ビンゲゴーが総合優勝…開幕地となったデンマーク勢は26年ぶり

ユンボ・ビスマのヨナス・ビンゲゴー(25)が第109回ツール・ド・フランスで初の総合優勝を達成した。大会は史上初めて北欧のデンマークで開幕し、7月1日から24日まで行われた。同国選手として1996年のビャルネ・リース以来の2人目の勝者となった。

ユンボ・ビスマは最終ステージで、リタイアしたチームメート3選手のナンバーカードを掲げて圧巻の優勝を報告 ©A.S.O. Pauline Ballet

チームメートのワウト・ファンアールト(ベルギー)が連日にわたって積極的な走りを見せ、ビンゲゴーの勝利に貢献するとともに、区間3勝、ポイント賞、総合敢闘賞を集中にした。した。3連覇を狙ったUAEエミレーツのタデイ・ポガチャル(スロベニア)は総合2位。

デンマークの3日間は大盛りあがり ©A.S.O. Pauline Ballet

3連覇を狙ったポガチャルから離れず、タイムトライアルで突き放す

2021年にポガチャルに続いて総合2位となったビンゲゴー。第11ステージで首位に立つと、最終日前日の個人タイムトライアルで総合優勝を確実にした。その日の勝利者会見で「昨年からツール・ド・フランスに勝てると信じていた」と明かす。

初日はランパールトが優勝。たった1日だがマイヨジョーヌを着用した ©A.S.O. Pauline Ballet

一見か弱く見える選手だ。母国である開幕地で大声援を送られて思わず目頭が熱くなるほどの素朴な性格。ポガチャルのように若い頃から注目されることはなく、魚河岸でアルバイトをしながら練習し、プロになった努力家だ。しかしマイヨジョーヌを着用し続けていくうちに王者の風格が感じられるようになり、記者会見も堂々としたところを見せた。

マイヨジョーヌのファンアールトがまさかのアタック ©A.S.O. Pauline Ballet

2年前、チームは最終日前日にどん底に叩き込まれた。マイヨジョーヌを守ってきたプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)が個人タイムトライアルでポガチャルにまさかの逆転負けを喫したのだ。

「そんなことの再来は望んでいなかったから、いい走りができて首位を守ることができてようやく安堵した」と今回のビンゲゴー。

大会中盤はタデイ・ポガチャルが実力を見せつけて首位に。第7ステージのスタート地点 ©A.S.O. Charly Lopez

3連覇を狙ったポガチャルから、アルプスでマイヨジョーヌを奪うと、その後は息を呑むような戦いを展開する。どちらも守りに入らず、毎日全力でライバルを引き離しにかかった。攻撃の手を緩めないポガチャルに、ビンゲゴーは食らいつき、そして最終日前日の個人タイムトライアルで突き放した。

「お世話になったチームとデンマークにいい報告ができる。デンマークでの報道をまだ知らないけど、みんな興奮していることは推測できる」

2022ツール・ド・フランス第11ステージ ©A.S.O. Aurélien Vialatte

変幻自在の動きを見せたファンアールトが敢闘賞

ビンゲゴーの初優勝に大きく貢献したのがベルギーのワウト・ファンアールトだ。ステージ3勝と、スプリント王の称号であるポイント賞を獲得。序盤の4日間はマイヨジョーヌを着用したが、「チームエースはビンゲゴー」と割り切り、集団から遅れた同選手を引き上げたりした。

ファンアールトが先頭に立ってマイヨジョーヌのビンゲゴーを牽引 ©A.S.O. Pauline Ballet

最終日前日はそんなファンアールトにとっても感慨深い結果になった。2年前にログリッチが逆転負けしたときのチームメートだったからだ。自身がトップタイムで優勝するとともに、ビンゲゴーがマイヨジョーヌを死守してゴールすると感極まって頬に涙が伝わった。

