2015年の初出場から4度目の挑戦で、キナンサイクリングが初の個人総合優勝者を輩出。チームにとってシーズン最大目標の1つであるツアー・オブ・ジャパンで、マルコス・ガルシアが初めて総合優勝を挙げた。リーダージャージを守り抜き、最高の栄誉を勝ち取ってチーム総合でも1位を堅守。個人・チームともに頂点に立ち、力をもって今大会の主役であることを証明した。
大会をとおしてキナンは各選手がそれぞれに役割をまっとうし、個人・チームともに存在感を発揮してきた。大阪・堺で5月20日に開幕して以来、同日の堺国際クリテリウムで中島康晴が3位に入ったのを皮切りに、南信州での第5ステージでトマ・ルバが、富士山ヒルクライムの第6ステージでガルシアがステージ優勝。ルバの勝利以降、チームにグリーンのリーダージャージがもたらされ、翌日にはガルシアへと引き継がれた。加えて、第5ステージ以降チーム総合でも首位に立ち、選手層の厚さも示した。
前日の26日に伊豆で行われた第7ステージは獲得標高が約4000mと山岳ステージに匹敵する難コースで行われたが、アシスト陣の好走もあり終始レースをコントロール。終盤はガルシアが自らライバルの攻撃を封じ、個人総合優勝に王手をかけた。このステージを終えた時点での総合成績では、トップのガルシアだけでなくルバが個人総合3位に続いている。
ファイナルを飾る第8ステージは日比谷シティ前をスタートし1.2kmのニュートラル走行を含むワンウェイルートを経て、大井埠頭のサーキットコースへと入っていく。1周7kmを14周回。レース全体では112.7kmで争われる。コースはオールフラットで、スピード感あふれるダイナミックなレースが展開される。勝負はスプリントに限らず、逃げ切りが決まるケースもあり、あらゆる展開を想定して臨むことが求められる。
キナンはガルシアのリーダージャージをフィニッシュまで運ぶことが絶対的なミッション。残りの5選手がライバルチームの動きを見ながら、ガルシアの個人総合優勝、同時に首位に立つチーム総合での1位に向かって進んでいくことになる。
緊張感の中でスタートが切られたレースは、序盤からキナンにとってねらい通りの展開となる。サーキットコースに入るとともに3選手がアタック。いずれも総合成績に関与していない選手とあり、この動きを容認。キナン勢がメイン集団の統率を図り、それ以上の飛び出しは許さない。序盤はサルバドール・グアルディオラを中心にペーシングを図り、タイム差は約3分とする。
こうして淡々と進行していくが、レース中盤を前にスプリントフィニッシュをねらう数チームがアシストを出し合い、逃げグループとのタイム差を少しずつ埋めていく。キナン勢としては、他チームにコントロールを任せられる好状況へと変化。集団前方で隊列を組みながら、ライバルチームの動きのチェックに終始する。この状況は後半に入っても続いた。約1分30秒差と逃げを射程圏内にとらえつつも、一気にペースアップする流れではなかったこともキナン勢にとっては幸い。総合成績にかかわるような動きは見られず、ガルシアを安全に走らせることに集中しながら、フィニッシュまでの残り距離を減らしていった。
結局、逃げは最終周回に入る直前で吸収。代わってカウンターアタックを仕掛ける選手が出たものの、これも労せず捕まえ、レースは定石通りスプリントにゆだねられることに。キナン勢はガルシアの危険回避を図りながら、メンバーが近くに固まってフィニッシュを目指した。
そして、ついに歓喜のときがやってきた。スプリント勝負が繰り広げられた後方で、キナンメンバーがガルシアの個人総合優勝を喜び合いながらフィニッシュラインを通過。ガルシアも近くにいたメンバーと手を取りながら、王座確定の瞬間を迎えた。
チーム創設4年目、これまで手が届きそうで届かなかった国内最大級のツアータイトルをようやく獲得。終わってみれば、ステージ2勝に、個人・チームともに1位を獲得。個人総合においてはガルシアの優勝に続き、ルバも3位の座を守った。ガルシアにとってステージレースの個人総合優勝は、2017年9月のツール・ド・北海道以来2回目となる。また、チーム総合の表彰ではメインスポンサー「キナン」角口賀敏会長もゲスト登壇。活躍した選手たちとともに会場に集まったファンから大きな祝福を受けた。
今大会のキナンは順位的には目立たなかったステージも含め、予定していたとおりにレースが運び、ねらっていたステージできっちりと結果を残したことが、最高の成果につながったといえる。また、難コースに多くの選手が苦しめられた中、キナンは6人全員が完走。チーム加入1年目の山本大喜と新城雄大も十二分に機能し、ライバルチームに対して数的優位な状況を作り出したことも、勝因の1つとして挙げられそうだ。
チーム登録における上位カテゴリーの、UCIワールドチーム、同プロコンチネンタルチームから強豪も参戦し、いつになくハイレベルな戦いだった2018年のツアー・オブ・ジャパン。キナンにとっては目標達成にとどまらず、今後のビッグレースでの戦い方やチーム力の指標となる価値あるシリーズとなった。力のある選手がそろうチームにあって、今回の結果が出走メンバーだけでなく、メンバー外となった選手たちも含めた全体の底上げにもつながることだろう。
