自転車競技の新時代、バンクリーグが名古屋で開幕

令和うまれの新スポーツ「バンクリーグ」の初戦、Round 1が8月23日に愛知県の名古屋競輪場で行われた。KINAN Cycling Teamからは椿大志、大久保陣、山本大喜、福田真平、中島康晴、荒井佑太が出場。予選ラウンドを1勝1敗とし、決勝ラウンドへの進出を逃したものの、チームとして次戦への改善点が見つかるレースとなった。

バンクリーグ2019 Round 1・名古屋 ©︎KINAN Cycling Team / Midori SHIMIZU

構想から数年、ついにバンクリーグの船出の時がやってきた。加藤康則ゼネラルマネージャーを発起人に始まったプロジェクトは、複数回のテスト走行を経て、2018年にプレイベントとして「トラックフェスティバル」を宇都宮競輪場で実施。それらの結果を踏まえて、バンクリーグのスタートに向け急ピッチで準備を進めてきた。

レース形式はバンクリーグオリジナルの「3ポイントゲーム」。このイベントは競輪場のバンクを使用し、4選手ずつで編成される2チームが出走し、3周目以降の奇数周の入りを先頭通過したチームに1ポイントが与えられる。3ポイントを先取したチームが勝利となる。ルールはシンプルで、チーム力や戦術を短時間で楽しむことができるあたりが大きな魅力だ。今節は6チームが参加し、3チームずつA・Bの2グループに分けて、総当たりの予選ラウンド実施。各グループ1位が決勝ラウンドに勝ち上がる。

晴れの第1回開催の会場となった名古屋競輪場には、遠方からの観客も多数駆けつけ、イベント開始前から大きな盛り上がり。レースに先立って行われた一般走行イベントでは、バンクリーグ参加選手が一般参加者とともに走行。角度のある走路に及び腰の参加者も見られたが、選手たちの誘いに笑顔を浮かべ、並走をするうちに徐々にバンク走行のコツをつかんでいった様子だった。

開会式では発起人の加藤康則GMがあいさつ ©︎KINAN Cycling Team / Midori SHIMIZU

そして迎えたイベントのオープニング。開会式では発起人の加藤GMが挨拶に立ち、開催への感謝を述べた。予選グループの組み合わせ抽選には、チームを代表して荒井が臨み、愛三工業レーシングチームとシマノレーシングと戦うことが決まった。

愛三工業レーシングチームとの対戦となった予選ラウンド第1戦。椿、山本、福田、荒井のオーダーでの出走。数日前から意見を出し合って練り上げた作戦通りにレースを進行させ、現役競輪選手でもある福田、スプリンターの荒井を中心に危なげなく勝利をおさめた。

予選ラウンド第1戦は愛三工業対キナン ©︎KINAN Cycling Team / Midori SHIMIZU

シマノレーシングとの対戦となった第2戦。愛三工業レーシングチーム戦からメンバーを入れ替え、椿、大久保、中島、荒井の布陣で挑んだ。トラック競技を専門にする選手を擁した相手のスピードに負けじと迫ったが、力及ばず3-0のストレートで敗戦となった。

これにより決勝進出は逃したが、レースを終えた選手たちはVIP席へと出向いてファンサービス。シマノレーシングとマトリックスパワータグの対戦となった決勝を、観客とともに観戦した。VIP席は走路内側のフィールド部分で観戦を楽しめるもので、選手入退場時のハイタッチや、レースの息づかいが感じられる距離感が魅力。事前発売で完売となった。ロードレースとは異なる景色のナイターイベントに、ファンは選手と写真を撮ったり、シーズン後半のレース展望について話をしたりと、普段では得られないスペシャルな時間を楽しんでいた。

レースを終えた選手たちは観客席へと出向いてファンサービス ©︎KINAN Cycling Team / Midori SHIMIZU

レース後の閉会式では、バンクリーグをよりよいものにしていくために常にブラッシュアップしていくと話した加藤GM。選手からも、対戦相手の特性に合わせた戦略など作戦の幅を広げ、レースを重ねるごとによりアグレッシブな戦いが展開されるのではないかという声が聞こえてきた。

華やかな船出となったバンクリーグ。Round 2は8月30日、三重県・松阪競輪場で開催される。(Text:清水翠、Edit:福光俊介)

●キナンサイクリングのホームページ

トマ・ルバがツール・ド・インドネシア総合優勝&山岳王

インドネシアのステージレース「ツール・ド・インドネシア」は8月23日に最終日を迎え、前日に総合首位に浮上したキナンのトマ・ルバがリードを守り切り、個人総合優勝を達成。2019年大会の王者に輝き、レースリーダーの証であるグリーンジャージを獲得した。この日行われた第5ステージの途中では一時逃げグループに大差を許す展開となったが、最後はチーム力を持って局面を打開した。

