同年にジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、世界選手権の三冠を達成した史上3人目の選手、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEエミレーツ)が2024年10月12日にイタリアで開催された第118回イルロンバルディアで大会4連覇した。
ベルガモ〜コモ間の255kmで行われたイルロンバルディアでポガチャルが独走 ©Tim de Waele/POOL Getty Images
世界チャンピオンの称号である5色の虹色ジャージ、アルカンシエルを着用したポガチャルは48kmを独走してフィニッシュした。2位は3分16秒遅れでレムコ・エベネプール(ベルギー、スーダルクイックステップ)、3位は4分31秒遅れでジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック)。
アルカンシエルを着るポガチャルがイルロンバルディアでアタック ©Luca Bettini/POOL Sprint Cycling Agency
世界チャンピオンジャージで勝つことはアメイジング!
「完璧なシーズンだった。2024年の初レースで優勝したストラーデ・ビアンケと同じように勝利を祝うことを選んだ。すべての勝利は特別なものだけど、このジャージを着て勝つことは素晴らしい」とポガチャル。
「沿道で応援してくれるサポーターがとてもよかったので、レースの一瞬一瞬を楽しめた。チームは完璧な仕事をしてくれた。彼らはみな素晴らしいプロフェッショナルで、シーズンを通して彼らのサポートは最高だった。レムコ・エベネプールも素晴らしいレースをした。私は将来彼がイルロンバルディアに勝つことができると感じている」
イルロンバルディア優勝のポガチャル(右)と2位レムコ・エベネプール ©Marco Alpozzi/LaPresse
2024シーズンを最高の形でを締めくくったポガチャルは、翌日からホリデーシーズンを取り、その後、2025年のターゲットを考えていきたいという。
ポガチャルが独走でコモにゴール ©Spada/LaPresse
決定的アタックから独走でフィニッシュする実力者
2024シーズンのポガチャルは圧巻の走りを見せつけた。ストラーデビアンケで勝利し、ボルタ・ア・カタルーニャでステージ4勝と総合優勝。最古のレース、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝。初出場のジロ・デ・イタリアでステージ6勝と総合優勝。ツール・ド・フランスでは3年ぶり3度目の総合優勝とステージ6勝。2024パリ五輪はツール・ド・フランス直後だけにパスしたが、北米のグランプリモンレアルで勝ち、世界選手権ロードで独走勝利。さらにジロ・デレミリア、イルロンバルディアで勝利した。
ポガチャルが愛車コルナゴを掲げてフィニッシュ ©LaPresse
自転車競技史上最強の霊長類、いや宇宙人
2024シーズンは初出場のジロ・デ・イタリアで区間6勝し、第2ステージで首位に立つと、一度もその座を譲り渡すことなく初優勝を遂げた。初日こそイネオスグレナディアーズのジョナタン・ナルバエス(エクアドル)ら3選手のゴール勝負で3位になったポガチャルだが、翌日の第2ステージで独走勝利して首位に。第7ステージの個人タイムトライアルもトップタイムで優勝し、総合2位との差を広げた。さらに翌日の山岳区間をはじめとして15、16、20ステージと過酷な区間で独走し、終わってみれば2位に9分56秒の大差をつけて総合優勝。区間6勝はあのエディ・メルクス以来の記録であり、20日間にわたってマリアローザを着用したこともメルクスと肩を並べる偉業だった。
ポガチャルが2024ジロ・デ・イタリアでステージ6勝目 ©LaPresse
シーズン前からジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスを連覇するダブルツール達成を最大の目標に掲げていたポガチャルは、続くツール・ド・フランスでも圧倒的な強さを見せつけた。。
「もしかしたらこのジロ・デ・イタリアで僕も人間としてステップアップできたのかもしれない」とポガチャル。
2024ツール・ド・フランスで表彰台の登壇を待つポガチャル ©A.S.O. Charly Lopez
