障がい者の自転車競技「パラサイクリング」の藤井美穂。出生直後に壊死していた右脚を切断。それでも活発さと明るい笑顔でモデル経験も。SNSの自己紹介欄には「切断ビーナス(義足モデル)」と書き込む。3年前のリオパラ五輪は日本が出場枠を持ちながら派遣されなかった。しかし東京は「レベルアップした姿を見せたいのでぜひ出場したい」と意欲を見せる。
リオは参加枠がありながら実力不足で派遣されず
もともとはパラ陸上走り高跳びの選手で、今も日本記録とアジア記録を保持する。しかし片足で跳んだり義足をつけて跳ぶ女子選手が藤井しかいない。2カ国以上・3人以上選手がいないとパラ競技として公認されない。4年経っても参入する選手はいないと予測して、競技の転向を模索した。そんなとき義足を作る装具士が「自転車があるよ」と教えてくれた。さっそく自転車競技の設備が整った静岡に通った。初めて自転車に乗り、乗るたびにタイムが向上。楽しくて仕方なかった。
リオパラ五輪の時は日本に出場2枠があったが、派遣されたのは1枠で、2番手の位置にいた藤井の出場は見送られた。
「実力がないのにパラって出られちゃうんだと思われたくなかったし、実力がなかったから派遣されなかったことは自分でも納得しています」と当時を回想する藤井。
「4年後の今は出たいです。実力も上がってきたので選ばれるなら挑戦したいです」
現在はウエイトトレーニングに最近力を入れている。体幹を強化することで片脚ペダリングをフォローできるからだ。日体大で筋トレ指導を受け、勤務する楽天ソシオビジネスのフィットネスジムで汗を流す。練習は毎日。筋トレ以外に、室内トレーナー、ロード練習、そしてリカバリーのための走行と乗りまくる。
「人が歩くという動作は前に脚を振り出す動き。競技用自転車のペダルはシューズに固定されているので、それを引き上げて踏むという特有の動き。だからたくさん乗ることを心がけています。乗ったぶんだけよくなってきたかな」と笑顔を見せる。
地域も会社もバックアップ
合宿は静岡、福島、山口などパラ選手を応援してくれる地域に行って練習する。月に2〜3週間は合宿か遠征だ。同じ会社には女子の第一人者である杉浦佳子などパラ選手の多くが勤務していることもあり、「家族以上に一緒。会社で会って夜ご飯も一緒で、練習も遠征も一緒。だからみんな仲良しです」という。
会社も全面サポート。出力解析バイクがあって、ウエイトトレーニング場があって、すぐにリカバリー食が取れる社員用カフェテリアが朝昼晩と用意されていて、無料で利用できる。
「とてもおいしいですし、海外遠征に行っている間も欠勤ではなくて出張扱いにしてもらっています。社内コンビニで働いていて、お給料も出る。ありがたいです」
パラサイクリングを始めたときは世界の最下位だったというが、今季の世界選手権は出場した2種目でともに6位。やっと真ん中に浮上した。もう少し頑張ればメダルがねらえる。
すぐにワールドカップの連戦が始まり、2020年1月には世界選手権。日本女子はすでに東京パラ五輪の1枠を確保しているが、上位入賞して高ポイントが取れれば2枠目が取れる。メダル獲得の期待がかかるエース杉浦とともに藤井が選出される可能性は極めて高い。
「メダルが取れる日本選手が出ていないと東京パラ五輪を見ている日本のお客さんもつまんないと思うので、お客さんに喜んでくれるような成績が出せる選手になりたい。メダルを目指して頑張ります」
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