2020ツール・ド・フランスが通常開催できない3つの理由

新型コロナウイルス感染拡大により、2020年の第107回ツール・ド・フランスは大会日程を当初の「6月27日〜7月19日」から、「8月29日〜9月20日」に延期。この異例の措置によって、真夏のバカンス時期に開催されるお祭りという希有な価値が保てるのか? 6月29日時点での状況を分析してみた。

7月14日はフランス革命記念日 ©ASO

フランスは国内および欧州での衛生状況が改善していることから、欧州委員会の提言に従って6月15日より欧州域内の国境制限(陸路、空路、海路)をすべて解除した(スペインとの国境制限は6月22日より解除)。

欧州域内の国からの渡航者は、新型コロナウイルス対策に関連して設けられた国境での移動制限を一切課されず、フランス本土へ入境できる。ただし英国からの渡航者だけは相互主義(レシプロシティ)により、フランス到着後に14日間の隔離措置が続けられる。

●欧州外からフランスへ入境する場合に求められる2週間の自主隔離措置

現時点で日本人は、配偶者がフランス人であることや新型コロナウイルスにかかる医療関係者などの特例をのぞいて、フランスへの渡航ができない状況。日本外務省のホームページに2国間の渡航についての制限(出国・入国)について毎日情報のアップデートがある

7月1日から日本人はフランス入りができるという情報も

フランスは慎重ながらも前進する意志を見せている。7月1日以降、シェンゲン協定域外の第三国との国境を、各国との衛生状況を鑑みながら、段階的に個別に再開していく予定だ。シェンゲン協定の加盟国内にいったん入ると、域内は原則パスポートの検査なしで行き来できる。

2国間の相互主義(レシプロシティ)というのは「互恵性、返報性」の意味。言い方は悪いが、一方が入国禁止措置を執るなら他方も同じやりかたをぶつけるというもの。日本がフランス人の受け入れを拒んでいたら、フランスも同様のやりかたをする。14日間の隔離措置を求めるなら、これも同様だ。

ただし世界有数の観光大国であるフランスは、自国経済の立て直しのためにできることなら外国人旅行者を呼び戻したい。そのために新型コロナウイルス感染を抑え込んでいる国は例外的に入国緩和と隔離措置廃止を検討している。例外となる国のリストとその内容は7月1日に発表されるようで、日本もリスト入りしていると一部で報じられている。

2019ツール・ド・フランス第14ステージ ©ASO Alex BROADWAY

これに先立つ6月22日、フランス政府は新型コロナウイルス感染がいまだ予断を許さない海外領土のマイヨットとギアナを除いて、フランス全土に施行される「夏季に向けた新たな制限解除の内容」について発表した。

理由その1 観光大国が普段の姿を取り戻すには時間がかかる

フランス全土で映画館、カジノ、ゲームセンターの営業再開が可能になること。再開には衛生上の配慮をとることが求められること。また、コロニードバカンス(長期休暇期間に児童が過ごす林間・海浜学校)では児童の受け入れが可能になることなどが発表された。フランス本土では確実にいつもの夏休みに戻りつつあるのだ。

7月11日以降(フランス本土における衛生上の緊急事態宣言の終了後)には、河川クルーズの運行が再び認められる。欧州の複数国の港に寄港する海洋クルーズは、省令で定められた定員以内の船舶であれば、関係国との調整において今後の運行再開が決められるという。

スポーツに関してはどうか。スタジアムおよび競馬場は5000人以内の規模であれば観客を入れられるようになる。劇場など1500人を超える集まりは届け出の対象となり、必要な配慮がとられることを保証しなければならない。

大規模イベント、スタジアム、劇場における集客の人数制限を5000人とすることは原則として9月1日まで続けられる。8月29日に開幕するツール・ド・フランスは当然のようにこの「大規模イベント」となるので、5000人の人数制限が適用される。それがフランスの象徴的スポーツイベントであるとしても、だ。