ポガチャルの名前が知られるようになったのは2019年のブエルタ・ア・エスパーニャだ。その大会では同じスロベニアのプリモシュ・ログリッチが大会3連覇を達成して話題をさらった。もう1人のスロベニア選手として頭角を現したポガチャルは区間3勝と活躍し、いきなり総合3位になった。第9ステージで初勝利したときは、「最終日の表彰台でログリッチの隣に立てたらうれしい」と夢を語ったが、それを実現してしまうことになる。
スロベニアの格下チームに所属していた2018年にアマチュア版ツール・ド・フランスと言われるツール・ド・ラブニールで総合優勝。2019年にUAEエミレーツに移籍し、このブエルタ・ア・エスパーニャがグランツール初参戦だった。
2019ブエルタ・ア・エスパーニャの第9ステージ。ピレネー山中の小国アンドラで開催されたレースは雷雨に見舞われる厳しい闘いとなったが、ポガチャルが有力選手の集団から抜け出して初優勝する。この大会最年少の20歳が三大ステージレース初優勝を遂げた日だった。
「天気予報で雨が降ると聞いてこのステージをねらっていた。自分にとってはそれがチャンスで、計画通りに勝利をつかむことができてうれしい」とポガチャル。
ポガチャルがイルロンバルディアで4連覇 ©Marco Alpozzi/LaPresse
さらに第13ステージ、峠の頂上にゴールが設定されている難関区間で首位ログリッチとポガチャルのスロベニア勢が抜け出した。最後はポガチャルが先着して、第9ステージに続く2勝目を挙げた。タイム差なしの2位になったログリッチはライバル選手との差をさらに広げ、ここで総合優勝に一歩前進した。
「この日はリタイアすることなく生き残ろうと思っていた。まさか最後にこんな調子がよくなるなんて思わなかった」とメジャー初出場にして2勝目を挙げたポガチャル。総合成績で前日の5位から3位に浮上。さらに新人賞でトップに躍り出て純白のリーダージャージを獲得した。
大会最後の山岳となった第20ステージでもポガチャルが独走を決めて、第9、13ステージに続く大会3勝目を挙げた。翌日の最終日は平たん区間なので、ログリッチの初優勝もここで決まった。
「多くのスロベニアファンがボクに声援を送ってくれた」とポガチャル。
「区間3勝を挙げ、最終日の表彰台にスゴい選手たちと立てるなんて夢のようだった」
2023ツール・ド・フランスさいたまのアート展会場でご満悦のポガチャル ©A.S.O. Thomas Maheux
25歳でツール・ド・フランス3勝…最多記録の更新もその先に
スロベニアはかつての社会主義国、ユーゴスラビアから1991年に独立した小国だ。しかし自転車界では一気に強豪国に。それをけん引するのがポガチャルだ。近年の自転車レースは高速化と専門性が顕著になり、1日レースで優勝をねらうタイプと2日以上の大会日程で総合優勝を争うタイプに分けられてきた。ツール・ド・フランスのように23日間の長丁場で頂点をねらうなら1日レースは視野に入れず調整することが常套手段となった。
23日間の長丁場で表彰台に立てるポガチャルはまさに後者のタイプと思われていた。グランツールは出場7回で総合優勝4回。他の3回も全て3位までの表彰台に乗っている。ところが2021年、ポガチャルは1日レースの伝統大会、春のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(ベルギー)、秋のイルロンバルディア(イタリア)で優勝。近年の傾向を完全に打ち破る成績を修めた。
1日レースでも複数日レースでも暴れまくったのがかつてのメルクスだ。ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスで5勝、1日レースの最高峰である世界選手権で4勝。春先に開催される伝統の1日レースも総ナメにして、その強さから「人食い鬼」とさえ呼ばれた。これまでメルクスは「自らと並び立つ現役選手は?」の問いに答えなかったが、イルロンバルディアの優勝後にポガチャルの名前を口にした。
マイヨジョーヌのポガチャルが第8ステージを走る ©A.S.O. Pauline Ballet
そのコメントはポガチャル自身の耳にも入り、「彼がそう言うならボクは自転車競技の新たな歴史を作れるように頑張る」とさらに積極性を高めた。
ツール・ド・フランス最多となる5勝を記録した選手は過去に4人いるが、5勝目はいずれも30歳前後。ところがポガチャルは25歳で3勝を挙げてしまった。その先にはまだ相当の時間がある。メルクスを超える最強選手となるのか? 人喰い鬼を超えるあだ名はあるのか? 欧州各紙はたまにポガチャルのことを宇宙人と見出しに書き立てることがある。
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