異例続きとなった2020自転車ロードシーズン。欧州に新型コロナウイルス第一波が襲来した春から夏はすべての大会が延期あるいは中止に。シーズン後半に主要大会が集約開催され、なんとか伝統をつなげた感がある。一方で、自宅にいながらバーチャルレースする新機軸も。激動の1年が過ぎ去り、2021シーズンはどうなる?
シーズン後半に主要大会を無理やり押し込めて開催
新型コロナウイルスの感染拡大が自転車競技界に影響を与え始めたのは2020年2月末のUAEツアーからだった。出場チームのスタッフが感染したことが発覚し、レース中止。地元チームのUAEエミレーツに所属しているフェルナンド・ガビリア(コロンビア)も感染した。3月8日には8日間の日程でフランスのパリ〜ニースが開幕したが、感染拡大を受けて2日目からスタートとゴールに観客を入れない運営で強硬。ところが事態は悪化し、最終日のレースを急きょ打ち切った。
それ以降はすべてのレースが延期、あるいは中止となった。第一波が収束した8月から主要大会が続々と延期開催されたが、極めてタイトな日程で、三大大会のジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャにいたっては日程が重複した。こういった不測の事態が20代前半の若手選手には追い風となった。大会日程がすし詰め状態なので各チームは実績のある選手ばかりを主要大会に送り込む作戦が取れず、経験のない若手選手を起用せざるを得ない状況となったからだ。
チャンスを与えられた若手が次々と大金星を手中にしていく。ツール・ド・フランスでは21歳のタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEエミレーツ)が初優勝。ジロ・デ・イタリアでは若手選手がし烈な優勝争いを展開し、25歳のタオ・ゲオゲガンハート(英国、イネオス・グレナディアス)が初優勝した。
各大会の主催者は感染拡大の防止対策を徹底した。選手やチームスタッフ、限られた運営スタッフをバブルと呼ばれる空間に隔離し、可能な限り外部との接触を断った。選手はレースを走っている時以外はマスクを着用。表彰式でリーダージャージーにソデを通すという儀式をやめ、登壇者はあらかじめジャージーを着用し、花束を手に持って現れた。スタート前の出走サインはカメラの前に立って顔認証で済ませるようにもした。
ただし体育館やスタジアムで行われるスポーツと異なり、いくらスタート地とゴールを無観客にしても沿道には人が集まる。とりわけ上り坂には興奮したファンが殺到し、3密状態は避けられなかった。現在の欧州各国は猛烈な第二波が押し寄せる。2021年の自転車競技日程は従来通りの予定でプログラムする方向にあるというが、前途は多難。
突如のバーチャル化でオンライン世界大会も開催
リアル大会ができないなら選手の自宅をオンラインでつないでレースしようというアイデアも実現した。自転車は室内トレーナーというマシンがあれば、ロックダウン下でもハイレベルな練習が可能だ。さらに最近はモニターに表示されるコースの起伏にリンクしてペダルに負荷をかける装置が普及した。参加選手自宅の温度や風通しなどによってレース環境が公平でないという問題点はあるが、イベントとしては興味深く、実際に白熱したレースが行われた。
春に開催される予定だったミラノ〜サンレモは延期になったが、主催者が意地を見せた。開催されるはずだった同時刻に、実際のコースと同じ負荷がバーチャルで再現されるアプリを提供。世界中のサイクリストがオンラインで一緒に汗を流した。
5月に開催されるはずだったジロ・デ・イタリアはバーチャルレース開催を宣言。出場予定だったプロ選手が参戦して、ガチバトルで優勝を争った。12月にはついに国際自転車競技連合がバーチャルレースを公認。優勝者のアバター(画面に表示される選手)には世界チャンピオンジャージが提供された。