メンタル問題はどんなアスリートも陥る問題…陸上ジョンソン

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスのアカデミーメンバーである元陸上競技米国代表、マイケル・ジョンソンが、10月10日の世界メンタルヘルスデーに合わせてメッセージを発信。自らの現役時代のメンタルヘルスに関連する体験談や、誰かが辛い状況に陥っているときに周りができるサポートなどについて語った。

マイケル・ジョンソン

どんなに優秀なアスリートであっても、スポーツ心理におけるメンタル面が、その身体能力を凌駕してしまうことがある

大坂なおみ選手がメンタルヘルスを理由に全仏オープンを棄権したことを初めて耳にしたとき、私は何が起こっているのかあまり理解できていませんでした。 しかし、先日大坂選手が「自分自身もまだ理解しようとしているところだ」と語ったように、第三者である私が理解できなかったのは当然なのです。

体操のシモーネ・バイルス選手が東京オリンピックで棄権したとき、私はBBCで仕事をしているところでした。全仏オープン以来、大坂選手の件をずっと考えていたので、今回は少し待ってみようと思ったのです。シモーネ選手が徐々に明かしていく心の内を聞くにつれ、理解は深まっていきました。

体操関係者の間では長く話題になっていた「ツイスティーズ」と呼ばれる現象についても学びました。どんなに優秀なアスリートであっても、スポーツ心理におけるメンタル面が、その身体能力を完全に凌駕してしまうことがあるのです。

選手が太ももの裏をつかんで、足を引き上げるのを目にすれば、何が起きているのかは大体わかります。何が問題なのか、それを解決するためには何が必要なのか、その選手がどのように感じているのかが理解できます。

メンタルヘルスは、私たちの誰もが影響を受けうる問題です。しかし、その影響の程度はひとりひとり異なります。放送スタジオやソーシャルメディアで、リアルタイムに診断や分析ができるようなものではないのです。私たちはしっかりと耳を傾けなければいけません。

メンタルヘルスという言葉は、私が現役選手のころはあまり使われておらず、馴染みがありませんでした。しかし、スポーツ心理に関する議論はさまざまなところでなされていました。マインドセット、集中力、プレッシャー下でのパフォーマンス、周囲からの期待、そして一般人よりもはるかに複雑なアスリートのワークライフバランスなど。当時の分析は、いずれもメンタル面と関わりのあるものでした。

実際には、スポーツ心理と、スポーツ選手のメンタルヘルスとの間に、はっきりとした境界線はないのです。若い選手たちが競技におけるストレスに対処する方法も、ワークライフバランスの取り方も、同じように語られるべきものなのです。

メンタルヘルスは、私たちの誰もが影響を受ける問題であるが、その影響はひとりひとり異なる

かつての私や今の大坂選手、シモーネ選手が競技しているような世界トップレベルになると、何百万人もの人々の前でパフォーマンスすることになります。フィジカル面をどんなに整えていたとしても、精神的な負担は存在します。このときのために人生をかけてトレーニングしてきて、心の底から成功を望んでいる。けれども、失敗するかもしれないし、このような機会は二度とないかもしれない。チームメイトを失望させてしまうかもしれない。契約が更新されないかもしれない。そして何より、皆がいつも自分を見ている。

大坂選手やシモーネ選手にとって、実際にどのようなことを負担に感じていたのかは私には分かりません。それを理解するには、本人たちの話を聞く必要があるからです。ここでは、私の場合がどうだったかをお話します。

リアルタイムに診断や分析ができないため、周囲がしっかりと耳を傾ける必要がある

1992年、バルセロナオリンピック。私は24歳でした。当時の私は、2年にわたり200mでの無敗記録を更新し続ける世界チャンピオンであり、金メダルの最有力候補と言われていました。 ところが、大会開幕直前に食中毒になってしまったのです。

症状が回復したときは、それがのちにオリンピックの舞台でのパフォーマンスに影響するとは思いもしませんでした。順調に回復し、体調もよかったのです。スタートの号砲が鳴り響き、 レースが始まるまでは…。そのときは、まるで誰か他の人の体で走っているような感じでした。

