サイクリング途中で自転車仲間が落車して大ケガをしてしまったら、落ち着いて的確な応急処置ができるだろうか。擦過傷はなんとかなるが、ヘルメットが破損するほど頭部を強打したり、身体のどこかが骨折していたり。いざというときのために講習会で実習するなどの必要性を痛切に感じている。
自転車の落車事故に特化した救急救命
自転車の落車事故で想定される外傷を伴った事故に対しての応急処置を学ぶ「サイクルセイフティサミット」が12月25日に神奈川県の向ヶ丘自動車学校で行われた。実際の事故現場さながらの状況を再現して、その中で応急処置を行っていく訓練だ。
「自転車人気で新規参加者とイベントが増加し、それに伴って重傷事故も増加傾向にある。落車事故が発生したときに、的確な対応ができる自転車関係者を増やしたい」と鹿屋体育大自転車競技部卒の安藤隼人さん(スマートコーチング代表)が活動を始めた。
実際の講習会では、救急救命の流れを4つに区切り、それぞれの実習が行われた。講習会はまる1日の密度ある内容で、少人数のグループに分かれてだれもがひととおりの実習を体験。現場を何度も経験している医師や救急救命士にそのやり方を直接教わり、真剣な表情でこなしていた。
●自転車落車時の救急救命の流れ
1)安全確保と状況判断
・救護に入る前に接近車両や後続者に異常を知らせて二次災害を防ぐ
・出血による感染症対策としてゴム手袋やビニール袋を装着
・冷静に状況を判断し、必要な場合は119番通報する
2)初期評価とCPR
・頚椎保護をしながら声をかける。
・気道、呼吸、循環(脈)を確認する
・必要なら心臓蘇生(CPR)を行う
・AEDがあれば必要に応じてそれを使用
3)全身観察と詳細観察
・そのほかにもケガをしているところがないか調べる
・継続的に気道、呼吸、循環、意識を確認しながら救急車を待つ
・救急救命士が到着した際に痛がっている部分を伝えられるように記憶
4)処置と搬送
・熱中症は体を冷やす。低体温症は温める
・出血している場合は圧迫するなどで止血する
・脊椎を固定した状態で安全な場所、救急車が到着する場所へ搬送
もちろん文章で「こんなときにはこうしたらいい」という知識を頭の中に記憶している人もいるだろう。しかし実際の現場に遭遇するとはたしてどれだけ手際よく救急救命ができるだろうか?
実際に体験してやるべきことを学ぶ
今回の参加者は自転車イベントの主催者や自転車ショップを母体とするチームのリーダーも多かったが、事故を想定した状況を設定して、「さあ、どうするんですか?」と問われると戸惑う人ばかりだった。
それでも指導する救急隊員や救護経験豊富な医師にアドバイスされてなんとかやり遂げる。おそらくもし万一ほんとうの事故に遭遇しても、もうあわてることは少ないはずだ。身をもって体験しておくことの重要性を痛感した。
夏場は熱中症でダウンしてしまうサイクリストもいるかもしれない。軽い症状なら目まいや大量の発汗、筋肉の硬直が見られる。頭痛や嘔吐、判断力低下なら重症だ。こういった場合身体を冷やすことが基本で、衣服を脱がし、生ぬるい水でびっしょり濡らし扇いで風を当てる。氷のうがあれば脇の下・首・鼠径部(そけいぶ)に当てる。一度でも体験しておけば、いざというときに的確に対応できるはずだ。
今後もこういった救急救命講座は開催されるはずで、イベント主催者やクラブチームの責任者のみならず仲間と一緒に走るサイクリストの多くが体験しておくといいと感じた。