日本各地をめぐり熱戦を繰り広げているツアー・オブ・ジャパン。大会は終盤戦へと突入し、5月26日は静岡県伊豆市で第7ステージが行われた。日本サイクルスポーツセンターを主会場とする120.8kmのレースは、今大会の総合争いの行方を決定づけるのにふさわしいレースが展開された。マルコス・ガルシアを個人総合のトップに送り出しているキナンサイクリングは、終始リーダーチームとしてのプロトン(メイン集団)での役割を果たし、ガルシアのリーダージャージを堅守。アシスト陣の好走もあり、鉄壁のレースコントロールを見せた。
前日、富士山須走口五合目を目指したヒルクライムの第6ステージで、キナンはガルシアが3度目の挑戦で悲願のステージ優勝。残り約7kmで飛び出し、後続を寄せ付けない圧倒的な登坂力を見せつけた。その走りで個人総合でも首位に浮上。第5ステージの逃げ切り勝利でグリーンのリーダージャージに袖を通したトマ・ルバから、その座を引き継いだ。ルバは個人総合3位、両者のケアをしながらも自身のリザルトも安定しているサルバドール・グアルディオラが同6位につけ、チーム総合でも他チームに5分以上の差をつけてトップに立っている。
また、富士山ステージでは序盤に中島康晴、山本大喜、新城雄大の3選手が絶妙なペーシングを見せ、本格的な上りまでに逃げていた選手たちを吸収。クライマーたちによる力勝負に持ち込むお膳立てを演じた。
続く第7ステージは、日本サイクルスポーツセンター内のサーキットコースがメインとなる通称「伊豆ステージ」。2018年から修善寺駅前を出発してのパレード走行が行われ、その後ワンウェイルートを経て、1周12.2kmのサーキットへと入る。周回数は9回。テクニカルなコーナーやアップダウンが連続する難コースは、山岳ステージに匹敵するレベル。総合争いにおける最終決戦の舞台となり、有力チームが捨て身の攻撃に出ることが通例。2018年もサバイバルレースが予想される。キナンとしては、何よりもガルシアのリーダージャージを守り抜くことが最大のミッションとなる。
正式スタートと同時に激しいアタック合戦となったレース序盤。ときに10人以上が数秒先行する場面もあったが、早々にレースのコントロールを担ったキナン勢がしっかりと対処。個人総合で上位をゆく選手や、大人数の逃げは許さず、アタックする選手の動きを見定める。その間、個人総合で35秒差の2位につけるヘルマン・ペルシュタイナー(オーストリア、バーレーン・メリダ)のアタックがあるも、これはガルシア自らがチェック。ライバルの動きは決して許さない姿勢をチーム全体で示す。
プロトンを統率するキナン勢が逃げを容認したのが2周目の終盤。6人がレースをリードすることとなるが、その中で個人総合で上位につける選手はガルシアから2分53秒差。キナン勢は逃げグループを先行させて、有力選手がひしめくメイン集団の動きを落ち着かせることに努める。
逃げグループとメイン集団との構図が決まってからは、ルバやグアルディオラに加えて、中島、新城、山本らもペーシングを行い、前とのタイム差を約3分で推移させる。レース後半に入り、その差を少しずつ縮めて調整していくが、無理に追い上げることはせず、ライバルの動きを見ながら進んでいく。
7周目に入って逃げグループが崩れて、先頭をいくのは3人となる。一時メイン集団とのタイム差が再び3分となるが、ここは慌てずキナン勢のコントロールで安全圏へと戻していく。距離を追うごとにアシストを減らしていくが、終盤からは満を持してグアルディオラとルバが集団牽引を本格化。ライバルにとってはそう簡単には攻撃ができない状況を作り出していった。
そしてレースはいよいよ最終周回へと突入。逃げる3人とメイン集団との差は1分45秒。先頭の3選手はガルシアとの総合タイム差に開きがあることから、キナン勢としては逃げ切りを容認する構え。それ以上に、わずかな可能性に懸けて攻撃を繰り返すペルシュタイナーへのチェックが最優先となる。ここからはガルシアが自ら反応し、アタックを阻止していく。
逃げの3人はそのままステージ優勝争いへ。それから1分18秒後、メイン集団が最後の直線へとやってきた。わずかな上り基調の最終局面は、ガルシアにとっては問題なし。ペルシュタイナーら総合上位陣と同集団でフィニッシュラインを通過。リーダージャージのキープが確定。総合タイム差を縮められることなく、難関ステージを乗り切った。
ガルシアらのグループからわずかに遅れたルバだったが、こちらも個人総合3位をは変わらず。総合表彰台に2人が王手をかけることとなった。加えてチーム総合でも首位を保っている。
そのほか、キナン勢はグアルディオラ、山本、新城、中島の順でフィニッシュへ。グアルディオラは総合順位を落とすこととなったが、自身の成績を犠牲にしても大切なリーダージャージへの執念を見せて、チームに貢献。前日に続き、キナンの角口賀敏会長夫妻、角口友紀・同社長夫人家族が駆け付けた中でパーフェクトなレースを選手たちが演じた。