結果、準々決勝までは進めましたが、決勝には届きませんでした。

米国代表チームには、1992年当時でもスポーツ心理士が同行しており、私はすぐに面会することになりました。チームは、私が“スランプ”と呼ばれる、負のスパイラル状態に陥ってしまう可能性があると考えていました。スランプ中は、自分自身を信じられなくなります。まさにそれは私に起こっている状態でした。

しかし、ホテルの一室で、心理士の前に腰を下ろした瞬間、これは自分が必要としていることではないと気付いたのです。もちろん、人によっては効果的な方法なのかもしれません。ただ、私には当てはまりませんでした。

私はラッキーでした。両親が兄姉とともにバルセロナに来てくれていたのです(私は5人兄弟の末っ子です)。父はホテルの部屋に来てくれて、私は自分の気持ちや不安を、父が理解してくれると思いました。父はただ私の話を聞いてくれました。そして、私にこう言ったのです。

「お前は決勝戦で負けたわけではない。今回は優勝できなかった。だがそれは、競技に加われない状況だったからだ」と。

これは私の競技人生の中で最も落胆した出来事であり、その気持ちは米国に帰る飛行機に乗ってからも変わりませんでした。 帰国後数週間、家の中でじっとそのことだけを考え続けていました。今思えば、私には考える時間が必要だったのだと思います。私は怒りを感じなければならなかったし、失望しなければならなかった。起こった出来事を消化する前に、まず、こういった感情をすべて経験しなければならなかったのです。

次第に、バルセロナオリンピックでメダルを獲得した3選手のことを考えるようになりました。金、銀、銅メダリスト。オリンピック前の2年間、私はその全員と何度もレースをして、彼らに負けたことは一度もありませんでした。そう考えると、来年のレースでは、彼らに勝ち、自分が1位でゴールする可能性が十分あることに気づいたのです。 私は何も間違ったことはしていない。 本来の力を失ったわけでもない。 そして、私が世界最速の200m走者であることに変わりはないのだから、と。

辛い状況に陥った際には、自分自身を知り、自信を持つことが大切

1996年、アトランタオリンピック。私はそれまでのキャリアの中で、一番プレッシャーを感じていました。その一部は自分自身に原因がありましたが、あえてその状態を望みました。こういった問題をアスリートたちに話すとき、私はいつも同じところから始めるようにしています。それは、自分自身を知る、ということです。自分の強みや弱み、モチベーション、恐怖心、その理由は何なのか、ということについて、できるだけ正直に見つめることです。

1996年を迎えるまでに、私は本当の自分を理解するようになりました。自分が、最も大きいプレッシャーの中で、最も幸せで最高の状態になれることを知っていました。 私がイメージしていたのは、オリンピックや世界選手権の決勝戦が始まる30分前のコールルームに、私と7人の選手がいるところです。30分後に、そのうちの1人が金メダルを手にし、他の7人は獲得できません。

私は金メダルを取るのが自分であって欲しいと考えています。そして、皆も私が取るのだと何となく感じているのです。もし、このような瞬間に自信が持てなかったら、自国開催のオリンピックで200mと400mのダブル出場ができるよう、IOCにスケジュール変更を要請しなかったでしょう。そして、あの黄金のスパイクを履くこともなかったでしょう。とても悪い結果に終わる可能性もありました。

自分自身を信じることに加え、家族やスタッフなどのサポート・応援が回復を後押しする

3年前の2018年、マリブで脳卒中を発症しました。発症後は、身体に加え精神的なリハビリも行いました。メンタル面の回復はとても大変でした。 脳から体の一部への接続が断絶されていたため、歩き方も一から学び直しました。それまで当たり前だと思っていた歩くための一連の動作がすべて失われてしまったのです。回復できるという確信がないまま、リハビリを行っていました。 鏡を覗き込むと、そこにいる人物は、かつての自分の姿と重なって見えました。そして、自分の運動能力がすべて、あるいは一部でも回復するかどうかさえ分からず、自信がありませんでした。

やがて、私は1992年のバルセロナオリンピックの後と同じように考えるようになりました。自分の中にある恐怖や怒り、悲しみを素直に感じることを、自分に許してあげる必要がありました。 そして、自分の生活の質をできる限り回復させることをモチベーションにしたのです。 脳卒中が起きる前と同じように、ハイキングやサイクリング、パドルボードを楽しめる自分になりたいと思ったのです。

