みなさん、こんにちは。初めまして、未踏峰遠征隊の尾高涼哉です。今回は、これまで、国内で行ってきたトレーニングを紹介したいと思います! 前回の記事もぜひご覧ください!
素早いロープ扱い、チームワーク、対応能力が求められる
今回目指す未踏峰であるプンギでは、おそらく、ほぼ確実に、高さ数百mの垂壁は出てきません。その点では、山頂にたどり着くには、高度なクライミング能力よりも、高所でラッセルを行う体力や、雪稜通過技術の方が求められる可能性が高いでしょう。
しかし、一方で、かなり傾斜の強い、氷化した雪面や、稜線上で露出した岩頭など、ロープを使うシチュエーションはいくつか考えられます。そうしたことを踏まえると、ロープの扱いに習熟し、それを使いながら素早く行動できることは非常に重要で、ほぼ必須条件と言えます。また、チームワークの強化や、2カ月一緒に遠征してもストレスが溜まらないように、メンバー同士が「仲良く」なるという点から、可能な限り、日数を増やして一緒に山にいるようにしました。
2023年秋は山でのクライミングに焦点を合わせ、数回のトレーニング山行を行い、冬には、劔などある程度スケールがあって体力が求められる山や、登攀能力が求められる山へ行き、自分たちの対応能力の幅を広げることに注力しました。
北岳バットレス 第四尾根(2023/9/30-10/1, メンバー:尾高, 井之上) 瑞牆 山河微笑(2023/10/2, メンバー:尾高, 井之上) 錫杖 注文の多い料理店, 見張り塔からずっと(2023/10/12, メンバー:尾高, 井之上,中沢) 屏風岩 雲稜ルート(2023/10/16-17, メンバー:尾高, 井之上, 横道) 八ヶ岳 定着合宿(2024/1/5-9, メンバー: 尾高, 井之上, 中沢, 横道, 芦沢) 中山尾根(井之上,尾高) 阿弥陀北稜(横道,芦沢,青山) 大同心大滝(井之上, 尾高) 赤岳主稜(横道,芦沢,青山) 南沢大滝(尾高,井之上,沼田) 赤岳主稜(横道,青山) 裏同心ルンゼ・小同心クラック(芦沢,沼田) 阿弥陀北西稜(井之上,尾高) 南沢小滝(横道,芦沢) 蓮華岳 東尾根(2024/2/2-3,メンバー: 尾高, 井之上,中沢,横道) 層雲峡 銀河の滝(2024/2/9,メンバー: 尾高, 井之上) 剱岳 早月尾根(2024/2/13-17, メンバー: 井之上,尾高,中沢,芦沢,横道) 旭岳東稜(2024/2/27-28, メンバー: 井之上,尾高,中沢)
以下、山行をピックアップして紹介します!
錫杖岳(注文の多い料理店、見張り塔からずっと)
2023/10/12-13 メンバー: 尾高、井之上、中沢(注文のみ)
注文の多い料理店は現代的で快適なクライミング。スムーズに登ることができた。見張り塔はピッチ数が多く、核心の5.9のピッチは濡れていたが、問題なく完登。
屏風岩雲稜ルート
2023/10/16-17 メンバー: 尾高、井之上、横道
核心は朝イチの極寒渡渉(靴を脱いで裸足で川を渡る)。10月半ばと時期が遅かったため水温が低く、叫びながら渡渉した。1日目は4ピッチ(1ピッチは大体50mほど)ロープを延ばし、T4テラスにて幕営。リード(一番最初に登る人)は空荷でセカンド以降は荷物を担いで登った。井之上は3人分の幕営具が入ったザック(30kgぐらい)を担いでユマーリングした。T4テラスは蝶ヶ岳などの山並みが見渡せる上、貸切であったためとても快適。
本格的な登攀は2日目から。夜間に降雨があったため、壁が乾くのを待ってから出発。それぞれ担当したピッチを安定した登りで登り切った。5P目終了点より懸垂下降(ロープを使った下降方法)で帰る。しかし、下山が遅れていたため、上高地に着いたのは20時半頃。とっくにバスもタクシーもない。仕方ないので、車を停めていた沢渡まで歩く。沢渡に着いたのは23時前。松本でラーメンを食べて帰った。
八ヶ岳
2024/1/5-9
行くメンバーもルートも入山日もバラバラで、各自登りたいルートを登った。
大同心大滝
2024/1/5 メンバー: 尾高、井之上
裏同心ルンゼを登るつもりで適当なトレースを辿っていくと、デカい氷瀑の基部へ着く。早速登り始めるが、普通に悪い。上部はほぼバーティカルであった。2人で交代しながらなんとかトップアウト。氷瀑から滴る水で全身ずぶ濡れになった上に、それがカチカチに凍り、まるで氷の鎧を纏っているようだった。結局、下山後に調べたところ、裏同心大滝だと思っていた氷瀑は、大同心大滝だった。
