カベンディッシュ復活賞ならず…受賞はスカイ・ブラウン

スポーツ界のアカデミー賞と呼ばれているローレウス世界スポーツ賞2022の全13部門の受賞者が2022年4月24日に発表され、最優秀男子選手はF1のマックス・フェルスタッペン(オランダ)、同女子は陸上のエレイン・トンプソンヘラ(ジャマイカ)が選ばれた。

ローレウス年間最優秀復活選手部門:スカイ・ブラウン(スケートボード・英国) ©Ulrik Pedersen/NurPhoto via Getty Images

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスの主催。2021年のスポーツシーンにおいて最も優れた功績を残した個人や団体を表彰した。

最優秀復活選手賞は大怪我を経て東京五輪で銅のブラウン

カムバックを果たした選手に送られる最優秀復活選手部門は、日本にもルーツを持つスケートボードのスカイ・ブラウン(英国)。自転車ロードレースのマーク・カベンディッシュ(英国)も最優秀候補選手だったが、受賞できなかった。

ブラウンは2020年6月、練習中に頭から転倒し、頭蓋骨と左手首などの骨折という大けがを負った。病院に運ばれたときには意識がなかったという重傷ながら、東京オリンピックに出場できるまでに回復。女子スケートボードパークで3位となり、13歳28日という若さで、銅メダルを獲得。英国史上最年少 メダリストとなった。

日本から最優秀アクションスポーツ選手部門にノミネートされていた堀米雄斗・西矢椛、最優秀障害者選手部門にノミネートされていた国枝慎吾、スポーツ・フォー・グッド部門にノミネートされていたNPO法人モンキーマジックは受賞ならず。

ローレウス年間最優秀男子選手部門:マックス・フェルスタッペン(F1・オランダ) ©Clive Rose/Getty Images

【受賞一覧】
・ローレウス年間最優秀男子選手部門:マックス・フェルスタッペン(F1・オランダ)
・ローレウス年間最優秀女子選手部門:エレイン・トンプソンヘラ(陸上・ジャマイカ)
・ローレウス年間最優秀チーム部門:サッカー男子イタリア代表(サッカー・イタリア)
・ローレウス年間最優秀成長選手部門:エマ・ラドゥカヌ(テニス・英国)
・ローレウス年間最優秀復活選手部門:スカイ・ブラウン(スケートボード・英国)
・ローレウス年間最優秀障害者選手部門:マルセル・フグ(車いす陸上・スイス)
・ローレウス年間最優秀アクションスポーツ選手部門:ベサニー・シュリーバー(BMX・英国)
・ローレウス生涯功労賞:トム・ブレイディ(アメリカン・フットボール・米国)
・ローレウス・アカデミー偉業達成賞:ロベルト・レヴァンドフスキ(サッカー・ポーランド)
・ローレウス・スポーツ・アイコン賞:バレンティーノ・ロッシ(オートバイ・イタリア)
・ローレウス・スポーツ・フォー・グッド賞:Lost Boyz Inc.(米国)
・ローレウス・スポーツ・フォー・グッド・ソサエティ賞:レアル・マドリード財団(スペイン)
・ローレウス年間アスリート支援者賞:ゲーラルド・アサモア「ブラックイーグルス」(ドイツ)

ローレウス年間最優秀女子選手部門:エレイン・トンプソン=ヘラ(陸上・ジャマイカ) ©Michael Steele/Getty Images

スカイ・ブラウン、堀米雄斗・西矢椛をまるごとリスペクト

ローレウス世界スポーツ賞2022の最優秀復活選手部門にノミネートされているスケートボードのスカイ・ブラウン(英国)がインタビューに応じ、4月の発表を前にノミネートされた感想や、同じスケートボードの選手であり、日本からアクションスポーツ選手部門にノミネートされている西矢椛、堀米雄斗について語った。

スカイ・ブラウン

ブラウンは2020年6月、練習中に頭から転倒し、頭蓋骨と左手首などの骨折という大怪我を負った。病院に運ばれた際は意識がなかったほどの状態から、東京オリンピックに出場できるま でに回復し、女子スケートボードパークで13歳28日という若さで銅メダルを獲得。英国史上 最年少メダリストになった。

