消えていく世界チャンピオンの後ろ姿は忘れない…安床武士ファイナルで敗退

日本初開催となるレッドブル・クラッシュドアイスは大会最終日となる12月8日、神奈川県横浜市の臨港パークでファイナルが開催され、Xゲームズ・インラインスケートの元世界王者安床武士が出場。2017-2018シーズンの世界チャンピオンであるスコット・クロクソール(カナダ)といきなりラウンドオブ64で同走して敗退。目標とした上位進出の野望を断たれた。

インラインスケートの元世界チャンピオンとしての意地を見せた安床武士 © Lisa-Marie Reiter / Red Bull Content Pool

温暖な気象状況に左右され、6日深夜にタイムトライアルが急きょ行われた。32位までがラウンドオブ64に一発進出。下から5番目の28位だった武士は5番タイムのクロクソールと同じ組になっら。さらには敗者復活戦から勝ち上がってきた同志社大アイスホッケー部の山内⽃真も偶然に同じ組に入った。運命のいたずらともいえる夢のヒートで、会場が盛り上がったのは言うまでもない。

スタートは武士も山内もそれほど悪くはなかった。しかしすぐにクロクソールが先行する。
「後は彼について行こうと思ったけど、そういうレベルじゃなかった。やっぱりワールドチャンピオンって当たり前だけどスゲーと感じた。そんなに力を入れていないはずなのに各セクションで彼がどんどん消えていく」

わずかなあせりから武士がミスをする。それをカバーできない。
「決勝に残ることを目標としてここまでやって来たので、スタートでそんなに出遅れない自信はあったんですけど、最初のコーナーから消えていくクロクソールの姿ばかりが印象に残っています」

自分としてはベストに近い走りだったかなと感じた。しかしすべてのスキルがしっかりこなせないとファイナルでは勝てないということがわかった。それが今回の収穫だ。消えていったクロクソールの姿を想い起こしながら継続的に頑張りたいという。

前年覇者スコット・クロクソールを追う安床武士(右から2番目)、山内⽃真(右) © Armin Walcher / Red Bull Content Pool

じつはクロクソールは5月に来日し、初開催の日本大会に備えて出場を目指す日本の代表候補を集めて指導してもらったという経緯がある。前シーズン最終戦のカナダ・エドモントン大会で兄エイトとともに出場経験のある武士も一緒に指導を受けたり、クラッシュドアイス未経験の若手アスリートにアドバイスを送った。
「クロクソールは現役選手でありながらコーチもしてくれる。このスポーツにかける情熱はすごい。一緒に同じ時間を過ごしているだけでそれが分かります。次元が違う領域にいる。今回はその実践編というような感じでした。彼にさらに大事なことを教えてもらいました。トップ選手は何本か滑っただけでコースの攻略法がわかる。やはりそれが経験値。彼らの懐の深さなんですね」

Xゲーム界の世界チャンピオンという意地があったので、練習の時からはずかしい走りはできないというプレッシャー。インラインスケートのハーフパイプをやってる選手は必ずこの競技につながると言い切る。今回の決勝進出でそれは1つ証明できたかなと胸を張る。ファイナルまで行けたという自信をベースにして、後任選手を育てていきたいと夢を語る。そしていつまでもクラッシュドアイス挑戦者としての真摯な態度も忘れない。

「恐怖感はある程度感じることも大事。メンタル面、ライン取りなどの戦術、着地などのテクニック。クラッシュドアイスにはさまざまな課題がある。クロクソールには世界チャンピオンの誇りがあるけれど、ボクたちには守るものがないのが強みなので。コケてもいいくらいに攻めました。それでも力及ばなかった」

「前年の世界チャンピオンとの同走は、ある意味特等席で彼の走りを見てるじゃないですか。世界チャンピオンの後ろで走っているのでへんな興奮があった。いやあ、速すぎます。今の段階ではちょっとやそっとの勢いでは追いつけるスケーターではないです。スキルや経験などすべてのもの待っている。どんどん小さくなっていく彼の後ろ姿を絶対忘れない」

安床武士 © Lisa-Marie Reiter / Red Bull Content Pool

このスポーツの魅力を伝えたり、これにハマって競技を始めてくれる若手選手のチャレンジを期待している。今回の兄弟としてのチャレンジがそのきっかけになければいいと言い切る。後に続く選手たちに夢をつなげたい。将来が明るくなる道を作っていかないといけないという責任感がこの兄弟にはある。

クラッシュドアイスの特徴は2位以内と3位以下では天国と地獄の差があるということだ。1位と2位は上位進出を果たしてガッツポーズする。3位と4位はその道が断たれて敗者として到着する。観客にとっても分かりやすいシーンだが、選手としてこれは鮮烈な景色だ。

「本当に夢の舞台でした。まさかこの横浜で大会が実現するとはイメージできなかったですが、素晴らしいコースができてそこで2日間もすべることができた。ほんとに夢のような時間を過ごしました。会場にいるみんなの応援の声がスタートまでしっかりと届いていました。だからいい結果を残したかったけれど、残念な結果になりました。ただしやって来たことはひとつも無駄なものはないし、すべてが次につながっていくと思います」

このスポーツでもっともっと頑張りたい。より一層その気持ちが強くなる。シーズンは第2戦ユバスキュラ(フィンランド)と第3戦ボストン(米国)がある。次こそはクロクソールの姿を追っていきたい。
「その深さにすごいハマりました。フィンランドとボストンではガッツポーズしてゴールをしたい」

レッドブル・クラッシュドアイス2018-2019シーズン第1戦 横浜大会
●男子最終成績
優勝 Cameron Naaz/キャメロン・ナーズ(米国)
36位 安床武士/やすとこたけし/32歳
52位 山内斗真/やまうちとうま20歳(同志社大)

第2戦 2019年2月2日 ユバスキュラ(フィンランド)
第3戦 2019年2月8-9日 ボストン(米国)

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