海外旅行のスマホ利用はこれからeSIM…Ubigiを使ってみる

海外旅行でスマホやパソコンを使う環境が日進月歩で進化している。もはや1年前のベストプランは通用せず、傾向としては安価で便利になり、利用しやすくなっている。ツール・ド・フランス取材を30年以上続けているボクは、時代に即した最善の利用術を選択してきた。それを簡単に振りかえるとともに、2022年に採用すべきベストを考えてみた。

ピレネー山頂の天文台からパソコンで原稿を送る。テーブルの左にあるのが日本から持ち込んだポケットWiFi

スポーツ報道現場の変遷から海外アクセス術を分析してみた

スポーツ報道のありかたがここ30年で激変した。ツール・ド・フランスの現場に初めて足を運んだ1988年は、まだ携帯電話が一般的でなく、日本とのやり取りは街中の公衆電話を利用するしかなかった。

翌1989年から取材記者として携わることになるが、当時は現場入りしたらカメラマンは撮影に徹し、記者は取材した内容をメモ書きするスタイルだった。帰国後にポジフィルムを現像して写真をセレクトし、記者は手元のメモを見ながら原稿を書くという時代だった。

日本の自転車ファンは7月末に終了したツール・ド・フランスの総合優勝者などを含む結果を、ボクたちが帰国して作った自転車月刊誌を8月20日の発売当日に手に入れて知るという時代だ。ただしNHKがBS1でダイジェストながらほぼリアルな中継を始めて、ツール・ド・フランス報道が一気に高速化していく。

インターネットが普及して、記者やカメラマンが現地から素材をeメールで送り、それを記事にするという作業が定着したのは1990年代の終盤だ。1997年から東京中日スポーツの現地記者としてツール・ド・フランスの原稿を配信するボクが、そのおおまかな経緯をまとめてみた。最初のころは、いま考えると笑っちゃうような、のろーい作業だ。

ツール・ド・フランスではプレスセンターのことをサルドプレスと呼ぶ

ツール・ド・フランスの現場からの出稿事情

1989年 ゴール地点に設営されるサルドプレスに行き、指定された電話ブースで音声通話。電話代金は都度払い。あるいはコインを握りしめて公衆電話利用。まだメールシステムはなかったので、連絡事項のみ

1997年 翌々日のスポーツ新聞に掲載するために原稿をメール送稿するようになる。電話ブースでのダイヤルアップ接続でネット利用。メール送信できないときに備えてFAX送稿も。フランスではミニテルという独自の端末情報システムもあったが、すぐに淘汰される

1999年 記者席で原稿を書き上げたらパソコンを持って電話ブースへ。料金は最終日一括払い

2003年頃 無線LANで座席からメール送稿できるように。利用料は全日程で600ユーロ。従量制料金設定も。以降無線LAN活用が主流に

2005年頃 ホテルでのネット利用がこのころから有料から無料に移行。ただしセキュリティに問題あり。速度も超低速でカメラマンの画像送信が翌朝までかかったなんてことも

2007年 通話のためにフランスの格安ケータイを入手して、別入手のプリペイドSIMカードを挿入して使用

2008年 最初のホテルにSIMカードを郵送手配するが届かず。2度目、しかも2度ともシャルトル

2012年 サルドプレスのインターネット利用は600ユーロと割高だが、安定しているので依然として利用

2014年 仕事先から日本のポケットWiFiを提供してもらう。これが便利で、サルドプレスに行くことなく送稿できるように

2015年 このころからカメラマンがサルドプレスをわざわざ訪れることなく、ポケットWiFi利用で送信する率が増えてくる

2016年 日本のレンタルWiFiも検討したが、利用料がほぼ変わらずメリットを感じられず

2017年 インターネット利用料600ユーロ(78,193円)

2018年 インターネット利用料600ユーロ(79,236円)

2019年 フランスのポケットWiFiレンタルに以降。到着した空港の専用ブースで簡単にピックアップ。帰国日に同封されている郵便袋に入れてポストに投函するだけ。経費を20,676円に引き下げた

ツール・ド・フランス取材時1カ月間の通信料の推移。近年は格段に安価で原稿を送れるようになった(2020、2021はコロナ禍で渡仏せず)

