ピドコックがシクロクロス世界連覇に固執せずロード練習に集中

2022年のシクロクロス世界チャンピオン、2020東京五輪MTB金メダリスト、2022ツール・ド・フランス最難関のラルプデュエズ区間勝者であるトム・ピドコック(英国、イネオスグレナディアーズ)が、連覇のかかる2月5日のシクロクロス世界選手権をターゲットとしていないことが明らかになった。

ピドコックがラルプデュエズで独走する ©A.S.O. Pauline Ballet

シクロクロス世界選手権は2月5日にオランダのホーヘルハイデで開催されるが、3強と言われるマチュー・ファンデルプール(オランダ)、ワウト・ファンアールト(ベルギー)、ピドコックのうち、ピドコックの目標変更宣言により、ファンデルプールとファンアールトの一騎打ちの様相を呈してきた。

世界チャンピオンの虹色ジャージーを着用するピドコック ©Twila Federica Muzzi / Red Bull Content Pool
シクロクロスW杯第9戦を制したファンアールト ©Kristof Ramon / Red Bull Content Pool
祖父レイモン・プリドールがなし得なかったマイヨジョーヌを獲得したファンデルプール ©A.S.O. Charly Lopez

冬場にシクロクロスで鍛えた選手はツール・ド・フランスでも強い

自転車を使った障害物競走、シクロクロスがシーズン真っ盛り。どんなに外気温が低くても体がしっかりと温まる冬場の自転車競技は、この時期の欧州が主戦場。全14戦のワールドカップシリーズが週末ごとに開催されている。12月11日にアイルランドのダブリンで行われた第9戦では、ワウト・ファンアールト(28)=ベルギー=がアクシデントを乗り越えて優勝した。

シクロクロスW杯第9戦を制したファンアールト ©Kristof Ramon / Red Bull Content Pool

不屈のベルギー魂でファンアールトがアクシデント克服

シケインと呼ばれる立板を飛び越えるセクション、激坂、階段、砂場など変化に富んだコースが設定される。これが自転車を使ったクロスカントリーレース、シクロクロスの舞台設定だ。エリート男子1時間、女子40分と競技時間こそ短いが、想像以上にハードで、あっという間に汗がしたたり落ちるほどの激しい運動量である。

12月24日に行われたワールドカップもファンアールトがピドコックを抑えて優勝した RedBull Content Pool // Kristof Ramon / Red Bull Content Pool

緯度の高い欧州は冬になると日本よりも冷え込みが厳しい。そんな時期に「待ってました」とばかりに開催されるスポーツだ。夜の寒さで凍結した牧草地は太陽の上昇とともに泥地獄となり、選手たちの行く手を阻む。泥づまりで動かなくなった自転車は、ピットでの交換が認められる。選手をサポートするメカニックは、渡された泥だらけの自転車を素早く水洗いして次の交換に備える。

過酷な自然環境に強いと言われるベルギーやオランダ勢が強さを発揮する。第9戦で勝利したファンアールトはロードチームのユンボ・ビスマに所属し、2022年7月のツール・ド・フランスでは区間3勝、首位のマイヨジョーヌを4日間着用、そしてエースのビンゲゴーを鉄壁アシストして総合優勝に導いた。

シケインを走るピドコック。手前で自転車から飛び降り、クリアしてすぐに飛び乗る ©Twila Federica Muzzi / Red Bull Content Pool

今回の第9戦ではレース途中、ファンアールトは立ち往生を余儀なくされた。他選手をアシストするメカニックが不注意で落としたボロ布が変速機に絡まったのだ。ピットまで逆走で戻って自転車を交換し、先行していたトップに追いつき追い抜くとそのまま独走で優勝した。

「これがシクロクロスだよ。ゴールまで何が起こるかわからない。想像以上にハードなレースだったよ」

泥だらけの顔を拭い、新しいジャージーに着替えて登場した表彰台に、ファンアールトはアクシデントの原因となったボロ布を両手で広げながら不運をアピール。それでも「ダブリンの観客に熱いバトルを楽しんでもらえてよかった」と笑顔を見せた。