ルーツのある日本で、英国のためにメダルを獲得できたことが信じられない

ローレウス最優秀復活選手部門にノミネートされた感想
「とにかく感謝していて、光栄で、興奮している。スポーツには世界を変える力がある。今回のノミネートは世界へいいメッセージを伝えることができると思う」

大怪我からの復帰について
「とにかく、一刻も早くスケートボードを滑りたかった。家族にとっては本当につらい経験だったと思う。でも、私自身は早く復活したくて仕方なかった」

東京オリンピックでの印象に残っていること
「今までで一番思い出に残る経験。出場権を獲得するまでの道のりも、世界中を巡って、友達と色々なパークでスケートをすることができて素晴らしい旅だった」

ルーツのある日本でのオリンピック出場に関して
「とにかくその場にいることを満喫しようと思っていた。日本の地で、英国のためにメダルを獲得できたことが信じられない。私にとってはピッタリの場。スケートボードを通じて、日本が いかに美しい国であるかと、女子スケートボードの進化も見せることができた」

西矢椛について
「椛は本当にすごいと思います。同じくらいの年齢の選手がいるとそれだけで楽しいですし、一緒に年上の選手に若さを見せつけることができるもいい(笑)」

堀米雄斗について
「雄斗が大好きです! とてもクールで、性格もよく、スケートのスタイルも大好き」

インタビューに応えるスカイ・ブラウン

意識が戻った瞬間からスケートボードのことを考えていた

ローレウス最優秀復活選手部門にノミネートされた感想を教えてください。
「とても光栄です。(ノミネートされたことに)すごく興奮しています。今回のノミネートはとてもいいメッセージになると思うし、よくここまで復帰できたなとも思います。とにかく感謝していて、光栄で、興奮しています。スポーツには世界を変える力があります。それぞれ興味のあるスポーツは違うと思いますが、今回私がノミネートされたことで世界へいいメッセージを伝えることができると思います」

最優秀復活選手部門にはシモーネ・バイルズやマーク・マルケスなどがノミネートされています。彼らと名前を連ね、選ばれた感想を教えてください。
「なんと言ったらいいか…。とにかく一緒の舞台に立っているだけで光栄に思います。彼らと一緒にノミネ ートされていることが信じられないです。みんな尊敬している選手なので、一緒にノミネートされていることが本当に信じられないです」

なぜこんなにも早くあの大怪我から復帰できたのですか?
「とにかく、一刻も早くスケートボードを滑りたかったので、私にとっては難しいことではありませんでした。もちろん怖さもありましたが、スケートボードのプレイグラウンドに戻って、私のおもちゃ(ボード)に早く乗りたかったんです。でも両親の了承を得るのはとても大変でした。パパは事故を間近で目撃したし、ママはすぐそばの車の中で仮眠をしていて、弟のオーシャンは後ろから見ていました。家族にとっては本当につらい経験だったと思います。でも、私自身は早く復活したくて仕方なかったんです」

スケートボードがもうできないかもしれないという思いはなかったですか?
「それはありませんでした。意識が戻った瞬間からスケートボードのことを考えていましたし、ドクターからは復帰できるか分からないと言われていましたが、私はすぐに復帰することができると自信がありました」

スケートボードを通じて日本がいかに美しい国であるかを見せることができた

東京オリンピックはまさに復活を象徴しているようでした。東京オリンピックに出場できたことはあなたにとってどのような意味がありましたか? また、東京オリンピックでの経験で印象に残っていることはありますか?
「東京オリンピックはとにかく今までで一番思い出に残る経験でした。出場権を獲得するまでの道のりも、世界中を巡って、友達と色々なパークでスケートをすることができて素晴らしい旅でした。また経験してみたいです。まるで夢みたいでクレイジーでした」

