【連載第4弾】ヒマラヤ未踏峰プンギ遠征までの陰の道のり

記事の連載が就職活動のピークもあり、滞っていて申し訳ありません。どうも、未踏峰遠征隊で渉外・会計・記録を務めております、横道文哉です。基本的には隊員全員に仕事を分配して作業をしていますが、ネパールのトレッキング会社への交渉や航空券の手配、VISAや予算案の作成など、渡航にあたっての主要な手続きは主体となって行っております。私は幸運ながらも機会に恵まれ、今回の遠征は2回目となりますが、1回目の遠征の手続き業務は目立った情報もなく手探りの状況であったため、難航した記憶があります(笑)。そこで、今回はこれから未踏峰遠征に限らず、ネパールに海外遠征を企画しようとしている人たちも参考になるような、ヒマラヤ遠征の手続きのあれこれについて、紹介したいと思います。

目指すのは未踏峰プンギ

予算案の作成。物価は実際どうなのか

ヒマラヤ遠征にはお金がかかります。しかし、どこで節約できるのか、相場を知っておくと無駄な支出を抑えられるので2024年の大まかなネパールの物価について紹介したいと思います。

宿泊費(カドマンズ):衛生面を無視できるのであれば、一泊500npr程度、約500円前後でドミトリーなどで過ごすことができます。しかし、そこから遠征に向かう場合、体調不良などは避けたいと思う人がほとんどだと思うので、AgodaやBooking.comなどを参照してもらえるとわかるのですが、タメル地区で1500円~2500円程度で綺麗な部屋に泊まれるので、そちらをお勧めします。

1泊1人500円のドミトリー

食費(カトマンズ): とても安い!!という訳でもなく、外国人宿街のタメル地区であれば500npr前後した覚えがあります。いかに日本が安くておいしいかというのを思い知らされました。ネパール料理も向き不向きはあると思いますが、ダルバートやチョウメンなど日本人の舌に合いやすい食事も多く、首都であるという点において、ピザやケバフなどさまざまなレストランがある印象が強かったです。朝食は無難にホテルで済ませるのが得策だと思います。

カトマンズの食事はとても安い!というわけでもない

宿泊費(トレッキング):ツインルームで500~2000npr、エベレスト街道は高くなる傾向もあるのでもう少し予算を多めに取ることを推奨します。

食費(トレッキング):泊まるロッジにもよるが、朝食200nprから、昼食、夕食はおおよそ500nprでお腹いっぱいにダルバートが食べられたりする。以下の画像を参照されたい。

ロールワリンでのロッジの価格表

交渉はここから! トレッキング会社編

ネパールにおけるヒマラヤ遠征において、登山手続きや特定地域入域許可取得手続き、BCや頂上まで案内してくれるガイド・スタッフの手配(給料、保険、ヘリ保険、装備)は必須である。昨年、ガイドからネパールにおける無許可登山による外国人遭難者の増加により、BCまでのガイドの同伴が義務になったような話を聞くと、諸手続きをアレンジしてくれるトレッキング会社との契約は避けられないと考えてもいいだろう。

ネパールにおいて登山産業は大きな財源でもあり、富裕層の商業登山も増えた影響で行く山によってその価格は変わるものの、予算の大半はこのトレッキング会社への費用になることが多い。 日本では基本的にモノの値段が決まっていることが多いが、海外では値引き文化が強く根付いている。そのため、言われた金額を2つ返事で返してしまうと、相当な金額を損する場合があるので、トレッキング会社と契約をする際に高額な金額を提示された場合には、予算に応じて値引き交渉をすることを勧める。

タメル地区でトレッキング会社に電話

基本的に全ての行程を至れり尽くせりな環境で行えるパッケージプランを最初に提示されることが多いだろう。予算に余裕があり、残金を計算しながらトレッキングをしたくない人にはお勧めのプランである。まだ学生であるからか、私は少々割高な印象を持つことが多い。そのため、トレッキングにおける宿泊費と食費を全て自分たちで払う場合の方が大幅な減額を望めるので、まずにそのような交渉をするのがいいと考える。ただ交渉において、過度な値引きは禁物である。トレッキング会社と良好な関係も登頂成功率に関わってくるのは言わずもがな。交渉学における相手のBATNAを見極めることも重要であるが、サービスが雑になる可能性があるため、値引きはほどほどにするべきだろう。以下に交渉テクニックをいくつか抜粋して紹介する。

0.パッケージプランではなく、カトマンズやトレッキング中に発生する宿泊費、食費を自己負担にしたいことを伝える。

1.先に強気な値段を提示する。(序盤に提示した双方の金額の中間あたりで落ち着くことが多い。)

