コロナ禍により自転車の大会も大きな影響を受けているが、新しい自転車イベント様式が話題となっている。参加者それぞれが走る日を決める。完走を認定するのはアプリで取得したデータ。参加無料ながら地元の特産物も当たる。そんなアイデアを具現化した一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパンの袴田晃一郎理事に話を聞いた。
アプリ起動でいつでもできるライドアラウンド
同社はこれまで、従来からあるレース大会のみならず、その土地の名所や名産品を宝探しゲームのように見つけるサイクリング大会などを企画運営。開催地となった自治体からも好評を得ていた。一方で、賞品提供のための順位付けには手作業による集計が必要で、参加人数を増やせないという課題に直面していたという。
「運用面でデジタル化が必須だった」と袴田さん。
「準備に労力がかかるのに大会当日しか遊べない。せっかく地図を作ったのだから、もっとたくさんの日にたくさんの人に楽しんでもらえれば」
アプリ開発会社と協力して思い切って巨額を投資し、デジタル化を断行。こうして立ち上がったのが「ライドアラウンド」という期間限定の宝探しイベントだ。開催日があるわけではなく、参加したい人はアプリをダウンロードして期間内の好きな日にサイクリングしていいというもの。東京多摩地区をはじめとして2020年度中に5エリアで実施。2021年度はさらに増えるという。
これまでのリアル大会での各地域とのつきあいがあったので袴田さんには手応えがあったという。自治体側が求める「交流と消費」を押さえ、獲得したポイントでお土産に交換できるなどの企画を盛り込んだ。また参加しやすくなるようにママチャリでも参加できるようにした。
人気一周コースに挑戦するサイクルボール
これに先行して、数千万円を投じて自社開発してきたアプリ「ツール・ド」も武器となる。設定した期間内ならいつでも参加できるという「分散型」を全国規模で展開させることが可能になった。通年的に自転車で遊べることを可能にしたばかりでなく、これがコロナ禍時代の「密」を回避できる決め手となるのだった。
「競技強度の高いレースに参加する人以外は、愛車で走る目的やネタに困るという遊び方難民や、既存の遊び方のマンネリ化を感じている人がいました」
そこでサイクリストにとっても地域にとっても意欲を喚起しやすい1周というテーマと、全国制覇という着想を得て企画したのが「サイクルボール」というシリーズだ。
アプリを使って霞ヶ浦、琵琶湖、浜名湖、淡路島など日本各地の1周コースを走る期間限定キャンペーン「サイクルボール」を考案。参加無料ながら全走破すると協賛メーカー提供の賞品がもらえる。さらに1カ所でも走破すれば各地域が提供する特産物に応募できる賞も加えた。
サイクリストとそれを受け入れる地域の「幸せなマッチング」を実現して、両方に喜んでもらいたいという考えが結実した。
「参加料ありきのイベントから無料にシフトしたのはビジネスモデルとして大きな変化だったが、1日イベントから期間分散型にしたほうが需要が大きい。参加費収入はないが、地域の持ち出しはリアルイベントの開催拠出金と同等以下で、それでいて事前準備の人的な負荷は大幅に下がるから開催効果は同等以上。自転車はあくまで手段として観光サイクリングを訴求したい地域も多く、それに対応できるコンテンツは希少であったために喜ばれた」(袴田さん)
参加者にも新様式は好評で、暗いニュースの多かった2020年の10大ニュースにも入った。期間を長く取ることで楽しみ方も多様になり、一過性の満足感に終わらず参加者それぞれの思い出になるのだ。
袴田さんの今後の目標は「サイクリングで国民的レジャーコンテンツを作ること」。
「サイクリングは環境・健康・観光面など社会的効用を期待されながら、まだまだ暮らしに入り込めていない。観光地で足に困ったときの遊び方、お金のかかるコアでディープな趣味という2極化した捉え方をされることが多い。暮らしや企業の社会活動のなかで、サイクリングが豊かにできるもの、問題解決できることを十分に張り巡らせていく作業が必要。多くの人に受け入れられるレジャーコンテンツを作ることで、サイクリングは本当の意味で暮らしに入り込めるようになると思います」
同社は1月末まで正社員(中途)募集中。
●ルーツ・スポーツ・ジャパンのホームページ
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