ルーツのある日本の地でオリンピックに出場し、銅メダルを獲得したという成績をどのようにとらえていますか?
「勝った!という感じです。2回も転倒してしまいましたが、なんとかやり切りました。とにかくその場にいることを満喫しようと思っていました。日本の地で、英国のためにメダルを獲得できたことが信じられません。私にとってはピッタリの場でした。日本とは心で繋がっていて、スケートボードを通じて日本がいかに美しい国であるかを見せることができたと思います。女子スケートボードがどんどん進化していることも見せることができました。さらに表彰台に立つことができたことが本当に信じられません。 みんなとてもいいパフォーマンスをしていたのでとても楽しかったです」

ローレウス世界スポーツ賞 2022」にノミネートされた日本人ボーダーについて日本人選手として西矢椛が女子ストリート金メダルを獲得しました。年齢の近い同じ競技の選手と競っている環境はどうですか?
「椛は本当にすごいと思います!自分に年齢の近い女の子が(競技に)増えてきていて、私よりも若い選手もいて、見ていて楽しいです。同じくらいの年齢の選手がいるとそれだけで楽しいですし、一緒に年上の選手に若さを見せつけることができるもいいですね(笑)」

堀米雄斗は年齢が少し上だと思いますが、交流はありますか?
「雄斗は大好きです! すごく優しいし、実を言うと大好きな選手の一人です。とてもクールですごいと思います。性格もいいし、スケートのスタイルも大好きです」

ローレウス世界スポーツ賞に堀米雄斗、西矢椛、国枝慎吾がノミネート

23回目となるローレウス世界スポーツ賞2022の最終候補が発表され、五輪金メダルのスケートボード・堀米雄斗、西矢椛が最優秀アクションスポーツ選手部門に、車椅子テニスの国枝慎吾が最優秀障害者選手部門にノミネートされた。

また、スポーツを通して若者の生活を向上させたプログラムに贈られるスポーツ・フォー・グッド部門に、NPO法人モンキーマジックが選出された。

2021年は、大坂なおみが日本人初となるローレウス年間最優秀女子選手賞を受賞した。バドミントン・桃田賢斗がローレウス年間最優秀復活選手部門にノミネートされていた。

スポーツ界において最も名誉あるアワードの一つ

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスが主催する権威ある賞。7部門のノミネートが1300を超える世界のスポーツジャーナリストの投票により決定した。スポーツ界のレジェンドら71名で構成されるローレウス・スポーツ・アカデミーメンバーによる最終投票が行われ、その投票結果をもって受賞者が決定し、2022年4月に開催予定のローレウス世界スポーツ賞2022で発表される。

スケートボードの西矢椛がローレウス年間最優秀アクションスポーツ選手部門にノミネート

堀米雄斗のコメント
「ローレウス世界スポーツ賞にノミネートされたことを大変光栄に思います。また、世界のスポーツメディアから選ばれたことに感謝しています。スケートボードがオリンピックの正式種目になり初めての大会が母国で行われ、そこで金メダルを獲得したことは、決して忘れることのできない出来事です。これからも母国日本だけではなく、世界中のスケートボードに影響を与える存在であり続けたいと思います」

スケートボード・堀米雄斗がローレウス年間最優秀アクションスポーツ選手部門にノミネート

国枝慎吾のコメント
「2010年以来、再びローレウス賞にノミネートされたことを光栄に思い、興奮しています。昨年は、東京オリンピック・パラリンピックを無事に開催することができ、世界中の人々にスポーツの力を伝えることができ、日本国民にとって特別な年でした。また、何百万人もの人々がテレビで観戦する中、母国でシングルス金メダルを獲得したことは、私にとって夢のような瞬間でした。私のプレーがきっかけで、もっと多くの人が車いすテニスを観戦することになればうれしいです。そして、ローレウスが世界の若者を支援する活動をされていることに敬意を表します」

国枝慎吾がローレウス年間最優秀障害者選手部門にノミネート

モンキーマジックの小林幸一郎代表コメント
「2005年からクライミングというスポーツを通じた、障害者への価値観を、助けてあげなければならないヒトたちから、ともに人生を楽しむ仲間へと変え、社会の多様性理解を促進してきました。小さな活動ですが、今回このようにご評価をいただけ本当にうれしく、日本全国に、そしてアジア、世界へと活動が広げられるように、一層がんばってまいります。重ねまして今回の光栄なローレウス世界スポーツ賞へのノミネートに改めて御礼申し上げます」

