【GARMIN ForeAthlete 935 インプレ後編】ラン用デバイスを登山や自転車で使ってみた

ランニング用ウォッチのForeAthlete(フォアアスリート)935はランニングフォームの解析に役立つだけではなく、搭載されたGPSと光学式心拍計を駆使してさまざまなアウトドアアクティビティに活用できる。インプレ後編ではサイクリングと登山に使ってみた。

実走中の高低マップ。まずは標高1494mの峠をクリア。獲得標高は現在829m

最高機種なのであらゆるアクティビティに使える

数あるスポーツウォッチの中で持久系スポーツやアウトドアライフを充実させたいという目的で選択するなら、このForeAthlete 935のように心拍計とGPS機能を兼ね備えたモデルがいい。手首で計測できる光学式心拍計はわずらわしさがなく、継続的に練習するぞというモチベーションを長く維持させてくれる。胸にセンサーベルトを着ける心拍計のほうが正確なデータが取得できるといわれるが、一般向けには手首計測のほうがおすすめである。

そしてトレーニング成果をGPSによって取得し、それを心拍の変化と照らし合わせることで自分の苦手としている部分が分かるかも知れないし、さらなるステップアップのための指針になるはずだ。

西上州のぶどう峠。デバイス上に頂上までどれくらいか表示されるので本当に心強かった
パソコンのgaminconnect.comサイトで地図に通過点を打ち込んでいき、登山コースを作成する
丹沢の塔ノ岳までの登山コースを作成。予想タイムを入力しておくとそれに対する先行/遅延がデバイスで分かる
パソコンでコースを作成したらチャージングケーブルでデバイスに転送しておく

ForeAthlete 935はGPS/GLONASS/みちびき衛星に対応しているので、高層ビルに囲まれた都心部や谷間など環境が厳しい場所でも正確な位置を捕捉することが可能だ。ランニング用ウォッチでありながら気圧計が内蔵されていて、高度情報をリアルタイムで表示することもできる。ラン、自転車、水泳、トライアスロンのみならずハイキング、ボート、ゴルフ、スキー、SUPなどのアクティビティにも対応している。

屋外でのGPS衛星信号補足は最高レベルだ。ランニングで直径10mの環状交差点(ロータリー)をグルッと回ってみて、走り終わった後にスマホのGamin Connect Mobileアプリに取り込み、パソコンのgaminconnect.comサイトで確認してみると、実走ルートが三角形になっていた。10秒ほどでロータリーを1周したのでおそらく3秒ごとに現在位置を捕捉して記録していくのだろう。

スタートしてぶどう峠まで12.67kmを走行。所要時間は1時間24分15秒
設定時間よりも大幅に遅れているが、ここまで激しい上りだったので下りで巻き返せばいい

このツラい上りがあとどれくらいで終わるかが分かる!

サイクリングの活用方法の1つとしては、定番コースをGPSで記録し、タイム計測して練習成果をはかることが挙げられる。Garmin Connectサイトでコースを作成することもできるので、それをGSPウォッチに送り込んで記録計測することは意外と簡単。トレーニングでもいいし、景色を楽しむサイクリングでもいい。

今回は山岳サイクリストの聖地といわれる西上州の上野村にある2つの峠をパスする全長75kmのコースを事前にGarmin Connectサイト地図で作成し、それをGSPウォッチに送って実走することに。その先の高低差はどうなっているのか、峠の頂上やゴールまではあとどのくらいか、ゴールの到着時間は何時何分かなどが表示される。さらには目標タイムを設定しておけば、それに対してどのくらい遅れているのか先行しているのか、つまりパーソナルなペースメーカーになってくれるのである。

緑が予定コース。黒が実走コース。ゴールまであと66.6kmだ
この日2つ目の峠に突入する前にコンビニで補給。なんとかギリギリ体力が続くかなあ?
この日2つ目の十石峠に到着。最新デバイスの性能をいかんなく発揮して楽しくサイクリング

パソコンのGarmin Connectサイトでコース作成をしてみよう。「コース」という項目の歯車マーク(設定の意味)をプルダウンすると「コースの作成」という項目があるのでこれを選択する。Googleマップが出現するのでスタート地点を設定し、走行予定の道路をたどってゴールまで赤く表示されるルートを引く。その作業が完了したら名前を付けて「保存」する。高低表も自動的に地図下に表示されるので、上り坂の難易度が分かるのがうれしい。