こうして私が経験した過程を話してみると、解決策は自分自身の中から生まれたものなのだと改めて思います。 しかし、私の家族やマイケル・ジョンソン・パフォーマンスのスタッフ、そしてソーシャルメディアで私の回復を見守ってくれていた人々のサポートがなければ、私の回復は実現しませんでした。 彼らが私を後押ししてくれたのです。

10月10日は世界メンタルヘルスデーです。この問題をただのきれいな箱に入れてしまわないでください。この問題を箱にしまうことはできません。この問題は、テレビの中のスポーツ界のスターにも、あなたが一緒に暮らしている人々にも影響を与えるものです。そして、その影響の仕方はひとりひとり全く異なるのです。

誰もが、自分の成功と失敗の両方を、実際よりも大きく見せてしまうことがあります。トレヴァー・モアワドは私の親しい友人で、最高のスポーツメンタルコンディショニングコーチでした。個々の問題に取り組むことでアスリートのパフォーマンス向上を支援する団体「マイケル・ジョンソン・パフォーマンス」でともに働いた仲間でもありました。トレヴァーは残念ながら最近亡くなりましたが、ニュートラル思考、中庸を維持する方法や、どんな状況でも現実的でいる方法をテーマにした本を書いています。

これらは私たちが自分自身を大切に扱うために必要なツールです。そして、互いに助け合うこともまた必要です。私が脳卒中から回復できたのは、人の助けがあったからだと思っています。バルセロナで父を必要としたとき、父がそこにいてくれたことを覚えています。 一流アスリートや身近な人が彼らのメンタルヘルスについて打ち明けたときに、私たちにはできることがあります。それは、耳を傾けることです。

大坂なおみが最優秀スポーツ選手賞…日本勢初の快挙

女子テニスの大坂なおみが日本時間の5月7日、スポーツ界のアカデミー賞と言われるローレウス年間最優秀女子選手賞に選出された。男女を通じて日本勢初。2019年に受賞した新人賞に続く選出だが、今回はあらゆるスポーツの女子選手の頂点に選ばれた。

ローレウス年間最優秀女子選手賞の大坂なおみ

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスが、2021年5月6日(現地時間)にローレウス世界スポーツ賞2021の授賞式をオンラインで行い、全10部門の受賞者を発表した。

2020年のスポーツシーンにおいて最も優れた功績を残した個人や団体を表彰した。

ローウス年間最優秀女子選手賞に大坂なおみ

2度目の全米オープンテニス優勝を果たした大坂がローレウス年間最優秀女子選手賞を受賞。2019年の年間最優秀成長選手賞と合わせて2度目の受賞となった。日本人として同賞の受賞は初。競技外でも、アフリカ系米国人の名前を記したマスクを試合ごとに着用して「Black Lives Matter」の活動を支援するなどの実績も評価された。

大坂なおみ

大坂なおみのコメント
「私がロールモデルとするたくさんの先輩がこの賞を受賞されるのを見てきました。今回、自分が受賞してみて、この賞の重みを感じています。受賞できたことを心からうれしく思っています。コートの上で私が行った活動について、声を上げることが大切だと思いました。私は自分に自信がなくて、周囲からどう思わ れているか心配になり、行動に移すのを何度もためらいました。でも、その機会があるなら、行動することがとても大切だと思いました。今後の目標は、できる限り多くの人をサポートし、できる限り多くの人に影響を与え、もっと影響力のある、いい人間でありたいと思っています」

男子はグランドスラム優勝20回を達成したラファエル・ナダル

全仏オープンテニスで13回目の優勝を果たし、ロジャー・フェデラーと並ぶグランドスラム優勝20回を達成したラファエル・ナダルが受賞。2006年の年間最優秀成長選手賞、2011年の最優秀男子選手賞、そして2014年の最優秀復帰選手賞に続く、4度目の受賞。

ラファエル・ナダル

ラファエル・ナダルのコメント
「私は素晴らしいライバルたちに恵まれました。このトロフィーを受賞するに値するライバルや、アスリートにも祝福を贈りたいと思います。今年は私が受賞することになりました。これ以上の幸せはありません。13回目の全仏オープン制覇を果たし、20回目のグランドスラム優勝によって、ロジャー・フェデラー に並んだことは忘れられない瞬間です。最大のライバルであり、親友でもある彼と肩を並べることができてとてもうれしいです。私たちがコート内外で一緒に過ごしてきた歴史の中でも非常に特別なことです。私たちが直面しているパンデミックは、前例のないものです。辛い思いをされたり、大切な人を亡くされたすべてのご家族を支えられるようなメッセージを贈りたいと思います」