ツール・ド・フランス取材と海外旅行の接続事情はほぼ同じ

一般の旅行者が海外旅行をするときにスマホでSNSをアップしたり、パソコンを接続したりする際は、これまではこんな方法を選択してきたはずだ。

○手持ちのスマホで海外パケット定額サービス・あるいは国際ローミング
SIMカードの入れ替えや機器を持ち歩く手間がないが、料金が高額になる

○現地でケータイをレンタル、あるいは購入
空港で受け取ったり最初のホテルに配達してもらう手間がある。空港のブースが見つからなかったり、ホテルに届いていないハプニングも。現地回線なので通信状態は安定している。市内電話料金は安価。日本からの電話を受けるときは無料。ただし日本にかけるときは高額。

○現地でSIMカードをレンタル、あるいは購入
SIMフリーのスマホを持っていれば現地の電話会社のSIMカードを手に入れて差し替えることができる。空港や町中のショップで簡単に入手できるが、通信プランや期間、プリペイドなのか通信量の補充ができるかなどの選択肢が多く、ある程度の語学力が必要。

○フリーWiFi
滞在ホテルやレストラン、フランスでは博物館や公園などの公共施設で無料アクセス可のWiFiスポットがある。ただしセキュリティには問題があり、アクセスのために入力を強いられたメールアドレスにスパムメールが送られてくるなど、利用はおすすめできず。

2018ツール・ド・フランス。山岳ステージのゴール地点では牧草地に巨大なテントが設営されて仕事場となる

ツール・ド・フランスの報道においても、月刊誌の時代からインターネットメディアの時代となり、瞬時の速報性が求められるようになった。ゴール地点に移動する時間も惜しんで、その場から所有する通信機器を駆使して送稿したり、あるいはパソコンでウェブサイトを更新したりする。近年は映像のライツも野放し的になり、スタッフや観客などがスマホで撮った動画をアップする。

海外旅行も同じことだ。スマホで撮った画像や動画を、日本でいつもやっているようにその場で公開できる環境がほしいのだ。幸いなことにこれらをサポートする技術が飛躍的に進化して、各社の熾烈な競争もあって利用料も格段に低くなってきた。

フランスの通信会社、オランジュのスタッフが通信システムを管理する。2013年の第100回大会はコルシカ島で開幕し、サルドプレスは豪華客船の中だった

スマホはSIMロック解除でデュアルSIMがイチバン

2022年もツール・ド・フランスに行く計画だが、eSIMのUbigi(ユービージー)を使ってみる予定だ。Ubigiはフランス拠点の接続サービス会社だが、スマホアプリで利用でき、しかもさまざまなプランや地域が用意されている。アプリで完結するので最初のホテルにSIMカードやポケットWiFiを送ってもらうこともない。空港で専用カウンターを探したり、そこで語学力が求められるプランの選択を迫られることもないだろう。

Ubigiのトップページ

Ubigiの利用手順はまずウェブサイトで登録手続きをして、無料アプリをダウンロード。日本語対応なので、それ以降の進め方も簡単だ。アプリで渡航先や通信プランを選ぶのだが、多くのプランが用意されているので、比較的自分にマッチしたものが見つかるはず。

2022ツール・ド・フランスはデンマーク開幕なので欧州カバーの契約が必要。30日間50GBで99ユーロ。公式WiFiに600ユーロ払っていた時代もあるので、はるかに格安だ。ただしデュアルSIM対応のスマホでないと利用できない。Ubigi eSIMデータプランに対応しているeSIMを搭載したデュアルSIMはiPhoneモデルで、iPhone SE(第2世代)、iPhone XS、iPhone XR、そしてiPhone 11以降のモデル。推奨されるiOSのバージョン:iOS 13.3以降。

手持ちのiPhone SE(第2世代)もデュアルSIM対応だが、カメラ機能は満足できないので、この際iPhone13proに買い換える予定だ。中途半端な機能で使えなかった第2世代SEを1万5000円で下取りしてくれるので、10万円ほどで入手できる。

ヨーロッパエリアだけでもさまざまなプランが選べる

ということで2022年のフランス行きはeSIMの一択。手持ちのパソコンはテザリングでネット接続可。唯一の難点は通常の音声通話ができないことだが、近年は日本でもほとんど電話がかかってこず、受話機会はほとんどないと仮定。たまに原稿内容の確認電話がかかってくるだろうが、それは業務として海外ローミング代を払うのはしかたない。家族とのコミュニケーションはLINE電話などを利用すればいい。