理由その2 5000人超のイベントは現時点では開催不可

順調に推移しても、いまの状況ではツール・ド・フランスは5000人以下での開催。つまり想定されるのは無観客レースだ。これではどうしても盛り上がりに欠けてしまう。わずかな望みは、フランス国内での新たな疫学調査が7月中旬に実施され、8月下旬に制限緩和が可能となるかが決定されるということ。

9月1日以降、新たに出される疫学状況の評価次第で、たとえば秋の新年度スタート時に以下のような緩和が行われる。

フェア、展示会、見本市会場の再開
5000人を超える規模のイベントの認可
疫学状況の評価次第で、ディスコ、国際海洋クルーズの再開

日本選手やファンはツール・ド・フランスに行けるのかという問題

6月29日時点でのフランスの累計患者数は16万2936人、死者は2万9778人。入院患者数は8886人で、前日より255人減少。新規感染者は87人で前日比マイナス37人。4月7日に流行のピークを迎えてからは減少傾向が続き、第2波到来の予兆は今のところない。

2020ツール・ド・フランスに出場できる可能性がある日本選手は、バーレーン・マクラーレンの新城幸也とNTTプロの入部正太朗。入部は落車による鎖骨骨折で現在復帰に向けてのリハビリ中。新城は感染拡大直前に合宿地のタイに入国し、いよいよ欧州復帰を準備中。一般の渡航条件とは別にプロ選手としてのビザ取得という課題があるが、フランスに自宅があるためフランス入りそのものは問題ない。

©A.S.O. / Thomas-MAHEUX

理由その3 出場選手がフランス入りできるか、さだかではない

問題なのは感染拡大が続く南米・北米からのフランス入りが許可されるか。コロンビアには2019年の総合優勝者エガン・ベルナル(イネオス)がいる。欧州の中では感染者の多い英国もさだかではなく、ツール・ド・フランス最多タイの5勝目を目指すクリストファー・フルーム(イネオス)がいる。

日本のファンが2カ月延期されたツール・ド・フランスの現地に行けるかは、まずは7月1日にフランス政府が発表される決定事項による。ただ、日本でも東京都などの新規感染者は高止まりし、ウイルスそのものは常に存在しているので、あらゆるリスクを考慮して慎重に判断したい。

2020ツール・ド・フランス開幕まであと2カ月。取材申請は「2019年」のままで、各国メディアも戸惑うばかりだろう。主催者ASOは1年近くにわたる準備態勢を1から再構築することに相当の労力を支払っている渦中であることが想像でき、実行力のある彼らのことだから結果的には2020ツール・ド・フランス開催を実現することを切に期待したい。ただしそのレースは異例の雰囲気となりそうだ。


フランス観光開発機構カロリーヌ・ルブーシェ総裁のメッセージ

「6月15日以降、フランスは再び欧州からの旅行者を受け入れます。これはすべての旅行業従事者にとってこのうえない喜びです。さらに7月1日以降は欧州以遠のいくつかの国からも、フランス国内のホテル、キャンピング場、レストラン、美術館や博物館、観光地でお客様をお迎えできるようになります(国境再開はその国の衛生状況によって決まるのですが)。必要な対策が講じられたことでフランスの衛生状況は好ましい形で改善しており、旅行業関係者は政府が認可した衛生マニュアルを遵守しながらお客様の安全に必要なあらゆる措置をとっております。とはいえバカンスの雰囲気とフランス流ライフスタイルを忘れぬこともしっかり心がけておりますのでご安心ください」

🇫🇷ツール・ド・フランス2020特集サイト
🇫🇷ツール・ド・フランス公式サイト

クラシックなアルミ製も加わったツール・ド・フランスボトル

エリート社が、世界最大級のロードレース「Le Tour de france」の開催を記念して毎年発表されている特別なデザインのウォーターボトルを2020年もリリース。今回は人気のFLYボトルに加えて、EROICA(エロイカ)シリーズで採用のクラシックなアルミボトルも特別なデザインで登場。

コロナ禍によってレースの開催延期が相次ぐなか、ツール・ド・フランスも8月29日〜9月20日の開催となることが発表された。


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ツール・ド・フランスは2カ月延期でも開催できるのか?

