【連載第3弾】ヒマラヤ未踏峰プンギに挑む大学山岳部とは

ナマステ。みなさん初めまして、未踏峰遠征隊の中沢将大です。今回は、大学山岳部の特徴や年間の活動を紹介したいと思います!


立教大学 冬山合宿 槍ヶ岳山頂にて

さっそくですが、みなさんは大学山岳部についてどのような印象をお持ちでしょうか? あまりピンと来ない方もいらっしゃると思いますので、簡単に山岳部の現状をお話します。大学山岳部はかつての全盛期ではヒマラヤの未踏ルートを競って開拓し、盛り上がりを見せる時代がありました。しかしながら現在、コロナ禍による活動停止や、部員数の減少により、廃部となる大学まで存在し、業界全体として残念ながら下火の傾向にあると言えます。

そのため、こうして新たに学生が集まり、ヒマラヤ遠征を計画することは、より多くの方に大学山岳部の活動を知ってもらい、これから山岳部を盛り上げていく一歩として、いい機会になると考えているのです!!

今回は、みなさんに少しでも山岳部のイメージをつかんでいただけるように、大学山岳部員のわかりやすい特徴から、普段はどんな活動をしているのかなど、部員の素性を紹介していきたいと思います!!(※私の独断と偏見を含む)もしこの特徴に当てはまる人を見かけたら、声をかけて応援していただけると励みになるのでよろしくお願いします!

ガッシャーを背負っていたらそれは大学山岳部

まずは判別しやすい見た目の特徴を紹介します。私たちは山では常に「ガッシャー」を背負っています。ガッシャーとは、現在石井スポーツで販売している100Lの大型ザックのことです。大学山岳部の代名詞とも言える名作ザックで、とにかく大容量かつ設計がシンプル。多少荒く使っても壊れにくいという特徴から山岳部員には欠かせない必需品です。大きくて、色もわかりやすいので、簡単に見分けがつくと思います。

他に見た目で言えば、あまり清潔感を感じられないことも挙げられるかもしれません。夏合宿でいえば、2週間以上も風呂なし山生活が続きますので、キタナイです。しかし、どれだけ見た目は汚くても、私たちの目は山の景色に浄化されて、誰よりもキラキラしているでしょう!


右二つが『ガッシャー』

時には2つ背負うことも…

山岳部に入れば節約術を身につけることができる

次は見た目ではわかりづらい特徴です。それは金欠であることではないでしょうか。山をやるには多くの出費が重なります。まず合宿に行くのに必要な装備を買わなくてはなりません。登山靴にレインウエア、手袋や靴下などの小物類を合わせれば、十数万円ほどかかります。冬山に行くとなれば、また新たに冬季用登山靴とハードシェル、その他冬山に耐えられるような防寒着を追加で揃えれば、金額に目を伏せたくなるような出費になります。そして山に行くための交通費がかなりかかります。このように山岳部はとにかくお金がかかる部活なのです。

これらの出費は授業の合間を縫ってアルバイトをして賄いますが、生活費をできるだけ切り詰めることも重要になってきます。山岳部に入っていると大半の人が、節約術を身につけることになるでしょう。昼ごはんは外食せず家から持参すること。飲み物は学校の給水機からナルゲン(登山用の水筒)に給水することは基本となり、装備購入はメルカリを駆使します。交通費に関しては青春18切符をみんなで割り勘して鈍行で帰ったり、できるだけ安い値段の高速バスを必死に探し選びます。すべては山に行くために、地道にコツコツと費用を切り詰めて、頑張っています。

ここまで自由に山岳部の特徴について記しましたが、なんとなく雰囲気が掴めたかと思います。この他にも大学ごとに持つ色があり、それも面白いポイントです! ぜひ各大学山岳部SNSで活動を覗いてみてください。

⚫️日本山岳会
⚫️青山学院大学体育会山岳部 HP SNS
⚫️東京大学運動会スキー山岳部 HP SNS
⚫️立教大学体育会山岳部 HP SNS
⚫️中央大学体育会山岳部 HP SNS

次は、山岳部が行う活動について、年間の合宿スケジュールと併せて紹介していきます。私が所属する立教大学山岳部の年間合宿スケジュールは、

・5月 5月合宿 (内容)残雪期登山、冬山偵察
・6月 谷川合宿 (内容)谷川岳の雪渓で雪上訓練
・8月 夏山合宿 (内容)剱岳周辺定着後、北アルプス縦走
・11月 秋山合宿(内容)冬山偵察
・12月 富士山訓練合宿 (内容)雪上訓練、冬山合宿 (内容)年末の時期に冬山登山
・3月 春山合宿 (内容)冬山登山