5月に入り、上旬のスリランカTカップに続くUCI公認国際レースでの立て続けの勝利。この波に乗って、たちまちやってくる次の戦いに挑むことになる。5月31日からはツール・ド・熊野が開幕。チーム本拠地である熊野地域での年間最大のチームイベント。2018年は第20回記念大会。ねらうはもちろん個人総合優勝だ。なお、この大会に臨むロースター(出場選手)は一両日中に発表する予定となっている。
ツアー・オブ・ジャパン第8ステージ結果(112.7km)
1 マルティン・ラース(エストニア、チームイルミネイト) 2時間23分12秒
2 アンソニー・ジャコッポ(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネスサイクリングチーム) +0秒
3 アイラン・フェルナンデス(スペイン、マトリックスパワータグ)
4 黒枝士揮(愛三工業レーシングチーム)
5 マルコ・カノラ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニ)
6 岡本隼(愛三工業レーシングチーム)
28 中島康晴(KINAN Cycling Team)
29 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team)
31 トマ・ルバ(フランス、KINAN Cycling Team)
34 新城雄大(KINAN Cycling Team)
35 山本大喜(KINAN Cycling Team)
37 サルバドール・グアルディオラ(スペイン、KINAN Cycling Team)
ツアー・オブ・ジャパン個人総合時間
1 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team) 19時間57分25秒
2 ヘルマン・ペルシュタイナー(オーストリア、バーレーン・メリダ) +35秒
3 トマ・ルバ(フランス、KINAN Cycling Team) +53秒
4 クリス・ハーパー(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネスサイクリングチーム) +1分27秒
5 グレガ・ボーレ(スロベニア、バーレーン・メリダ) +1分40秒
6 サム・クローム(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネスサイクリングチーム) +1分55秒
17 サルバドール・グアルディオラ(スペイン、KINAN Cycling Team) +5分0秒
54 山本大喜(KINAN Cycling Team) +48分11秒
57 中島康晴(KINAN Cycling Team) +52分21秒
65 新城雄大(KINAN Cycling Team) +1時間5分28秒
ポイント賞
1 グレガ・ボーレ(スロベニア、バーレーン・メリダ) 110pts
4 トマ・ルバ(フランス、KINAN Cycling Team) 41pts
19 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team) 18pts
26 サルバドール・グアルディオラ(スペイン、KINAN Cycling Team) 13pts
46 新城雄大(KINAN Cycling Team) 6pts
山岳賞
1 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) 24pts
4 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team) 15pts
17 新城雄大(KINAN Cycling Team) 3pts
チーム総合
1 KINAN Cycling Team 59時間58分13秒
マルコス・ガルシアのコメント
最終ステージについては、チームとしてよいプロトンコントロールができたと思う。逃げの3人をよいタイミングで行かせることができ、ねらっていたとおりのレース展開にすることができた。そしてなにより、個人総合優勝を果たせたことがとてもうれしい。(第5ステージでの)トマのステージ優勝に始まり、翌日の富士山では自分が勝つことができた。チームとしてはこれ以上ない出来になった。この勝利はチーム全員の働きがあったからなしえたもの。ライバルチームの動きをしっかりと読んで動いてくれたことにありがとうと言いたい。クイーンステージと考えていた伊豆(第7ステージ)でのみんなの働きは本当に素晴らしく、心から感謝している。
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