2.同時並行で進めている他社の見積もりを引け合いに出して、より安い金額を求める。

3. 他の遠征隊を紹介する。

4. トレッキング費用に出せる金額を伝える(うまく行かない場合の最後の一押しの値引き)。

トレッキング会社の選定は山岳会や所属団体のOBOGからの紹介や他登山隊の報告書から選ぶといいだろう。

航空券、実は穴場なあの航空会社

日本からネパールへの直行便の数は少なく(ネパール航空など)、高額になる傾向がある。そのため、サービスもよく意外と安い、キャセイパシフィック航空とシンガポール航空を紹介したい。

キャセイパシフィック航空は香港の航空会社であり、香港乗り換えで首都カトマンズに向かうことができる。優良航空会社の1つであり、サービスもよく選択肢の1つに組み込むべきであろう。

キャセイパシフィック航空の機内食。香港→カトマンズの食事だからか少し辛かった

シンガポール航空は毎年の航空会社格付においてANAやJALを差し引いて上位に位置する航空会社であり、エコノミークラスであっても席がふかふかであったり、食事が美味しいなど、サービスがトップクラスな航空会社であることがうかがえる。なによりも衝撃なのが、その価格がキャセイパシフィック航空と同様に他の航空会社よりも安価にあることである。さらに、学生登山隊にぜひ紹介したい学割制度がシンガポール航空にあり、今回のプンギ遠征隊は平均往復10万円という価格で航空券を購入することに成功している。学割制度は航空券が2割引きで購入することができ、預け荷物も40kgまで上限が高いことも魅力の一つである。さらに1回限りになるが、片道の航空券の変更手数料が無料という、遠征期間が変動する可能性にある登山隊にとってはとてもうれしい特典がある(注意点として航空券の差額は払わないといけない)。

コロナ禍も明け、海外渡航が簡単になったからこそヒマラヤ遠征を目標にしている大学山岳部は多いと考える。しかし、影に隠れがちな手続きのノウハウ不足は学生にとって困難な壁の一つでもあると考える。そこで、この記事を通して社会人登山隊ももちろんであるが大学山岳部の遠征手続きの助けになればうれしい限りである。

隊員名簿

横道文哉(よこみちふみや)
役職:渉外(輸送)、会計(海外)、記録(メイン)
所属:立教大学体育会山岳部(部内学年4年 副将)
実績:槍ヶ岳西稜(無雪)、屏風岩雲稜ルート(無雪)、槍ヶ岳中崎尾根(12月)、      
Ramadung Peak(5925m) 5555m敗退、裏同心ルンゼ(1月)

ヒマラヤ未踏峰に挑む特集サイト(Contents一覧)

中沢将大、横道文哉、井之上巧磨、尾高涼哉、芦沢太陽。羽田空港にて

【連載第3弾】ヒマラヤ未踏峰プンギに挑む大学山岳部とは

ナマステ。みなさん初めまして、未踏峰遠征隊の中沢将大です。今回は、大学山岳部の特徴や年間の活動を紹介したいと思います!


立教大学 冬山合宿 槍ヶ岳山頂にて

さっそくですが、みなさんは大学山岳部についてどのような印象をお持ちでしょうか? あまりピンと来ない方もいらっしゃると思いますので、簡単に山岳部の現状をお話します。大学山岳部はかつての全盛期ではヒマラヤの未踏ルートを競って開拓し、盛り上がりを見せる時代がありました。しかしながら現在、コロナ禍による活動停止や、部員数の減少により、廃部となる大学まで存在し、業界全体として残念ながら下火の傾向にあると言えます。

そのため、こうして新たに学生が集まり、ヒマラヤ遠征を計画することは、より多くの方に大学山岳部の活動を知ってもらい、これから山岳部を盛り上げていく一歩として、いい機会になると考えているのです!!

今回は、みなさんに少しでも山岳部のイメージをつかんでいただけるように、大学山岳部員のわかりやすい特徴から、普段はどんな活動をしているのかなど、部員の素性を紹介していきたいと思います!!(※私の独断と偏見を含む)もしこの特徴に当てはまる人を見かけたら、声をかけて応援していただけると励みになるのでよろしくお願いします!

ガッシャーを背負っていたらそれは大学山岳部

まずは判別しやすい見た目の特徴を紹介します。私たちは山では常に「ガッシャー」を背負っています。ガッシャーとは、現在石井スポーツで販売している100Lの大型ザックのことです。大学山岳部の代名詞とも言える名作ザックで、とにかく大容量かつ設計がシンプル。多少荒く使っても壊れにくいという特徴から山岳部員には欠かせない必需品です。大きくて、色もわかりやすいので、簡単に見分けがつくと思います。

他に見た目で言えば、あまり清潔感を感じられないことも挙げられるかもしれません。夏合宿でいえば、2週間以上も風呂なし山生活が続きますので、キタナイです。しかし、どれだけ見た目は汚くても、私たちの目は山の景色に浄化されて、誰よりもキラキラしているでしょう!