作成が終わったら「デバイスへの送信」をクリックする。もちろんその前にデバイス(本体)とGarmin Connectのペアリングを済ませ、Bluetooth機能を立ち上げておく必要がある。パソコンならBluetoothのほかにANT+やデバイス充電時に使用するUSBチャージングケーブルで同期ができる。デバイスへの送信が済むと、本体画面にコースの名前が表示されるので、それを選択して出発とともにスタートボタンを押す。それと同時にGPSを補足してデータを取り始めるので、走ったあとは実績を確認することができる。

GPSによって現在位置が特定されていくのだから、作成した地図上のゴールまでの残り距離や予想到着時間が算出される。それがこの機能のメリットだ。つまり「峠まで」「ゴールまで」あとどのくらいかというのが把握できるのだ。こうしてコースを走破したら、それが実績としてGarmin Connectに記録されるので、毎年参加するイベントやお気に入りのルートでペース配分に不安を抱くことはないだろう。

西上州サイクリングの実績をスマホのGamin Connect Mobileアプリでチェック
西上州サイクリングの実走コースをパソコンのgaminconnect.comサイトでチェック
直径10mのロータリーを10秒ほどで走ってみるとこんな感じだった
塔ノ岳登山ルートも作成してスマホのGamin Connect Mobileアプリで確認

冒険の思い出がデータとして残るのがうれしい

実際にやってみるとこれがじつにいい。青色の高低マップは走った部分が緑色に変化していくので、峠の頂上まであとどのくらい上ればいいかが把握できる。これまで「あのコーナーを曲がれば頂上かな?」なんて淡い期待を何度も裏切られた経験があるので、これは安心。その先の情報が分かれば体力のコントロールも容易にできる。

丹沢の塔ノ岳登山でも地図を作成して使ってみたが、高低マップは同様にかなり使える。さらに、登山やハイキングモードでは積算の獲得標高が表示されるようになるので、これまでどのくらい上ったか、あとどのくらい上ればいいかがグラフと数字でチェックできる。インプレ記者は泳げないのでスイムには使えなかったが、内蔵される加速度センサーによって泳法を特定し、ストローク数やターン回数、休憩時間などがデータ取得できるらしい。 ForeAthlete 935はもはや単なるランニング用ウォッチではなく、マルチスポーツに対応する最新デバイスなのである。

登山モード。スタートからの距離、所要時間を表示。立ち止まっているのでスピードは0
ラップは距離と時間で自動的に区切ることができる。ペース変化をあとでチェックするときに便利
登山時の無理ないペースメークのために心拍数を常にチェックする
実走ルートの高低差の推移をデバイス上で確認する。これは下山時のもの
塔ノ岳までの実走ルートの高低差をデバイス上で確認する。やっぱり上りはキツい
登山時の心拍レベル。登山は緑色のゾーン3あたりで上るのがいいと思う

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あとに続く道を作っておきたい…レッドブル・クラッシュドアイスに挑んだ鈴木雅仁

元プロアイスホッケー選手、35歳の鈴木雅仁がレッドブル・クラッシュドアイス最終戦ボストン大会に参戦。83位という成績を残し、2018-19世界選手権シリーズで男子総合35位になった。

レッドブル・クラッシュドアイス最終戦ボストン大会で場進出を阻まれた鈴木雅仁

高校時代はインターハイ3連覇、大学でインカレ4連覇。アジアリーグでは日本、中国、韓国のチームに所属し、12シーズンで4回の優勝、米国NHLのトライアウト経験があるアイスホッケー界のエリートだ。昨シーズンまで韓国のアニャンハルラに所属していたが、一時は歩行困難になるほどのケガによりチームを離脱。新たな活躍の場としてレッドブル・クラッシュドアイスに挑戦した。

ボストン大会に日本からは、横浜で決勝に進出した山本純子、安床武士、山内斗真、吉田安里紗に加えて、横浜大会後にヨーロッパで開催されたATSX500、ATSX250、ATSX100の大会を転戦し、ポイントを獲得して出場権を獲得した鈴木が加わる。