阿弥陀北西稜
2024/1/9 メンバー: 尾高、井之上
トポの図が分かりづらく、アプローチにやや手こずる。適当な沢から尾根へと上がり、簡単な岩稜を進むと1ピッチ目へ。核心は3ピッチ目だと思っていたが、1ピッチ、50mいっぱいロープを延ばすと、核心下へたどり着いてしまう。目論見とは違い、井之上が核心を担当することとなった。残念なような、少しホッとするような。
ビレイをセットし、やや緊張した面持ちで井之上が登り始める。私は井之上が登り終えるまでは、しばらくビレイをしながら待機だ。
北西面を登っているので、もう昼前に近いのに、全く陽が当たらない。標高3000m近い稜線で風も相当強いので猛烈に寒い。ビレイジャケットのフードを被り、口を覆ってなんとか耐える。正月の穂高で指先が軽い凍傷になったことを思い出し、まだ少し違和感の残る指先を絶えず動かして血流を送る。ただ、そんな状況でも、空は快晴、陽に照らされた赤岳の壮麗な姿が見える。綺麗だなと思う。
そんなこんなで、井之上が登り始めて数十分経っただろうか、ロープが全く出なくなった。いろいろ試してみてはいるが、なかなか難しいようだ。やがて選手交代のコール。井之上がいったん降りて、クライマーを私に交代する。正直、途中から若干覚悟しており、このままいたら、寒さで気が狂いそうだったので、むしろありがたかった。
ビレイジャケットを脱いで、登り始める。寒さで震えるが、壁を登っているといい具合に温まってくる。全身の感覚が研ぎ澄まされるような、鋭い冬の寒さは嫌いではない。
やがて、井之上が止まったセクションへ。ここはサイドホールドを使ったバランシーなムーブでなんとか突破。そこから先、左上するラインはホールドがなくて悪そう。どうにも行き詰まってしまったのでテンション。ムーブを探る。結局右上ラインに活路を求める。適当に雪をほじくってみたところ、アックスの先端が引っかかりそうなエッジを発見! そこから右側に繋げればなんとか行けそうだ。プロテクションも安定しているので思い切ってエッジにアックスでフッキングする。そして、アックス先端の刃の角度をずらさないようにして、凍った草付きへアックスを叩き込む。止まった。先端しか刺さっていないので、抜けそうで怖いが、信じて、体重をかける。抜けない、しっかり効いている。もう片方のアックスも草付きへ決めて、体を持ち上げてトップアウト。そして終了点へ。久方ぶりの陽光に照らされる。井之上も無事フォローで登ってきて、簡単なコンテで山頂へ。少し山頂で行動食を取り、下降した。
早月尾根
2024/2/13-17 メンバー: 井之上、尾高、中沢、横道、芦沢
メンバー全員が揃う数少ない山行。ルートのスケールもプンギに近く、本番のタクティクスなどを確認するため、冬の剱岳早月尾根へ向かった。
1日目 冬の剱岳は、まず長い林道から始まる。当然他の入山者などいるはずもないので、林道からひたすらラッセル。10kmほど林道を歩き、登山口の馬場島に到着。この日は、少し上がって松尾平で幕営した。
2日目 この日はひたすらラッセル。標高2000m付近で3時間程度かけて雪洞を掘り、翌日の降雨に備える。
3日目 雨。雪洞内で1日過ごす。
4日目 早月小屋まで上がり、AC(アタックキャンプ)を設営。井之上、中沢、芦沢は偵察兼ルート工作へ。
5日目 いよいよ山頂へ向け、アタック。よく締まった雪を順調に進んでいく。途中2回ほどロープを出し、無事山頂へ立った。下降は早く、その日の夜に車を停めてある伊折ゲートへ下山。
剱岳に登る。写真中央部に2人が登ってるのが見える
2月の早月尾根合宿にて。左から時計回りに井之上、芦沢、尾高、横道、中沢
隊員名簿
尾高涼哉 (おだかりょうや) 役職:登攀隊長、装備サブ 所属:東京大学運動会スキー山岳部(部内学年4年 主将) 実績:屏風岩雲稜ルート(無雪)、錫杖岳注文/見張り棟(無雪)、河又小作人5.11cRP、南ア主稜線縦走(2月-3月)、南岳西尾根(12月)、錫杖岳3ルンゼ(1月)
ヒマラヤ未踏峰に挑む特集サイト(Contents一覧)
中沢将大、横道文哉、井之上巧磨、尾高涼哉、芦沢太陽。羽田空港にて
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