フランス政府は新型コロナウィルス感染症対策として、6月2日より制限解除第2段階に移行する。レストラン・カフェが営業再開し、美術館も再開する。ツール・ド・フランスは当初予定から2カ月遅れ、8月29日(土)から9月20日(日)までに大会日程を変更したが、果たして無事に開催されるのか?

厳しい外出制限令によってフランスの感染者数は確実に減少している

エドアール・フィリップ首相は5月28日の会見で、6月2日から始まる新型コロナウィルス感染症対策の制限解除第2段階について発表。さらに6月22日以降を第3段階とする。

フランスの衛生状態は大きく改善したものとし、会見内で公表された衛生状態を示す地図では、ほぼ全域が状況が良好の「緑」ゾーンに分類された。パリを含むイル・ド・フランス地方、海外領土のマイヨット、ギアナは注意を要する「オレンジ」ゾーンとし、他の地域より慎重に解除が進められる。

5月上旬はフランス北東部全域に蔓延していたが、5月末には海外領土のマイヨットとパリの北にあるバルドワーズ県をのぞき収束に向かっている

移動制限の解除

居住地より100kmを超える移動の制限は6月2日をもって廃止する。これまで必要だった例外的な移動理由を示す証明書なしでフランス全土(海外領土を含む)を移動できるようになる。フランス本土と海外領土の間の移動については2週間の隔離措置が続けられる。

国境封鎖の解除

首相は、EU域内、シェンゲン協定域内および英国とのフランス国境について、衛生状態が良好であれば隔離措置なしで6月15日以降に封鎖解除することに賛成の意を表した。隔離措置、または国境封鎖を継続する国があれば、フランスはその国に対し同様の措置をとる用意があるという。

医療現場のひっ迫した状況も現在は脱している

EU外への国境封鎖の解除はEU加盟国との協議を経てから決定する。少なくとも6月15日までは封鎖が続けられる。

レストラン、カフェ、バーの営業再開

「緑」ゾーンでは、バー、カフェ、レストランの営業再開が、衛生上の配慮を満たすという条件付きで6月2日からの営業再開が可能になる。テーブルの間隔を1m以上開ける、テーブルあたりの着席人数を10人までとする、従業員も客も移動の際にマスクを着用するなどの配慮が求められる。「オレンジ」ゾーンではテラス席でのみ営業が許可される。

文化施設、モニュメント、レジャー施設など

緩和の第1段階では小規模な美術館・博物館とモニュメントの営業再開が認められていたが、6月2日以降はすべての美術館・博物館とモニュメントの再開がフランス全土で可能になる。

レジャーパークや自然公園の再オープンは5000人を超えない範囲で「緑」ゾーンで6月2日から、「オレンジ」ゾーンで6月22日から可能。劇場やスペクタクル会場の再オープンも上に同じ条件で「緑」ゾーンは6月2日から、「オレンジ」ゾーンは6月22日から可能。映画館はフランス全土で6月22日から営業再開が可能。ディスコとカジノは少なくとも6月21日までは営業禁止。

キャンプ場、バカンス村、集団宿舎については、宿泊者の受け入れに必要な措置を講じた上で、「緑」ゾーンでは6月2日から、「オレンジ」ゾーンで6月22日から再オープンが可能。ホテルについては今後新しい衛生規定が設けられ、宿泊客が安心できる受け入れ条件を提供する。

公園と庭園はフランス全土で5月30日から開けられる。6月2日以降はビーチ、湖、水上スポーツエリアがフランス全土で再開する。

フランス本土ではパリのあるイルドフランスがオレンジゾーンだ

その他続けられる制限、行動様式

人の集まりは10人までとする規則は少なくとも6月21日まで続けられる。スポーツイベントは少なくとも6月21日までは禁止される。5000人を超えるフェスティバルや見本市は新たな令が出るまで禁止される。