と、年間で合計7回の合宿を行い、これに加えて各自沢登りやクライミングを個人山行として行います。また合宿以外の活動として、週3日活動日を設け、合宿準備や勉強会、トレーニングなどを行います。


夏合宿

厳しい山に挑戦し、家族のような関係になってくる

山岳部は、年度はじめの合宿から雪上訓練や冬山の偵察を行うように、年末の冬山合宿に標準を定め、訓練を積み重ねていきます。冬山は特に危険性が高いですが、1年生も初年度から参加するため、部員全員が安全に登山を行えるように、このような合宿のサイクルを行うのです。しかし、部員数が減少したり、最悪の場合、一度部員が途絶えたりすると、これらのサイクルを行うことが困難になります。監督やコーチからの指導やサポートもありますが、活動の質や幅を高めるためには、部員が1人でも継続して入部し、技術を継承し続けていくことが必要になるのです。

私が考える山岳部のいいところは、近い年齢の仲間とともに、厳しい山に挑戦できることだと思います。部員とは嫌でも山で同じ時間を過ごすことになりますが、合宿を通して一緒に辛くてしんどいことを経験したり、成功体験を重ねたりしているうちに、なんだか家族のような関係になってくるような感覚があります。そんな仲間とともに、できる範囲の中で、責任感を持って自分たちでいろんな難しい場面を克服しながら、目標とする山に全力で向き合えることが、山岳部の魅力と言えると思います。


夏合宿出発日 立教大学にて

山岳部でしかできないことは多くあります。この魅力をみなさんに知ってもらい、これからの後輩たちがさらに活発的な活動を行なってもらえるよう、まずは私たちのプンギ遠征を実行し、いい報告ができるように頑張ってまいります!

隊員名簿

中沢将大(なかざわまさひろ)
役職: 装備全般
所属:立教大学体育会山岳部(部内学年4年 主将)
実績:剱岳源次郎/八ツ峰上半(無雪)、北ア縦走剱岳-親不知/剱岳-蝶ヶ岳(無雪)、錫杖岳注文の多い料理店(無雪)、剱岳早月尾根(12月、2月)、旭岳東稜(2月)

ヒマラヤにある未踏峰プンギに日本の学生隊が挑戦

日本山岳会学生部プンギ遠征隊が2024年9月からヒマラヤにある未踏峰「プンギ」に挑戦する。プンギはネパールのアンナプルナ山域、ペリヒマール山群に属する標高6524mの未踏峰。同山には2022年秋に、日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊が南西尾根から初トライするが、6150mで敗退。未だその頂に立った者はいない。

⚫️BUCK NUMBER
第1回 ヒマラヤにある未踏峰プンギに日本の学生隊が挑戦
第2回 ヒマラヤの未踏峰プンギに挑む国内トレーニング
第3回 ヒマラヤ未踏峰プンギに挑む大学山岳部とは(このページ)

【連載第2弾】ヒマラヤの未踏峰プンギに挑む国内トレーニング

みなさん、こんにちは。初めまして、未踏峰遠征隊の尾高涼哉です。今回は、これまで、国内で行ってきたトレーニングを紹介したいと思います! 前回の記事もぜひご覧ください!

素早いロープ扱い、チームワーク、対応能力が求められる

今回目指す未踏峰であるプンギでは、おそらく、ほぼ確実に、高さ数百mの垂壁は出てきません。その点では、山頂にたどり着くには、高度なクライミング能力よりも、高所でラッセルを行う体力や、雪稜通過技術の方が求められる可能性が高いでしょう。

しかし、一方で、かなり傾斜の強い、氷化した雪面や、稜線上で露出した岩頭など、ロープを使うシチュエーションはいくつか考えられます。そうしたことを踏まえると、ロープの扱いに習熟し、それを使いながら素早く行動できることは非常に重要で、ほぼ必須条件と言えます。また、チームワークの強化や、2カ月一緒に遠征してもストレスが溜まらないように、メンバー同士が「仲良く」なるという点から、可能な限り、日数を増やして一緒に山にいるようにしました。

2023年秋は山でのクライミングに焦点を合わせ、数回のトレーニング山行を行い、冬には、劔などある程度スケールがあって体力が求められる山や、登攀能力が求められる山へ行き、自分たちの対応能力の幅を広げることに注力しました。

