サイクルツーリズム…コロナ禍でますます注目される観光様式

自転車に乗るということを再定義する時代に来たという。これからは「移動」や「レース」としてだけでなく、もっと気軽に自由に楽しく乗る。新しい生活様式や働き方改革で自転車通勤という日常もいいが、非日常としてペダルをこぐ。散歩のように気兼ねなく走るから、これぞ「散走」。全国の自治体がその言葉をキーワードに、自転車を使った観光を促進するためのアイデアを考えている。

造り酒屋時代の屋号から「江口屋」というゲストハウスになって生まれ変わった

どうやったらいいかは全国の担当者共通の議題

自転車はゆっくり走ってこそ意味がある。訪れた町の観光スポットを巡るだけならタクシー移動でいい。その町の素顔が分かり、その土地の人とふれあうチャンスを増やす。サイクルツーリズムと言われる、新しい旅のスタイルを提案したいと考えている自治体が全国に増えているという。

ただ単に駐輪ラックや空気入れなどを置いておけばいいというものではない。目的地に到達するまでのルート選びが意外と大切。だから地域を知る人、自転車のことが分かる人、そして行政の担当などが知恵を絞りあって自転車観光を企画する必要がある。

自転車を活用した「ツーリズム・まちづくりについて」をテーマに、各地域・拠点の取り組みや課題について学びあい、解決策のヒントをさぐる参加型ワークショップが、ライフクリエーションスペースOVEの主催でオンライン開催された。これらはその話し合いの中で出た課題だ。

造り酒屋を改修した霞ヶ浦湖岸の宿。奥にはレンタルバイクが見える

「散走」とは世界有数の自転車パーツメーカー、シマノが作った造語だ。「自転車と一緒に作る健康で豊かな暮らし」を提案し、社内に企画部文化推進室を立ち上げて自転車に関する調査・研究・普及・啓蒙事業を行っている。昨年末には自転車を活用した「ツーリズム・まちづくりについて」を考える討論会をオンラインで実施し、全国の観光課担当者が議論を重ねた。

共通の課題は、地域資源をどうやって自転車に乗る観光客にアピールしていくか。速く走るレース志向の人ではなく、もっとボリュームゾーンとなる一般の人たちをターゲットとするので、なにが求められるのかが分かりにくいという。議論の末に、「ここにしかない印象深い体験を」という答えを見出す。一般の人に訴えやすいのは食文化だ。

サイクリストの宿は地元食材をふんだんに使った料理でその土地の魅力をアピールする

自転車に乗るということを再定義する時代に来た

北海道の芽室町では、「農場で収穫体験をしてもらい、その仕事に関わる人の思いを伝えたい」と、自転車ツアーの途中でごぼう・長いも・じゃがいもなどの畑に入って収穫作業をしてもらった。ツアー参加者は直接土にふれて汗を流しながら、農家の人たちの思いを聞ける。地域住民と行政の担当者が一緒になって考えたアイデアだ。

筑波山にある築120年以上前の古民家を買い取ってゲストハウスにした野堀真哉さん。元サイクリストでUターンして事業を始めた
りんりんロードとなった筑波鉄道事業者の旧邸で仕事する

「20〜30代の農業従事者を巻き込んで、将来的にその人たちが自転車ツアーの担い手となっていくことを期待しています」と町の担当者。

広島〜愛媛間を走るしまなみ海道はサイクリストに圧倒的な知名度を誇るが、宿泊をともなう滞在型の旅としては苦戦している。そこで今話題のグランピングを取り入れた。テントなどの用具を用意したことで参加者はサイクリングとキャンプが同時に楽しめて好評だったという。

地酒を味わい、蔵元を訪ねてみるとその土地のことがよくわかるという

その土地らしい暮らしが目撃できるコースに誘導する企画も誕生した。静岡県の伊豆半島に位置する稲取では、過疎化で目立つ空き家を再価値化。路地ににじみ出る古き漁港の雰囲気を味わうツアーを企画した。稲取らしい暮らしの風景を守っていきたいと企画者が考えてツアー化したものだという。

自転車界の著名選手が地元を案内するツアーも人気。写真は群馬の狩野智也選手

「サイクリングロードを整備するだけでなく、その町の強みである豊かな資源を活かす。それをどうアピールできるか。じつはここがポイントなんですね」と討論会の参加者。

住民との連携や担い手の発掘もサイクルツーリズムを活発化させるには重要だという。地域を知る人が主役となって事業をプロデュースする。観光として訪れる人に町の魅力や住民の思いが伝わるだけでなく、住民が自分の町に愛着や誇りを持てるようになるというメリットもある。

自治体が率先して工具類を常備する店舗を拡充している
古民家ゲストハウス江口屋をベースにサイクリングしてみた

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