欧州では地球温暖化や燃油高騰の打開策として多くの市民がクルマから自転車に乗り換えている。行政も予算を倍増させて自転車に優しい環境づくりを推進している。ツール・ド・フランス取材で訪れてきた町々も、10年前と比べると自転車通行のインフラ整備が格段に充実していることを目撃した。現地より欧州自転車周辺事情をレポート。
欧州全体が自転車に優しいまちづくりのために巨額を出資
ミシュランの格付け制度をまねて、その町がどれほど自転車に優しい環境であるかを評価する「ビル・ア・ベロ」をツール・ド・フランス主催者が2021年から始めた。ビルは町、ベロは自転車という意味のフランス語で、英語訳すればサイクルシティとなる。
星ではなく自転車マークで格付けされ、最高格は自転車4台。首都パリとオランダのロッテルダムの2市だ。そして2022年、自転車3台にツール・ド・フランス第4ステージのゴール、カレーが登録された。
カレーの駅からすぐのところに、運河をまたぐように最新の自転車・歩行者橋が作られていた。橋の上から運河を見下ろせば、その河岸にも幅の広い自転車レーンが伸びている。自転車通勤・通学する人はクルマが走る車道と交差しないで駅まで快適に移動できる。だからぜひ自転車を利用してもらおうというねらいが行政にはある。町の随所に駐輪場を設置することも積極的だ。
欧州連合の欧州地域開発基金とオードフランス地域がこのエリアの再開発として共同出資した金額は186万8897ユーロ(約2億6000万円)というから驚きだ。
「カレーは今回のツール・ド・フランス招致をきっかけに、英国との交通の要衝という役割に加え、美しい海水浴場を備えた観光名所として海外にアピールしていきたい」という。自転車インフラへの投資は市民の健康寄与、交通事故防止、環境問題を解決するだけでなく、訪れた観光客が住みやすい魅力的な町としてのイメージを持ってもらえるという戦略だ。
2022年のビル・ア・ベロはカレーと、同じ地域にあるアラスだけが登録された。アラスの格付けは自転車2台だが、クルマとの共存を都市整備の中核に掲げている。コミュニティバイクという公共レンタル自転車配置計画に充てられた予算は前年度の10倍。「最高の格付けに昇格できるようにしたい」と意気込んでいる。
車道と自転車レーンに段差を設けて物理的に分離
欧州各国の自転車レーンの作りは似ている。フランスではかつて、クルマが90km前後で走行する国道では、サイクリストがその風圧で飛ばされないように緑地帯を隔てた自転車専用道を設置した。これは現在も利用されているが、新たに市街地での自転車レーン整備が急速に進められている。車道と自転車レーンに段差を設けることで、両者を完全に分離させた。さらに歩道も区分けされるので3つのレーンが存在することになる。
電気で動くeバイクの普及も著しい。道路交通法によってアシスト力が制限される日本とは違って、アシスト比率が高いeバイクも多い。乗車するだけで坂道を音もなく進んでいく電動スクーターも多く見かけた。どちらも公共レンタルできるものがたいていの町中に設置されていた。
日本の環境を考えるとすべて参考になるとは言えないが、欧州の自転車環境はここ数年で確実に改善されている。道路周辺にゆとりがあること、町と町をつなぐ道路がそもそも少ないという立地条件もあるが、自転車を日常のアイテムとして愛着を持っていることが円滑な環境整備の後押しをしてる。
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