2つのリーダージャージを獲得したキナンチーム ©︎KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU

今大会最難関のクイーンステージと目された前日の第4ステージでKINAN Cycling Teamは、トマがステージ2位。優勝こそ譲ったものの、アジアの名峰イジェン山の上りで実力を発揮。個人総合争いのライバルたちを引き離すことに成功し、グリーンジャージを獲得した。第2ステージ以降守っている山岳賞も盤石の態勢で、2冠をかけて最後のステージに挑むことになった。また、マルコス・ガルシアがステージ4位、サルバドール・グアルディオラも9位と続いたほか、献身的なアシストを見せた山本元喜も粘って20位でフィニッシュ。個人総合で10位と好位置につける。

そして、8月19日から展開されてきた戦いは、いよいよこの日のステージで最後となった。第5ステージは、前日までのジャワ島を離れ、バリ島へ移動。同島の西側に位置する港、グリマヌクからバトゥール・グローバル・ジオパークまでの136.8km。コースは、スタートからしばらくは海沿いの平坦路をゆくが、後半にかけて上り基調へと変化。山岳ポイントを通過後にいったん下って、フィニッシュのバトゥール・グローバル・ジオパークに向かって再びの登坂。山岳区間は全体的に舗装が荒く、残り25kmからは未舗装区間も現れる。大会の最後にやってきた難コースを前に、KINAN Cycling Teamはトマの個人総合首位のキープを最優先することを確認。ライバルたちの動きを注視しながら、最終目的地を目指していく。

最終日とあって、やはり残りわずかなチャンスに賭ける選手たちがアクチュアルスタート直後から次々とアタック。激しい出入りの中、レース序盤が進行していく。この状況がしばらく続いたが、30km地点を迎えたところで7人が先行を開始。個人総合での最上位はトップのトマから約6分差の選手とあり、この段階でKINAN勢が集団を落ち着かせてコントロールを本格化。50km地点を過ぎたところでのタイム差は5分30秒。メイン集団は新城雄大や山本がペーシングを担う。

レース状況が一変したのは、70kmを過ぎたあたり。タイム差を知らせる情報が錯綜したことや、通過する都市の交通規制が混乱したことが関係し、あっという間にその差が大きく広がってしまったのだ。90km地点でのタイム差は、この日最大の10分25秒となった。

だが、ここからがKINAN勢の見せ場となった。大差になっていることを確認すると、新城や山本がペースを上げ、レース後半の山岳区間に入るとサルバドールとマルコスが登坂力を武器に前を行く選手たちとの差を縮めていく。同時にメイン集団は崩壊し、徐々に人数が絞られていく。この日2つ目のカテゴリー山岳が設置された126km地点では4分45秒差として、リーダージャージのキープに向けて状況を整えていく。

この間、先頭は2人となりステージ優勝争いへとシフト。結果、最終盤に独走へと持ち込んだベンジャミン・ダイボール(オーストラリア、チームサプラサイクリング)がこのステージの勝者となった。

ダイボールのフィニッシュから約5分。トマを含むクライマーたちの集団がやってきた。サルバドール、マルコスが役割を終えてからは、トマが自らこのグループを率いてペースアップ。ステージ3位争いのスプリントからは後れを取ったが、総合においては安全圏でフィニッシュラインを通過。この瞬間、トマの個人総合優勝が決定した。

スタート直後からライバルとなりうる選手たちの動きはしっかりとチェックし、逃げを狙う選手たちのアタックを選別しながらレースコントロールに持ち込んだKINAN勢。途中、思わぬ形で先頭グループに大差を許すことになったが、そこはUCIアジアツアーを戦う中で培った走り方やメンタルで苦境を乗り切った。

インドネシアでの全5ステージを終えて、トマは個人総合のグリーンジャージと山岳賞のブルージャージを獲得し、2冠を達成。チーム総合でも3位とし、その力を示すこととなった。今大会に臨むうえでのテーマの1つであったUCIポイントの獲得は139点。大会を制したトマにとどまらず、第3ステージで3位となった新城ら日本人メンバーの走りも高い貢献度となった。

シーズン後半戦最初のヤマ場として挑んだツール・ド・インドネシアを成功裏に終えたKINAN Cycling Team。ここで得た勢いを、その後のレースにもぶつけていくことになる。なお、チームの次の公式戦は、9月1日のシマノ鈴鹿ロードレースクラシックを予定。その2日前には三重県・松阪競輪場で開かれるバンクリーグ第2戦に臨むことにもなっている。