右二つが『ガッシャー』

時には2つ背負うことも…

山岳部に入れば節約術を身につけることができる

次は見た目ではわかりづらい特徴です。それは金欠であることではないでしょうか。山をやるには多くの出費が重なります。まず合宿に行くのに必要な装備を買わなくてはなりません。登山靴にレインウエア、手袋や靴下などの小物類を合わせれば、十数万円ほどかかります。冬山に行くとなれば、また新たに冬季用登山靴とハードシェル、その他冬山に耐えられるような防寒着を追加で揃えれば、金額に目を伏せたくなるような出費になります。そして山に行くための交通費がかなりかかります。このように山岳部はとにかくお金がかかる部活なのです。

これらの出費は授業の合間を縫ってアルバイトをして賄いますが、生活費をできるだけ切り詰めることも重要になってきます。山岳部に入っていると大半の人が、節約術を身につけることになるでしょう。昼ごはんは外食せず家から持参すること。飲み物は学校の給水機からナルゲン(登山用の水筒)に給水することは基本となり、装備購入はメルカリを駆使します。交通費に関しては青春18切符をみんなで割り勘して鈍行で帰ったり、できるだけ安い値段の高速バスを必死に探し選びます。すべては山に行くために、地道にコツコツと費用を切り詰めて、頑張っています。

ここまで自由に山岳部の特徴について記しましたが、なんとなく雰囲気が掴めたかと思います。この他にも大学ごとに持つ色があり、それも面白いポイントです! ぜひ各大学山岳部SNSで活動を覗いてみてください。

⚫️日本山岳会
⚫️青山学院大学体育会山岳部 HP SNS
⚫️東京大学運動会スキー山岳部 HP SNS
⚫️立教大学体育会山岳部 HP SNS
⚫️中央大学体育会山岳部 HP SNS

次は、山岳部が行う活動について、年間の合宿スケジュールと併せて紹介していきます。私が所属する立教大学山岳部の年間合宿スケジュールは、

・5月 5月合宿 (内容)残雪期登山、冬山偵察
・6月 谷川合宿 (内容)谷川岳の雪渓で雪上訓練
・8月 夏山合宿 (内容)剱岳周辺定着後、北アルプス縦走
・11月 秋山合宿(内容)冬山偵察
・12月 富士山訓練合宿 (内容)雪上訓練、冬山合宿 (内容)年末の時期に冬山登山
・3月 春山合宿 (内容)冬山登山

と、年間で合計7回の合宿を行い、これに加えて各自沢登りやクライミングを個人山行として行います。また合宿以外の活動として、週3日活動日を設け、合宿準備や勉強会、トレーニングなどを行います。


夏合宿

厳しい山に挑戦し、家族のような関係になってくる

山岳部は、年度はじめの合宿から雪上訓練や冬山の偵察を行うように、年末の冬山合宿に標準を定め、訓練を積み重ねていきます。冬山は特に危険性が高いですが、1年生も初年度から参加するため、部員全員が安全に登山を行えるように、このような合宿のサイクルを行うのです。しかし、部員数が減少したり、最悪の場合、一度部員が途絶えたりすると、これらのサイクルを行うことが困難になります。監督やコーチからの指導やサポートもありますが、活動の質や幅を高めるためには、部員が1人でも継続して入部し、技術を継承し続けていくことが必要になるのです。

私が考える山岳部のいいところは、近い年齢の仲間とともに、厳しい山に挑戦できることだと思います。部員とは嫌でも山で同じ時間を過ごすことになりますが、合宿を通して一緒に辛くてしんどいことを経験したり、成功体験を重ねたりしているうちに、なんだか家族のような関係になってくるような感覚があります。そんな仲間とともに、できる範囲の中で、責任感を持って自分たちでいろんな難しい場面を克服しながら、目標とする山に全力で向き合えることが、山岳部の魅力と言えると思います。


夏合宿出発日 立教大学にて

山岳部でしかできないことは多くあります。この魅力をみなさんに知ってもらい、これからの後輩たちがさらに活発的な活動を行なってもらえるよう、まずは私たちのプンギ遠征を実行し、いい報告ができるように頑張ってまいります!

隊員名簿

中沢将大(なかざわまさひろ)
役職: 装備全般
所属:立教大学体育会山岳部(部内学年4年 主将)
実績:剱岳源次郎/八ツ峰上半(無雪)、北ア縦走剱岳-親不知/剱岳-蝶ヶ岳(無雪)、錫杖岳注文の多い料理店(無雪)、剱岳早月尾根(12月、2月)、旭岳東稜(2月)

ヒマラヤ未踏峰に挑む特集サイト(Contents一覧)

中沢将大、横道文哉、井之上巧磨、尾高涼哉、芦沢太陽。羽田空港にて