ただし予選となるタイムトライアルでは2本ともミスでタイムが伸びない。LCQと呼ばれる敗者復活戦に最後の望みをかけて出走。最初のスタートはうまく決められたが、エッジが氷面に嫌われて後退。最後まで挽回できずに4人同走の4着で1回戦敗退した。

「やはりちょっと悔しいですけど、これが今の現実です。条件が整えばまた参加したいですが、フェンウェイパークという100年以上の歴史がある野球場で走れたということがいい思い出になると思います。ありがとうございます」と鈴木は公式インタビューで感謝の言葉を伝えた。

鈴木雅仁は2019年1月のATSX250オーストリア大会で4位になった ©Red Bull Content Pool

完敗の原因を「筋肉が弱いですね」と冷静に分析する。しかしそれは仕方ないことだ。プロのアイスホッケー選手として韓国リーグで戦っているときに、太ももの内側にある内転筋を断裂。普通の生活ができるようになったのは直前のことだ。

内転筋が切れてからも無理やりプレーをしていたというが、失意のうちに韓国から帰国し、リハビリに専念することを余儀なくされた。ところがリハビリの途中に今度は坐骨神経痛に見舞われ。歩行も困難になってしまう。

そんなとき、以前から興味があったレッドブル・クラッシュドアイスが横浜で開催されるニュースが舞い込んだ。

「いいタイミングでした。まあチャレンジしてダメだったらスポーツはあきらめようと思っていました」

練習会に参加し、徐々にアスリートとしてのキレを取り戻し、本大会の出場を果たすことになる。ただし初挑戦の横浜大会は本人としてふがいない成績に終わる。

アイスクロス・ダウンヒルは数年前から知っていたし、結構早い段階から興味もあった。

「ですけれど、アイスホッケー選手としてチームと契約していたし、やはりハイリスクです。もしケガをしたら企業もチームもそんな選手を雇うわけにはいかないですから」

ボストン大会の直前に行われた大会では日本勢男子で初めてファイナルに進出し、4位という好成績を修めた。だから最終戦のボストンにかける意気込みは強かった。それだけにファイナルを逃したことが悔やまれる。メジャーリーグの伝統ある野球場はファイナルが行われた大会2日目は盛り上がっていた。こんな最高の雰囲気の中を走りたかったのはいうまでもない。

「走りたかったですね。スタートがいいのは何戦か参加していくうちにまずまずだと分かっていた。あとは安定した走れないのが課題です」

練習時間がやはり強豪選手に比べて圧倒的に少ないという。練習できる環境に自分の生活を持っていけていない。アイスホッケー時代の貯金で遠征費を捻出し、スポンサー探しをするがそう簡単にはいかない。

「他選手は定職についてる人ばかりですが、ボクは無職。現実としてこのスポーツでプロアスリートとなれないのはわかっています」

鈴木雅仁はLCQ(敗者復活戦)で敗退し悲願のファイナル進出ならず

アイスホッケーほどスタミナが必要ではない。重要なのはそれよりもスキル、そしてそれを磨き上げる練習環境だ。当然、日本に常設アイストラックはない。

日本でアイスホッケーをやっている選手たちの現状も厳しいという。大学アイスホッケー部の所属選手も行き先を失い、社会人としては競技と離れた道を選択せざるを得ない。

「でも、これからの生き方ってもしかしたら違うかもしれません。クラッシュドアイスで若いうちからこれだけ世界中の選手と仲良くなれば、もしかしたらまた違ったチャンスに出会うことができ、これまでにない可能性がある。ボクは絶対そう思っています」

2018年10月に長男が誕生。ボストン大会の時点でまだ4カ月だ。 「父親として夢をあきらめたって言いたくはないですよ。ただ選手としてのボクはこの先、それほど長くないので、今は後身にいろんなこと残してあげられるように頑張っていきたい」

鈴木雅仁 ©Lisa-Marie Reiter / Red Bull Content Pool

地元米国のキャメロン・ナーズが優勝…レッドブル・クラッシュドアイス最終戦ボストン大会

アイスホッケー、ダウンヒルスキー、そしてスノーボードクロスの要素を取り入れたアイスクロス・ダウンヒル競技の世界選手権ATSXIceCross DownhillWorld Championship。その最上位カテゴリーの大会、ATSX 1000 Red Bull Crashed Iceのシーズン第3戦が2月8(金)・9日(土)に米国ボストンにあるメジャーリーグ最古の球場「フェンウェイパーク」で開催された。