年間最優秀復活賞のマックス・パロット

●ローレウスのホームページ

スポーツファンが投票で選ぶ「感動瞬間」に投票しよう

世界中のスポーツファンが選ぶ感動的な瞬間、ローレウス・スポーティング・モーメント賞の一般投票が4月16日に始まった。投票は4月30日まで特設サイトで受け付け、受賞者は5月6日(日本時間5月7日未明)にオンライン開催される『ローレウス世界スポーツ賞 2021』で発表および表彰される。

2021年のノミネートは6つのモーメント。日本からはラグビー元日本代表の野澤武史氏、廣瀬俊朗氏を中心としたメンバーで発足された「一般社団法人スポーツを止めるな」の活動がノミネートされている。

コロナ禍でもスポーツを止めない-日本の学生たちが自分のプレーをアピールする環境づくり

ローレウス・アンバサダー 為末大氏のコメント
新型コロナウイルス感染症により、実にさまざまな場所に影響が及びました。特に日本の高校生たちは、スポーツマンとしてのキャリアを今後どう進めていけばいいか分からず、大変苦しんだことでしょう。
そんな中で生まれた名案は今や、多くの若者のキャリアを助けるプロジェクトとなりました。
『#スポーツを止めるな』は、このような困難の時期を乗り越えるために生まれた素晴らしい活動、いい取り組みです。多くの方々がローレウス・スポーティング・モーメント賞に投票してくださることを期待しています。

「ローレウス・スポーティング・モーメント賞 2021」ノミネート一覧

①夢の実現-史上初、ダウン症の選手がアイアンマントライアスロンを完走(米国)

夢の実現-史上初、ダウン症の選手がアイアンマントライアスロンを完走

②中国に感動を届けるために-不屈の精神でトレーニングを続ける世界チャンピオン(中国)

中国に感動を届けるために-不屈の精神でトレーニングを続ける世界チャンピオン

③コロナを相手にマッチポイント-屋上をテニスコートに変えたイタリアの2人の女の子(イタリア)

コロナを相手にマッチポイント-屋上をテニスコートに変えたイタリアの2人の女の子

④寒波に襲われた街の闘い-患者を救いたい。心で17kmもの雪道を歩いた医師ら(スペイン)

寒波に襲われた街の闘い-患者を救いたい。心で17kmもの雪道を歩いた医師ら

⑤コロナを跳ね除けドイツを救う-アスリートらが募金を集めドイツ全土慈善団体の活動を支援(ドイツ)

コロナを跳ね除けドイツを救う-アスリートらが募金を集めドイツ全土慈善団体の活動を支援

⑥コロナ禍でもスポーツを止めない-日本の学生たちが自分のプレーをアピールする環境づくり(日本)

一般社団法人スポーツを止めるなの廣瀬俊朗さんら

●ローレウス・スポーティング・モーメント賞のホームページ

香川真司…ギリシャの環境で自身をコントロールし毎試合ベストを

ギリシャのサッカースーパーリーグ、PAOKテッサロニキに所属する香川真司にインタビュー。40を超える国と地域にてスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスがギリシャでのデビューを果たした直後の2021年2月上旬に行った。同選手は2017年よりローレウス・アンバサダーを務めている。

香川真司

ローレウス・アンバサダーは200名を超える世界中の現役アスリートや近年引退したアスリートたちによって構成され、スポーツを通じた社会貢献活動に取り組むローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団の活動を支援している。

今回、香川にスポーツの力やスポーツを通じた社会貢献活動について聞き、これまで所属したチームでの監督やチームメイトとの出会い、そして新天地ギリシャスーパーリーグや今後の目標について語ってもらった。

「スポーツの力」を感じた瞬間

「ワールドカップは日本全体が一つになれる瞬間を感じやすい。2011年なでしこジャパンのワールドカップ優勝、チャリティーマッチでのカズさん(三浦知良選手)のゴールは、スポーツを通じて国民に与えられるものがこんなにあるのだと感じられた瞬間だった」

