追いつかれるまで逃げ続けるランニング大会、Wings for Life World Run が2021年5月9日、UTC協定世界時午前11時、日本時間で20時にスタートした。新潟県南魚沼市の会場に集まった参加者とともに精いっぱい逃げた。今回はそのレポート。
八色の森公園がグループ・アプリランの拠点に ©Jason Halayko for Wings for Life World Run
世界同時スタート。最後に捕まった人が世界チャンピオン
何万人のランナーが世界各地で一斉にスタートする。スタートから30分後にキャッチャーカーと呼ばれる追跡車がスタートから走り出し、参加者たちを追いかける。キャッチャーカーは最初ゆっくりと走り、時間を追うごとに徐々にスピードを上げていく。キャッチャーカーに追い抜かれた時点でその参加者はレースが終了となり、世界で最後に追い抜かれた参加者に世界チャンピオンの称号が与えられる。
そのユニークさに魅せられて、2020年大会に参戦する意欲満々だったが、新型コロナウイルス感染の第一波により、「フラッグシップ・ラン」と呼ばれる、前述したリアルなラン大会は中止。2021年もコロナ禍はなかなか収まらず、アプリを使って所定のコース、または自分の好きな場所で走る「アプリラン」は実施。
日本ではみんなで同じ会場に集まって走る「グループ・アプリラン」が南魚沼市で行われ、感染予防対策を行ったうえで101人が参加した。日本全国の参加者合計は1341人だったという。
ちなみに日本女子選手は過去に素晴らしい実績があり、2015年は渡邊裕子さんが56.33 km、2016年は吉田香織さんが65.71 kmを逃げて、世界チャンピオンとなっている。
今回の南魚沼でのグループ・アプリランは残念ながらキャッチャーカーと呼ばれる追跡車はなかったが、ダウンロードしたアプリがスマホ画面にバーチャルのキャッチャーカーを表示。アプリにはトレーニングモードが実装されるほか、ランニング中に音声による声援や情報取得も可能になっている。
スタート前にアプリ起動を準備する ©Jason Halayko for Wings for Life World Run
日本では南魚沼で。スマホ片手に101人が集まった
イベント当日の気温は15度で、スタート前にはかなり肌寒かったが、レースが始まってからはTシャツと短パンでちょうどいい感じ。午後8時なので当然紫外線の照射はなく、そういった意味ではコンディションはよかった。世界各国の会場ではもちろんお昼過ぎで気温が高いところ、なかなか身体が動かない未明の時間帯のところもあったはずで、レース環境として条件はまちまちだ。ただしこれは世界中の参加者が気持ちを一つにしてチャレンジするチャリティーイベントであって、メダルも賞金もない。だからバーチャルで容認できるのである。
8回目の開催となった2021年も、地球のあちこちで美しい景色とストーリーがあふれた。ひとりで走った人、少人数のグループで走った人、陽光に恵まれた中央ヨーロッパを走った人、冠雪の山を背景に走った人、日の出や日没を迎えたビーチ沿いを走った人、さらには、アフリカでキリンに見つめられながら走った女性もいたという。また、雨のスペインとアイルランド、雪のノルウェー、晴天のギリシャなど天候もさまざまだった。
記録も更新され、史上初の3度目の優勝を記録したランナーが誕生した。キャッチャーカーに追いつかれるまで66.8kmを走ったアーロン・アンダーソンさん(スウェーデン)が2017年、2018年に続く3度目の男子グローバルチャンピオンに輝き、60.2kmを走ったニナ・ザリーナさん(ロシア)が2019年、2020年に続く女子3連覇を達成した。2021年のランナーと車いすユーザーを合わせた平均走行距離は12.3kmだった。
新潟県南魚沼市にはアプリ計測ながらリアル参加の少人数イベントが行われた ©Jason Halayko for Wings for Life World Run
全額寄付金となる参加費は2700円。出場できるだけでなく、公式Tシャツとヘッドランプがついてくる。初めてのナイトランで、しかも5月上旬の新潟地方でのイベントということで、どんな気象条件でも対応できるように長袖やタイツなどを用意したが、参加者はこの公式Tシャツを着用してくださいとアナウンスされて、迷いは消えた。ノースリーブの高機能アンダーウエアを中に着込み、パンツは丈の短いレーシング用。ヘッドランプのズレを防止するため、自転車用のツバが小さいカスケット(帽子)をかぶった。