キャメロン・ナーズがスコット・クロクソールを決勝で振り切った ©Andreas Langreiter / Red Bull Content Pool

前週に行われた第2戦ユバスキュラ大会(フィンランド)から1週間。早くも開催された第3戦のボストン大会にはユバスキュラ大会と同様に、日本歴代最多出場の山本純子、昨シーズンから参戦している安床武士に加え、横浜大会から参戦している元プロアイスホッケー選手の鈴木雅仁、同志社大アイスホッケー部所属の山内斗真、そして安床の愛弟子で現役高校生の吉田安里沙の計5名が出場。

初日にタイムトライアルが行われ、女子は一発決勝進出の4位まで、LCQ(Last Chance Qualifier)の出場枠20位までを争う。吉田は21位で敗退するも、山本は順当に準決勝まで駒を進めた。しかしレース序盤での転倒が響き、7位で大会を終えている。

予選上位64名が決勝進出する男子で日本勢は決勝進出こそならなかったが、ジュニア部門で山内が見事3位に輝き、日本人初の表彰台に上った。

男子のファイナルは前シリーズのワールドチャンピオンであるスコット・クロクソール(カナダ)と、一昨年のワールドチャンピオンであるキャメロン・ナーズ(米国)の対決。スタートでトップに立ったナーズは、圧巻の滑りでトップをキープ。2位の好位置につけていたクロクソールは終盤での転倒があり惜しくも3位に。終始危なげなくレース展開したナーズが今シーズン2度目の優勝を修めた。

大会の様子はRed Bull TVで視聴できる。

女子セミファイナルで山本純子は最後尾からアマンダ・トルンゾらを追撃 ©Lisa-Marie Reiter / Red Bull Content Pool

■ATSX 1000 Red Bull Crashed Ice(ATSX1000レッドブル・クラッシュドアイス)
アイスホッケー、ダウンヒルスキー、そしてスキークロスやスノーボードクロスの要素を取り入れた競技“アイスクロス・ダウンヒル”の大会。アイスホッケーのプロテクターを付けた選手が、最高時速80kmに達する中、街中に設置された高低差のある全長最大約600mの氷の特設コースを一斉に滑り降りる。

レースは1ヒート4選手で行い、選手たちがコース途中に設置されたヘアピンカーブやバンクコーナー、連続バンプや段差などの障害物をかわしながら、猛スピードでコースを駆け抜ける。

2001年初開催、2010年より世界選手権として開催し、2018年12月に50回目の大会を横浜で開催(アジア初)。世界選手権はこれまでレッドブル主催のRed Bull Crashed Iceと選手主体で開催するRiders Cupの2カテゴリーで開催してきたが、今シーズンよりATSX(All Terrain Skate Cross)連盟のもと、Red Bull Crashed Iceを優勝者が1000 ポイント獲得できる最上位の大会ATSX1000 とし、その下の3カテゴリーATSX500、ATSX250、ATSX100を含めてATSX Ice Cross Downhill World Championship(ATSXアイスクロスダウンヒル・ワールドチャンピオンシップ)として開催している。

100年以上の歴史を持つフェンウェイパーク野球場にクラッシュドアイスの選手たちが集結 ©Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

■Red Bull Crashed Ice第3戦ボストン大会結果
男子

1位 キャメロン・ナーズ(米国)
2位 ルカ・ダルラーゴ(オーストリア)
3位 スコット・クロクソール(カナダ)
66位 山内斗真(やまうちとうま)
69位 安床武士(やすとこたけし)
83位 鈴木雅仁(すずきまさひと)

左から山内斗真、鈴木雅仁、安床武士

女子
1位 アマンダ・トルンゾ(米国)
2位 ミリアム・トレパニエ(カナダ)
3位 タマラ・ミュイッセン(米国)
7位 山本純子(やまもとじゅんこ)
21位 吉田安里沙(よしだありさ)

山本純子(左)と吉田安里沙

■ATSX 1000 Red Bull Crashed Ice日程と会場
2018年12月7(金)・8日(土)横浜(日本)・・・終了
2019年2月2日(土)ユバスキュラ(フィンランド)・・・終了
2月8(金)・9日(土)ボストン(米国)・・・終了