リモートワークの推奨が続けられる。

アプリ導入

感染者とその恐れがある人を追跡するアプリ「STOP Covid」が導入される。アプリは無料で提供され、登録は自由意志に任せられる。

2020ツール・ド・フランスに関するこれまでの流れ

ツール・ド・フランスは無観客を想定して日程通りの開催か(2020年3月26日)
東京五輪の1年延期でツール・ド・フランスと日程重複する問題が(2020年4月2日)
ツール・ド・フランスは1カ月遅れのプランB開催が有力に(2020年4月8日)
ツール・ド・フランスは8月29日〜9月20日開催案が浮上か(2020年4月15日)
2020ツール・ド・フランスが大会延期。8月29日開幕(2020年4月15日)
「今年最大のスポーツイベントに」ツール・ド・フランス延期開催に期待(2020年4月16日)

ツール・ド・フランス開催可否は第3段階の内容により方向性が決まる?

第2段階で多くの制限が解除され、マスク着用やソーシャルディスタンスの励行を条件としながらも多くの市民が日常生活を取り戻しつつある。ただし5000人を超えるイベントは開催不可。少なくとも6月21日までスポーツイベントは禁止される。

現在は母国でトレーニングする選手たちが、果たしてフランス入りできるかという問題もある。フランス側は第2段階で、衛生状態が良好であれば隔離措置なしで6月15日以降に国境の封鎖も解除するという。ただし、フランスとの出入国禁止や14日間などの隔離措置を行う国に対しては、フランスも同様の措置を断行するという。

フランス政府は措置緩和の第3段階に移行する6月22日より前に、次のフェーズにおける措置を判断するというので、その直前の感染状況がツール・ド・フランス開催に大きく関わってくることは間違いない。


制限解除第2段階の発表を受け、フランス観光開発機構カロリーヌ・ルブシェ総裁は次のようにコメントした。
「フランスの観光業は6月15日のEU域内における国境封鎖の解除を心待ちにしています。観光従事者は政府とともに衛生対策を進め、最善の方法をもって旅行者と従業員双方の安全を守る努力を重ねております。ビーチ、内陸、山岳など散策やアウトドアスポーツに適したエリアや、レジャーパーク、文化施設や史跡、レストラン、宿泊施設は皆、日本からのお客様の来訪をお待ちしています。皆様がフランス流ライフスタイルに触れられる日が一日も早く戻りますように。カフェのテラスでコーヒーやクロワッサンの朝食をとったり、ご友人やご家族とフランス料理を囲みながら再会を喜び、美味なる食事とワインを心ゆくまで楽しまれることを願っております」

●フランス観光開発機構のホームページ

ツール・ド・フランスの裏方たち【施工班は寄せ集めのプロ軍団】

テレビでは映し出されることのないツール・ド・フランスの裏方たちをクローズアップしてみました。真夏の1カ月間に集まった、それぞれのスペシャリストたちは連日、それぞれのプライドを持って作業をこなしていきます。欧州はいまでも世襲的なところが残るので、毎年同じような顔ぶれがそろいます。

夜のうちに前日のゴール地点から移動してきた施工班。昼夜逆転の日々なので選手たちが走っている時間は寝ています。2016年第8ステージ
選手が転ばないように道路上をていねいに清掃。2017年第2ステージ
スタートの町の郊外に出たところに、正式にレースが始まることを知らせるKm0ポストが設置されます。2017年第16ステージ
キャップなどのグッズセットの販売員。観衆が集まりそうなところに早朝からスタンバイ。昨日も夜遅くまで騒いでいたはずなのに…。2015年第4ステージ
ツール・ド・フランスに帯同するジャンダルムリー(憲兵隊)はおよそ50人。2015年第1ステージ
白バイ(紺色ですけど)を駐輪するときは「アバンセ=前へ」「セボン!」などと指示する隊員がいます。2017年第1ステージ
ボワチュールバレ、回収車です。かつては「選手を掃き捨てる」という意味でフロントバンパーにホウキをつけていましたが、シャレにならないのでやめたようです。2017年第7ステージ
頼もしきわれらがキャリアカー。コース途中で故障した関係車両をレッカーしてくれます。一度お世話になりました。2017年第7ステージ
スタート地点のチームバス集合エリア。担当スタッフがきっちりと全チームを誘導して限られたスペースに収めます。2012年第5ステージ
ブティックツール・ド・フランス。公式グッズが販売されていて、クレジットカードも使用できます。2012年第5ステージ