砂地獄を走るファンアールト ©Kristof Ramon / Red Bull Content Pool

現在開催中のシリーズは10月9日に開幕し、2023年1月22日の最終戦まで行われる。2月5日にはシーズン総決算として世界選手権がオランダのホーヘルハイデで開催される。第8戦ベルギー・アントワープで勝ったマチュー・ファンデルプール(オランダ)は2021ツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを6日間着用した若手選手。世界選手権連覇に挑むトム・ピドコック(英国)は2022ツール・ド・フランス最難関のラルプデュエズで独走優勝している。冬場にハードレースで鍛え上げた選手たちは夏にも強いのだ。

シクロクロス専用バイクの特徴は

世界チャンピオンの虹色ジャージーを着用するピドコック ©Twila Federica Muzzi / Red Bull Content Pool

シクロクロスで使用する自転車はドロップハンドル装備のロードレース用とほぼ同じ。泥沼や砂地で埋まらないように極太タイヤを選択。車輪軸につけられたディスクブレーキは泥に干渉しにくいので有利になる。自転車を担ぐこともあるのでボトルは装備せず、給水なしで走り抜く。

ラルプデュエズを制したピドコックがMTB欧州チャンピオンに

ロードレース、シクロクロス、MTBの三刀流で注目される英国のトム・ピドコックが、8月20日にドイツのミュンヘンで行われた欧州選手権MTBクロスカントリー男子で優勝した。

英国のピドコックがレース終盤にアタックをかける ©Luca Bettini/UEC/SprintCyclingAgency©2022

7月のツール・ド・フランスでは最難関のラルプデュエズで独走勝利。現在のシクロクロス世界チャンピオン。そして東京五輪MTB金メダリストのピドコック。大陸選手権としてはシクロクロスのジュニア(2016年)とU23(2018年)に続くタイトル獲得となった。

欧州選手権MTBクロスカントリー男子 ©Luca Bettini/UEC/SprintCyclingAgency©2022
ミュンヘンのオリンピックパークで行われたMTB欧州選手権 ©Luca Bettini/UEC/SprintCyclingAgency©2022
独走して背後を振り返るピドコック ©Luca Bettini/UEC/SprintCyclingAgency©2022
トム・ピドコックが欧州選手権MTBクロスカントリーを制した ©Luca Bettini/UEC/SprintCyclingAgency©2022
MTB XCO欧州選手権を制したピドコックを中央に左が2位セバスチャン・カールステンセン(デンマーク)、右が3位フィリッポ・コロンボ(スイス) ©Luca Bettini/UEC/SprintCyclingAgency©2022

欧州選手権MTBクロスカントリー女子はフランスのジョアナ・ルコントが優勝した。

欧州選手権MTBクロスカントリー女子はフランスのロアナ・ルコントが優勝 ©Ivan Benedetto/UEC/SprintCyclingAgency©2022

ピドコックがシクロクロス世界チャンピオン…東京五輪MTBに続く二刀流

英国のトム・ピドコックが、1月30日(日本時間31日)に米国のファイエットビルで開催されたシクロクロス世界選手権エリート男子で英国選手として初優勝した。同選手は2020年大会の2位。東京五輪ではMTBクロスカントリーに出場して金メダル。二刀流を成就した。

トム・ピドコック。UCI XCCノベームニェスト・ナ・モラビエ(チェコ) 。2021年5月14日 ©Bartek Wolinski / RedBull Content Pool

直近の7年間において、シクロクロス世界選手権で4勝のマチュー・ファンデルポール(オランダ)、同3勝のワウト・ファンアールト(ベルギー)は欠場。ファンデルポールは東京五輪マウンテンバイクでの落車で痛めた傷が万全ではなく、「ロードシーズンのために治療に専念する」と断念。ファンアールトもロードシーズンでのタイトル獲得のためにシクロクロスシーズンを早めに切り上げた。

ピドコックはロードレースではジュニア時代にタイムトライアルで世界チャンピオンに。現在は英国の強豪イネオスグレナディアーズに所属する。2021年のロード世界選手権で6位に入賞した。

エリート女子はオランダのマリアンヌ・フォスが2006、2009、2010、2011、2012、2013、2014年に続き、8年ぶり8度目の世界チャンピオンになった。