スポーツを通し若者の生活を向上させたプログラムに贈られるスポーツ・フォー・グッド部門にNPO法人モンキーマジックが選出された

大谷翔平は最終候補6選手に入れず…ローレウス世界スポーツ賞

世界のスポーツメディアによる投票の結果、2022年ローレウス世界スポーツ賞の候補者として、男女それぞれ6選手などが選出された。米大リーグの大谷翔平は男子最優秀選手候補の6選手には入れなかった。

世界のスポーツシーンにおいて最も優れた功績を残した個人や団体を称えるローレウス世界スポーツ賞2022の各部門ノミネート

新型コロナウイルス感染症の流行により混乱が続いているにもかかわらず、この1年に開かれた五輪やパラリンピック、サッカー欧州選手権などのスポーツで素晴らしいパフォーマンスが発揮された。

同賞は全7部門、それぞれ6人の候補者が世界各国のスポーツジャーナリストによって選ばれた。このあと、世界が誇るスポーツ界のレジェンド71名で構成されたスポーツ審査会、ローレウス・スポーツ・アカデミーによる投票が行われ、4月の授賞式で受賞者が発表される。2021年の最優秀女子選手賞は日本選手として初めてテニスの大坂なおみが受賞した。

世界レベルではサッカー、陸上、テニスに人気集中

ローレウス年間最優秀男子選手賞の候補者には、NFL最高のクォーターバック、トム・ブレイディをはじめ、バイエルン・ミュンヘン最強の得点王ロベルト・レバンドフスキ、新たなF1世界王者マックス・フェルスタッペン、テニス世界王者ノバク・ジョコビッチに加え、東京五輪で5個の金メダルを獲得したケーレブ・ドレッセルと、マラソンで連覇を果たしたエリウド・キプチョゲら2名のオリンピック選手が選ばれた。

ローレウス年間最優秀女子選手賞部門には、五輪で歴史的な結果を残した選手が多く選ばれている。同郷ジャマイカ出身のウサイン・ボルトの三冠記録に並び、100m、200m、4x100mリレーで金メダルを獲得したエレイン・トンプソンヘラ、カール・ルイスを抜き、米国の陸上選手として五輪で史上最多メダル数を獲得したアリソン・フェリックス、1大会で女子最多メダル数となる4個の金メダルと3個の銅メダルを獲得したオーストラリアのエマ・マキーオン、競泳で2個の金メダル、2個の銀メダルを獲得した米国のケイティ・レデッキー。その他に、ウィンブルドンで優勝を果たしたテニス世界女王アシュリー・バーティ、FCバルセロナ女子のキャプテンであるアレクシア・プテラスが選ばれた。

国枝慎吾堀米雄斗西矢椛が各部門最終候補にノミネート

日本選手は米大リーグで二刀流の活躍を見せた大谷翔平が男子最優秀選手の最終6選手入りができず、男女の最優秀選手賞へのファイナリスト6選手から外れたが、それ以外の部門では最終6センスにノミネートされている。ローレウス年間最優秀障害者選手賞には、自身4度目となるパラリンピック金メダルを手にした車椅子テニスの国枝慎吾がノミネート。

国枝慎吾がローレウス年間最優秀障害者選手部門にノミネート

ローレウス年間最優秀アクションスポーツ選手賞には、スケートボードの堀米雄斗と西矢椛がノミネート。堀米は東京五輪のスケートボードで初代王者に輝き、開催国を歓喜の渦に、西矢はわずか13歳で東京五輪の女子ストリートで初代女王に輝いた。

スケートボード・堀米雄斗がローレウス年間最優秀アクションスポーツ選手部門にノミネート
スケートボードの西矢椛がローレウス年間最優秀アクションスポーツ選手部門にノミネート

スポーツを通し若者の生活を向上させたプログラムに贈られるローレウス・スポーツ・フォー・グッド賞は視覚障害者にフリークライミングを普及するモンキーマジックが選出された。