トマ・ルバ

トマ・ルバのコメント
「ハードなレースになることは想定していた。コース上がオープンになってしまっている状況があり、先頭グループとのタイム差が思っていた以上に広がってしまったが、新城雄大と山本元喜が素晴らしいコントロールをしてくれて、山岳に入ってからはサルバの牽引が本当に強かった。そのおかげでグリーンジャージをキープすることができた。もちろんこの結果はみんなで力を結集させたことによるもので、とても美しい優勝になった。
(ステージ3位に入った)第2ステージ後にも感じたことだが、シーズン後半戦に入ってみんながよい働きを見せていて、厳しいシーズンインだったチーム状況を切り替えられている。まずは今日の勝利の喜びに浸るとして、明日からは次の大きな目標へ向かっていく。チーム全員がよいコンディションにあり、力を合わせて戦うことがとても楽しみだ」

●キナンサイクリングのホームページ

トマ・ルバがツール・ド・インドネシア第4ステージで首位に

ツール・ド・インドネシアは8月22日、アジア屈指の山岳であるイジェン山の頂上フィニッシュとなる第4ステージが行われ、KINAN Cycling Teamのトマ・ルバが持ち前の登坂力を発揮。ステージ優勝こそ譲ったものの、区間2位。ここまでの個人総合上位陣を引き離してフィニッシュしたことにより、トマはこのステージを終えて首位に浮上。山岳賞でもトップを守り、翌日の最終第5ステージはダブルタイトルをかけて戦うことになった。

ツール・ド・インドネシア第4ステージで首位に立ったキナンのルバ ©︎KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU

第3ステージまでを終えて、個人総合成績ではトマが総合タイム差3分49秒差の7位、山本元喜が同5分51秒差で9位と、トップ10圏内に位置。総合にとどまらず、第2ステージではトマが、第3ステージでは新城雄大がそれぞれステージ3位の好走を見せた。さらには、トマは第2ステージ以降山岳賞争いでトップに立ち、ブルーのリーダージャージを着用してレースに臨んでいる。

迎える第4ステージは、今大会で最も重要な1日。ジャワ島最東部まで進んだプロトンは、アジアの秀峰イジェン山の頂上を目指すことになる。上り始めから急坂が始まり、中腹以降は10%を超える急勾配。道路舗装が荒い区間や、部分的に勾配20%前後の激坂も待ち受け、この上りで各選手の登坂力の差が明白になる。このステージの結果がそのまま総合成績へと反映される可能性も。レース距離は147.3km。

KINAN Cycling Teamは、他の大会も含めてこの上りを何度も経験している点に強みを持つ。これまでの実績から熟知する攻略法を生かして、クイーンステージでの上位ジャンプアップを目指していくことを確認した。

迎えたレースは6人の逃げで幕開け。いずれも総合成績に関係しない選手であることから、メイン集団は6人の先行を容認。リーダーチームのオリバーズリアルフードレーシングが集団コントロールを担って、レースを淡々と進行させる。KINAN勢は先に控える山岳に向けて、まずは集団に待機する。

スタートから20kmを過ぎる頃には逃げグループと集団とのタイム差は3分以上の開きとなり、その後も拡大する一方。両グループに大きな変動がないまま進行し、100kmを迎える段階でこの日最大の約5分まで広がったことをきっかけに、集団が少しずつ活性化していくこととなった。

120km地点を過ぎるあたりから徐々に上り基調となっていくが、それを前にメイン集団は先頭の6人とのタイムギャップを縮めていく。上りが始まるとその差はあっという間に縮まり、130km地点を目前に逃げメンバーを全員吸収。KINAN勢は5選手全員が問題なく集団でレースを進行。134km地点に設定される、この日2つ目のカテゴリー山岳である1級の頂上に向かって、いよいよKINAN勢がギアを上げていく。まずは新城が集団のペースを上げる。続いて山本も牽引に加わって、プロトンを完全に崩壊させることに成功。頂上の山岳ポイントへはトマが2位で通過し、山岳賞争いで得点を伸ばした。

いよいよやってきたイジェン山の上り。登坂を開始して早々にトマを含む6人が先行を開始。厳しい勾配でメンバーをシャッフルさせながら進んでいく。やがて先頭は3人となり、その後ろではマルコス・ガルシアが続く。残り10kmを切ったタイミングで、先頭はトマとメトケル・エヨブ(エリトリア、トレンガヌ.INC・TSGサイクリングチーム)の2人に絞られた。

個人総合争いのライバルとの差を引き離すべく、トマは先頭固定で先を急ぐ。総合で大きく遅れているエヨブ選手を引き連れる形となったが、後続とのタイム差拡大を最優先。こうなると3番手以下を引き離す一方。残すは、ステージ順位とフィニッシュでのタイム差が焦点となった。

