2020ツール・ド・フランスが通常開催できない3つの理由

新型コロナウイルス感染拡大により、2020年の第107回ツール・ド・フランスは大会日程を当初の「6月27日〜7月19日」から、「8月29日〜9月20日」に延期。この異例の措置によって、真夏のバカンス時期に開催されるお祭りという希有な価値が保てるのか? 6月29日時点での状況を分析してみた。

7月14日はフランス革命記念日 ©ASO

フランスは国内および欧州での衛生状況が改善していることから、欧州委員会の提言に従って6月15日より欧州域内の国境制限(陸路、空路、海路)をすべて解除した(スペインとの国境制限は6月22日より解除)。

欧州域内の国からの渡航者は、新型コロナウイルス対策に関連して設けられた国境での移動制限を一切課されず、フランス本土へ入境できる。ただし英国からの渡航者だけは相互主義(レシプロシティ)により、フランス到着後に14日間の隔離措置が続けられる。

●欧州外からフランスへ入境する場合に求められる2週間の自主隔離措置

現時点で日本人は、配偶者がフランス人であることや新型コロナウイルスにかかる医療関係者などの特例をのぞいて、フランスへの渡航ができない状況。日本外務省のホームページに2国間の渡航についての制限(出国・入国)について毎日情報のアップデートがある

7月1日から日本人はフランス入りができるという情報も

フランスは慎重ながらも前進する意志を見せている。7月1日以降、シェンゲン協定域外の第三国との国境を、各国との衛生状況を鑑みながら、段階的に個別に再開していく予定だ。シェンゲン協定の加盟国内にいったん入ると、域内は原則パスポートの検査なしで行き来できる。

2国間の相互主義(レシプロシティ)というのは「互恵性、返報性」の意味。言い方は悪いが、一方が入国禁止措置を執るなら他方も同じやりかたをぶつけるというもの。日本がフランス人の受け入れを拒んでいたら、フランスも同様のやりかたをする。14日間の隔離措置を求めるなら、これも同様だ。

ただし世界有数の観光大国であるフランスは、自国経済の立て直しのためにできることなら外国人旅行者を呼び戻したい。そのために新型コロナウイルス感染を抑え込んでいる国は例外的に入国緩和と隔離措置廃止を検討している。例外となる国のリストとその内容は7月1日に発表されるようで、日本もリスト入りしていると一部で報じられている。

2019ツール・ド・フランス第14ステージ ©ASO Alex BROADWAY

これに先立つ6月22日、フランス政府は新型コロナウイルス感染がいまだ予断を許さない海外領土のマイヨットとギアナを除いて、フランス全土に施行される「夏季に向けた新たな制限解除の内容」について発表した。

理由その1 観光大国が普段の姿を取り戻すには時間がかかる

フランス全土で映画館、カジノ、ゲームセンターの営業再開が可能になること。再開には衛生上の配慮をとることが求められること。また、コロニードバカンス(長期休暇期間に児童が過ごす林間・海浜学校)では児童の受け入れが可能になることなどが発表された。フランス本土では確実にいつもの夏休みに戻りつつあるのだ。

7月11日以降(フランス本土における衛生上の緊急事態宣言の終了後)には、河川クルーズの運行が再び認められる。欧州の複数国の港に寄港する海洋クルーズは、省令で定められた定員以内の船舶であれば、関係国との調整において今後の運行再開が決められるという。

スポーツに関してはどうか。スタジアムおよび競馬場は5000人以内の規模であれば観客を入れられるようになる。劇場など1500人を超える集まりは届け出の対象となり、必要な配慮がとられることを保証しなければならない。

大規模イベント、スタジアム、劇場における集客の人数制限を5000人とすることは原則として9月1日まで続けられる。8月29日に開幕するツール・ド・フランスは当然のようにこの「大規模イベント」となるので、5000人の人数制限が適用される。それがフランスの象徴的スポーツイベントであるとしても、だ。

理由その2 5000人超のイベントは現時点では開催不可

順調に推移しても、いまの状況ではツール・ド・フランスは5000人以下での開催。つまり想定されるのは無観客レースだ。これではどうしても盛り上がりに欠けてしまう。わずかな望みは、フランス国内での新たな疫学調査が7月中旬に実施され、8月下旬に制限緩和が可能となるかが決定されるということ。

9月1日以降、新たに出される疫学状況の評価次第で、たとえば秋の新年度スタート時に以下のような緩和が行われる。

フェア、展示会、見本市会場の再開
5000人を超える規模のイベントの認可
疫学状況の評価次第で、ディスコ、国際海洋クルーズの再開

日本選手やファンはツール・ド・フランスに行けるのかという問題

6月29日時点でのフランスの累計患者数は16万2936人、死者は2万9778人。入院患者数は8886人で、前日より255人減少。新規感染者は87人で前日比マイナス37人。4月7日に流行のピークを迎えてからは減少傾向が続き、第2波到来の予兆は今のところない。

2020ツール・ド・フランスに出場できる可能性がある日本選手は、バーレーン・マクラーレンの新城幸也とNTTプロの入部正太朗。入部は落車による鎖骨骨折で現在復帰に向けてのリハビリ中。新城は感染拡大直前に合宿地のタイに入国し、いよいよ欧州復帰を準備中。一般の渡航条件とは別にプロ選手としてのビザ取得という課題があるが、フランスに自宅があるためフランス入りそのものは問題ない。

©A.S.O. / Thomas-MAHEUX

理由その3 出場選手がフランス入りできるか、さだかではない

問題なのは感染拡大が続く南米・北米からのフランス入りが許可されるか。コロンビアには2019年の総合優勝者エガン・ベルナル(イネオス)がいる。欧州の中では感染者の多い英国もさだかではなく、ツール・ド・フランス最多タイの5勝目を目指すクリストファー・フルーム(イネオス)がいる。

日本のファンが2カ月延期されたツール・ド・フランスの現地に行けるかは、まずは7月1日にフランス政府が発表される決定事項による。ただ、日本でも東京都などの新規感染者は高止まりし、ウイルスそのものは常に存在しているので、あらゆるリスクを考慮して慎重に判断したい。

2020ツール・ド・フランス開幕まであと2カ月。取材申請は「2019年」のままで、各国メディアも戸惑うばかりだろう。主催者ASOは1年近くにわたる準備態勢を1から再構築することに相当の労力を支払っている渦中であることが想像でき、実行力のある彼らのことだから結果的には2020ツール・ド・フランス開催を実現することを切に期待したい。ただしそのレースは異例の雰囲気となりそうだ。


フランス観光開発機構カロリーヌ・ルブーシェ総裁のメッセージ

「6月15日以降、フランスは再び欧州からの旅行者を受け入れます。これはすべての旅行業従事者にとってこのうえない喜びです。さらに7月1日以降は欧州以遠のいくつかの国からも、フランス国内のホテル、キャンピング場、レストラン、美術館や博物館、観光地でお客様をお迎えできるようになります(国境再開はその国の衛生状況によって決まるのですが)。必要な対策が講じられたことでフランスの衛生状況は好ましい形で改善しており、旅行業関係者は政府が認可した衛生マニュアルを遵守しながらお客様の安全に必要なあらゆる措置をとっております。とはいえバカンスの雰囲気とフランス流ライフスタイルを忘れぬこともしっかり心がけておりますのでご安心ください」

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