2人乗りのタンデム車が東京都でも一般道走行解禁に向けて第一歩を踏み出した。11月13日、多摩湖自転車歩行者道など都内の3コースでタンデム車の走行が許可された。2人で会話を楽しみつつ、軽快なスピードで走れる。パラリンピックの正式種目でも使用されるタンデム車の魅力を実際に体験してみた。
前に乗る人はパイロット、後ろはストーカー!?
タンデムとはもともと、「2頭を縦につないだ馬車」を指す。これが自転車になると、2人の乗り手が縦に座り、それぞれが回すギアをチェーンでつないで駆動させる。前に乗る人はパイロットあるいはキャプテンと呼ばれ、ハンドルとブレーキ操作を担う。後ろに乗る人はストーカーと呼ばれるのだが、「つきまとい行為をする人」ではなく、機関車時代に「石炭を入れる人」を指した。つまりペダルを踏んで推進力を加勢する役割を担う。2人でこげばパワーは2倍になる。それでいて、前面から受ける空気抵抗はそれほど変わらないのでタンデム車のほうが高速走行できるのだ。
日本の道路交通法では、普通自転車は全長190cm以下と規定されるので、それを超えるタンデム車は軽車両扱い。ただしタンデム車が一般道を走れるかどうかの記述は同法にないので、都道府県が独自に定める細則に左右される。近年はタンデム車解禁の流れで、現在は36道府県で一般道を走行できるようになった。しかし関東圏では東京・神奈川・埼玉において一般道では走行不可だ。
都内ではこれまでも日曜日の皇居前などで限定的にタンデム車が走行できる例もあったが、今回は東京都が条例を一部改正し、部分的ながらいつでも走行できるようにした。東京都議会議員で元プロトライアスロン選手の白戸太朗さんが3年かけて取り組んできたタンデム車走行認可の活動が実を結んだのである。
「まだほんの一部ではありますが、ゼロから1は小さくも価値のある一歩。今後はこれらの道路での状況を検証し、さらに検討していきます。ぜひ安全に楽しんで下さい」と白戸さん。
11月13日から都内でタンデム車が走行できるようになったのは多摩湖自転車歩行者道(距離12km)、浅川ゆったりロード(2.5km)、足立さいたま自転車道(0.4km)の3カ所である。
不思議な乗り味で会話も楽しい
視覚障がい者が後ろに乗ることができるタンデム車はパラリンピックの正式種目にも登場する。3年前から都内でのタンデム車の普及活動を行っているのが東京都自転車競技連盟の松本敦さんと日置聡さん。「パイロットは後ろに乗る人への気遣いが必要。それはそのまま社会における障がい者への配慮につながるはず」と松本さんがその意義を語ってくれた。
実際に乗ってみると乗り味は普通車とはかなり異なる。後ろの人の重心が不意に変わるとハンドル操作に影響が生じる。息を合わせることがポイントで、そのためパイロットは「右に曲がります」「止まります」などと声がけする必要がある。
一方で後ろに乗る人は「なにも考えなくてこいでいればいい」と気軽にサイクリングが楽しめる。横を向いて景色を堪能できるのもうれしい。モーターサイクルの2人乗りと違って、2人の声が耳に届くのもいい。
「子供でも親と乗れば大人のスピードが味わえる。夫婦が息を合わせてペダルをこげば仲が良くなる。タンデムにはいいところがたくさんあります」と松本さん。
KHS社などの米国製モデルなら30万円以下で購入可。オーダー生産する国内メーカーもある。レンタルサイクルとして乗れる場所も限定的にある。一般車とは異なる特性があるので、初めて乗る人はまず前部に1人で乗ってみて操作性などを確認するのがコツ。松本さんが運営するバックス事務所の講習を受けるのが無難。
タンデム車はここで習う
●たちかわ創造舎サイクルステーション
MTBタイプのタンデム自転車を用意して東京・立川市にある施設、たちかわ創造舎のサイクルステーションで2018年から『タンデム自転車の安全な乗り方教室』を開始。現在も問い合わせれば希望の日程を相談のうえ設定。料金は1人3000円〜(2時間)。*カップル受講は5000円〜。
●バックス事務所のレッスン
視覚障害の人をサイクリングに誘うときのノウハウも。初めてタンデム自転車に乗る人への心理的なサポートとライド面における大事な注意事項や、体力が衰えた人への配慮も学べる。講習のステップ1はキャプテン単独体験、ステップ2はストーカー単独、ステップ3で一緒にペダルを漕ぐ準備。順を追って学ぶことで体系的にタンデムのライドを理解できる。一緒に走り出すと必要になるコマンド“ON”、“OFF”、“BUMP”、“SHIFT”などに進む。
遠隔地の人でも問い合わせければ、タンデム自転車持参で希望の場所でのレッスンも対応。レッスン後にサイクリング希望ならタンデム自転車の貸し出しにも対応。