「チームから総合優勝者が出ることは特別なことだ。ビンゲゴーは強くもあるが、人間としても素晴らしい。そんな彼をチーム全員が栄冠に導いたのだから、本当にうれしい」

マイヨジョーヌを獲得してからビンゲゴーはポガチャルを徹底マークした ©A.S.O. Pauline Ballet

コロナ禍での3年目のツール・ド・フランス

2002年は大会が2カ月遅れの秋に延期され、スタートとゴールに観客を入れない運営で開催。2021年は感染状況も落ち着いたことからいつもの夏開催へ。そして2022年はフランスに第7波が到来。4度の総合優勝を誇るクリストファー・フルームなど複数の選手が大会中に罹患しリタイアした。主催者は大会中盤から選手への接触を禁止。チームバスが駐車するエリアに立ち入るスタッフにマスク着用を義務づけた。

2022年のツール・ド・フランスは初日以外は快晴で、おりからの熱波もあって暑かった ©A.S.O. Pauline Ballet

感染者は多いもののフランスではコロナ以前の生活が戻った。海外からの観光客数は激減しているが、2024年のパリ五輪に向けて観光大国としての復権に努める。

ファンフルーテンが第1回ツール・ド・フランスファムで初代女王に


モビスターのアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が7月24日から7月30日まで開催された8日間の女子ステージレース、第1回ツール・ド・フランスファムで総合優勝した。2020東京五輪で金・銀メダルを獲得した39歳は、山岳が舞台となる最後の2ステージで連勝。最終日前日に獲得したマイヨジョーヌを最後まで守った。

第1回ツール・ド・フランスファムの総合優勝はファンフルーテン ©A.S.O. Thomas Maheux

ツール・ド・フランスファムはツール・ド・フランスの女子部門として33年ぶりに開催されたステージレース。今回は男子とは別日程、独自コースで開催され、女子選手の華やかさと近年レベルアップを続ける力強い走りで盛り上がりを見せた。

マイヨジョーヌのファンフルーテン、山岳賞のデミ・ボレリングらが集団をリード ©A.S.O. Thomas Maheux

「最終日のゴール、ラ。シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユで黄色のジャージを着ることは、大会前に偵察を行ったときから私が望んでいたこと。私が考えることができた最高のもの結果になった」とファンフルーテン。

最終ステージはKMゼロ前のニュートラル区間で1回、さらに途中で2回メカトラで自転車を交換したファンフルーテン ©A.S.O. Thomas Maheux

「すべての観客が応援してくれた。大会2日目と3日目に体調を崩した後、このジャージを着てここにいるなんて信じられないほど大変だった」

モビスターのアネミエク・ファンフルーテン ©A.S.O. Fabien Boukla

スプリントのある平坦ステージを含めバランスが取れた大会だったと評価した。大会中盤には起伏があるコースが控え、最後の2日間は山岳が舞台。通常の他のステージレースよりもはるかに困難だったという。

ツール・ド・フランスファム ©A.S.O. Fabien Boukla
最後の激坂、ラ・シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユを上るファンフルーテン ©A.S.O. Fabien Boukla
独走するファンフルーテンを追うカタリナ・ニーウィアドナら ©A.S.O. Fabien Boukla

「ツール・ド・フランスというものを感じた。第1回大会として最適な方法だったと思う。今後数年間はこの興奮が継続していくはず」(ファンフルーテン)

マイヨジョーヌのファンフルーテン ©A.S.O. Fabien Boukla
総合優勝のファンフルーテンを中央に、左が2位デミ・ボレリング、右が3位カタリナ・ニーウィアドナ ©A.S.O. Thomas Maheux

ファンフルーテンがツール・ド・フランスファムで逆転王手

女子版ツール・ド・フランスの第1回ツール・ド・フランスファムは7月30日に第7ステージが行われ、モビスターのアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)が後続選手に3分26秒差をつけて独走。1分28秒遅れの総合8位から一気に首位に出て、マイヨジョーヌを獲得。

第7ステージでモビスターのアネミエク・ファンフルーテンがマイヨジョーヌを獲得 ©A.S.O. Thomas Maheux

全8ステージで開催される大会は7月31日が最終日。ファンフルーテンが得意とする山岳ステージが残されていて、初優勝に王手をかけた。

キャニオン・スラムのニーウィアドナ、FDJスエズのルドビクが上りを攻める ©A.S.O. Thomas Maheux

ファンフルーテンは2020東京五輪で個人タイムトライアルの金メダリスト。個人ロードではスタート直後から逃げていた選手の存在を把握できず、2位集団の先頭でゴールした際に金メダルを確信してガッツポーズ。結果は銀メダルだった。

