フランスに初めて導入される未舗装のストラーデビアンケ(白い道)が断続的ながら合計32.2kmも設定されていて、トロワ周辺の砂埃や小石も相手となる戦いを求められる。

中央山塊は標高こそ控えめだが、恐ろしい坂道が続く。ルリオラン(第11ステージ)に勝利するにはネロンヌ峠を経由してピュイマリー・パドペイロルまでの上りをこなす必要があり、さらにペルトゥス峠がある。

山岳賞争いはその3日後からさらにワンランク上のピレネー山脈で2ステージ連続の頂上フィニッシュで激突が必至。第14ステージはツールマレー峠を通過、その翌日は距離198kmという長丁場に加え、獲得標高4850mの舞台がプラトードベイユで結末する。

2024ツール・ド・フランス第3ステージ

2024ツール・ド・フランス最大の特徴はアルプスを2度訪問すること

レースは再びアルプスへ。そして南側からのこれまでにないアプローチで、総合成績を大きく揺るがす可能性が高い山岳セクションとなる。第17ステージのゴール地点であるシュペールデボリュは初登場。

そしてクイーンステージとも呼ばれる最難関の第19ステージ。標高2000m以上の峠を3回上る。2008年以来チメドラボネット(標高2802m)がコースに取り入れられた。ここはフランスで舗装路としては最高標高だ。第19ステージのゴール地点はイゾラ2000だ。

しかしマイヨジョーヌ争いはそれで決着しない。最終日前日はニースをスタートし、クイヨール峠までの133km。途中には過酷な峠が2つもある。

2024ツール・ド・フランス第20ステージ

最終日は7月21日。いつもならパリにゴールするが、首都から遠く離れた場所で最終フィニッシュするという歴史的な事件だ。そしてマイヨジョーヌの行方も歴史的なエピローグを引き起こす可能性が十分にある。

マイヨジョーヌは1989年以来、最終日に着用者を変えていないからだ。35年前、前日まで50秒遅れの総合2位だったグレッグ・レモンがローラン・フィニョンに8秒差で勝利。それが最終日に個人タイムトライアルが設定されていたからだ。モナコからニースまでの34kmは、1989年以来の個人タイムトライアルとなる。

●2024ツール・ド・フランスのコース

6月29日(土) 第1ステージ フィレンツェ〜リミニ(イタリア) 206km★
6月30日(日) 第2ステージ チェゼナティコ〜ボローニャ(イタリア) 200km★
7月1日(月) 第3ステージ ピアチェンツァ〜トリノ(イタリア) 229km
7月2日(火) 第4ステージ ピネローロ(イタリア)〜バロワール 138km★★★
7月3日(水) 第5ステージ サンジャンドモリエンヌ〜サンブルバ 177km
7月4日(木) 第6ステージ マコン〜ディジョン 163km
7月5日(金) 第7ステージ ニュイサンジョルジュ〜ジェブレシャンベルタン 25km(個人タイムトライアル)
7月6日(土) 第8ステージ スミュールアンノーソワ〜コロンベ・レドゥーレグリーズ 176km
7月7日(日) 第9ステージ トロワ〜トロワ 199km★★
7月8日(月) 休日
7月9日(火) 第10ステージ オルレアン〜サンタマンモンロン 187km
7月10日(水) 第11ステージ エボーレバン〜ルリオラン 211km★★
7月11日(木) 第12ステージ オーリャック〜ビルヌーブシュルロ 204km
7月12日(金) 第13ステージ アジャン〜ポー 171km
7月13日(土) 第14ステージ ポー〜サンラリースラン・プラダデ 152km★★★
7月14日(日) 第15ステージ ルダンベイユ〜プラトードベイユ 198km★★★
7月15日(月) 休日
7月16日(火) 第16ステージ グリサン〜ニーム 187km
7月17日(水) 第17ステージ サンポールトロワシャトー〜シュペールデボリュ 178km★★
7月18日(木) 第18ステージ ギャップ〜バルセロネット 179km★★
7月19日(金) 第19ステージ アンブリュン〜イゾラ2000 145km★★★
7月20日(土) 第20ステージ ニース〜ラクイヨール峠 133km★★★
7月21日(日) 第21ステージ モナコ(モナコ)〜ニース 34km★(個人タイムトライアル)
★は難易度

ツール・ド・フランスファムのリーダージャージも男子レースとほぼ同じ ©A.S.O. Etienne Coudret

ツール・ド・フランスファムはオランダ開幕、ラルプデュエズでフィナーレ

女子レースの第3回ツール・ド・フランスファムは8月12日から18日までの7日間、8ステージ。オランダのロッテルダムで開幕し、ベルギーを通ってフランスへ。最終日はツール・ド・フランス最高の舞台と呼ばれるアルプスのスキーリゾート、ラルプデュエズにゴールする。総距離946km。

●ツール・ド・フランスのホームページ