最後はエヨブにステージ優勝を譲ったトマだったが、2位を確保し、この時点で6秒のボーナスタイムを獲得。結果的に、第4ステージスタート時点で個人総合上位に位置した選手たちが遅れたこともあり、トマは順位を一気にジャンプアップさせ、首位へと浮上した。

今大会へは順調なトレーニングを積んで臨んでいるトマだが、“本番”ともいえるイジェン山登坂でしっかりと結果を残してみせた。他大会でもこの山岳を経験していて、コースの特徴を把握していた点もプラスに作用した。

第4ステージまでを終えて、トマは個人総合で2位と1分30秒差とした。さらには、山岳賞でも盤石の首位固め。ダブルタイトルに王手をかけて、残る1日に挑むことになる。

この日は、トマにとどまらずKINAN勢が躍動。先頭2人の後ろで粘り強く走ったマルコスはステージ4位としたほか、サルバドールも9位に続いた。また、献身的な走りを見せた山本も20位で終え、混戦となった個人総合で10位に踏みとどまっている。

KINAN Cycling Teamにとって最高のシチュエーションで、大会最終日を迎える。最後を飾る第5ステージは、ジャワ島から東のバリ島へと移動して136.8kmで争われる。スタートからしばらくは平坦が続くが、後半にかけて上り基調に。山岳ポイントを通過後に一度下るが、フィニッシュのバトゥール・グローバル・ジオパークに向かって最後の登坂。上りフィニッシュを終えると、今大会のフィナーレとなる。チームとしては、レース前半の海沿いでの強風に注意しつつ、終盤の山岳でしっかりと力を発揮して、ベストな形で全行程を終えることにフォーカスする。

トマ・ルバ

トマ・ルバのコメント

「イジェンの上りは過去にも経験しているが、この場所でリーダージャージを獲得できたことは本当にうれしい。イジェン山は(ツアー・オブ・ジャパンで上る)富士山と似ていて、戦術的に走るよりはいかにテンポで上り続けられるかが重要になる。強い選手が勝つし、そうではない選手は遅れていくだけだ。だから今日もアタックらしいアタックはしなかったし、テンポで上り続けた結果だといえる。
明日も上りが待っているが、今日は3人がトップ10フィニッシュでき、自信をもって臨める。リーダージャージを守り切ることに集中するし、ミスやトラブルには注意したい。明日の夜、みんなで喜び合えると信じている」

●キナンサイクリングのホームページ

椿大志がおおいたアーバンクラシックで日本勢最高の5位

大分市で8月11日まで開催された「J:COM presents OITAサイクルフェス!!!2019」。この日はメインレースとなる「おおいた アーバンクラシック」が行われ、5選手で挑んだKINAN Cycling Teamは椿大志が日本人選手最上位となる5位でフィニッシュ。前日の「おおいた いこいの道クリテリウム」に続く上位フィニッシュを決めた。また、終盤に追い込んだ山本元喜も7位と続き、2選手がUCIポイントを獲得した。

椿大志がおおいたアーバンクラシックで5位 ©︎KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU

前日は大分駅前で「おおいた いこいの道クリテリウム」が実施され、積極策を実らせた椿大志が2位入賞。ハイスピードかつテクニカルなコースでの戦いで、優勝こそ逃したがよい形で終えることができている。

連戦となるこの日は、前日とは打って変わってアップダウンの連続する変化に富んだレイアウトが特徴的。1周11.6kmのコースは住宅街を抜け、周回終盤に控えるハードな上りは勝負どころになる可能性も高い。これを13周回・150.8kmのレース距離に加えて、気温30度を超える暑さも相まって、サバイバル化することが予想された。

このレースへは、クリテリウム同様に国内外の18チームがエントリー。KINAN Cycling Teamからは、山本元、椿のほか、大久保陣、山本大喜、中島康晴の5選手がスタートラインへ。なお、UCIアジアツアー1.2クラスにカテゴライズされ、トップ10フィニッシュでUCIポイントが付与される重要レースでもある。

戦前の予想通りとなったレースは、3周目に20人の先頭グループが形成される。スタート直後から集団前方に位置し、あらゆる動きに対応できる態勢を整えたKINAN勢は、山本元と椿が20人のグループに加わる。有力チームのほとんどが最低でも1人は選手を先頭へと送り込んだこともあって、後続に対してリードを得ながら進行していく。

実質の追走グループとなった第2集団では、先頭へメンバーを送り込むことができなかったチームや、全戦への厚みを加えたいチームがアシスト陣を使って前を目指す。この中には山本大と中島が待機する形に。先頭グループと第2集団とのタイム差は1分台で推移した。