スポーツを通し若者の生活を向上させたプログラムに贈られるスポーツ・フォー・グッド部門にNPO法人モンキーマジックが選出された

大谷翔平受賞なるか…スポーツ界のアカデミー賞

スポーツ界のスター選手が華々しい受賞式に登場することから「スポーツ界のアカデミー賞」と呼ばれるローレウス世界スポーツ賞が2022年4月に開催される。2021年はテニスの大坂なおみが、世界のスポーツシーンで最も優れた功績を残した選手を称える年間最優秀女子選手に輝いた。2022年はプロ野球の大谷翔平のノミネートが期待される。

大谷翔平 ©Major League Baseball

2月2日に最優秀選手の最終候補発表へ

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスが主催するローレウス世界スポーツ賞。22回目となった2021年は、1000人を超える世界中のスポーツジャーナリストの投票によりノミネートが決定。69人のローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミーメンバーによる投票が行われ、その投票結果をもって受賞者が決定。

これまではスポーツ界のスター選手が華々しい式に登場したが、2021年は新型コロナウイルス感染症対策としてバーチャル形式で発表され、大坂もデジタル形式の授賞式に出席した。

2022年は日本を含む1300人のスポーツジャーナリストが投票を終え、最終エントリー選手が2月2日に発表される。71人のローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミーメンバーが最終選考し、4月の授賞式で発表される。

2021ローレウス年間最優秀女子選手賞の大坂なおみ

過去にはテニス選手やサッカー選手、五輪金メダリストの陸上競技選手らが最優秀選手に名を連ねてきた。野球は世界レベルでは一部地域での人気にとどまることから最終エントリーに登場することは少なかったが、2022年はスポーツジャーナリストに配布された投票シートに大谷の名前が確認でき、一定以上の得票を得ることが予想される。

テニスの大坂に続く日本選手の最優秀選手受賞に期待がかかる。

メンタル問題はどんなアスリートも陥る問題…陸上ジョンソン

世界40カ国以上でスポーツを通じた社会貢献活動に取り組んでいるローレウスのアカデミーメンバーである元陸上競技米国代表、マイケル・ジョンソンが、10月10日の世界メンタルヘルスデーに合わせてメッセージを発信。自らの現役時代のメンタルヘルスに関連する体験談や、誰かが辛い状況に陥っているときに周りができるサポートなどについて語った。

マイケル・ジョンソン

どんなに優秀なアスリートであっても、スポーツ心理におけるメンタル面が、その身体能力を凌駕してしまうことがある

大坂なおみ選手がメンタルヘルスを理由に全仏オープンを棄権したことを初めて耳にしたとき、私は何が起こっているのかあまり理解できていませんでした。 しかし、先日大坂選手が「自分自身もまだ理解しようとしているところだ」と語ったように、第三者である私が理解できなかったのは当然なのです。

体操のシモーネ・バイルス選手が東京オリンピックで棄権したとき、私はBBCで仕事をしているところでした。全仏オープン以来、大坂選手の件をずっと考えていたので、今回は少し待ってみようと思ったのです。シモーネ選手が徐々に明かしていく心の内を聞くにつれ、理解は深まっていきました。

体操関係者の間では長く話題になっていた「ツイスティーズ」と呼ばれる現象についても学びました。どんなに優秀なアスリートであっても、スポーツ心理におけるメンタル面が、その身体能力を完全に凌駕してしまうことがあるのです。

選手が太ももの裏をつかんで、足を引き上げるのを目にすれば、何が起きているのかは大体わかります。何が問題なのか、それを解決するためには何が必要なのか、その選手がどのように感じているのかが理解できます。

メンタルヘルスは、私たちの誰もが影響を受けうる問題です。しかし、その影響の程度はひとりひとり異なります。放送スタジオやソーシャルメディアで、リアルタイムに診断や分析ができるようなものではないのです。私たちはしっかりと耳を傾けなければいけません。