北岳バットレス 第四尾根(2023/9/30-10/1, メンバー:尾高, 井之上)
瑞牆 山河微笑(2023/10/2, メンバー:尾高, 井之上)
錫杖 注文の多い料理店, 見張り塔からずっと(2023/10/12, メンバー:尾高, 井之上,中沢)
屏風岩 雲稜ルート(2023/10/16-17, メンバー:尾高, 井之上, 横道)
八ヶ岳 定着合宿(2024/1/5-9, メンバー: 尾高, 井之上, 中沢, 横道, 芦沢)
         中山尾根(井之上,尾高)
         阿弥陀北稜(横道,芦沢,青山)
         大同心大滝(井之上, 尾高)
         赤岳主稜(横道,芦沢,青山)
         南沢大滝(尾高,井之上,沼田)
         赤岳主稜(横道,青山)
         裏同心ルンゼ・小同心クラック(芦沢,沼田)
         阿弥陀北西稜(井之上,尾高)
         南沢小滝(横道,芦沢)
蓮華岳 東尾根(2024/2/2-3,メンバー: 尾高, 井之上,中沢,横道)
層雲峡 銀河の滝(2024/2/9,メンバー: 尾高, 井之上)
剱岳 早月尾根(2024/2/13-17, メンバー: 井之上,尾高,中沢,芦沢,横道)
旭岳東稜(2024/2/27-28, メンバー: 井之上,尾高,中沢)

以下、山行をピックアップして紹介します!

錫杖岳(注文の多い料理店、見張り塔からずっと)

2023/10/12-13
メンバー: 尾高、井之上、中沢(注文のみ)

注文の多い料理店は現代的で快適なクライミング。スムーズに登ることができた。見張り塔はピッチ数が多く、核心の5.9のピッチは濡れていたが、問題なく完登。

屏風岩雲稜ルート

2023/10/16-17
メンバー: 尾高、井之上、横道

核心は朝イチの極寒渡渉(靴を脱いで裸足で川を渡る)。10月半ばと時期が遅かったため水温が低く、叫びながら渡渉した。1日目は4ピッチ(1ピッチは大体50mほど)ロープを延ばし、T4テラスにて幕営。リード(一番最初に登る人)は空荷でセカンド以降は荷物を担いで登った。井之上は3人分の幕営具が入ったザック(30kgぐらい)を担いでユマーリングした。T4テラスは蝶ヶ岳などの山並みが見渡せる上、貸切であったためとても快適。

本格的な登攀は2日目から。夜間に降雨があったため、壁が乾くのを待ってから出発。それぞれ担当したピッチを安定した登りで登り切った。5P目終了点より懸垂下降(ロープを使った下降方法)で帰る。しかし、下山が遅れていたため、上高地に着いたのは20時半頃。とっくにバスもタクシーもない。仕方ないので、車を停めていた沢渡まで歩く。沢渡に着いたのは23時前。松本でラーメンを食べて帰った。

八ヶ岳

2024/1/5-9

行くメンバーもルートも入山日もバラバラで、各自登りたいルートを登った。

大同心大滝

2024/1/5
メンバー: 尾高、井之上

裏同心ルンゼを登るつもりで適当なトレースを辿っていくと、デカい氷瀑の基部へ着く。早速登り始めるが、普通に悪い。上部はほぼバーティカルであった。2人で交代しながらなんとかトップアウト。氷瀑から滴る水で全身ずぶ濡れになった上に、それがカチカチに凍り、まるで氷の鎧を纏っているようだった。結局、下山後に調べたところ、裏同心大滝だと思っていた氷瀑は、大同心大滝だった。

阿弥陀北西稜

2024/1/9
メンバー: 尾高、井之上

トポの図が分かりづらく、アプローチにやや手こずる。適当な沢から尾根へと上がり、簡単な岩稜を進むと1ピッチ目へ。核心は3ピッチ目だと思っていたが、1ピッチ、50mいっぱいロープを延ばすと、核心下へたどり着いてしまう。目論見とは違い、井之上が核心を担当することとなった。残念なような、少しホッとするような。

ビレイをセットし、やや緊張した面持ちで井之上が登り始める。私は井之上が登り終えるまでは、しばらくビレイをしながら待機だ。

北西面を登っているので、もう昼前に近いのに、全く陽が当たらない。標高3000m近い稜線で風も相当強いので猛烈に寒い。ビレイジャケットのフードを被り、口を覆ってなんとか耐える。正月の穂高で指先が軽い凍傷になったことを思い出し、まだ少し違和感の残る指先を絶えず動かして血流を送る。ただ、そんな状況でも、空は快晴、陽に照らされた赤岳の壮麗な姿が見える。綺麗だなと思う。