香川真司

スポーツの力を使った社会貢献活動が日本で広がっていくことについて

「日本では芸能人やアーティストなどいろいろなジャンルの方々が活躍していて、彼らの影響力が強い。私はスポーツ選手もそういう立場になれる存在だと信じている」

ボルシア・ドルトムント時代の指揮官、ユルゲン・クロップ監督との出会い

「あの監督について行けば恐れることはなにもないと思わせてくれる存在。ヨーロッパというトップレベルの中で優勝を勝ち取れたのは運命的な出会い。クロップ監督やドルトムントと出会い、あのスタジアムでプレーできたことは本当に幸せなことだった」

マンチェスター・ユナイテッド時代の指揮官、アレックス・ファーガソン監督との出会い

「監督サー・アレックスがハーフタイムに怒鳴っているときに、ウェイン・ルーニーやライアン・ギグス、ポール・スコールズがなにも言い返せないのを見て、この人はとても偉大な人なのだなと感じた。彼が私たち若手よりも、経験ある選手に対して強い要求をしていた。ファーガソン監督だからこそやれること」

ギリシャスーパーリーグの印象

「サポーターが熱く、守備の堅い手強いチーム。新しいチームと新しい環境で自分自身をコントロールして、毎試合自分のベストを調整していく。オリンピアコスのソクラティス選手とは、近況を報告しあったりしていて、一緒にピッチに立てる日が楽しみ」

●ローレウスのホームページ

大坂なおみが世界スポーツ賞最終候補…日本選手初受賞なるか

テニスの大坂なおみが、世界のスポーツシーンで最も優れた功績を残した選手を称えるローレウス世界スポーツ賞2021の年間最優秀女子選手の最終候補にノミネートされた。年間最優秀復活選手部門にはバドミントンの桃田賢斗がノミネートされた。

大坂なおみ

大坂はアスリートオブザイヤーでも日本勢初受賞

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスが主催するローレウス世界スポーツ賞2021は、1000人を超える世界中のスポーツジャーナリストの投票によりノミネートが決定した。このあとは69人のローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミーメンバーによる投票が行われ、その投票結果をもって受賞者が決定する。

大坂は国際スポーツプレス協会(AIPS)のアスリートオブザイヤーでも日本勢として初受賞した実績があり、今回も有力候補と言われている。

ローレウス世界スポーツ賞2021の6部門にノミネートされた選手・チーム・団体

年に一度、スポーツシーンにおいて最も優れた功績を残した個人や団体を称える同賞は、2021年で22回目を迎え、今日ではスポーツ界において最も名誉あるアワードの一つと称されている。2020年は大坂がローレウス年間最優秀女子選手部門、ラグビー日本代表チームがローレウス年間最優秀成長部門にノミネートされていた。

バドミントンの桃田賢斗が年間最優秀復活選手部門にノミネートされた

年間最優秀女子選手部門には大坂のほか、自転車世界選手権でロードレースとタイムトライアルの両方で優勝を飾ったオランダのアンナ・ファンデルブレッゲン、イタリア人で初めてワールドカップスキーで総合優勝を果たしたイタリアのフェデリカ・ブリニョネ、ロンドンマラソンで優勝したケニアのブリジット・コスゲイ、リヨンのキャプテンを務め女子チャンピオンズリーグで5連覇を果たしたワンディ・ルナール、そしてシアトル・ストームをWNBAチャンピオンシップ優勝に導いたバスケットボールのブレアナ・スチュワートが名を連ねている。

年間最優秀女子選手にノミネートされたのは自転車ロード2冠のアンナ・ファンデルブレッゲン(オランダ)、スキーのフェデリカ・ブリニョネ(イタリア)、陸上競技のブリジット・コスゲイ(ケニア)、大坂、サッカーのワンディ・ルナール(フランス)、バスケットボールのブレアナ・スチュワート(米国)

大坂なおみのコメント
「世界中のメディアのみなさまによってローレウス賞に再び選出していただき、光栄に思っています。ローレウスはコートやピッチ上で行われるスポーツの結果だけでなく、スポーツを通じた活動をいかに世界中の若者の助けになるのかという面も含め、大局的な評価を重視しているので、この賞にノミネートされるというのは私にとって特別なことです。現代は、スポーツはいろいろな方法で大きな変化をもたらすことができ、世界を変える力を持った時代であると思っています」