ピドコック、ロード、MTB、シクロクロスで世界三冠を目指す

英国のトム・ピドコックが、12月18日にオランダのルクフェンで開催されたシクロクロスワールドカップ第11戦で英国選手として初優勝した。翌日の19日にベルギーのナミュールで行われたレースではマイケル・ファントーレンハウト(ベルギー)に続いて2位となったが、2022年1月30日に開催されるUCIシクロクロス世界選手権の大本命に躍り出た。

トム・ピドコック。UCI XCCノベームニェスト・ナ・モラビエ(チェコ) 。2021年5月14日 ©Bartek Wolinski / RedBull Content Pool

トラック競技からロード、シクロクロス、そしてMTB

英国北部のヨークシャーで生まれ育ったピドコックは、熱心なサイクリストの両親の影響で3歳から自転車に乗り始め、すぐにその魅力に取りつかれた。当時はロンドン市内唯一のベロドロームでもあった、サウスロンドンのハーンヒルベロドローム(Herne Hill Velodrome)で本格的な練習を開始。

この頃からピドコックはほとんどの時間を自転車と一緒に過ごすようになった。路面や場所を問わず、どこでも自転車を乗りこなしたピドコックは、学校の校庭でウィリーをメイクして怒られたこともあった。

UCI XCOアルプシュタット(ドイツ) ©Bartek Wolinski / RedBull Content Pool

ピドコックはまずロードレースで頭角を現した、2020年に開催されたU23ジロ・デ・イタリアの「ジロ・チクリスティーコ・ディタリア」で第3ステージを制して総合優勝。ビッグタイトルを手にした直後、ピドコックはロードからダートに転向。UCIマウンテンバイクワールドカップ(クロスカントリー)にエントリーすると、チェコのノベー・ムニェストで開催されたU23クラスのダブルヘッダーで連勝した。

さらには、オーストリアのレオガングで開催されたUCIマウンテンバイク世界選手権(クロスカントリー)のU23クラスでも圧勝し、2016年のシクロクロスジュニア世界選手権に続いてキャリア2回目のアルカンシエルを手中にした。

2020年のUCIシクロクロス世界選手権で銀メダルを獲得したピドコックは、2020東京オリンピックではマウンテンバイクの英国代表となり、クロスカントリーで金メダルを獲得。さらに2021年のUCIロード世界選手権で6位に入賞した。

ピドコック。UCI XCOノベームニェスト・ナ・モラビエ(チェコ) ©Bartek Wolinski / RedBull Content Pool

シクロクロスのライバルはファンデルポール、ファンアールト

ロードシーズンを終えてオフシーズンを過ごし、現在は2022年UCIシクロクロス世界選手権の優勝を目指してコンディションを上げている。ロード、MTB、シクロクロスの3つの分野すべてでチャンピオンになりたいという野心がある。

ライバルは同世代のマチュー・ファンデルポールとワウト・ファンアールト。それを追う3番手の選手としてシクロクロスシーズンに入ったが、そのポジションには満足していない。ワールドカップ第10戦のバルディソーレ(イタリア)大会は雪の中の戦いとなり、ファンアールトとマイケル・ファントーレンハウトに次ぐ3位に終わった。

UCI XCOアルプシュタット(ドイツ)で。2021年5月9日 ©Bartek Wolinski / RedBull Content Pool

そして第11戦でピドコックはベルギーのエリ・イゼルビットとファントーレンハウトとともにトップ争いを展開。ベルギーのデュオが優位に立っているように見えたが、ピドコックは粘り強い走りで最後に逆転し、エリートクラスのシクロクロスワールドカップで優勝した最初の英国選手となった。

翌日のナミュールでは、ピドコックのクラッシュを利してファントーレンハウトが復讐の機会を得て、ピドコックは2位に終わる。

UCI XCOワールドカップ・レジェ(フランス)を走るピドコック。2021年7月4日 ©Bartek Wolinski / RedBull Content Pool

ワールドカップ次戦は12月26日。さらに1月2日にオランダのハルストで、1月16日にフランスのフラマンビル、1月23日にオランダのホーヘルハイデでシリーズが行われる。その1週間後の米国での世界選手権が開催される。