20日に始まった大会は、華やかなレースを続けながら東へと進んできた。そして28日、ついに最終目的地の東京へと到達する。最後となる第8ステージは、日比谷シティ前をスタートし1.2kmのニュートラル走行を含むワンウェイルートを経て、大井埠頭のサーキットコースへと入っていく。1周7kmを14周回。レース全体では112.7kmで争われる。コースはオールフラットで、スピード感あふれるダイナミックなレースが展開される。セオリーではスプリント勝負だが、これまで何度か逃げ切りが決まったケースもあり、選手たちの思惑が行き交うステージとなりそう。
キナンとしては、ガルシアのリーダージャージをフィニッシュラインまで運ぶことが最大のミッション。レース中のトラブルやアクシデントを避け、いかにセーフティーに走り切るかがポイントになる。悲願のツアー・オブ・ジャパン制覇に向けて、より集中してレースへと臨む。
ツアー・オブ・ジャパン第7ステージ結果(120.8km)
1 グレガ・ボレ(スロベニア、バーレーン・メリダ) 3時間29分53秒
2 クリス・ハーパー(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネスサイクリングチーム) +0秒
3 フェリックス・アレハンドロ・バロン(コロンビア、チームイルミネイト)
4 ベンジャミン・ベリー(カナダ、イスラエルサイクリングアカデミー) +1分18秒
5 ベンジャミ・プラデス(スペイン、チームUKYO)
6 中根英登(NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ヨーロッパオヴィーニ)
11 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team)
18 トマ・ルバ(フランス、KINAN Cycling Team) +1分25秒
23 サルバドール・グアルディオラ(スペイン、KINAN Cycling Team) +4分11秒
47 山本大喜(KINAN Cycling Team) +15分37秒
63 新城雄大(KINAN Cycling Team) +22分22秒
64 中島康晴(KINAN Cycling Team)
個人総合時間
1 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team) 17時間34分13秒
2 ヘルマン・ペルシュタイナー(オーストリア、バーレーン・メリダ) +35秒
3 トマ・ルバ(フランス、KINAN Cycling Team) +53秒
4 クリス・ハーパー(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネスサイクリングチーム) +1分27秒
5 グレガ・ボーレ(スロベニア、バーレーン・メリダ) +1分40秒
6 サム・クローム(オーストラリア、ベネロング・スイスウェルネスサイクリングチーム) +1分55秒
17 サルバドール・グアルディオラ(スペイン、KINAN Cycling Team) +5分0秒
54 山本大喜(KINAN Cycling Team) +48分11秒
58 中島康晴(KINAN Cycling Team) +52分21秒
66 新城雄大(KINAN Cycling Team) +1時間5分28秒
ポイント賞
1 グレガ・ボレ(スロベニア、バーレーン・メリダ) 107pts
4 トマ・ルバ(フランス、KINAN Cycling Team) 41pts
17 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team) 18pts
22 サルバドール・グアルディオラ(スペイン、KINAN Cycling Team) 13pts
37 新城雄大(KINAN Cycling Team) 6pts
山岳賞
1 鈴木譲(宇都宮ブリッツェン) 24pts
4 マルコス・ガルシア(スペイン、KINAN Cycling Team) 15pts
17 新城雄大(KINAN Cycling Team) 3pts
チーム総合
1 KINAN Cycling Team 52時間48分37秒
マルコス・ガルシアのコメント
序盤からハイペースのレースになったが、途中からチームとして集団を落ち着かせて逃げとのタイム差を調整していった。3選手の逃げ切りはまったく問題がなく、チームのプラン通りにレースを進められたことがより重要だと考えている。昨年ステージ優勝を挙げた伊豆だけれど、今年はまったく違った状況でこの日を迎えたから、ステージ優勝は特に考えず、リーダージャージのキープを最優先に臨んだ。チーム、そして私を信じてくれているキナンの角口賀敏会長には心から感謝を伝えたい。今日はチームメートが最初から最後まで働いてくれて、私としては楽にレースを終えることができたと感じている。
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