ヴァンデ・グローブ…単独無寄港無補給の世界一周ヨットレース

2024年は4年に一度のヴァンデ・グローブがこの地球を舞台として開催される。大西洋に接するフランス西部のヴァンデ県、レサブルドロンヌをスタート/ゴールとする単独無寄港無補給の世界一周ヨットレースだ。

DMG MORI Sailing Team の Global One号(スキッパー白石康次郎) ©DMG MORI

生死を懸けたアドベンチャー、海のエベレストとも

フォイルと呼ばれる翼を左右につけた1人乗り最新モノコックヨットは時速80kmで海の上を飛びながら突き進む。今回で10回目の大会となるが、最速記録は古典文庫「八十日間世界一周」超えの74日。出場40選手が4万5000kmを帆走して無事にゴールできるとも限らない。その一方で、最速艇の2倍の時間を費やしてゴールした選手も含めてすべてが勝者となる習わしがある。

日本では海洋冒険家の白石康次郎(DMG MORI SAILING TEAM)が2016年に初挑戦。2020年にアジア勢初の完走を果たした。2024年に3度目の出場を目指す白石は、ヴァンデ・グローブを「日本で例えるなら箱根駅伝」と言う。2024年1月18日、大会主催者やヴァンデ県関係者の来日に合わせて、神奈川県の逗子マリーナで行われた記者発表で語った。

「観客がトップから最終走者までを同じ熱狂度で応援するのが醍醐味」とし、レースを通じて感動を共有したいと2024年大会への挑戦を意気込む。

白石康次郎(DMG MORI) ©Hikaru OGAWA

世界一周は1回失敗したくらいであきらめちゃダメ

世界最大にして最も過酷なヨットレースに魅せられた白石は、生まれ育った鎌倉を離れ、ヴァンデ・グローブの拠点でも活動をしている。

「鎌倉の小学校では劣等生だった。いつも海を見ているだけだった。だから今だって英語もフランス語もできないけど、お世話になったフランスの人たちに恩返ししたい。大会が国際化を目指して舵を取り、こうして日本まで来てくれたんだから」と白石。

200万人が美しい港町、レサブルドロンヌにやってきて出場選手を声援するさまは箱根駅伝だという。その理由は、ヨット好きだけでなく、家族ぐるみで開催時期に夢中になるからだ。

白石は世界一周に7回チャレンジして、4回成功した。「1回失敗したくらいであきらめちゃダメ」が持論。単独無寄港無補給がルールなので、嵐で帆破れたりマストが折れたりしたら、積載する道具だけで修復し、ゴールを目指さなければならない。そして「生きて帰れるのかな」というほどの悪天候にぶち当たる。

レースに使用するカーボンモノコック艇は国際規定で厳密にルール化されている。全長18m、高さ29m、幅5m。2016年から翼をつけていいことになり、まさに海上を飛ぶ。

「飛ぶということは落ちるわけだよね。だからスキッパーはヘルメット着用」

男女の差や身体のハンディキャップの有無に関わらず、出場選手は同じ条件とカテゴリーで戦うのも特徴だ。身体障害者も複数人が出場し、全く同じ土俵でレースをする。

左からローラ・ル・ゴフ(ヴァンデ・グローブ ジェネラルディレクター)、白石康次郎(DMG MORI)、ギヨーム・ジャン(ヴァンデ県議会第一副議長兼ヴァンデ・エクスパンシオン会長)、桐ケ谷覚(逗子市長)、松尾崇(鎌倉市長)、山梨崇仁(葉山町長)、カレン・アレトリュ(ヴァンデ県観光局局長)

いつかは地球の海を使って子どもたちにいろいろなことを伝えたい

ヴァンデ・グローブ大会のジェネラル・ディレクター、ローラ・ル・ゴフは、このヨットレースについて、「ひとつの海、ひとつの船、ひとりのスキッパー、それだけで構成される単純明快なコンセプトで、誰もが理解できるレースだ」と説明。

その一方で、「海のエベレスト」と呼ばれるほど苛酷なレースでもあり、これまで完走できた人の数は宇宙に行った人の数より少ないと、レースの厳しさについて言及した。

「外洋航海のあらゆる困難をたった一人で克服せねばならない状況は、まさにスキッパーを中心としたヒューマンアドベンチャー」  

美しい港街として人気のあるレサブルドロンヌ ©A.S.O. Morgan Bove

ヴァンデ県議会第一副議長兼、ヴァンデ・エクスパンシオン会長ギヨーム・ジャンは、白石氏が初めてヴァンデ・グローブに登場した時の印象について、「濃紺の袴を着け腰には木刀を差し、圧倒的な笑顔でそこにいた彼の姿は、ヴァンデの人々や応援に集まった数十万人の人の心に強く焼き付いた。以来、彼は自分たちにとって、日本、それも“素晴らしき日本”の象徴になっている」と語る。

「今年はぜひ日本からヴァンデへ白石氏の応援に駆け付け、ヴァンデの旅も一緒に楽しんで欲しい」と呼びかけた。

鎌倉市の松尾崇市長も「白石さんに元気と勇気をもらった」声援を送る。

「鎌倉の海もフランスの西海岸とつながっている」とし、白石も「いつかは地球の海を使って鎌倉市の子どもたちを相手にいろいろなことを伝えたい」と夢を語った。

逗子マリーナ

大西洋には波がある。美しい街並みやガストロノミーも

主催者と言葉をかわして感じたのは自分たちのエリアへの誇りだ。鎌倉市の姉妹都市は地中海に面したニースで、日本のほとんどの人はフランスのマリンリゾートとしてイメージするのは紺碧のリビエラ海岸などの地中海。

しかしヴァンデ県の人に言わせると、「地中海は潮の満ち引きもないから波もない。パリ五輪の海上が地中海のマルセイユになったけど、それは実力差が反映される真の戦いになるのだろうか?」とまでコメントする。

大西洋は荒波が押し寄せる。ヴァンデ県には、干潮時にしか渡れない県道、パッサージュデュゴワもあり、自転車レースのツール・ド・フランスも干潮を計って選手らをレースさせる。   日本ではまだ報じられないスポーツイベント。ヴァンデ・グローブは2024年11月10日スタートだ。

●ヴァンデ・グローブのホームページ

2018ツール・ド・フランスがパッサージュ・デュ・ゴワを通過できなくなった意外な理由

パッサージュ・デュ・ゴワ。潮が満ちて逃げ遅れた人がよじ上って救助を待つ塔が数カ所にある