39歳というベテランながら上りでは他の女子選手の追随を許さぬほどの実力があり、2022年の女子版ジロ・デ・イタリアでも総合優勝している。

ツール・ド・フランスファムはレースも熱いが、気候も暑い。スタート前に冷却ベストを着用する  ©A.S.O. Fabien Boukla

「平坦なオランダの出身であることを考えると、これは私のキャリアの中で最大の勝利の1つ」とマイヨジョーヌを獲得したファンフルーテン。

じつは開幕直後に病気となり、大会2日目にはリタイアを考えたという。

「自宅に帰る荷造りをしているとき、スーツケースの中にマイヨジョーヌが入っていないことに気づいた。その黄色いジャージを獲得できるなんて奇跡に近かった」

キャニオン・スラムのエース、カタリナ・ニーウィアドナ(ポーランド) ©A.S.O. Thomas Maheux

39歳のファンフルーテンだが、毎年フィットネスレベルを向上させてきた。この日は実力者のデミ・ボレリングと2人で集団を抜け出したが、途中で単独に。

「彼女が先頭交代をしてこなかったし、最後の登りの前に25kmの谷があったのでそこで勝負しようとも思った。でも優勝はソロでゴールに飛び込むほうがいい」とアタック。そのまま逃げ切った。

「この大会は私の期待を超えている。すべての村で歓迎され、大会が生き生きとしているのを感じることができている」

世界チャンピオンのエリーザ・バルサモらが出走サインステージから出撃 ©A.S.O. Fabien Boukla 

ツール・ド・フランスファム…男子とは全く異なる魅力的で熱き戦い

女子版ツール・ド・フランスの第1回ツール・ド・フランスファムが2022年7月24日にフランスの首都パリで開幕。首位選手にマイヨジョーヌが与えられるステージレースとしてはじつに33年ぶりの開催。31日まで全8ステージで争われる。

FDJスエズ・フチュロスコープのセシリーウトラップ・ルドビクが第3ステージで初優勝 ©A.S.O. Fabien Boukla 

大会名のFemmesは「女性」という意味のフランス語。1984年から1989年まで女子部門として「ツール・ド・フランスフェミナン」が男子集団に先行して走っていた時代がある。男子よりも短い日程、短い距離ながら同じコースを使って3時間ほど前を走った。

女子レースは男子のツール・ド・フランス最終日、7月24日に同じパリで開幕 ©A.S.O. Fabien Boukla
ウルスカ・ジガートのボーイフレンド、男子のトップ選手タデイ・ポガチャルが応援にやってきた ©A.S.O. Fabien Boukla 

ツール・ド・フランスファムは、開幕日こそ男子レースの最終日としてゴールするパリだが、全8ステージのレースコースは独自のものだ。

第2ステージで優勝し総合成績でマイヨジョーヌを獲得したマリアンヌ・フォス(ユンボ・ビスマ) ©A.S.O. Fabien Boukla 
世界チャンピオンのエリーザ・バルサモらが出走サインステージから出撃 ©A.S.O. Fabien Boukla 

パリのエッフェル塔前をスタートし、シャンゼリゼの周回コースで行われた第1ステージでは、スプリンターのロレーナ・ウィーブス(オランダ、DSM)が優勝。続く第2ステージでは平坦区間に強いユンボ・ビスマのマリアンヌ・フォス(オランダ)がゴール勝負を制してマイヨジョーヌを奪取。

ツール・ド・フランスファムはレースも熱いが、気候も暑い。スタート前に冷却ベストを着用する  ©A.S.O. Fabien Boukla

大ベテランのフォスは第6ステージまで首位をキープしているが、最後の2ステージはドイツ国境にも近いボージュ山脈へ。山岳スペシャリストの出番となり、総合成績は大きく変わるはずだ。 最終日は逆転優勝の可能性があるラ・シュペールプランシュ・デ・ベルフィーユにゴールする。近年の大会でも総合優勝に大きく関わってきたラ・プランシュデベルフィーユが「スーパー=シュペール」の形容詞をつけた新コースで登場する。

