ツール・ド・フランス取材者日記。巡礼地、死に絶えた町、そして毎年3連泊はするルルドをベースにしてツールマレー峠まで出勤。コースのアルジュレガゾストまでは自動車専用道で15分ほど。そこからツールマレー峠までは20kmなので、さすがにボクはクルマなんですが、ルルドに泊まって峠までサイクリングで行く人も多いのです。
ピレネーのツールマレー峠は毎年のように通過しますが、2019年はゴール地点に設定されたというのが異例。狭い峠に大がかりな設備が置けるはずがなく、異例の厳戒態勢です。ラッシュ時のホームのようなおびただしい数のサイクリストを避けながら峠の頂上まであと800m。ハンドルを握る腕の筋肉がもはや限界。数日間、高速道路を時速130kmで何時間も走ったので、大胸筋がけいれんし始めています。でも頂上をクリアして反対側を下山すれば3.4kmでサルドプレスがあるので一息つけます。
ところが「峠は封鎖されているからUターンして別の道から行け」と非常な宣告。なんで? ここから引き返して別ルートで行ったら100kmあるじゃんと講義しましたが、「ゴメン」とひとこと。これもツール・ド・フランス。一度言ったら彼らは考えを変えません。選択肢は唯一Uターン。
ところが15km戻ったところでテットドクルスと呼ばれる先導隊と鉢合わせして「逆走するな」と。「さっきUターンしろって言われた…」なんてまったくきく耳を持たず、順コースでツールマレーを超えることに。おかげでツールマレー峠を2回登れましたよ。
今日は行ったり来たりを指示されてピンポン玉の気持ちがよく分かりました。
ツールマレー峠を西麓から上った今回は標高2800m超の尾根に建設されたピックデュミディ天文台がはるか彼方に小さく見えました。天文学者の研究施設は予約をすれば2食付きで宿泊できます。研究用の天体望遠鏡ものぞかせてもらえますよ。
地元フランス選手が調子いいので現地のゴール地点に設営されるサルドプレスは例年以上に大盛り上がりしていました。記者はもちろん、大会スタッフもモニターテレビに釘付け。ツールマレー峠でティボー・ピノが勝利すると大きな拍手。そしてジュリアン・アラフィリップがライバルを突き放して2着でゴールすると驚きのどよめきがわき起こっていました。
フランス勢のワンツーフィニッシュを見届けるとスタッフは足早に持ち場に戻っていきます。みんな小鼻をふくらませて興奮しているようでした。コイツらが自転車好きなのを初めて知りましたよ。普段はだれが勝とうとあまり興味を示さないのに。 自由・平等・博愛の国。彼らは意外と愛国心があるようです。沿道のファンもアラフィリップ人気で一気に増えた感じがします。やはりフランスが強くなければこのレースは盛り上がらないんです。
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