2018年7月7日に大西洋に面したバンデ県で開幕する第105回ツール・ド・フランス。第1ステージのスタートはノワールムーティエという島で、干潮のときだけ通行できるパッサージュ・デュ・ゴワを通ってフランス本土に渡るのが見どころだった。ところが、とある理由でパッサージュ・デュ・ゴワを通行することができなくなった。その理由は意外にも…。
世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスにおいて注目されるルートはいくつもあるが、ほとんどは過酷な上りの山岳区間。唯一のマリン系がこのパッサージュ・デュ・ゴワだ。いわゆる「海の中道」で、干潮のときだけ道路が海面上に姿を現す。道路区分でいうと立派な県道なのだが、時間によって通れたり通れなかったりする。本土まで3kmほどの道がほぼ一直線に延びているのだが、乾ききらない路面に藻がはびこり、細身タイヤのロードバイクではかなり滑りやすい。1999年の第2ステージでここを通過したときは、集団のなかほどで大落車が発生し、優勝候補のアレックス・ツーレが6分03秒も遅れてしまい、いきなり優勝争いから消えた。
2005年にもボクはここを訪問している。その日はノワールムーティエ島がゴールだった。昔は大西洋に浮かぶ島だったようだが、砂嘴(さし)が発達して本土とは1本道でつながっている。そして本土とノワールムーティエ島を結ぶ道路はもう1本あって、それがツール・ド・フランスで有名なパッサージュ・デュ・ゴワだ。2011年の初日はパッサージュ・デュ・ゴワで全選手が停止し、開幕セレモニーをなんとこの海の真ん中で行っている。
2005年にゴール地点となったとき、本土までの帰り道は渋滞が予想されたが、思わぬ抜け道があった。地元の女警官が「今ならパッサージュ・デュ・ゴワに回りなさい」と教えてくれたのだ。まさか通れるとは思わなかったので、潮が満ちてくるのを気にしながらクルマを止めて記念写真を撮っておいた。おかげで夜11時前にはバンデ県の常宿にしている農家に到着できた。ボクよりも出発が1時間遅かった取材者仲間は、「もう潮が満ちて通れなかった」という。
バンデ県は自転車レースの盛んなところで、定期的にツール・ド・フランスの開幕地を務める。おおよそ6年に一度、今回は7年ぶりの開幕地となるのだが、大会協力金の積み立てがそのくらいの周期で貯まるのか、あるいは6・7年に一度のなにか物理的な要因が存在するのか、どっちかだ。バンデ県で開幕するときは必ず観光名所のパッサージュ・デュ・ゴワを通る。主催社もそれを最大の売りにしている。ところが2018年はパッサージュ・デュ・ゴワの通行をあきらめざるを得なくなった。その理由は…。
FIFAワールドカップが開催されるからである。
ツール・ド・フランスの開幕日は国際大会競技日程の慣例にしたがってほぼ不動のスケジュールだ。春のクラシックレースの各大会が前年よりも1日早くなるのなら、ツール・ド・フランス開幕日もまったく同じく1日早い。2017年は7月1日開幕だったので、2018年は6月30日だ。もちろん事前に潮見表も調べたはずで、第1ステージのスタート時間を設定し、ころよい時間に干潮となったパッサージュ・デュ・ゴワを通過する。主催社はいったん大会日程を発表したのだが、ところが待ったがかかった。
7月15日まで開催されているワールドカップ・ロシア大会とあまりにも日程重複していて、興行としても協賛活動面でもマイナスが大きい。そこで異例の1週間の後ろ倒しに。ツール・ド・フランスは7月7日開催と修正されて、「めでたしめでたし」…とはすべてが収まらなかった。1週間後のパッサージュ・デュ・ゴワはその時間、海の底にあるというわけ。これでは経験豊富なプロレーサーも渡れませんね。ということで、2018ツール・ド・フランスはノワールムーティエ島から大渋滞しそうな砂嘴の上を通って本土を目指します。
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