テニス界のドーピングが増加…2024年のスポーツ別・国別違反数

かつての自転車競技はドーピングの温床と言われたが、2024年はスポーツ別のドーピング件数は9番目であり、陸上競技や重量挙げには及ばない。特筆すべきは7番目に浮上したテニス界で衝撃的な話題がかけめぐったことだ。

2024年のスポーツ別・国別ドーピング件数

自転車レースでのアンチ・ドーピング団体が活動を始めて17年になるが、定期的にドーピング事情をリサーチして発表。その運動の効果により自転車レースでの問題は少なくなってきている。自転車界では、2023年よりも2024年のドーピング件数が少なく、その活動の成果が見られる。一方、他のスポーツではドーピング問題が深刻化している」と、パワーリフティング、レスリング、ラグビーなどでのドーピング事案が増加していることを指摘。

「MMA(総合格闘技)は、フランスで2020年に認可されて以降、ドーピング件数が増加している。この傾向はフランスと米国で特に顕著」と解説している。

テニス界の衝撃問題にも言及。世界ランキング1位のヤニック・シナーは、3月に禁止物質「クロステボル」(筋肉増強効果のある合成アナボリックスステロイド)の陽性反応が出たが、テニスの不正行為を監視する第三者機関(ITIA)によって無罪となった。た女子テニス世界ランキング2位のイガ・シフィオンテクも2024年9月にドーピング違反が発覚したが、微量な禁止物質「トリメタジジン(血管を広げて血流を良くする物質)」が時差ぼけを治す睡眠薬に混入したことが原因だと判明し、本人に重大な過失はなかったと認められた。

「ドーピングとの戦いが時には大変な仕事であり、多額の資金と、特にスポーツに関わるすべての人々(スポーツ協会、選手、連盟、イベント主催者)の団結を必要とする。スポーツ全体の信頼性は、不正行為者に対して妥協しない姿勢でなければならない。誰もがドーピングとの戦いに積極的になることを主張してほしい。これがこの戦いに勝つ方法だから」とアンチ・ドーピング団体。

一酸化炭素吸入でパフォーマンス向上…ポガチャルやビンゲゴーが検査使用

一部の選手が一酸化炭素を吸入することで有酸素運動能力を向上させるという新たな問題が浮上し、国際自転車競技連合(UCI)が各チームに対して行為を行わないように強く要請した。一酸化炭素を吸入するとヘモグロビン量が増えることで運動能力が高まるが、一般的に言われる一酸化炭素中毒で命を落とす可能性もある。

ポガチャルとそれをマークするビンゲゴー ©A.S.O. Billy Ceusters

医療行為における最先端技術がグレーゾーンに発展

ツール・ド・フランスで3度の総合優勝を達成しているタデイ・ポガチャル(UAEエミレーツ)と2度のヨナス・ビンゲゴー(ビスマ・リースアバイク)は、過去に高地トレーニングでの心肺機能向上効果を測る目的で一酸化炭素を吸入する再呼吸装置を使用したことを認めている。

高地トレーニングの生理学的利点を最大限に高めるのに役立つ測定ツールが再呼吸装置だ。血中値を測定する従来からある採血診断とともに高地トレーニングでの成果を最大化するための最先端医療手法として見つけられたもので、国際自転車競技連合はすでにビスマ・リースアバイク、UAEエミレーツ、イスラエル・プレミアテックチームが採用していることを確認している。再呼吸装置は世界アンチドーピング機構(WADA)によって禁止されていないが、その使用は急速に論争の的となっている。

現時点で明るみにはなっていないが新ドーピングとなる可能性も

一酸化炭素を故意に複数回吸入する方法は、VO2 maxなどの有酸素能力の向上につながる可能性があり、新たなドーピング手法となることに加え、選手の健康が危険にさらされるという大きな問題が表裏一体にある。一酸化炭素中毒は一般的に頭痛、めまい、脱力感、嘔吐、胸痛、錯乱が発症。火災に巻き込まれた場合のみならず、日常生活の中でも起こる可能性があって、多くの国で最も一般的な致命的中毒として恐れられている。