そんなこんなで、井之上が登り始めて数十分経っただろうか、ロープが全く出なくなった。いろいろ試してみてはいるが、なかなか難しいようだ。やがて選手交代のコール。井之上がいったん降りて、クライマーを私に交代する。正直、途中から若干覚悟しており、このままいたら、寒さで気が狂いそうだったので、むしろありがたかった。

ビレイジャケットを脱いで、登り始める。寒さで震えるが、壁を登っているといい具合に温まってくる。全身の感覚が研ぎ澄まされるような、鋭い冬の寒さは嫌いではない。

やがて、井之上が止まったセクションへ。ここはサイドホールドを使ったバランシーなムーブでなんとか突破。そこから先、左上するラインはホールドがなくて悪そう。どうにも行き詰まってしまったのでテンション。ムーブを探る。結局右上ラインに活路を求める。適当に雪をほじくってみたところ、アックスの先端が引っかかりそうなエッジを発見! そこから右側に繋げればなんとか行けそうだ。プロテクションも安定しているので思い切ってエッジにアックスでフッキングする。そして、アックス先端の刃の角度をずらさないようにして、凍った草付きへアックスを叩き込む。止まった。先端しか刺さっていないので、抜けそうで怖いが、信じて、体重をかける。抜けない、しっかり効いている。もう片方のアックスも草付きへ決めて、体を持ち上げてトップアウト。そして終了点へ。久方ぶりの陽光に照らされる。井之上も無事フォローで登ってきて、簡単なコンテで山頂へ。少し山頂で行動食を取り、下降した。

早月尾根

2024/2/13-17
メンバー: 井之上、尾高、中沢、横道、芦沢

メンバー全員が揃う数少ない山行。ルートのスケールもプンギに近く、本番のタクティクスなどを確認するため、冬の剱岳早月尾根へ向かった。

1日目
冬の剱岳は、まず長い林道から始まる。当然他の入山者などいるはずもないので、林道からひたすらラッセル。10kmほど林道を歩き、登山口の馬場島に到着。この日は、少し上がって松尾平で幕営した。

2日目
この日はひたすらラッセル。標高2000m付近で3時間程度かけて雪洞を掘り、翌日の降雨に備える。

3日目
雨。雪洞内で1日過ごす。

4日目
早月小屋まで上がり、AC(アタックキャンプ)を設営。井之上、中沢、芦沢は偵察兼ルート工作へ。

5日目
いよいよ山頂へ向け、アタック。よく締まった雪を順調に進んでいく。途中2回ほどロープを出し、無事山頂へ立った。下降は早く、その日の夜に車を停めてある伊折ゲートへ下山。

剱岳に登る。写真中央部に2人が登ってるのが見える
2月の早月尾根合宿にて。左から時計回りに井之上、芦沢、尾高、横道、中沢

隊員名簿

尾高涼哉 (おだかりょうや)
役職:登攀隊長、装備サブ
所属:東京大学運動会スキー山岳部(部内学年4年 主将)
実績:屏風岩雲稜ルート(無雪)、錫杖岳注文/見張り棟(無雪)、河又小作人5.11cRP、南ア主稜線縦走(2月-3月)、南岳西尾根(12月)、錫杖岳3ルンゼ(1月)

ヒマラヤにある未踏峰プンギに日本の学生隊が挑戦

日本山岳会学生部プンギ遠征隊が2024年9月からヒマラヤにある未踏峰「プンギ」に挑戦する。プンギはネパールのアンナプルナ山域、ペリヒマール山群に属する標高6524mの未踏峰。同山には2022年秋に、日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊が南西尾根から初トライするが、6150mで敗退。未だその頂に立った者はいない。

⚫️BUCK NUMBER
第1回 ヒマラヤにある未踏峰プンギに日本の学生隊が挑戦
第2回 ヒマラヤの未踏峰プンギに挑む国内トレーニング(このページ)

【連載開始】ヒマラヤにある未踏峰プンギに日本の学生隊が挑戦

日本山岳会学生部プンギ遠征隊が2024年9月からヒマラヤにある未踏峰「プンギ」に挑戦する。プンギはネパールのアンナプルナ山域、ペリヒマール山群に属する標高6524mの未踏峰。同山には2022年秋に、日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊が南西尾根から初トライするが、6150mで敗退。未だその頂に立った者はいない。(文:井之上巧磨)