年間最優秀男子選手にノミネートされたのは陸上5000mのジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)、棒高跳びのアルマンド・デュプランティス(スウェーデン)、モータースポーツのルイス・ハミルトン(英国)、バスケットボールのレブロン・ジェイミス(米国)、サッカーのロベルト・レバンドフスキー(ポーランド)、テニスのラファエル・ナダル(スペイン)

交通事故から復帰を果たした桃田賢斗がノミネート

桃田は、2020年1月のマレーシアマスターズ優勝の翌日、車で空港へ移動する際に乗っていた車両が交通事故に遭遇し重傷を負った。さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界大会が相次いで中止になったこともあり、12月に行われた全日本選手権まで競技復帰の時間を要した。

しかし、その全日本選手権では準々決勝で1セットを失ったものの、この試合以外はストレート勝ちで決勝に進出。決勝では2-1で勝利をおさめ、復帰戦を優勝で飾った活躍が評価されてローレウス最優秀復活選手部門に選出された。

大ケガからカムバックしたバドミントンの桃田賢斗がノミネートされた年間最優秀復活選手部門

この部門にノミネートされた選手たちはさまざまなハードルを乗り越えたアスリートの真の精神や固い決意、粘り強さを体現した選手たちが並ぶ。父の死からカムバックを果たし優勝を手にした女子トップスキー選手のミカエラ・シフリン、がんを克服しXゲームのスノーボードで2つの金メダルを手にしたカナダのマックス・パロット、脚の負傷により728日の離脱、17回の手術を経て復帰したNFLワシントン・レッドスキンズ(ワシントン・フットボールチーム)のアレックス・スミス、イップスにより引退し7年後に見事メジャー復帰を果たした野球のダニエル・バード、そして出産からわずか184日後にロンドンのクラブチーム、トッテナムで現役復帰を果たした米国サッカースターであるアレックス・モーガンらが候補。

ツール・ド・フランス逆転優勝のポガチャルも

ローレウス年間最優秀成長選手賞の候補者には、2020年に大きなインパクトを残した最高の若手選手たちが名を連ねている。ツール・ド・フランスで100年振りに最年少総合優勝記録を打ち立てたスロベニアの21歳タデイ・ポガチャル、スペイン代表史上最年少得点者となったバルセロナの17歳、アンス・ファティ、そしてmotoGP世界選手権で初優勝を果たしたスペインの23歳、ジョアン・ミル。全仏オープンテ ニスで1990年以降で最年少グランドスラム優勝を果たしたポーランドの19歳イガ・シフィオンテク、そして全米オープンテニスでグランドスラム初優勝を達成したオーストリアの27歳ドミニク・ティーム。そしてカンザスシティ・チーフスを50年振りのスーパーボウル優勝に導いたパトリック・マホームズ。

大躍進した若手選手を表彰するブレークスルー賞には2020ツール・ド・フランス総合優勝のタデイ・ポガチャル(スロベニア)がノミネートされた

元オールブラックスのレジェンドでローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミー会長
ショーン・フィッツパトリックのコメント

「困難な1年を経て、私たちはローレウスを通じて人びとの功績を称える重要性をかつてないほど痛感しています。彼らは多くの場合これまでとまったく異なる環境下で、あるいは無観客にもかかわらず、大変な苦労の末にスポーツの世界に戻ってきてくれました。困難な時にすべての人の心を前向きにしてくれたのです。
アカデミーのメンバーとして、素晴らしい成果を達成した選手たちのほかに、3つのプログラムがローレウス・スポーツ・フォー・グッドの受賞者候補として選出されていることを誇りに思っております。こうしたプログラムは、世界中の社会的格差に苦しむコミュニティで過酷な状況の中活動を行い、スポーツの素晴らしさを示すとともに、逆境の中でも社会を変えるツールとしてスポーツを用いて、懸命に取り組んできました」