形勢に変化が生まれたのは7周目。1分台だった両グループの差は一気に3分台にまで開くと、第2グループではこの状況を嫌った選手たちによるアタックが散発。出入りが激しくなる中、9周目に中島を含む4人が追撃を本格化。徐々に先頭グループとのタイム差を戻していき、11周目を終える頃には約30秒差にまで縮小させた。

タイミングを同じくして、先頭グループでも動きが出始める。11周目に入って1人がアタック。これをきっかけに、勝負どころを見据えた動きが少しずつ見られるようになる。それでも決定打はないまま進んでいき、山本元と椿は重要局面に備えて落ち着いて走り続けた。

そして残り2周、序盤から続いた先頭グループの態勢についに変化が訪れた。アタックをきっかけに椿らが反応すると、5人がそのまま抜け出すことに成功。残された選手たちは牽制状態となり、椿ら5人がそのままリードを広げていく。その後、後ろから3選手がブリッジを成功させて先頭グループは8人と膨らむが、後続に対してリードを広げて逃げ切る構え。この周回の終盤に1人が飛び出すと、さらに活性化し、優勝争いは完全に椿らのグループに絞られることとなった。

迎えた最終周回。先行していた選手をキャッチし、この時点で先頭グループは6人まで絞られる。各選手が勝負どころを探る中、残り3kmで椿がアタック。下りを利用して加速を狙うが、ここは優勝争いのライバルたちの厳しいチェックにあってしまう。これに代わって残り2kmから1人が加速し、椿は追う側へ。残り500mを切ってコーナーを過ぎると、あとはフィニッシュまでの上り基調。

最後の上りへ5番手で入った椿だったが、先に最終コーナーを過ぎた4人の勢いには勝てず。残り300mから始まった上りスプリントにはわずかに加わることができなかった。それでも番手を下げることなく、5位を確保。前日のクリテリウムに続く上位進出を決めた。

この結果により、椿は今大会の日本人選手最上位に。先着4選手がいずれもUCIアジアツアーでのライバルでもあり、あと一歩のところで敗れたことを悔やんだが、連日で一定の成果を残したあたりは大きな収穫に。これにより、UCIポイントで15点を獲得した。

優勝争いの後方では、山本元が抜け出すことに成功し、最終的に7位でフィニッシュ。こちらもUCIポイント圏内で、5点を獲得している。また、中盤から猛追した中島は18位。先頭グループ合流目前で動きがあったことから、最後まで前を追うことを余儀なくされたが、粘り強く走り切っている。

これで、大分での2連戦は終了。椿の連続上位進出をメインに、UCIポイント合計20点を獲得するなど、日本人選手だけでのメンバー編成でも戦えることを示した機会となった。ビッグレースが控える今後に向けても、各選手の状態のよさも含めて戦力・戦術の幅が広がっていくことが期待できる。

KINAN Cycling Teamの次戦は、8月19日から23日までのツール・ド・インドネシア(UCIアジアツアー2.1)。チーム力や総合力が試されるタフな戦いに挑むことになる。出場選手については近日中に発表を予定している。

J:COM presents OITAサイクルフェス!!!2019 おおいたアーバンクラシック(150.8km)結果
1 ドリュー・モレ(オーストラリア、トレンガヌ.INC・TSGサイクリングチーム) 3時間36分31秒
2 マラルエルデネ・バトムンフ(モンゴル、トレンガヌ.INC・TSGサイクリングチーム)+0秒
3 イーヴァン・バートニク(カナダ、エックススピードユナイテッドコンチネンタル)+3秒
4 ニコラス・ディニズ(カナダ、エックススピードユナイテッドコンチネンタル) +6秒
5 椿大志(KINAN Cycling Team) +10秒
6 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) +28秒
7 山本元喜(KINAN Cycling Team) +1分21秒
18 中島康晴(KINAN Cycling Team) +3分0秒
DNF 山本大喜(KINAN Cycling Team) 
DNF 大久保陣(KINAN Cycling Team)

椿大志のコメント

椿大志

「本当に悔しい。レース展開や脚の具合からして、どうやっても勝てる手ごたえがあった。最後はみんな疲れている様子が見てとれたので、思い切ってアタックしたがチェックされてしまい、よくない状況から抜け出せなくなってしまった。結果的に余力の差が出てしまった。チームとしてはプラン通り走ることができ、みんなそれぞれに重要な動きには対応できていた中で勝負を託してもらったが、自分がやるべき仕事の部分で力負けしてしまった。
“完全復活”というには、まだまだあと二段階くらいは上げていく必要があると思っている。この先のレースプログラムが多数控えているので、シーズン後半の形をしっかりと作りたい。
個人的には久々にレースができている感覚がある。UCIポイント獲得については、今回は最低限。もちろんゼロで終わってしまうよりマシなので、チーム全体としてよい結果だったとポジティブにとらえたい」