山本純子が7位入賞で世界ランキング6位に浮上…レッドブル・クラッシュドアイス最終戦ボストン大会

アイスクロス・ダウンヒル世界選手権の最上位カテゴリー大会であるレッドブル・クラッシュドアイスは全3戦で展開するシーズン最終戦を2月8、9日に米国ボストンで開催し、男女を含めて日本勢で唯一ファイナルに進出した山本純子が7位に。世界ランキングを6位に浮上させた。

女子セミファイナルで山本純子は最後尾からアマンダ・トルンゾらを追撃 ©Lisa-Marie Reiter / Red Bull Content Pool

前日に予選のタイムトライアルで8位、LCQと呼ばれる勝ち上がりトーナメントを順当に通過して、この日のファイナル進出を決めた山本。4選手が一斉スタートし、2着までが次に進めるという競技で、この日はクォーターファイナル(準々決勝)で前年の世界チャンピオン、アマンダ・トルンゾ(米国)と同組になりながら、手堅くトルンゾに続く2着で勝ち上がる。セミファイナルで3位に沈んだもののスモールファイナル(5〜8位決定戦)で3着となり、今大会の成績として7位になった。

前年の世界ランキングで10位の山本はこの大会でさらにポイントを積み上げ、総合6位に浮上。ポイントが獲得できる大会はこのあとも規模の小さいレースが3大会あって、山本は欠場するものの「10位まで落ちることはまずない」と手応えを感じている。この競技は胸のワッペンに世界ランキングの数字をつけて次シーズンを走るので、山本がシングルナンバーをつけるのは確実。

100年以上の歴史を持つフェンウェイパーク野球場にクラッシュドアイスの選手たちが集結 ©Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

「たくさんの観衆の中でハイレベルな戦いができたのでいい大会だったと思います。ずっとレースに集中していたので会場を見ることがなかったんですけど、スモールファイナルで自分の滑りが終わって、最後のファイナルを観る立場になった時、アマンダとキャメロン選手がこれだけの観客の中でゴールする姿を見で胸が熱くなりました」と山本。

スタートして数十秒で決着する。メジャーリーグの中でも歴史的な価値のあるフェンウェイパーク野球場に設営されたテクニカルなコース。その中でいかに仕掛け、先行されたとしたらどこでタイムを稼いで前との差を詰めることができるかを考えていた。弱点だったスタートもシーズン終盤になって修正ができていた。

それでも世界の強豪はそれ以上だ。予選のタイムトライアルで好成績の選手からスタート台の位置を選択できるルールで、強豪選手は常に主導権を握りやすい内側を選択。山本はアウトサイドからのスタートを余儀なくされる。結果としてセミファイナル以上になるとスタートダッシュで強豪選手に先行される。

最初のターンが終わったときにどこまで詰められるかが勝負だ。後半のドロップ(落差)のところまで追いかけるが、前を抜いて2着以上を取るのは簡単ではない。「そのへんが力不足です」という。

「やっぱりトップ4あたりの選手との実力差は、一緒に走っていても感じています。どうしても前を走る選手のアクシデント待ちになってしまう。気持ちだけではなくて技術だと思いますね。それでも練習時や昨日のレースのときよりできないことが減らせた」と笑顔を見せる。

今シーズンの世界ランキングに関わる大会は残り3戦あるが、日本で会社員として働く身として簡単には休暇を取って出場はできない。周到に計画した海外遠征で着実にポイントを獲得でき、「今回取るべきポイントは取れたかなと思います」という。

女子スモールファイナルでジャクリーヌ・ルジェールらを追う山本純子(後ろ) ©Lisa-Marie Reiter / Red Bull Content Pool

2月23日には長野県の菅平でだれでも参加できるアイスクロスダウンヒル大会が日本で初開催される。

https://www.instagram.com/p/Btk3vS2hpVF/

「その目的は女子選手を含めて国内の普及のため。この競技の楽しさを知ってもらうための大会です」

これまで単身で世界を相手に戦ってきた山本も、このスポーツの日本の第一人者として会場入りする予定だ。

キャメロン・ナーズ(左から2人目)がスコット・クロクソール(同3人目)を制して母国で優勝 ©Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool
キャメロン・ナーズがスコット・クロクソールを決勝で振り切った ©Andreas Langreiter / Red Bull Content Pool
山本純子。写真は2018年12月に開催された開幕戦の横浜大会 ©Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