普段のラン練習ではスマホを携帯しないが、この日は必携なので上腕につけるランニング用のスマホホールダーを事前に購入。これは2021年10月、荷物預けができない東京マラソンのときにも必要なので、どんな感じなのかを試すチャンスにもなった。
約2.7kmの周回コースにはエイドステーションも仮設されたのがうれしい ©Jason Halayko for Wings for Life World Run
公園を拠点とした2.7km周回コースで逃走中
そしてスタートへ。起動したアプリを画面表示させていると1分前からカウントダウンが始まった。会場のアナウンスもそれにシンクロし、午後8時になると大きな赤丸のSTARTボタンが出現。忘れずにこれを押せば、あとは基地局3点の信号を受信して位置情報を取得する。これにより何km走ったかが計測され、世界レベルで瞬時に集計されるのだ。
ちなみにアプリは「位置情報の取得を許可する」や「バックグラウンドで稼動させる」をプリセットしておく必要がある。今回の場合はもちろんとどこおりなくセッティングしておいたが、途中で「省エネモードでスマホ画面が消える」現象に手をやいた。
キャッチャーカーが迫ってくる距離を確認しようとするたびに、消えた画面を走りながら再表示させる必要があった。スマホホールダーはタッチ感応タイプだが、さすがに指紋認証はできず、走りながらその都度暗証番号を入力するハメになった。そのため画面が消えない設定にしておくのが正解だ。
スマホを携えて走るのが特徴 ©Jason Halayko for Wings for Life World Run
途中でバッテリー切れの心配があったので、早めにチェックインしたホテルの部屋でフル充電してレースに臨んだのだが、結局2時間ほどの逃走ならバッテリー消耗は1/4くらい(購入後1年半の機種による実績)。基地局3点からの位置情報取得は消費電力もパケット通信料も微々たるものだった。
今回のコースはキャッチャーカーが走行しないことがあり、公園を拠点とする一般道の歩道をメインに2.7kmの周回コースをひた走る。イメージしていたよりも薄暗く、横断歩道の段差などはヘッドランプを照射して足もとを確認しながら先に進む必要があった。
途中1カ所に信号機があり、この部分は赤信号なら立ち止まるわけだが、記録をねらう参加者のなかにはUターンして歩道部を折り返すなどで立ち止まらない人も。これがリアルではないアプリランの裏ワザで、走り続けてさえいればUターンしても移動距離がカウントされるのである。それに気づいたときはもうバーチャルのキャッチャーカーが背後に迫っていた。
一般道の歩道を走る。1カ所だけ信号機があるので赤になったら足を止めて息を整える ©Jason Halayko for Wings for Life World Run
結果として20kmを過ぎたところでアプリが「追いつかれました!」という表示に。1時間54分29秒の逃走劇がフィナーレ。みんなと走るとアドレナリンがわいてきて、実力以上の走りができるはずだったが、慣れないナイトランにちょっと緊張してしまったのか目標をかなり下回る結果に。
日本人の最長距離は、南魚沼でのグループランに参加した男子の今井清隆さんが50.1km。これは世界全体で34位となる記録だ。女子の阿萬香織さんはアプリランで44.3kmを走破。
そんな記録にほど遠い結果となったが、やはりリアル大会は楽しいし、頑張れる。2022年は世界がかつての日常を取り戻し、追い抜きながら「頑張れ!」とか、追い抜かれながら「ナイスラン!」なんて言われながら走ってみたい。
2022年は5月8日開催に決定
世界的な新型コロナウイルス感染拡大の状況は見通せないが、所定のコースを走るフラッグシップ・ランは2022年以降に開催される計画だ。すでに2022年5月8日に開催されることが決定し、参加者事前登録が始まった。イベント詳細は今後明らかになるが、再チャレンジして、今回の経験をいかしながらもっといい記録を目指したいと思う。
会場の最寄りとなる浦佐駅は首都圏からのアクセスがいい。上越新幹線の停車駅でもあり、駅改札口から会場となる八色の森公園までは歩いて数分。クルマなら関越自動車道の大和スマートICから数分。スタートが夜8時なので、当日帰りよりも付近に宿を取り、その日は疲れをいやすのがおすすめだ。
意外とあっさりと21km過ぎに捕まったが、リッパな完走賞がダウンロードできてうれしすぎる
ウィングスフォーライフ・ワールドランのニュース記事
●Wings for Life World Runのホームページ
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