●キナンのホームページ

椿大志がおおいたいこいの道クリテリウムで2位

大分県大分市を舞台とする自転車の祭典「OITAサイクルフェス!!!2019」が8月10日に幕開け。この日のメインイベント「おおいた いこいの道クリテリウム」が大分市街地にて行われ、5選手が臨んだKINAN Cycling Teamは椿大志が2位入賞。優勝こそ逃したが、レース序盤、後半と効果的な動きを成功させ、積極策を実らせた。

椿大志が「おおいたいこいの道クリテリウム」で2位  ©︎KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU

レースイベントとして国内はもとより、海外からの注目度も高まっている今大会。2019年もクリテリウムに始まり、翌日にはUCI公認のロードレース「おおいたアーバンクラシック」が実施される。今回は国内外から18チームがエントリー。これまでの秋開催から真夏へと移行し、より熱く、より華やかにレースや関連イベントが展開されていくことになる。

大分での2連戦にあたり、KINAN Cycling Teamは山本元喜、椿大志、大久保陣、山本大喜、中島康晴の5選手を招集。オール日本人編成で勝利を狙っていくことになる。

「おおいた いこいの道クリテリウム」は、大分駅前の目抜き通りを使って1周1kmのサーキットコースを設定。これを30周する総距離30km。オールフラットで、レースの重要ポイントとなるのは180度ターンと4カ所の鋭角コーナー。勝敗を分けるのは、コーナーワークとポジショニングとなる。周回最後のコーナーからスタート・フィニッシュが置かれるコントロールラインまでは約350m。スプリント勝負が予想される中で、このコーナーをどの番手でクリアするか、そして緩やかなカーブになっているフィニッシュ前でいかに最短ラインを確保できるかも上位進出へのカギとなる。

レースはまず、序盤の探り合いから5人がリードを開始。この中に椿が乗り、プロトンの活性化につなげる。メイン集団に残った4選手もスタートから前方を固め、レース展開を見ながら動きを定めていく構え。椿が加わった逃げグループは、1回目の中間スプリントが設定された10周目を前に集団へと引き戻されたが、チームとして上々の形でレース前半の流れを作った。

1回目の中間スプリントを狙った動きから、2選手が新たにリードを開始。10秒から15秒ほどのタイム差でメイン集団は続く。やがて1人、また1人と先を行く2人を追う動きが見られ始め、力のある選手たちが逃げグループへと合流していく。

選手たちが着々と残り周回を減らしていく中、このレースの重要な局面が残り8周で訪れた。新たに形成された4人の追走グループに椿がジョイン。再び前をめがけてスピードを上げた。この動きを成功させると、先頭グループは一気に8人に膨らんだ。複数メンバーを送り込んだチームを中心に逃げ切りに向けた機運を高めると、メイン集団とのタイム差は20秒ほどに拡大。集団ではスプリントを狙うチームを中心にペーシングを本格化させるが、勢いづく先頭グループとの差は簡単には縮まらない。椿は先頭交代のローテーションに加わりながらも、余裕をもってハイペースに対応。レース終盤に向け、態勢を整えていく。

メイン集団に残ったKINANメンバーでは、残り3周で山本元がアタックを試み先頭への合流を狙うが、厳しいチェックにあい集団へと戻る形に。残り2周では山本大が集団からリードを奪ったが、スプリンターチームにその差を埋められ、集団へと引き戻されてしまう。

一方で形勢を優位にしたのは、椿らの先頭グループ。1人が脱落し、7選手で最終周回へと突入。後続とのタイム差を維持し、逃げ切りを濃厚なものとさせた。

そして運命の最終局面。ここで持ち前のスピードを発揮したのは、2選手を先頭に送り込んだチームブリヂストンサイクリング。窪木一茂選手からのホットラインで今村駿介選手が抜け出し、そのままフィニッシュへ。椿はこの2選手をマークし、最後の直線で今村選手を追ったがわずかに届かず。それでも他選手の追撃は許さず、2番手を確保。2位を確定させ、表彰台の一角を押さえてみせた。

椿にとって、今シーズン初となる上位進出。昨シーズンからけがや不調で不本意な時期を過ごしてきたが、いよいよ本来あるべき姿に戻ってきた。順調にトレーニングを積み、それをレースで発揮したところは本人はもちろん、チームにとっても大収穫のレースとなった。かたや、「詰めが甘かった」と椿が反省するように、あと一歩勝利に届かなかった点もチーム全体が真摯に受け止めている。