室屋義秀がレッドブル・エアレース開幕戦を0.003秒差で優勝

2019年レッドブル・エアレースの開幕戦、アブダビ大会がUAEで2月8、9日に開催され、2017年の総合優勝者である室屋義秀が優勝した。2位は2018年の総合優勝者マーティン・ションカ(チェコ)でその差は0.003秒。千葉大会は第5戦。9月7〜8日に開催される。

開幕戦のアブダビを制してガッツポーズの室屋義秀 ©Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

2003年に第1回大会、2005年に世界選手権となり、12シーズン目を迎えたレッドブル・エアレースは、2005年以来毎年アブダビで開幕戦を開催している。今大会は、8日(金)の予選、9日の決勝を合わせてのべ 5万人が会場で観戦。室屋がアブダビで優勝したのは初めて。

開幕戦のアブダビを飛ぶ室屋義秀 ©Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

2009年の初参戦以来、2019年で参戦8シーズン目を迎えた室屋のアブダビでの戦績は、2009年13 位、2010年10位、2011年〜2013年の中断期間を経て再開した 2014年9位、2015年6位、2016年7位(オーバーG)、ワールドチャンピオンに輝いた2017年も13位(オーバーG)とあまり振るわず。しかし2018年に初の表彰台(2位)を獲得し、そして2019年に念願の開幕戦アブダビ大会での優勝を手に入れた。

今大会で室屋は終始安定し、3回のフリープラクティスのタイムは3位、1位、3位、そして予選は1位(自身4度目のポールポジション)。これにより2019年から導入された予選ポイントを獲得した。その後の決勝も危なげなく勝ち進み、決勝のファイナル4を1番手で飛んだ室屋は、 最終コーナーからゲート14に侵入する際に機体の体勢を崩しかけたが持ちこたえ、ペナルティを得ることなく53秒780のタイムでゴール。

残る3選手は、ニコラス・イワノフ(フランス)がエンジントラブルで離陸できず DNS(Did Not Start)で不戦敗に。2018年のアブダビ大会で優勝し、2018シーズンのワールドチャンピオン争いを繰り広げたマイケル・グーリアン(米国)が54秒009で終わると、最後に現ワールドチャンピオンのションカが登場。

第一セクター0.007秒、第二セクターでも0.005秒と室屋を先行し、2回目の VTM(Vertical Turn Manuva)中に0.212秒遅れたものの、最終コーナーで再び追い上げたものの、わずか0.003秒室屋に届かなかった。ゴール通過時のおおよその速度は時速300kmなので、その距離はわずか30cmという決勝戦まれにみる僅差で室屋が勝利した。

開幕戦のアブダビを飛ぶ室屋義秀 ©Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

レース後に室屋は「FP1(フリープラクティス 1)からファイナルまで非常に安定して飛べていたので、それで予選も首位で3ポイントを取ることができましたし、ファイナルもギリギリでしたけど勝ち抜くことができ、最終的に最大28ポイントを獲得できたので非常にいいスタートを切れたと思います」と語った。

「2017年の(最終戦)インディアナポリスから今まで1年以上勝ちがなかった。1位は非常にハッピーなんですけど、2位だとどうしても『こうしたら勝てた』『ああしたら勝てたんじゃないか?』という思いが出てくるので、1位は別格ですね。今はこの1位を味わいたいと思います」と喜びをコメントしている。

●レッドブル・エアレース大会日程
第1戦 2月8〜9日 アブダビ(UAE)
第2戦 ヨーロッパ(未定)
第3戦 6月15〜16日 カザン(ロシア)
第4戦 7月13〜14日 ブダペスト(ハンガリー)
第5戦 9月7〜8日 千葉(日本)
第6戦 アジア(未定)
第7戦 10月19〜20日 インディアナポリス(米国)
第8戦 11月8〜9日 サウジアラビア