メンタルヘルスという言葉は、私が現役選手のころはあまり使われておらず、馴染みがありませんでした。しかし、スポーツ心理に関する議論はさまざまなところでなされていました。マインドセット、集中力、プレッシャー下でのパフォーマンス、周囲からの期待、そして一般人よりもはるかに複雑なアスリートのワークライフバランスなど。当時の分析は、いずれもメンタル面と関わりのあるものでした。

実際には、スポーツ心理と、スポーツ選手のメンタルヘルスとの間に、はっきりとした境界線はないのです。若い選手たちが競技におけるストレスに対処する方法も、ワークライフバランスの取り方も、同じように語られるべきものなのです。

メンタルヘルスは、私たちの誰もが影響を受ける問題であるが、その影響はひとりひとり異なる

かつての私や今の大坂選手、シモーネ選手が競技しているような世界トップレベルになると、何百万人もの人々の前でパフォーマンスすることになります。フィジカル面をどんなに整えていたとしても、精神的な負担は存在します。このときのために人生をかけてトレーニングしてきて、心の底から成功を望んでいる。けれども、失敗するかもしれないし、このような機会は二度とないかもしれない。チームメイトを失望させてしまうかもしれない。契約が更新されないかもしれない。そして何より、皆がいつも自分を見ている。

大坂選手やシモーネ選手にとって、実際にどのようなことを負担に感じていたのかは私には分かりません。それを理解するには、本人たちの話を聞く必要があるからです。ここでは、私の場合がどうだったかをお話します。

リアルタイムに診断や分析ができないため、周囲がしっかりと耳を傾ける必要がある

1992年、バルセロナオリンピック。私は24歳でした。当時の私は、2年にわたり200mでの無敗記録を更新し続ける世界チャンピオンであり、金メダルの最有力候補と言われていました。 ところが、大会開幕直前に食中毒になってしまったのです。

症状が回復したときは、それがのちにオリンピックの舞台でのパフォーマンスに影響するとは思いもしませんでした。順調に回復し、体調もよかったのです。スタートの号砲が鳴り響き、 レースが始まるまでは…。そのときは、まるで誰か他の人の体で走っているような感じでした。

結果、準々決勝までは進めましたが、決勝には届きませんでした。

米国代表チームには、1992年当時でもスポーツ心理士が同行しており、私はすぐに面会することになりました。チームは、私が“スランプ”と呼ばれる、負のスパイラル状態に陥ってしまう可能性があると考えていました。スランプ中は、自分自身を信じられなくなります。まさにそれは私に起こっている状態でした。

しかし、ホテルの一室で、心理士の前に腰を下ろした瞬間、これは自分が必要としていることではないと気付いたのです。もちろん、人によっては効果的な方法なのかもしれません。ただ、私には当てはまりませんでした。

私はラッキーでした。両親が兄姉とともにバルセロナに来てくれていたのです(私は5人兄弟の末っ子です)。父はホテルの部屋に来てくれて、私は自分の気持ちや不安を、父が理解してくれると思いました。父はただ私の話を聞いてくれました。そして、私にこう言ったのです。

「お前は決勝戦で負けたわけではない。今回は優勝できなかった。だがそれは、競技に加われない状況だったからだ」と。

これは私の競技人生の中で最も落胆した出来事であり、その気持ちは米国に帰る飛行機に乗ってからも変わりませんでした。 帰国後数週間、家の中でじっとそのことだけを考え続けていました。今思えば、私には考える時間が必要だったのだと思います。私は怒りを感じなければならなかったし、失望しなければならなかった。起こった出来事を消化する前に、まず、こういった感情をすべて経験しなければならなかったのです。

次第に、バルセロナオリンピックでメダルを獲得した3選手のことを考えるようになりました。金、銀、銅メダリスト。オリンピック前の2年間、私はその全員と何度もレースをして、彼らに負けたことは一度もありませんでした。そう考えると、来年のレースでは、彼らに勝ち、自分が1位でゴールする可能性が十分あることに気づいたのです。 私は何も間違ったことはしていない。 本来の力を失ったわけでもない。 そして、私が世界最速の200m走者であることに変わりはないのだから、と。