【ツール・ド・フランスリバイバル】2017年はフルームが接戦を制す

104回目の開催となった世界最大の自転車レースは、スカイのクリストファー・フルーム(英国)が3年連続4度目の総合優勝を達成した。歴代最多優勝は4選手が5勝しているが、フルームは単独5位となった。バーレーン・メリダの新城幸也は目標としていた区間勝利こそならなかったが、出場7回にして7度目の完走。

ラプランシュデベルフィーユでマイヨジョーヌを獲得したフルーム
2017ツール・ド・フランス

フルームのアシスト役トーマスが最初のマイヨジョーヌ

ドイツのデュッセルドルフで開幕。初日は距離14kmの個人タイムトライアルが行われ、フルームのアシスト役であるスカイのゲラント・トーマス(英国)がでトップタイムをたたき出し、初優勝を飾るとともに総合1位のマイヨジョーヌを手中にした。フルームは12秒遅れの区間6位。スカイチームはトップ10に4選手を送り込む力を見せつけた。

「夢のようだ」とマイヨジョーヌを着用したトーマス。
「10歳のときにツール・ド・フランスを見て自転車を始めた。テレビに映っていたこのジャージが着られるなんて。エースのフルームも好タイムで、チームとして大成功の1日だった」

2017年の開幕地は日本企業も多いデュッセルドルフ
第1ステージは距離14kmの個人タイムトライアル。フルームは僚友ゲラント・トーマスから12秒遅れの区間6位

大会5日目はラプランシュデベルフィーユ。最大斜度20%の激坂に駆け上がるコースはツール・ド・フランスで3度目の登場となった。2012年はブラッドリー・ウィギンスのアシストだったフルームが大会初勝利したところだ。2014年にはイタリアのビンチェンツォ・ニーバリが優勝。このステージを終えてウィギンスとニーバリは首位のマイヨジョーヌを獲得し、それをパリまで守り切っている。つまり過去2回はここでマイヨジョーヌを着た選手が総合優勝しているのだ。

デュッセルドルフでの第1ステージ

この日はイタリアチャンピオンのファビオ・アルー(アスタナ)が残り2.4kmから単独で抜け出して初優勝。アルーはもともと5月のジロ・デ・イタリア制覇を目指していたが、大会直前に負傷して欠場。ターゲットを変えてこの大会に乗り込んできた。この日のアルーのアタックは異次元で、フルームを擁するスカイチームも追撃を見送った。しかしその裏には23日間を見すえての思わくがあった。

「マイヨジョーヌを獲得したけど、本当の戦いはこれから先だ。パリまですべてをコントロールできるとは思わない」と冷静なフルーム。

フルームは20秒遅れの区間3位でゴールし、チームメートのトーマスに代わって首位に立った。

ツール・ド・フランスらしいワンシーン

ところがフルームは第12ステージのゴール前で失速し、18秒差の総合2位につけていたアルーに首位を明け渡した。

最後の数100mまでフルームをエースとするスカイチームの完ぺきなレース展開だった。元世界チャンピオンのミハウ・クビアトコウスキー(ポーランド)が先行していた選手を追撃してすべて吸収。最後の山岳に入ると上りが得意な2人のスペイン選手がフルームをゴール手前の激坂まで導いた。