キャニオン・スラムのエース、カタリナ・ニーウィアドナ(ポーランド) ©A.S.O. Thomas Maheux

フランスの夏のスキーゲレンデはMTB愛好家のパラダイスだった

フランスでは夏場のスキー場もアクティブなサイクリストでにぎわっている。MTB専用コースが縦横無尽に整備され、上りのリフトに自転車を積載して標高を稼ぐこともできる。そこからは一気にダウンヒルだ。電動パワーが使えるeMTBなら上り坂も楽に進める。アルプス北部に位置するアボリアズはMTB好きの若者たちのパラダイスだった。

リフトを使ってダウンヒルバイクを上げてトレイルを楽しむ。スイス国境にも行けるという

総延長はなんと650km。パスポートを持ってスイスまで

アルプスのモルジンヌから20kmほど上ったところにあるスキー場が標高1800m超のアボリアズだ。数年に1回はツール・ド・フランスのゴールにもなるところで、滞在型レジデンスが林立し、フランス人はここに複数日宿泊してさまざまなアクティビティを楽しんでいる。

自転車はリフトの背面部に簡単に搭載できる

冬はもちろんスキーだが、夏場はハイキングやMTBだ。夏の訪問客のために期間限定でゴンドラやリフトが稼働。リフトには数基に1基の間隔で自転車が引っ掛けられるようになっている。脱着はリフト保安員が手慣れた手付きでやってくれる。

アボリアズはツール・ド・フランスでよく登場するスキーリゾートだ

アボリアズは欧州最大のバイクパークで、専用トレイルは総延長650km。下りを楽しむダウンヒルバイク、アップダウンをこなせるエンデューロバイク、電動のeMTBのコースがそれぞれあり、さらにコースの難易度が多様にあるので、上級者から初級者まで遊べるのが特徴だ。トレイルは尾根道のみならず、谷底、森林地帯、牧草地、岩、急流などさまざまなフィールドが楽しめるように設計されている。

レジデンスは想像以上に快適だ。こういったところでのんびりバカンスを楽しみたいなあ

アボリアズのスキー場がバイクパークになるのは2022年の場合、6月17日から9月11日まで。そのうちリフトは7月2日から9月2日まで稼働する。アウトドア系スポーツが好きな人なら、花が咲き乱れるゲレンデでMTBを持ち込もうという発想は、フランス人のライフスタイルの一部で、自然な成り行きだ。

自転車専用トレイルのゲート

MTBトレイルとハイカーが歩くルートは分離されていることに気づいた。MTBトレイルの入り口にはそれを示すゲートがあり、誤ってハイカーが通行しないように配慮されている。両者が交差する場所は網やロープで注意喚起をしているので、接触する可能性はほぼない。

eMTBの最長コースは80km。トレイルは舗装路よりも路面抵抗があって、通常はこんな距離を走破するのは難しいが、電動アシストの恩恵で自分の体力をはるかに超えた冒険も可能になる。観光局が用意した地図によれば30kmほど離れたスイス国境まで行くことができ、「パスポート必携」と明記されている。

稜線を走ってスイス国境を目指す。下りきった先にもスイス方面に上れるリフトがある

MTBトレイルに挑戦するのは若い男性が多かったが、ファンパークと呼ばれる簡単なコースには母親と子供の姿もあった。またライディング教室やレンタルMTBも自転車ショップで行われている。ライド後はキッチン付きのレジデンスで料理をしたり、MTBツアーの追加オーダーとしてバーベキューも申し込める。

楽できるところにはお金をかけるのがフランス流

リフト乗車券は大人1回840円、1日4620円、複数日は割引となり例えば7日で2万860円。MTB搭載料は乗車券と別に大人1回882円、複数回は8回4480円など。すべて1ユーロ140円で計算。

スキーゲレンデにはスラロームコースが作られていた

為替相場によりフランスの物価は全体的に割高に感じるが、一部の裕福な層や十分な休日が取れる人の娯楽とは感じなかった。フランスの若い世代も「楽して楽しめるところにはお金をかける」とばかり積極的にリフト活用していた。