「ヘモグロビン量を増やす目的で一酸化炭素吸入を行うべきではない」と国際自転車競技連合。すでに何度も世界アンチドーピング機構に禁止に向けた指針を発表するように通知しているが、同機構の手続きが遅いことを嘆いている。

一酸化炭素を医療診断ツールとして使用することと、パフォーマンスを向上させる目的で吸入することはまったく別のことではある。「医療診断ツールとしては禁止されるべきではないし禁止することもできない。だから2つを明確に区別する必要がある」と国際自転車競技連合。

ツール・ド・フランス開催中に一部のチームが高地トレーニングを最適化するために一酸化炭素を使用していたことは明らかだ。ただしその時点でチームがパフォーマンス向上のために一酸化炭素吸入を使用しているという確固たる証拠はない。国際自転車競技連合が懸念しているのはその可能性があるというのが現時点での分析。

信頼できる自転車運動(MPCC)も致死の可能性があるガスを吸入してパフォーマンス向上するという方法が広く行われていることに対する懸念を一般市民とスポーツ統括団体に伝え、さらに2024年11月18日付で世界アンチドーピング機構に書簡を送った。現在まで返答はないというが、「この技術の使用を禁止するまでは、使用しないことを強く勧告する」と発表している。

パリ五輪開催時期の国別・競技別ドーピング…日本はゼロ、多かったのは

第32回オリンピック競技大会(2024パリ)の開催時期において各競技、各国スポーツ選手のドーピング(不正薬物使用)と不正行為の件数がどれだけ公表されたかをThe Movement for a Credible Cycling(MPCC)が2024年10月11日に明らかにした。

スポーツ別のドーピング件数

五輪では6000件が採取され、ドーピング違反は6件

MPCCによると、トップレベルのスポーツはドーピング撲滅のために相当なリソースを投入する必要性を無視できないと指摘している。今回の五輪では、全参加者の約40%にあたる4150人の選手から約6000のサンプルが採取された。これらの検査で明らかになった ADRV(アンチドーピング規則違反)はわずか6件で、すぐに暫定的な資格停止処分となった。

6000サンプルで薬物陽性を突き止めたのは6という数字は馬鹿げているように思えるかもしれないが、分析研究所の調査員とスタッフは、まだ何千件ものケースを処理中で、今後数カ月でさらに新たなケースが明らかになる可能性が高い。

五輪期間中、スポーツ仲裁裁判所(CAS)は検査官の仕事に加え、フランスの首都に2つの臨時事務所を設置した。そのうちの1つは、発覚したドーピング事件に迅速に対処することに専念していた。強い政治的意志、十分な資源、そしてドーピングに対する妥協のない姿勢があれば、不正行為を抑制できるという意思を感じさせた。

競技別で最もドーピングが多いのは陸上、国別ではインド

とはいえ、2024年は数々の事件で特徴づけられる年となった。2021年の陽性検査が世界アンチ・ドーピング機構(WADA)によって隠蔽されたとされる中国水泳選手事件、この事件について連邦捜査を開始した米国の政治的反応、そして関係国が自国の法律を世界規程に沿わせようと奮闘する中、いくつかの国家アンチ・ドーピング機関が資格停止となった事件などである。

MPCCの国別・競技別不正リストは3回目。2024年1月1日から9月30日までの件数だ。競技別のトップは陸上競技で、重量挙げ、パワーリフティング、ラグビー、MMA(総合格闘技)、テニス、柔道、ボクシングと続く。国別ではインド、ロシア、ケニアの順。日本は0。

クリーンな自転車競技を目指す団体「MPCC=信頼ある自転車競技のための運動」公式リリースより。

●MPCCのホームページ