ここに来れば、だれでも自転車に乗りたくなる…シマノ自転車博物館

ここに来れば、だれでも自転車に乗りたくなる。シマノ自転車博物館が2022年3月、大阪府堺市にオープンした。同市の大仙公園内に1992年に開館した自転車博物館サイクルセンターを新築移転し、改称したもの。展示面積は3.5倍になり、その歴史を知るばかりでなく、自転車の知識を学び、魅力を再確認する場として欠かせない存在となった。

映像で語られている自転車に照明が当たり、映像と展示が連動する演出がされている

手元変速システムを開発した神保正彦さんが案内してくれた

世界有数の自転車パーツメーカー、シマノが創業時から拠点とする堺市。だから国内外の自転車を集めた施設があっても不思議ではない。公益財団法人シマノ・サイクル開発センターが運営する新博物館を案内してくれたのは同館の神保正彦参与。記者が書いた「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社刊)では、変速とブレーキレバーが一体となった世界初のシステムを開発した担当者として登場。現在は世界中のメーカーが追従し、初級者向けのロードバイクさえ採用しているのだから、このシステムは事実上の世界標準といえる。

自転車のこれからの可能性を紹介したゾーンに立つ神保正彦さん

「ここに来れば、だれでも自転車に乗りたくなる。そんな存在でありたいです」と神保さん。従来型の博物館にありがちな、多くの展示物が並ぶばかりのフロアにはせず、デジタル解説システムを活用した最適な情報提供を心がけたという。

1階には無料ゾーンもあり、古墳を作るための鉄器に始まり、鉄砲や刃物といった金属加工の町であった堺が、自転車の町となっていく変遷を伝えている。自転車好きなら堺にはシマノがあることを知っているが、一般の人にも自転車の町であることを知ってもらいたいという狙いがある。

堺の伝統文化を知ることができるエリアは無料で入場できる

チケットを購入してその先に進むと、まず自転車の歴史をまとめた映像を視聴する。その変遷を大まかにつかんでおけば、その先に用意されたもっと深い部分の話が理解できるという仕掛けだ。自転車を発明した人たちの夢、暮らしを豊かにする多様な自転車を紹介したコーナーがあり、「どうして自転車は倒れないの?」といった子どもたちの素朴な疑問に答えた映像もある。

2階のCゾーン

これからの体験型博物館は「シテ」と呼ばれる

世界遺産の宝庫フランスでは、従来型のミュージアムから「シテ=都市」と呼ばれる体験型博物館に移行しつつある。所蔵品を鑑賞するだけでなく、体験することで自らの想像域を広げ、さらなる魅力に気づく。ボルドーにはワインのシテがあり、ローヌ地方にはチョコレートのシテがある。自転車博物館も日本ではまだ希少な「シテ」であり、自転車の魅力を体験する場となるはずだ。

最新技術を体験。後ろのギアを変えると、それに連動してその他パーツが適正化。簡単に言うと乗り手はレバーを動かすだけで、パーツ群がそれぞれ挙動してストレスのない走りを実現させる

ツール・ド・フランスの現場で信頼される最高級パーツの商品企画などを担当してきた神保さんだが、体調を害した時期もあった。それがスピードを競った走り方から方向転換するきっかけともなった。自転車を動かすのは結局人間であり、その楽しみ方は人の数だけある。旅行や食などと自転車を結びつけることで、自転車の魅力がさらに増す。世界各国の自転車文化を目撃してきた神保さんが手がけた博物館だけに、自転車がある快適ライフスタイルをだれもが頭の中に描けるようになる。

山口和幸著「シマノ」もマルチメディアライブラリーに所蔵されていた。電書版は発売中

自転車ファンも、そうでない人も、大人も子どもたちも訪れると楽しい博物館である。

シマノ自転車博物館に行ってみよう

アクセスは南海電鉄高野線「堺東駅」から徒歩約5分。敷地内にはスタンドを持たないスポーツバイク用ラックが多数あり、サイクリング途中でも気軽に立ち入ることができる。自転車パーツの変遷やメディア・ライブラリーも充実。期間限定の特別展として2023年3月20日まで「自転車の旅・様々なかたち」と題した展覧を開催中。国内外で長期の自転車旅を行った3組の足跡を紹介している。

地上5階建ての施設は日没後にライトアップされる

一般500円、高校生・大学生200円、中学生以下・65歳以上無料。団体割引あり。
●シマノ自転車博物館のホームページ

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