椿以下、メイン集団でスプリントに備えた残りの4人では、中島が12位。山本元、大久保、山本大もフィニッシュラインを通過し、出走全選手がしっかりと完走を果たしている。

翌11日は、大分スポーツ公園へ主会場を移して「おおいた アーバンクラシック」へ。周辺の住宅街を縫って進んでいくコースセッティングで、アップダウンが連続する変化に富んだレイアウトも特徴。1周11.6kmのコースを13周回する、総距離150.8kmで争われる。こちらはUCIアジアツアー1.2クラスの国際公認レースで、上位10選手にUCIポイントが付与される。クリテリウムを終えたKINAN Cycling Teamは、このよいムードを本戦ともいえるロードレースにつなげていくことになる。タフな戦いを得意とするチームの真価を発揮すべき一戦だ。

おおいたいこいの道クリテリウム(30km)結果
1 今村駿介(チームブリヂストンサイクリング) 41分30秒
2 椿大志(KINAN Cycling Team) +0秒
3 窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング) 
4 イーヴァン・バートニク(カナダ、エックススピードユナイテッドコンチネンタル) 
5 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン) 
6 内間康平(チームUKYO) 
12 中島康晴(KINAN Cycling Team) +21秒
38 山本大喜(KINAN Cycling Team) +37秒
49 大久保陣(KINAN Cycling Team) +51秒
55 山本元喜(KINAN Cycling Team) +1分12秒

椿大志のコメント
「序盤と中盤は逃がすと危険だと感じる動きだけチェックするようにしていて、チームとしては残り10周から確実に動いていこうという考えだった。結果的に逃げ切りとなった動きは、力のある選手たちが飛び出したので、対応できるポジションにいた自分がチェックにいった感じ。先頭が8人になった時点で、そのまま逃げ切りを決めようとしている選手が多くいたのと同時に、メイン集団の動きも見えていたので、自分の感覚でも“これは決まったかな”と思いつつ走っていた。あとは脚を残しながら、最後に備えていた。

今まで、調子が良いのに上手くいかないことが続いていて、ここにきてようやくかみ合ってきたかなと思えている。レース中に余裕が生まれているあたりは個人的にも大きな部分。この結果は自信につながる。チームとしても暑さの中でのタフなレースは得意なので、サバイバル化する中でも連携をとりながら戦っていきたい。個人的にも最後までしっかり残って結果につなげたい」

●キナンのホームページ

全日本選手権ロードの前王者山本元喜は12位

2019年のロードレース日本王者を決める全日本自転車競技選手権ロードレースは6月30日、大会最終種目の男子エリートロードレースが行われた。KINAN Cycling Teamからは7選手が227kmの長丁場の戦いに挑み、終盤まで精鋭グループの中でレースを進めた山本元喜の12位がチーム最高。激しい風雨の中でサバイバル化した中にあって、上位進出をかけて正面からぶつかっていった結果であった。

ディフェンディングチャンピオンとして走った山本元喜 ©︎KINAN Cycling Team / Syunsuke FUKUMITSU

2020年の東京五輪でロードレースのフィニッシュ地点となる富士スピードウェイを主会場に、27日から開催されてきた大会はいよいよ佳境へ。KINAN Cycling Teamは、大会初日に行われた個人タイムトライアルで新城雄大が19位。コースの特徴や会場の雰囲気をつかみ、ロードレースを控えたチームメートへ落とし込むこととなった。

そのロードレースは、富士スピードウェイの敷地内を使った10.8kmのコースを21周回する227km。細かなアップダウンに加えて、コーナーが連続するテクニカルなコースレイアウトが特徴的。また、会期を通して悪天候が続いていて、コーナーでの落車が多発。鋭角コーナーでの立ち上がりなども含め、スピードとテクニックが求められるサバイバルレースと予想される。KINAN Cycling Teamからは新城のほか、前回大会を制した山本元喜、椿大志、大久保陣、雨乞竜己、中島康晴、荒井佑太の7選手が出走。他チームと比較し大人数で戦うことのできる強みを生かしながら、勝機を見出していく。

前日までと変わらず雨の中で始まったレースは、スタート直後から落車が頻発。コーナーのたびにスピードを緩めて慎重にクリアしていくが、その後の立ち上がりでも差が発生し、1周目を終える段階から出走人数の半数近くが脱落するほどに。KINAN勢も2周目に入る頃には荒井が遅れ、3周目の終盤には雨乞が落車。それぞれ集団復帰はかなわず、リタイアとなった。