辛い状況に陥った際には、自分自身を知り、自信を持つことが大切

1996年、アトランタオリンピック。私はそれまでのキャリアの中で、一番プレッシャーを感じていました。その一部は自分自身に原因がありましたが、あえてその状態を望みました。こういった問題をアスリートたちに話すとき、私はいつも同じところから始めるようにしています。それは、自分自身を知る、ということです。自分の強みや弱み、モチベーション、恐怖心、その理由は何なのか、ということについて、できるだけ正直に見つめることです。

1996年を迎えるまでに、私は本当の自分を理解するようになりました。自分が、最も大きいプレッシャーの中で、最も幸せで最高の状態になれることを知っていました。 私がイメージしていたのは、オリンピックや世界選手権の決勝戦が始まる30分前のコールルームに、私と7人の選手がいるところです。30分後に、そのうちの1人が金メダルを手にし、他の7人は獲得できません。

私は金メダルを取るのが自分であって欲しいと考えています。そして、皆も私が取るのだと何となく感じているのです。もし、このような瞬間に自信が持てなかったら、自国開催のオリンピックで200mと400mのダブル出場ができるよう、IOCにスケジュール変更を要請しなかったでしょう。そして、あの黄金のスパイクを履くこともなかったでしょう。とても悪い結果に終わる可能性もありました。

自分自身を信じることに加え、家族やスタッフなどのサポート・応援が回復を後押しする

3年前の2018年、マリブで脳卒中を発症しました。発症後は、身体に加え精神的なリハビリも行いました。メンタル面の回復はとても大変でした。 脳から体の一部への接続が断絶されていたため、歩き方も一から学び直しました。それまで当たり前だと思っていた歩くための一連の動作がすべて失われてしまったのです。回復できるという確信がないまま、リハビリを行っていました。 鏡を覗き込むと、そこにいる人物は、かつての自分の姿と重なって見えました。そして、自分の運動能力がすべて、あるいは一部でも回復するかどうかさえ分からず、自信がありませんでした。

やがて、私は1992年のバルセロナオリンピックの後と同じように考えるようになりました。自分の中にある恐怖や怒り、悲しみを素直に感じることを、自分に許してあげる必要がありました。 そして、自分の生活の質をできる限り回復させることをモチベーションにしたのです。 脳卒中が起きる前と同じように、ハイキングやサイクリング、パドルボードを楽しめる自分になりたいと思ったのです。

こうして私が経験した過程を話してみると、解決策は自分自身の中から生まれたものなのだと改めて思います。 しかし、私の家族やマイケル・ジョンソン・パフォーマンスのスタッフ、そしてソーシャルメディアで私の回復を見守ってくれていた人々のサポートがなければ、私の回復は実現しませんでした。 彼らが私を後押ししてくれたのです。

10月10日は世界メンタルヘルスデーです。この問題をただのきれいな箱に入れてしまわないでください。この問題を箱にしまうことはできません。この問題は、テレビの中のスポーツ界のスターにも、あなたが一緒に暮らしている人々にも影響を与えるものです。そして、その影響の仕方はひとりひとり全く異なるのです。

誰もが、自分の成功と失敗の両方を、実際よりも大きく見せてしまうことがあります。トレヴァー・モアワドは私の親しい友人で、最高のスポーツメンタルコンディショニングコーチでした。個々の問題に取り組むことでアスリートのパフォーマンス向上を支援する団体「マイケル・ジョンソン・パフォーマンス」でともに働いた仲間でもありました。トレヴァーは残念ながら最近亡くなりましたが、ニュートラル思考、中庸を維持する方法や、どんな状況でも現実的でいる方法をテーマにした本を書いています。

これらは私たちが自分自身を大切に扱うために必要なツールです。そして、互いに助け合うこともまた必要です。私が脳卒中から回復できたのは、人の助けがあったからだと思っています。バルセロナで父を必要としたとき、父がそこにいてくれたことを覚えています。 一流アスリートや身近な人が彼らのメンタルヘルスについて打ち明けたときに、私たちにはできることがあります。それは、耳を傾けることです。