ラプランシュデベルフィールにゴールした第5ステージ。ファビオ・アルーが優勝。総合成績ではフルームが首位に

最後はAG2Rラモンディアールのロマン・バルデ(フランス)、アルーらの意地の張り合いだった。区間勝利もほしかっただろうが、3着までには10、6、4秒のボーナスタイムが与えられ、総合成績から差し引かれる。前日まで1分以内に4選手がひしめく接戦では数秒でも総合順位に大きく影響する。区間優勝は果たせなかったが、渾身の力で3位に入ったアルーがこの日の真の勝者だった。

フルームは肝心のゴール前で疲れを露呈して大きく遅れた。ただしマイヨジョーヌを手放したことでチームが集団をコントロールする任務から解放される。チーム力からすれば2位陥落はまだ落胆する段階ではなかった。

第3ステージ
ツール・ド・フランス第9ステージ。先頭はミハウ・クビアトコウスキー
第9ステージのゴール勝負はリゴベルト・ウランが制した

中央山塊でフルームがアルーを再逆転

第14ステージ。サンウェブのマイケル・マシューズ(オーストラリア)が丘の上にゴールする戦いを制して2016年に続いて区間勝利を挙げた。首位のアルーは最後の上り坂で力尽き、6秒遅れの総合2位フルームに25秒遅れたことから、わずか2日で首位を陥落。フルームが再びマイヨジョーヌを獲得した。

2日前に「世界中の自転車選手が憧れるマイヨジョーヌを獲得できた。ボクはすでにジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャのリーダージャージを持っているが、それにも増してうれしいものだ」と語っていたアルーがそのジャージを奪い取られた。

新城幸也

アスタナチームはすでに2選手が落車による負傷で大会を去っている。さらに総合優勝をねらって万全のアシスト態勢を固めているわけではない。アルーは首位に立ちながらも2日間の区間終盤は孤軍奮闘で、いつ陥落してもおかしくはなかった。

この日のゴールであるロデズは山岳ポイントでないながらも、ゴール前が急坂。ここでアルーが頑張りきれなかった。

「まったく期待していなかった」というフルームはチームからの無線で、「プッシュ! プッシュ!」という指示を聞いた。アルーが脱落しているのでダッシュしろという意味だ。王者フルームが再び首位に。

マクロン大統領がツール・ド・フランスを表敬訪問。ロマン・バルデをねぎらう

こうして第14ステージでその座を奪還したフルームは、手厚いチーム力に援護されて山岳ステージを走り抜き、最終日前日の個人タイムトライアルでライバルを突き放した。

「4回の優勝の中で最も僅差の勝負だったので、とてもプレッシャーだったが、それをいい走りに結びつけることができた」とフルーム。23日間の流れを見れば順当な優勝だが、簡単なツール・ド・フランスはないとしみじみと語る。

「勝つためにはダウンヒルを速く走る研究をしたり、集団の中の位置取りだったり、自分をチューンナップする努力を怠っていない。だから最初の勝利よりも確実に強くなっているはずだけど、これからも自分自身をさらに変えていきたい」

山岳賞のワレン・バルギル
最終日はパリ。セーヌ川沿いから入城する

ツール・ド・フランスの歴史を知りたい人は講談社現代新書からKindle版の電書が出ていますので、お手にとってお確かめください。

【ツール・ド・フランスリバイバル】
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【ツール・ド・フランスリバイバル】2016…フルーム傷だらけの勝利

世界遺産モンサンミッシェルで開幕した第103回ツール・ド・フランスは、英国のクリストファー・フルーム(スカイ)が2年連続3度目の優勝を果たした。2年ぶり6度目の参戦を果たした新城幸也(ランプレ・メリダ)は悲願の区間勝利こそつかめなかったが、第6ステージで敢闘賞を獲得した。2012年の第4ステージに続いて2度目の受賞。