チーム賞にノミネートされた6団体

●ローレウスのホームページ

スポーツ界のアカデミー賞は大坂なおみが最有力候補

グラウンドの内外でスポーツがもたらす素晴らしさを称えるローレウス世界スポーツ賞が「プレー・アカデミー with大坂なおみ」への支援を拡大している。

ローレウス世界スポーツ賞は、これまではスポーツ界のスター選手が華々しい序章式に登場することから「スポーツ界のアカデミー賞」ともよばれてきた。22回目を迎える今回は新型コロナウイルス感染症対策として、今後数カ月の間に新しくバーチャル形式で発表される。史上初となるデジタル形式の授賞式で、スポーツの素晴らしさ、そしてアスリートが社会にもたらした影響力を称える。

ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団が主催する賞では過酷な一年となった2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行に対応すべく尽力してきたスポーツに関わる人々の、印象的なストーリーを紹介している。

2020年のスポーツ界で最も偉大な功績を称えるだけでなく、幅広い問題に対して影響力のある立場を利用して強い影響力を発揮したスポーツ選手たちの活動も評価され、ローレウスが新たな戦略的方向に進むための一助とする。

ローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミーのチェアマンを務めるショーン・フィッツパトリックは、「ローレウス世界スポーツ賞の候補者および受賞者は、スポーツが人を勇気づけ意欲をもたらすものであることを思い出させてくれる」とコメント。

モーゼス、大坂なおみチームへのMUFGによる参加を称賛

オリンピックのレジェンドであるエドウィン・モーゼスは、ローレウスのグローバルパートナーであるMUFGの支援のもと、3度のグランドスラムタイトルを持つテニス女王である大坂なおみ、ナイキ、ローレウスが協力し、スポーツの力を用いて日本の女の子たちのスポーツの場を拡充させる活動に取り組み、その「パートナーシップの力」を称賛している。

楽しく前向きなスポーツ参加に投資し、ジェンダーインクルーシビティ(包摂性)の訓練を受けたコーチたちと協働することで、「プレー・アカデミー with大坂なおみ(PANO)」)は、女の子たちが前向きなロールモデルになれるよう支援する。

ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団のチェアマンであるモーゼスは、「大坂なおみ選手によるプレー・アカデミー創設は、一流スポーツ選手が、単にロールモデルになるのではなく重大な問題や原因に対し影響力を用いることで、若者の生活を変えることを示しています」と語る。
「プレー・アカデミーに参画するMUFG、そして活動を支援するナイキとその他パートナーは、素晴らしいチームワークの手本となっています」

新型コロナウイルスでスポーツ選手の2割が不安

2021年2月に発表された報告書によると、新型コロナウイルス感染症の流行により、開発のためのスポーツ分野に関わる人の5分の1以上が、将来に不安を感じていることが判明した。この統計では、資金不足や長引くロックダウン規制による重大な問題が明らかになった。

しかし前向きに考えると、調査を受けた団体の75%が、財政面で新型コロナウイルスから立ち直ることができるかという質問に対し、生き残りのカギとなる革新や新たな財源があれば、「ややそう思う」または「とてもそう思う」と回答している。

オークスコンサルタンシーによるこの研究は、ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団、スポーツと開発に関する国際プラットフォーム、streetfootballworldの協力により実現した。この調査は世界の100を超える団体に対し実施された。調査では、パンデミックが収入、募金活動、緊急時対応計画にもたらす影響に焦点を当てている。

「特別」な関係を称賛 

20年間にわたり、ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団は、親密なパートナーシップのもと、スペシャルオリンピックスの支援を続けている。現在、スペシャルオリンピックスは220もの国・地域で570万人を超えるアスリートを擁し、スポーツを用いて障害をもつすべての人のための包括的な世界を創出している。

最近では、ローレウスは女性の社会的地位向上やスキルフォーライフのためのカリキュラムに始まり、就学年齢の子どもたちを社会に参加させることを目指した団結プログラムに至るまで、中国、日本、ロシア、ナイジェリア、韓国のスペシャルオリンピックス・プロジェクトに支援を行っている。

ローレウスアカデミーのメンバーであるナディア・コマネチは、「ローレウス、そしてスペシャルオリンピックスを通じて出会った方々の愛と情熱に、いつも心を震わせています。スポーツは間違いなく皆さんの生活を変え、たくさんの重要なことを教えてくれます」と

スペシャルオリンピックス、団結プログラムを通じて世界の子どもたちとつながる