プンギ本峰。写真提供:ヒマラヤキャンプ登山隊2022プンギ

大学4年間で培った技術と経験、体力と精神力を

日本山岳会プンギ遠征隊のメンバーは5人。登攀隊長が東京大学運動会スキー山岳部の尾高涼哉(4年)、隊員が立教大学体育会山岳部より中沢将大(4年)、横道文哉(4年)、中央大学体育会山岳部より芦沢太陽(3年)。そして総隊長を青山学院大学体育会山岳部の井之上巧磨(4年)が務める。

それぞれ違った所属からなる本遠征隊ではあるが、それぞれ所属する大学山岳部は、これまでの活動でもあくまでその山を未踏に見立てて登るという行為をしてきた。合宿の立案から始まり、偵察、そのルートの必要技術要素の抽出、技術の習得、そして必要十分以上の荷物を持った実践とその後の反省。

これらのサイクルは、便利な技術があればほとんどが省ける過程であるだろう。しかしながら、その山が未踏なのだとしたら必要なサイクルである。この4年間を通し、我々が培ってきた技術と経験。そして体力と精神力を活かしてプンギに挑戦したい。

2月の早月尾根合宿にて。左から時計回りに井之上、芦沢、尾高、横道、中沢

便利な現代だからこそ、本来の登山の形を体現したい

日本山岳会プンギ遠征隊は2つの目的を本遠征に掲げている。1つ目が「本来の登山の形の体現」である。

近年さまざまな技術が発展したことで、登山は身近なアクティビティに変容してきた。行ったことのない山/ルートでも写真付きの詳細な情報を得ることができ、GPSは自分の居場所を正確に確実に教えてくれる。それは我々の活動をより安全にし、自然という不確定な環境下での確定要素を増やしてきたと思う。

しかし登山のもつ本来の側面には、未知なる山・場所・ルートを既知なるものへと変える探検的精神を含んだ営みも存在しているのではないだろうか。探検的精神を含んだ登山には、人類社会の境界を先へと推し進め、またその行為を通して人間の可能性を広げるという意味で意義があり、いつの時代にも必要な営みだと考える。

我々遠征隊は未踏峰を登ることで、この便利な現代において、本来の登山の形を体現したいと強く思う。

剱岳に登る。写真中央部に2人が登ってるのが見える

この時代にも山に青春を捧げる若者がいることを発信したい

2つ目は「大学山岳部の存在とその活動を広めたい」ことである。

数十年前に存在した大学山岳部全盛期の時代は過去のこととなり、大学山岳部はその存在や活動を世間に知られていないという現状がある。年々部員数は減少し、廃部となる大学も存在する。今回の遠征には4つの大学山岳部からメンバーが集まっている。この遠征を通して、大学山岳部の活動や文化、この時代にも山に青春を捧げる若者がいることを世間に発信していきたい。

まず人々に知ってもらうことは、大学山岳部を盛り上げていく第一歩であると考える。またこの遠征を見た次の世代が仲間として入部したり、後輩たちを応援する人が増えたら、もう一つの大きな意義となりえるのではないかと考える。

屏風岩雲稜ルートに張られたロープを登る横道。この地点で東京タワーより高い

目標となるプンギは大まかに南尾根、北西尾根、北東尾根、東尾根の4つの尾根から構成されている。今回遠征隊が考えているルートは、2022年ヒマラヤキャンプ登山隊が挑戦した際と同じ南西尾根である。

プンギは北峰、本峰、南峰という順に峰が連なっていて、遠征隊はまず西尾根上5500mのコルにキャンプを張り、その後南峰に登頂。そこから尾根上を本峰に向けトラバース(横移動)するという計画である。 ヒマラヤキャンプ登山隊の撮った写真には、南峰直下に急斜面らしきものが確認でき、南峰〜頂上間も切り立っていることが推察される。

この挑戦の費用は、渡航費や登山料など合わせて521万円。隊員の個人負担はもちろん、それ ぞれの大学や山岳部OB会、日本山岳会、一般からの寄付を募ってまかなう予定である。

北海道の層雲峡でアイスクライミング。大学山岳部ではこれまであまりアイスクライミングに触れて来なかったが、未踏峰でさまざまなシチュエーションに対応できるようになるため練習した

隊員名簿

井之上巧磨(いのうえたくま)
役職:総隊長、食料サブ
所属:青山学院大学体育会山岳部(部内学年4年 主将)
実績:上高地-親不知(無雪)、屏風岩雲稜ルート(無雪)、錫杖岳注文/見張り棟(無雪)、マイモーズの悪場、モチコシ沢、中崎尾根末端-槍ヶ岳(12月)、阿弥陀北西稜

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