第19 ステージでフルームは苦戦。マイヨジョーヌは落車で破け、手足から出血も
2016ツール・ド・フランス
新城幸也にとって2度目の敢闘賞

初日に区間勝利とボーナスタイム10秒を獲得して首位に立ったディメンションデータのマーク・カベンディッシュ(英国)は、翌日の第2ステージ終盤の上り坂で脱落。このゴールまでの上り坂で少人数の力勝負となり、ティンコフのぺテル・サガン(スロバキア)がわずかに先着。3年ぶり5回目の区間勝利を果たした。

第1次大戦の激戦地でチームプレゼンテーションに登場した世界チャンピオンのサガンとコンタドール

総合成績では前日までの成績で6秒遅れの総合3位につけていたサガンが首位に立ち、マイヨジョーヌを獲得した。同選手はポイント賞争いでも1位になり、5年連続の同賞獲得にも手応えをつかんだ。

第5ステージは中央フランスに舞台を移し、BMCのグレッグ・バンアーベルマート(ベルギー)が終盤に独走して優勝。前日までの総合成績で18秒遅れの20位につけていた同選手が、2位以下に2分以上の大差をつけたことで一気に首位に立った。

この日は起伏の激しい中央山塊に突入したことで有力チームの走りが本格化。首位のマイヨジョーヌを着るサガンは長い上りを得意としていないため、23分45秒遅れの区間110位でゴール。総合1位から76位に陥落した。

第1ステージは世界遺産モンサンミッシェルをスタートした

そして戦いは第8ステージで前半の勝負どころ、ピレネーへ

ピレネーの本格的山岳ステージでティンコフのラファウ・マイカ(ポーランド)ら3人の伏兵が逃げを打った。3選手とも区間勝利の実績があり、総合成績の逆転をねらった走りというよりはこの日の勝利を目指したものだ。さらにこの3選手の中からマイカが抜け出すのだが、後続集団は総合成績で大きく遅れているマイカを無理には追わなかった。とりわけフルームを擁するスカイチームは翌日も重要な山岳区間が控えていることからアシスト陣の消耗を考え、ある程度は逃げを容認する方針をとった。

マイカが先行した意図は自らの区間勝利とともにチームエースであるアルベルト・コンタドール(スペイン)を後続集団内で体力温存させるためだからだ。マイカはゴールまで残り2つの峠を残して吸収され、区間勝利はならなかったが、この日から本格化した山岳賞のトップに立った。

第6ステージで新城幸也はヤン・バルタとアタックし、後続に5分10秒差をつけた
第6ステージで新城幸也が敢闘賞

有力選手の戦いは最後の山岳でも膠着状態だった。ところが残り15.5km地点の峠の頂上を通過するとフルームが一気に加速して高速ダウンヒルを開始。これにはライバルも意表を突かれ、一気に差が開いてしまう。調子が上がらないコンタドールが脱落し、ゴールまでに大差をつけられる。母国スペインでの区間を目前にして総合優勝争いからの脱落である。

「下りでアタックすることはまったく計画にはなかった」

フルームは下り坂でその差を広げてゴールまで逃げ切った。フルームの区間勝利は2015年の第10ステージ以来で、大会通算6勝目。

「上りで何回かアタックしたが、他の選手が着いてきた。だったら下りで突き放してやろうと考えた。ちょっと体力を使ってしまい、翌日の過酷なレースが気になるが、ステージ勝利は気分がいいし、貴重なタイムをかせぐことができた」

ピレネーの第8ステージで、戦闘から2分遅れのメイン集団をスカイとモビスターが引っ張る
ピレネーの第8ステージでフルームが優勝。首位に躍り出た

総合優勝を争うモビスターのナイロ・キンタナ(コロンビア)とアスタナのファビオ・アルー(イタリア)らは13秒遅れ。フルームは区間1位のボーナスタイム10秒も獲得していて、総合成績で一気に首位に立った。前日までの首位バンアーベルマートは山岳を得意としていないため、25分54秒遅れで、その座を手放した。