集落にはいくつかの自転車ショップがあり、レンタルやライディング教室などを行っている

欧州の温暖化は切実…自転車に優しいまちづくりが対策の切り札

欧州では地球温暖化や燃油高騰の打開策として多くの市民がクルマから自転車に乗り換えている。行政も予算を倍増させて自転車に優しい環境づくりを推進している。ツール・ド・フランス取材で訪れてきた町々も、10年前と比べると自転車通行のインフラ整備が格段に充実していることを目撃した。現地より欧州自転車周辺事情をレポート。

カレー市庁舎が見える鉄道沿いに素晴らしい自転車・歩行者専用橋が

欧州全体が自転車に優しいまちづくりのために巨額を出資

ミシュランの格付け制度をまねて、その町がどれほど自転車に優しい環境であるかを評価する「ビル・ア・ベロ」をツール・ド・フランス主催者が2021年から始めた。ビルは町、ベロは自転車という意味のフランス語で、英語訳すればサイクルシティとなる。

3年ぶりに訪れたパリは自転車レーンが倍増。車道と同じ幅のレーンがセーヌ川沿いに伸びる

星ではなく自転車マークで格付けされ、最高格は自転車4台。首都パリとオランダのロッテルダムの2市だ。そして2022年、自転車3台にツール・ド・フランス第4ステージのゴール、カレーが登録された。

パリのレンタルサイクルシステム、ベリブがeバイク化していた
シャンゼリゼの街路樹が熱波によって葉が乾燥して、秋のように落葉していたのはショック

カレーの駅からすぐのところに、運河をまたぐように最新の自転車・歩行者橋が作られていた。橋の上から運河を見下ろせば、その河岸にも幅の広い自転車レーンが伸びている。自転車通勤・通学する人はクルマが走る車道と交差しないで駅まで快適に移動できる。だからぜひ自転車を利用してもらおうというねらいが行政にはある。町の随所に駐輪場を設置することも積極的だ。

欧州連合の欧州地域開発基金とオードフランス地域がこのエリアの再開発として共同出資した金額は186万8897ユーロ(約2億6000万円)というから驚きだ。

デンマークのオデンセの駐輪場にはコンプレッサーが常備。上部は鉄道駅の向こう側まで伸びる自転車専用橋

「カレーは今回のツール・ド・フランス招致をきっかけに、英国との交通の要衝という役割に加え、美しい海水浴場を備えた観光名所として海外にアピールしていきたい」という。自転車インフラへの投資は市民の健康寄与、交通事故防止、環境問題を解決するだけでなく、訪れた観光客が住みやすい魅力的な町としてのイメージを持ってもらえるという戦略だ。

欧州の自転車はスタンドがない。おしゃれな自転車ラックが随所に設置される

2022年のビル・ア・ベロはカレーと、同じ地域にあるアラスだけが登録された。アラスの格付けは自転車2台だが、クルマとの共存を都市整備の中核に掲げている。コミュニティバイクという公共レンタル自転車配置計画に充てられた予算は前年度の10倍。「最高の格付けに昇格できるようにしたい」と意気込んでいる。

デンマークには興味深い自転車がいたるところにある

車道と自転車レーンに段差を設けて物理的に分離

欧州各国の自転車レーンの作りは似ている。フランスではかつて、クルマが90km前後で走行する国道では、サイクリストがその風圧で飛ばされないように緑地帯を隔てた自転車専用道を設置した。これは現在も利用されているが、新たに市街地での自転車レーン整備が急速に進められている。車道と自転車レーンに段差を設けることで、両者を完全に分離させた。さらに歩道も区分けされるので3つのレーンが存在することになる。

クルマ、自転車、歩行者のレーンは段差を作って分離している

電気で動くeバイクの普及も著しい。道路交通法によってアシスト力が制限される日本とは違って、アシスト比率が高いeバイクも多い。乗車するだけで坂道を音もなく進んでいく電動スクーターも多く見かけた。どちらも公共レンタルできるものがたいていの町中に設置されていた。

環状交差点は接触する可能性のあるポイントだが、それを注意すれば自転車レーンに誘導される

日本の環境を考えるとすべて参考になるとは言えないが、欧州の自転車環境はここ数年で確実に改善されている。道路周辺にゆとりがあること、町と町をつなぐ道路がそもそも少ないという立地条件もあるが、自転車を日常のアイテムとして愛着を持っていることが円滑な環境整備の後押しをしてる。