自転車ロードレースには治療タイムがない。沿道に止まっていたら大集団に置いて行かれ、単独で追いつくのはほぼ困難だからだ。関係車両として走る医療車はオープンカーで、負傷した選手はそのドアサイドにつかまりながら応急処置を受ける。
新型コロナウイルス感染拡大を抑えるために死力を尽くして従事しているすべての医師・医療関係者をリスペクトして、ツール・ド・フランスの現場におけるメディカルスタッフの存在を紹介。
メディカルカーは最高権威が乗る車両のすぐ後ろ
ツール・ド・フランスに参加する選手の後方には関係車両が規則に従って隊列を組んで随行する。選手のすぐ後ろにつけるのはディレクター1。そのうしろが医療車だ。さらに全チームのサポートカー1が前日までの成績順に並ぶ。つまり医療車は各チームのサポートカーよりも前に位置して、万一のトラブルに瞬時に対応できるように位置づけられているわけだ。
ツール・ド・フランスにおける医療態勢はドクター10人、看護士7人、救急車7台、医療サポートカー2台・オートバイ1台が選手の後ろを走る。放射線医療トラックは各ステージのゴール地点に先乗りして落車負傷などの対応に備える。
この医療チームを統括しているのが女性医師のフロランス・ポンメリーさん。医療分野でツール・ド・フランスになにかあったときは、公式記者会見にも登壇する統括責任者だ。
医療カーは現代ツール・ド・フランス三種の神器に
サルドプレスと呼ばれるゴール地点のプレスセンター前にはかつて銀行、郵便局、警察が特別車両を駐車させて運営をサポートしていた。最近は通貨統合などあって需要が変わり、コピー&SNS(ソーシャルメディア)配信車、民間郵便会社、そして放射線技術車が取って代わった。
落車した選手に骨折疑いがあるときはここに搬送され、富士フィルム製のデジタルX線画像診断システムで診断される。東芝メディカルシステムズの超音波(エコー)診断装置も。「すべて信頼できる日本製品さ」とのこと。
ツール・ド・フランスというイベントは、選手も関係者も旅をしながら勝利を、あるいはゴールを目指すという極めて特殊なスポーツ。1日も休まず23日間移動しながら最終日のパリ・シャンゼリゼを目指すというレースだけに、身体が資本。
その魅力や華やかな舞台の裏側には、スポーツにともなう不可避のケガや体調不良もある。応急処置もスタジアムで行われるスポーツイベントとはかなり異なる。それを献身的にサポートしてくれる頼もしい存在が医療スタッフだ。 選手のケガや体調不良だけでなく、ツール・ド・フランスに帯同するすべての関係者が体調的になにかも問題が生じたときは、必ず対応してくれる。主役である選手らをみるだけでも大変なことだと思うので、つい遠慮しがちだが、「心配はいらないよ。明日のスタート地点で元気な顔が見られるならね」と言葉をかけてくれる。
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