しかしキンタナとアルーはわずか23秒差でフルームを追う位置にいる。フルームとしては上りでこの2選手の走りを警戒しているだけに、この日の下りを使った奇襲作戦に出たとも考えられる。マイヨジョーヌをめぐる戦いは始まったばかりだ。

第9ステージのアンドラ・アルカリスは雹混じりの豪雨だが、パンタノはファンから傘を借りたらしい

アルプスの個人タイムトライアルで突き放す

第18ステージは距離17kmの個人タイムトライアルが行われ、総合成績で首位のフルームが30分43秒のトップタイムで優勝。ピレネー山脈で行われた第8ステージに続く今大会2勝目で、大会通算7勝目。個人タイムトライアルで勝ったのは2013年以来2度目。総合成績では2位バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)との差を2分27秒から3分52秒に広げた。

距離は短いものの上り坂を駆け上がる個人タイムトライアル。チームメートに助けてもらうことができない種目なので、個人の実力差が量られる。そんな重要なステージでフルームが1位になり、だれが一番強いのかがはっきりとした。2年連続3度目の総合優勝に大きく前進したのである。

ニースで起きたテロ事件の犠牲者に黙とうを捧げる

フルームはスタートしてしばらくは慎重に走った。すでに総合2位以下とのタイム差は十分にあり、落車や観客との接触のみを注意して走ればよかった。しかし中間地点で暫定トップだったトム・デュムランのタイムに並ぶと後半は余裕ができて全力で走った。

「すべてのトラブルを回避するような走りをしたかった。午前中にコースをチェックしたときはいつも使っているロードバイクで走ろうと考えた。でもチームスタッフはタイムトライアルバイクを使うことをすすめてくれた。軽量なので上りでもロスはないという理由だったが、その選択が今日の結果につながったね」とフルーム。

第20ステージは最後の山岳区間だった。雨中戦となりアクシデントも想定されたが、強力なアシスト陣に援護されたフルームはライバルの反撃をまったく許すことなくゴールした。

第18ステージは距離17kmの個人タイムトライアル

最後の山岳ステージの最後の1kmまで慎重に走った

フルームが4人のチームメートとともにモルジンヌのフィニッシュラインを通過したとき、全身はずぶ濡れだったがようやく安堵の笑顔を浮かべた。2位に4分以上の大差をつけながら最後まで油断せず、ゴールまでの下り坂も細心の注意を払って走った。ずっと後ろを走っていたライバルたちが最後はスパートして追い抜いていったが、そんな数秒のタイムロスはもうどうでもよかった。

「この24時間、ボクはとてもナーバスになってしまった。そんなときにチームメートが声をかけてくれたり、レースで力を貸してくれた。マイヨジョーヌを守れたのはそのおかげだ。圧勝のように見えるけれど、ボクはギリギリの状態だった」

この大会のフルームの勝因は、上り坂に強いライバル選手にそこで勝負をさせなかったことだ。ピレネー山脈の第8ステージでフルームはまさかの下り坂で単独アタック。僅差ながらライバルに差をつけてここで総合1位に立った。そのあとも平たん区間で積極的に動いて毎日のようにわずかなタイム差を稼いでいく。2つの個人タイムトライアルを巧みに使い、十分なタイム差を稼ぎ出すと、圧倒的なチーム力で最後のアルプスをしのぎ、逃げ切った。

この日は前日の落車で体中が痛かったという。脚の疲労も感じていたが、この日は幸いなことに脚力が回復した。しかし冷たい雨にたたられて、苦い経験がよみがえったという。2年前、雨の第5ステージで二度にわたって落車し、手首を骨折して連覇を断たれたことである。

「危険を回避するために常に先頭にいた。最後の1kmになってようやく栄冠をつかめたという感慨と、これまでのさまざまな記憶がよみがえってきた。いまはマイヨジョーヌとともに生きている幸せを感じている」

「凱旋門をバックにピースサイン撮れました?」とフィニッシュ後に新城幸也が声をかけてくれた

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【ツール・ド・フランスリバイバル】
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