室屋義秀の使用するチームファルケンの機材 ©Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

2019シーズン マスタークラスパイロット
クリスチャン・ボルトン:Cristian Bolton Racing(チリ)
ミカ・ブラジョー:#11 RACING Team Eyetime(フランス)
カービー・チャンブリス:Team Chambliss(米国)
マティアス・ドルダラー:Mathias Dolderer Racing(ドイツ)
マイケル・グーリアン:Team Goulian(米国)
マット・ホール:Matt Hall Racing(オーストラリア)
ニコラス・イワノフ:Team Hamilton(フランス)
ペトル・コプシュタイン:Team Spielberg(チェコ)
フランソワ・ルボット:FLV Racing Team 12(フランス)
ピート・マクロード:Cashback World Racing Team(カナダ)
室屋義秀:Team Falken(日本)
ベン・マーフィー:Blades Racing Team(英国)
マーティン・ションカ:Red Bull Team Šonka(チェコ)
フアン・ベラルデ:Team Velarde(スペイン)

山内斗真がレッドブル・クラッシュドアイスのジュニアで初の表彰台

アイスクロス・ダウンヒル競技のレッドブル・クラッシュドアイスは2月8日に米国のボストンで今季最終戦(第3戦)のジュニアカップが行われ、日本の山内斗真(同志社大)がファイナルの4人に残り、3位になった。日本勢が同イベントの表彰台に乗るのは初めて。

ジュニア優勝のジョアニー・バレスケスを中央に左が2位マルティン・バロ、右が3位山内斗真 ©Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

レースは4選手が一斉にスタートし、上位2選手が勝ち上がるというノックダウン方式。同志社大アイスホッケー部に所属する山内は、1回戦のラウンドオブ32、クォーターファイナル(準々決勝)をトップ通過。セミファイナルでは混戦を制してバロに続く2着で決勝進出した。優勝はジョアニー・バレスケス(米国)。2位はマルティン・バロ(フランス)。

大学3年の山内にとってはジュニアカテゴリーで戦える最後のシーズン。エリートカテゴリーにもダブルエントリーしているが、経験豊富な世界トップクラスの選手に現在は歯が立たない。「ジュニアを取るのは最後のチャンス」と公言していた。

この日の夕方に行われていたエリートカテゴリーでは1回戦でまさかのミスで敗退していた。しかも一番得意だったところでのミス。それがなかったら確実にラウンドアップしたはずだ。

ジュニア決勝のスタート直後 ©Ryan Taylor/Red Bull Content Pool

「やっぱりアメリカは甘くないなと思いました。めっちゃ悔しいです。ボストンはトラディショナルなきれいな街で、また来たいなあと思いました。選手としてまた絶対来ます」と主催者の公式インタビューでふりしぼるように答えた。

ミスが発生したのはフラットな部分で、アイスホッケー選手である山内が得意とするスケーティングが発揮できるところだった。山内は2番手に位置して終盤を迎えていた。攻めなくてもよかったのにそこで攻めてしまったのが敗因となる。

「本当にすいません、実力差不足すぎて。自分が得意なところでミスをしてしまって。やっぱ1番手にいるのが安全で安心できるんですけれど、後ろにいる3番手の選手との間がどれだけ離れていたのかわからなかったんです。焦んなくてもよかったんですけど、やっぱ後ろからかかるプレッシャーがあった。こんな簡単なミスはありえないなーという感じですね」

ジョアニー・バレスケスを追うマルティン・バロと山内斗真 ©Ryan Taylor/Red Bull Content Pool

しかしすぐに気持ちを切り替えた。
「めっちゃイライラしていてやばいです。コケるぐらいの実力だったってことで。ジュニアをボクは取りにいかないといけない」

翌日のエリートで上位進出をねらう夢は断たれた。それだけにジュニアで結果を残して、いい形で終わりたいなあという気持ちが山内を奮い立たせた。

ジュニア優勝はジョアニー・バレスケス。2位マルティン・バロ、3位山内斗真 ©Andreas Langreiter / Red Bull Content Pool

ファイナルに進出すれば表彰台の頂点しか目指さなかったが、シーズンを転戦してすでにその実力を知り尽くしている通称ジョジョ(ジョアニー・バレスケス)の速さはケタが違った。その状況で堅実に3位に入り、表彰台に上った。最低限の結果を残してシーズンを終えた。そしてもう次のシーズンのことを頭に描いている。自らのミスで沈んだエリートカテゴリーで世界の実力者と渡り合えるように。