世界随一の観光大国フランスには素晴らしいところが無限にある。絵ハガキのように美しい景観。博愛精神にあふれた人たち。ツール・ド・フランス取材時に目撃した、そんなフランスのいいところをたくさん紹介してきたつもりだが、あまり触れたくない事象に遭遇することもある。
診察でフランス帰りと告げたとたんに医師が断言
本来ならコラム紹介すべきものではないかもしれないが、フランスに憧れて観光に訪れた人たちがボクのような大変な目に遭わないようにあえて言及。じつはフランスでちょっとした流行に染まってしまったのだ。大きな声では言いにくいが、それは「シラミ」だ。こういう話が苦手な人はここで離脱してくださいね。写真はあえて使っていませんから。
シラミはフランス語でプー「Poux」と、なんともかわいい語感だが、けっこうフランスでは悩み深い存在であるらしい。かつての日本でもシラミは多かったが、終戦後にGHQの衛生統制によってほぼ淘汰されたらしい。ところがフランスでは現在も多く、さらに最近は増殖しているようである。フランス人はトレイの後に手をきれいに洗うのが普通で、衛生観念は極めてハイレベルにある。だからシラミ発生が不衛生だからとは限らないらしい。
シラミの種類は3つある。多くは子どもたちの髪の毛にとりつく「アタマジラミ」。教室やプールなどで頭髪をくっつけながら仲よく遊ぶため、他の子に移る可能性が高いという。通常のシャンプーやブラシでは成虫や卵が落ちにくく、専用の強力な洗浄剤や目の細かいクシを使う。フランスのスーパーなどではかなりの商品が陳列されているので、それだけとりつかれている人が多いということだ。
やはり現状は隠してはいけないのだと勇気を持って
フランスのイメージダウンになりそうなので、フランス好きのフォロワーさんが多いボクのツイッターにも書いていなかったが、フランス観光親善大使であるフリーアナウンサーの中村江里子さんもパリでお子さんが被害に遭ったらしく、その体験談をコラム紹介している。お子さんだけにアタマジラミだったようで、お猿さんのグルーミングのように頭髪にへばりついた卵を専用のクシで取ったという心温まる記述も。やはり現状は隠してはいけないのだと勇気を持った。
「ケジラミ」は陰毛などにとりつくタイプで成人の性交渉などで媒介するらしい。
で、ボクが最終日のパリの常宿で被害に遭ったのが「コロモジラミ」だ。要は衣服の縫い目やホテルのベッドやカーペットなどに生息する。ツール・ド・フランス取材の2日後には帰国して、しばらくして皮膚の異常に気づいた。すぐさま皮膚科に駆け込んだのだが、「フランスから帰ってきた」と先生に伝えたとたんに、「あ、それはシラミです。コロモジラミですね」と特定されたほど、医師学会でも評判になっていることがうかがえた。
じつはパリのベッドシーツになんかがうごめいていたのは目視している。皮膚科の先生によれば、「ダニは見えないので見えていたのならシラミ」という。通常は白色透明の姿だが、皮膚にとりついて吸血すると大きくなって赤黒くなる。症状としては刺されてから数日後に赤い発疹が発生。ボクの場合は首筋や両腕など260カ所を刺されていたので、見た目の異常さで人には見せられない状況に。
かゆみや炎症を抑える飲み薬と塗り薬を処方されたので、1週間ほどで快方に向かったが、虫に刺されたと分かる跡はしばらく素肌に残っていた。それでも医師の指示どおりに塗り薬を使っていると、しばらくしてきれいになった。
家族にうつさないことが重要…ペットは大丈夫
発覚後はまず二次感染を防止することが重要だ。もちろん他の人に皮膚が接触しただけで伝染することはないが、衣服にコロモジラミがまぎれていたら大変。52度以上のお湯に5分間ひたせば成虫も卵も死滅するというので、旅行バッグの中のすべての衣服を煮沸(あるいは捨てる)。
3日間、人の血を吸わなければ生命は維持できないということなので、自分を含めて家族に症状が出なければ根絶できたということに。そしてシラミやダニは人間なら人間だけ、犬なら犬、猫なら猫にしか寄生しないので、ペットに被害を与える心配はまずないという。
フランスでこれまで800泊はしているがこんな災難は初めて。しかも10年以上お世話になっているパリの常宿で被害に遭っただけにショックは隠しきれない。翌年からホテルを変えたのは当然だ。
ヨーロッパでは難民キャンプが各地に作られている。生きていくことが精一杯の彼らは衣服を何日も洗濯できずに着続けている。そんな世界情勢もあって被害は増加傾向にあるようだ。ヒアリのような派手なニュースにはならないが、みなさんご用心。
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