レース前半の重要局面は4周目に訪れる。集団から7人が抜け出し、この中に山本が加わる。さらに人数を増やし、やがて先頭グループとして固まる。有力チームのほとんどがメンバーを送り込んだこともあり、しばし集団に対してリードを得ることとなった。

しかし、メイン集団も簡単には前を行く選手たちを容認しない。6周目に入って10人以上による追走グループが生まれると、KINAN勢では椿がチェックに動く。次々と前を追う格好となり、やがてメイン集団が分裂。約40人にまで膨らんだ追走グループは山本らに追いつくが、そのまま先行するまでには至らない。7周目までに後続も合流すると、その頃にはメイン集団の人数は約60人に。この間、KINAN勢では大久保が遅れ、残すは4人となった。

出入りの激しい展開の均衡が破られたのは8周目。1人逃げが生まれると、プロトン全体が落ち着き、その流れのまま単独先頭の状況を容認。約50人となったメイン集団は、先頭との差を最大で約3分まで広がったところでコントロールを本格化。この形勢を維持したまま、レース中盤が過ぎていった。

周回を経るごとにメイン集団の追撃ムードが高まっていくが、逃げのキャッチは15周目でのこと。これをきっかけにレース全体のスピードが上がっていき、さらに集団の人数も絞られていく。ここまで集団内のポジショニングやチームメートのフォローに動いていた椿が役目を終えて後方へ。アタックが散発し始めたメイン集団に残ったのは、山本、中島、新城の3人となった。

サバイバルの一途をたどるレース後半。決定打こそ生まれないが、徐々に力の差が明確になっていく。激しい絞り込みから、17周目の終盤に新城が集団から下がると、次の周回では中島がコーナーでスリップし落車。大事な局面を前に2選手が遅れを喫することとなり、集団に残ったのは山本だけとなる。

そうした状況から、19周目に入った直後のアタックをきっかけに3選手が抜け出すことに成功。集団は誰が追うかでお見合いとなるが、ここまで脚を残してきた山本が上り区間で追走を狙いアタック。これは決まらずも、その後活性化した追走狙いの動きに応戦。先頭3人との差は広がっていくが、トップ10圏内が見えるポジションで懸命に前を追い続けた。

最終的に、先行した3人がそのまま表彰台を確保することに。かたや、後続でも順位争いが激化。山本も粘りを見せたが、トップ10入りにはわずかに届かず。12位でのフィニッシュとなり、これが今回のチーム最上位だった。

また、落車後にレースに復帰した中島も完走を目指し走り続け、18位でフィニッシュラインを通過。今大会のKINAN Cycling Teamは2選手の完走で終えることになった。

この戦いをもって、チームはシーズンの第1ピリオドを締める。最大目標であったツアー・オブ・ジャパン、ツール・ド・熊野、全日本選手権と、緊張感のある日々を過ごし、選手・チームはより高みを目指していく意志を強めている。7月以降も引き続き、国内外のビッグレースでUCIポイントを目指していく。

チームの次回活動は7月6日、国営木曽三川公園長良川サービスセンターを主会場に行うKINAN AACA CUP 2019年シーズン第7戦を予定している。

スペイン選手権でサルバドール・グアルディオラが17位

全日本選手権と同日に開催されたスペイン選手権ロードレースは、同国のムルシアで開催され、サルバドール・グアルディオラが17位でフィニッシュ。トップとは18秒差、最後は4位争いの集団でレースを終えている。

山本元喜のコメント

「自分が最後まで残れるようみんなが助けてくれて感謝している。個人的には(アタックなど)動く回数をできるだけ押さえて、重要なところでしっかり反応していくことを心掛けていて、それは上手くできていた。結果的に上位を占めた3選手が飛び出した際に、上りを利用して後追いを試みたが、合流する前に脚を使い切ってしまったことがすべてだった。集団が何度も割れては1つになり、というのを繰り替えていて、さらには力のある選手の動きには誰もが反応して…というレース展開だったので、誰もが消耗している点では条件は一緒だったと思う。

(1年間日本チャンピオンジャージを着用して)やはりそれなりにプレッシャーも感じていたし、プロトンの中でも目立つ存在だったので、それに気持ちが押されてついつい必要以上に動いてしまう部分もあったのかなと感じている。とはいえ、キャリアにおいてあのタイミングでジャージを獲得して、着用できたことはよい1年間だったと思う。

ジャージを手放してプレッシャーからも解放されるので(笑)、今後はよい意味で自分らしさを出していきたいと思うし、今回の12位という結果を受け止めて、より高みにいくための走りを突き詰めていきたい」

●日本自転車競技連盟のホームページ