世界に誇る自転車産業の街、大阪府堺市。古墳時代からの要衝で、安土桃山時代には鉄砲生産が盛んに。刀鍛冶から自転車のギヤ製造へ。島野鉄工所は数ある町工場の一つだったが、世界最強の自転車パーツメーカー、シマノへと成長。同社をはじめとする自転車関連会社がいまも多く存在する。そんな堺の歴史や文化に触れるにはやはりサイクリングが一番。まちづくりにも自転車への思いが感じられる旅になった。
港近くの大浜公園では認定証交付の登山もできる
新幹線の新大阪駅から在来線を乗り継いで40分ほど。堺を観光するなら随所にある貸し自転車を利用するのがいい。堺駅観光案内所にもレンタサイクルが多数用意されている。料金は普通車1日500円で、電動アシスト自転車1000円。ヘルメットとバックパックは申し出れば無料で貸してくれる。
まずは駅からすぐの堺港へ。堤防の上を10分ほど走れば、現存する木造洋式として国内最古の旧堺燈台にたどり着く。夕暮れ時にはインスタ映えする写真が撮れるという人気スポットだ。
港に隣接する大浜公園には「一等三角点のある日本一低い山」である蘇鉄山(そてつやま)がある。標高6.96mで、登山口に自転車を駐めて登頂するのに1分とかからなかった。堺駅近くにある神明神社に行くと、立派な登山認定証をいただける。
堺在住の知り合いは、国際自転車競技連合の公認審判員や自転車専門カメラマン、自転車業界に従事する人などたくさんいるが、多くの人がおすすめしてくれたのが堺市役所21階展望ロビー。料金は無料。仁徳天皇陵古墳を最も高い位置から見ることができるスポットだ。古墳あたりのうっそうとした森林を確認したあとは、自転車に乗って現地を目指す。
世界遺産に登録された国内最大の前方後円墳だ。正面に駐輪して、観光ボランティアから説明を聞く。50代の記者が勉強した日本史の教科書には「仁徳天皇陵」と書かれていたが、その後の調査で仁徳天皇の墓所でない説が有力になり、現在の教科書には「大山古墳」と記されているという。二重の堀で知られるが、シマノの創業者島野庄三郎氏が幼少の頃、堀の水門を開けてしまい、水がなくなって怒られたというのは実話だ。
ついでに繁華街からちょっと離れた工業地帯にあるシマノ本社を訪問。金属を叩いて形成する冷間鍛造技術を武器に、純利益最高を更新し続ける同社。「アルミを普通に叩けば灰皿にしかならんが、叩き方によってはそこに付加価値が生まれるんや」という歴代経営陣の言葉。熱した鉄を叩いて刀や包丁を作ってきた技術者の心意気が、堺には今も息づいている。
自転車に優しいまち。市民の誇りはやっぱり自転車
堺の街を走っていて気づいたのは、駐輪場が必ずあること、自転車を使った移動がとても快適なことだ。道路交通法では、車両である自転車は車道を走るのが基本で、危険を回避する場合や子どもたちなど一部の条件下で歩道を走ることが容認されている。堺の町は広い歩道の半分を自転車通行可として整備した道がとても多い。シマノで製品開発に携わっていたような社員らが市政の都市計画に加わり、自転車に優しいまちづくりのためのアドバイスを行っているからだ。
自転車の存在をリスペクトした運転を心がけるドライバーも多いと感じた。さすが自転車の街だ。
2022年3月には自転車の歴史がわかる「シマノ自転車博物館」が拡大移転オープンした。自転車に乗りたくなる仕掛けがいくつもあって訪問の価値あり。
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