デンマークの首都コペンハーゲンは世界一のサイクルシティだ。ほぼすべての道路に自転車通行レーンがあり、通勤・通学時の午前中は時速20kmで自転車を走らせていくと赤信号にひっかからないように調整されている。市民のほとんどは快適な自転車環境を作り上げた自分たちの街に誇りを持っているという。ツール・ド・フランス開幕地となった同地よりレポート。
市民も王子も首相もみんな自転車に乗っている
2025年にカーボンニュートラルを目指すデンマーク。その首都であるコペンハーゲンは環境都市を旗印に掲げ、地球温暖化対策の中核として自転車に快適なまちづくりにシフトした。まずやったことは自転車の走るところを整備した。直近の10年間に2億ユーロ(約280億円)を自転車のためのインフラと啓蒙に投資。2025年までに通勤・通学者が使う移動手段の50%を自転車にするという目標を掲げる。木々の緑と澄んだ空気がある都市を目指しているのだ。
デンマーク選手がツール・ド・フランスで総合優勝したのは1996年だけだが、同国ではサイクリングは趣味や移動手段にとどまらず、もはや生活様式の一部。「人口580万人の10人に9人が自転車を所有。老いも若きも、学校に通う子どもたちも王子や首相も自転車に乗っている」とツール・ド・フランス総合ディレクターのクリスティアン・プリュドムが開幕地としてデンマークの首都を選んだ理由を語っている。
コペンハーゲンはいつから世界一になったのか? 「コペンハーゲンインデックス」という、自転車フレンドリーな街の世界ランキングがあり、2019年の順位でコペンハーゲンが自転車王国オランダのアムステルダムを抜いて1位になった。ちなみに東京は16位だ。オランダと同様に、地形が平らなので自転車が利用しやすいという基盤もある。しかしここ最近で自転車利用の環境整備が急速に進んだ背景に、地球温暖化対策があるのは容易に考えられる。
コペンハーゲン市内では朝の通勤通学時間となる午前中は、自転車を時速20kmで走らせていくと赤信号にひっかからないように調整されているという。冬でも降雪はあまりない地域だが、いざ雪が降ったときは自転車専用道とレーンの除雪が最優先で行われる。
自転車3台分が自転車レーンの基本幅という考え
自転車通行帯の幅も想像以上に広い。のんびりと走りを楽しむ2人が並走したり、買い物を満載した幅広のカーゴ付き自転車がいても、その横を1台が追い抜ける広さが基本となる。また車道と自転車通行帯に段差を設け、クルマが乗り入れないような構造を採用した。通行ルールも厳格化し、自転車は自転車レーン、歩行者は歩道を使う。自転車利用者が歩道に進入するときは必ず自転車を押し歩きする。
さまざまな施策の効果として、首都であるにもかかわらず空気がとてもきれいだと感じた。これだけ自転車で走るのに快適な環境があれば、クルマを利用する機会も大幅に減るだろう。今回のツール・ド・フランスでは取材陣もレンタル自転車で移動するようにすすめられたほどだ。
快適に走れるようになると市民はいいことばかりに気づいた。健康寄与、自転車のある現代的ライフスタイルの充実感、走行レーン分離による安全性、そして経済性。現在、市民のほとんどは自転車利用によって「自分たちの街がすばらしい」という自覚を持つ。
コペンハーゲンでは、単にカーボンニュートラルを目指すだけではなく、自転車を活用した質の高い暮らしや魅力ある都市を実現しようとしている。だから世界一なのだ。
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