電動レースを本気で導入したジロ・デ・イタリアの思惑

E(エレクトロニック)を導入したスポーツが開催される時代になった。自転車ロードレース、ジロ・デ・イタリアでもeバイクを使った「ジロE」が併催されている。イタリアの大手電力会社エネルの子会社で、バッテリーや再生エネルギー発電などを手がけるエネルエックスが冠協賛。一方、人気のeバイク市場が思わぬ問題点を誘発。

出場選手はジロ・デ・イタリアと同じ舞台を体験できる ©LaPresse

eレースはエース以外は日替わり参戦もできるのが魅力

5月6日にハンガリーで開幕したジロ・デ・イタリアは、ロードレース界の一流プロが参加するレース。同国で3区間を行い、イタリアに移動してさらに18区間を走る。これに対して、eバイクを使ったジロEは、往年の名選手や一般愛好家が参加できるイベントで、主催者は同じ。ハンガリーの3区間を日程から外し、イタリア入りした第4ステージからジロEの競技を開始した。

電動パワーでジロ・デ・イタリアのコースに挑むジロEの参加者。下側チューブが太めだが、それ以外は電動アシスト自転車とは見抜くことができない ©LaPresse/Alessandro Garofalo

全18区間で、最終日はジロ・デ・イタリアと同じ29日だ。プロレースは1日200km前後を走るが、ジロEは各区間の最大距離が105kmと制限されている。それでもコースはジロ・デ・イタリアとほぼ同じ。プロ選手に先行して走り、表彰式で与えられるリーダージャージーのデザインも同じだ。

出場はチーム単位で、6人編成で各区間を走る。総合成績を争うキャプテン1人が決められ、残りの5選手は日替わりで交代してもいい。第2カテゴリーまでのプロチームに所属している選手は出場できないが、かつての世界チャンピオンやジロ・デ・イタリア歴代優勝者などが名を連ねる。それ以外は自転車愛好家で、電動パワーを借りながら憧れのイタリア一周レースに参加できるというのが魅力だ。

ジロEに使用されるのは、スポーツ仕様の電動アシスト自転車で、近年はeバイクと呼ばれる。ドロップハンドルをつけたロードタイプで、太めの下部チューブにモーターとバッテリーが内蔵されているので、見た目はあまり変わらない。ただし日本では道路交通法に定められた規格から逸脱するので輸入されてない。具体的には、日本規格では走行速度が24kmに達すると電動アシスト力がゼロになるが、欧州規格は時速25kmを超えてようやく次第にアシスト比率が落ちていく仕組み。

5月10日に開幕したジロE。右は元世界ランキング1位のダミアノ・クネゴ、右は乳がんを克服したトライアスロン選手のアレッサンドラ・フィオール ©LaPresse

eバイクのいいところは自分の体力以上に走れること。憧れのジロ・デ・イタリアに出場するのはこれまで世界のトッププロしかできなかったが、電動パワーによって夢が実現できる時代になった。日替わりでチーム編成を変えていいというルールも、全日程は休めない庶民が参加しやすくなるという配慮だ。

1区間の走行距離は半分ほどだが、勝負どころの上り坂はしっかりと設定されている。だから電動アシストはあるけれど、それなりの運動能力がなければゴールにたどり着けないだろう。

ステージレースでのチームプレーも演じることができる ©LaPresse

欧州のeバイク人気で世界的に供給滞り

欧州ではガソリンが1リットルあたり300円超。日常生活での移動や買い物の際、自動車をやめてeバイクに乗り換えている市民が多い。そのためeバイクが爆発的に売れ、世界随一の自転車生産地域である台湾は日本市場などに供給していた一般車の製造ラインを欧州向けeバイクに変更している。eバイクのほうが利益率が高いからだ。

ピナレロのeバイクで走るモスコンとeカーで追走するフィジケラ

需要はあるが、経営者は増産のための設備投資には消極的。中国政府からの将来的な圧力を懸念してのことだ。アルミ原産国2位ロシアの情勢もあって、原材料も不足。軽合金を多用する自転車パーツが製造できない苦境に陥っている。高騰する輸送コストも製品価格にはね返り、パーツメーカーのシマノや海外完成車ブランドの自転車も相次いで値上げ。日本では東日本震災以来、「ちょっと高くてもいい自転車に乗りたい」という自転車ブームが続くが、店舗にほしい商品が並ばない。欧州eバイク人気が日本の自転車市場に思わぬ影響を与えている。