日本山岳会学生部プンギ遠征隊が2024年9月からヒマラヤにある未踏峰「プンギ」に挑戦する。プンギはネパールのアンナプルナ山域、ペリヒマール山群に属する標高6524mの未踏峰。同山には2022年秋に、日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊が南西尾根から初トライするが、6150mで敗退。未だその頂に立った者はいない。(文:井之上巧磨)
大学4年間で培った技術と経験、体力と精神力を
日本山岳会プンギ遠征隊のメンバーは5人。登攀隊長が東京大学運動会スキー山岳部の尾高涼哉(4年)、隊員が立教大学体育会山岳部より中沢将大(4年)、横道文哉(4年)、中央大学体育会山岳部より芦沢太陽(3年)。そして総隊長を青山学院大学体育会山岳部の井之上巧磨(4年)が務める。
それぞれ違った所属からなる本遠征隊ではあるが、それぞれ所属する大学山岳部は、これまでの活動でもあくまでその山を未踏に見立てて登るという行為をしてきた。合宿の立案から始まり、偵察、そのルートの必要技術要素の抽出、技術の習得、そして必要十分以上の荷物を持った実践とその後の反省。
これらのサイクルは、便利な技術があればほとんどが省ける過程であるだろう。しかしながら、その山が未踏なのだとしたら必要なサイクルである。この4年間を通し、我々が培ってきた技術と経験。そして体力と精神力を活かしてプンギに挑戦したい。
便利な現代だからこそ、本来の登山の形を体現したい
日本山岳会プンギ遠征隊は2つの目的を本遠征に掲げている。1つ目が「本来の登山の形の体現」である。
近年さまざまな技術が発展したことで、登山は身近なアクティビティに変容してきた。行ったことのない山/ルートでも写真付きの詳細な情報を得ることができ、GPSは自分の居場所を正確に確実に教えてくれる。それは我々の活動をより安全にし、自然という不確定な環境下での確定要素を増やしてきたと思う。
しかし登山のもつ本来の側面には、未知なる山・場所・ルートを既知なるものへと変える探検的精神を含んだ営みも存在しているのではないだろうか。探検的精神を含んだ登山には、人類社会の境界を先へと推し進め、またその行為を通して人間の可能性を広げるという意味で意義があり、いつの時代にも必要な営みだと考える。
我々遠征隊は未踏峰を登ることで、この便利な現代において、本来の登山の形を体現したいと強く思う。
この時代にも山に青春を捧げる若者がいることを発信したい
2つ目は「大学山岳部の存在とその活動を広めたい」ことである。
数十年前に存在した大学山岳部全盛期の時代は過去のこととなり、大学山岳部はその存在や活動を世間に知られていないという現状がある。年々部員数は減少し、廃部となる大学も存在する。今回の遠征には4つの大学山岳部からメンバーが集まっている。この遠征を通して、大学山岳部の活動や文化、この時代にも山に青春を捧げる若者がいることを世間に発信していきたい。
まず人々に知ってもらうことは、大学山岳部を盛り上げていく第一歩であると考える。またこの遠征を見た次の世代が仲間として入部したり、後輩たちを応援する人が増えたら、もう一つの大きな意義となりえるのではないかと考える。
目標となるプンギは大まかに南尾根、北西尾根、北東尾根、東尾根の4つの尾根から構成されている。今回遠征隊が考えているルートは、2022年ヒマラヤキャンプ登山隊が挑戦した際と同じ南西尾根である。
プンギは北峰、本峰、南峰という順に峰が連なっていて、遠征隊はまず西尾根上5500mのコルにキャンプを張り、その後南峰に登頂。そこから尾根上を本峰に向けトラバース(横移動)するという計画である。 ヒマラヤキャンプ登山隊の撮った写真には、南峰直下に急斜面らしきものが確認でき、南峰〜頂上間も切り立っていることが推察される。
この挑戦の費用は、渡航費や登山料など合わせて521万円。隊員の個人負担はもちろん、それ ぞれの大学や山岳部OB会、日本山岳会、一般からの寄付を募ってまかなう予定である。
隊員名簿
井之上巧磨(いのうえたくま)
役職:総隊長、食料サブ
所属:青山学院大学体育会山岳部(部内学年4年 主将)
実績:上高地-親不知(無雪)、屏風岩雲稜ルート(無雪)、錫杖岳注文/見張り棟(無雪)、マイモーズの悪場、モチコシ沢、中崎尾根末端-槍ヶ岳(12月)、阿弥陀北西稜
ヒマラヤ未踏峰に挑む特集サイト(Contents一覧)
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