ユンボ・ビスマの29歳、セップ・クス(米国)が一躍脚光を浴びている。チームエースのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)やヨナス・ビンゲゴー(デンマーク)のアシスト役としてグランツール(三大ステージレース)にはなくてはならない存在だ。
グランツール11回出場で、エースが総合優勝したのは6回
5月のジロ・デ・イタリア、7月のツール・ド・フランスとともにグランツールと呼ばれるブエルタ・ア・エスパーニャが8月26日から9月17日まで開催されている。クスのチームには2年ぶり4度目の栄冠を目指すログリッチがいて、さらにツール・ド・フランス2連覇中のビンゲゴーもメンバーに加わった。
クスの役割はアシストかと誰もが思ったに違いない。
優勝請負人。グランツールにアシスト役として11回出場して、チームエースを総合優勝に導いたのはなんと6回。アシスト役はドメスティックとも言われるが、クスの称号はスーパードメスティックだ。勝負どころの山岳ステージでエースを力強く牽引し、ライバルたちの奇襲作戦を封じ込める。時としてその強さは総合優勝を果たすエースもかなわない。
米国コロラド州のデュランゴ出身。2018年にプロデビューして以来現チームでひたむきに走る。2019年は前年に引き続いてブエルタ・ア・エスパーニャに出場し、ログリッチの総合優勝に貢献するとともに区間1勝をあげた。初出場の2020ツール・ド・フランスでは最終日前日に逆転されて2位となったログリッチの走りを支えた。
さらに2020、2021年のブエルタ・ア・エスパーニャでもログリッチの優勝に貢献。2022、2023ツール・ド・フランスではもう1人のエース、ビンゲゴーの連覇を支えた。そして今季のジロ・デ・イタリアでもログリッチの初優勝のお膳立てをした。
レムコ・エベネプールが圧勝した2022年のブエルタ・ア・エスパーニャで、クスは途中リタイアを余儀なくされ、アシストをなくしたログリッチが失速。クスなくしてチームは総合優勝を狙えないほど、重要な役割を果たしていることを印象づけた。
総合優勝争いに影響しない平坦ステージでは常に大集団の後方でゴールして体力温存。勝負のかかる山岳ステージでもボトル運びや中盤までのペースメークはチームメートに任せる。有力選手のバトルが始まる最後の上り坂でいよいよクスが前方に上がってくる。ここからが仕事だ。
勝ちたいけどボクがエースだったら結果が伴わないかも
ライバルチームのエースをふるい落としてしまうほどの走力を持ちながら、どうして総合優勝を狙わないのか? クスは「精神的にも期待の重みがかかっていないほうがいい走りができるから」と語る。「もちろん勝ちたいけど、チームの求めていることを遂行するために所属しているんだ。もしボクがエースとなったら最終結果は違ったものになるかもしれない」
米国は欧州と比べると自転車レース後進国だった。1981年にジョナサン・ボイヤーがツール・ド・フランス初出場を決めてようやく認知された。次第にグレッグ・レモンらの有力選手が同大会で活躍。しかし7連覇したランス・アームストロングは薬物使用で全成績抹消。米国でのロード熱は一気に冷めてしまい、クスの功績も母国でなかなか報じられない。
クスは2023ブエルタ・ア・エスパーニャでグランツール5大会連続出場となった。1選手が同一シーズンに3連戦するのは4年ぶりの記録。そしていま、大会は思わぬ展開となって最終局面を迎えている。
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